経営と人材をつなげるビジネスメディア

MENU CLOSE
0 ty_romu_t02_employee-value-proposition_220207 roumu c_keywordc_management

EVP(従業員への価値提案)とは?注目背景やその役割について解説

/news/news_file/file/t-20220207101636_top.png 1

戦略的人事の必要性が叫ばれるようになってから久しく、「EVP」はその推進に向けた大きな柱の一つです。

EVPが登場したのは最近ではありませんが、今になって注目度がアップしている理由とは何か?この記事では、EVPの概要から注目されるようになった背景、目的や推進のステップなどEVPについて総合的に解説します。

EVP(従業員価値提案)とは?

EVPとは、「企業が従業員に提供できる価値とは何か?」の視点に立つ発想の転換や、実現するための具体的な取り組みを指します。英語の「Employee Value Proposition(従業員価値提案)」の頭文字を取ったものです。

言い換えるならば「企業が従業員や求職者に対して実施するマーケティング」のような施策です。

マーケティング関係者なら「Value Proposition(価値提案)」という言葉に聞き覚えがあるかと思います。競合他社には真似できない自社独自の優位性を訴求して、「我々ならこんなことができますよ」とビジネス価値を提案する施策です。

つまりEVPは、マーケティング界隈におけるValue Propositionを従業員向けに実施することを意味します。

EVPの役割

EVPの役割はズバリ、従業員エンゲージメントと人材定着率の向上にあります。

「企業として従業員に何が提供できるか?」を明示し、それを訴求することは従業員にとって「その会社で働く意義」を見出すことへ繋がります。

従業員が抱える会社への要望やモチベーションは様々であり、全てを叶えることはできません。しかし、「我が社だからこそ」提供できる価値があるはずです。その価値を全面的に押し出し、従業員にアピールすることで会社や仕事に対する愛着心・忠誠心を養い、より多くの人材が定着してくれる職場を目指せます。

EVPが注目される背景

従来のビジネスでは「従業員が企業に提供する価値(成果物)とは何か?」を軸にした考えが一般的でした。しかしここ数年でEVPへの注目度が高まっています。

多くの日本企業が導入していた終身雇用や年功序列といった従来型の制度は影を潜め、人生100年時代といわれる現代社会では、柔軟な働き方や人生観の変化により転職のハードルは下がりました。それにより、社員の離職率が高まりつつある企業も少なくありません。

また、少子高齢化による生産世代の減少で、労働力不足はますます深刻な状況になることが予想されます。このような背景から、新たな人材確保と共に優秀な人材の流出を防ぐリテンション施策として、最適なEVP(従業員価値提案)を実践する企業が増加傾向に。「企業が従業員に提供できる価値とは何か?」の視点に立ち、従業員に対する姿勢の在り方を見つめ直しています。

2020年上半期は入職率と離職率の差がゼロに

次に、厚生労働省のデータをご紹介します。2020年上半期(1月~6月)における「入職と離職の推移」は9年ぶりに入職率と離職率の差がゼロになっています。

COVID-19感染拡大の影響も多分に含まれているでしょうが、それだけではありません。マイナビが発表した「転職動向調査2021年版」によれば、転職者全体で「転職は前向きな行動である」と考えているのは69.7%となり、ほぼ7割に達しました。

また、COVID-19感染拡大を機に「転職へ積極的になった」と回答した転職者は全体で36.9%となっています(※「転職に積極的になった」と「やや転職に積極的になった」の合計)。これらのデータから「転職」は、日本経済全体にとって大きなトレンドになりつつあると言えます。

EVPで従業員エンゲージメントと人材定着率を高めたい

EVPの役割と注目度、そして上記データが示唆しているのは多くの企業がEVPによって従業員エンゲージメントと人材定着率を高め、人材資源の流動化を防ぎたいと考えていることです。

数年前に「タレントマネジメント」が話題になり、今日では戦略的人事の実施による人材育成を中心にビジネスの成長性を高める取り組みが着実に増えています。しかし、その源泉となる人材資源が流動化すれば戦略的人事の実現は遠のきます。

つまりEVPは最終的に、「人材資源を有効活用するための企業体質を作り上げる」ことへと繋がっていくのです。

EVPの目的について

上記に説明したものだけが、EVPの目的ではありません。まず重要なのは従業員のライフワークバランスを整え、「この会社で働くのは幸せだ」と感じられる環境を作ることです。

企業本位な考え方でEVPを推進しても従来の労使関係と変わりません。従業員の幸福を追求することがエンゲージメントや仕事に対するモチベーションをアップさせ、その延長線上に定着率の上昇など会社の利益が存在します。まさに、企業と従業員でWin-Winな関係が築けるということです。

ステークホルダーからのイメージアップや採用ブランディングにも

EVPの推進は「外部からの見方」も大きく変化させます。

上場企業の場合、ステークホルダーが持つイメージ(印象)を大切にしなければいけません。ジェンダー平等やサスティナブルなどのキーワードが注目されている現代社会において、イメージは株価に大きく影響します。

EVPで従業員の幸福を追求すれば、ステークホルダーからのイメージも自然とアップし、株価に好影響をもたらす可能性が高いのです。

また、採用ブランディングの一環としてEVPを推進するのも大きな目的の一つ。採用力を強化するためのブランディング施策、対外的なものだけでなく内外的なものも高い効果があります。

EVPを策定するSTEP

では、EVPを作成するための大まかなステップと流れ、そしてステップごとにやるべきことを解説します。

  • STEP 01.現状分析
  • STEP02.事例調査
  • STEP03.社内調査
  • STEP04.施策立案
  • STEP05.施策実行
  • STEP06.周知徹底
  • STEP07.効果検証
  • STEP08.改善実施

STEP 01.現状分析

「現時点で自社が従業員に提供できている価値は何か?」、あるいは「業界全体と比較して提供できていない価値はあるか?」を分析します。この時点ではEVP運営組織や担当者の主観で分析を勧めて構いません。後に実施する社内調査にて、主観と客観でどの程度のギャップがあるかを知ることも大切です。

STEP02.事例調査

同業界か否かを問わず、幅広い視野でEVPに関する事例を調査します。EVPの施策には「これでなければいけない」という決まりごとはないので、視野を広く持つことがこのステップでのポイントです。調査を行いすぎると時間ばかりかかってしまうので、同業界・他業界含めて10社程度の事例を調査すれば十分でしょう。

STEP03.社内調査

一般的な方法はアンケート調査です。完全匿名で実施し、従業員が抱えている本音を聞き出せるかがEVPの成否を握ります。調査結果が出たら、現状分析でまとめた情報と照らし合わせてみてください。主観と客観のギャップが大きい場合は、EVP運営組織や担当者の「考え方」から改める必要があります。

STEP04.施策立案

「STEP03」までにまとめた情報をもとにEVP施策を立案していきましょう。まずはブレインストーミングで施策案を量産し、有効性を見極めながら絞り込んでいきます。コスト、効果、期間のバランスを見ながら現時点で最適と思われる施策をいくつか決定しましょう。

STEP05.施策実行

いよいよEVP施策の実行です。ここでは、前項で立案した施策や計画に対して、如何に忠実に実行できるかがポイントになります。なぜなら、ケースバイケースで対応すると後々の効果検証が正確に行えないためです。「STEP04」で決めたコストと期間に可能な限り従い、EVP施策を実行しましょう。

STEP06.周知徹底

自社でEVP施策をスタートさせたこと、EVP組織や担当者を設定したことなどを周知徹底してください。従業員がEVPについて認識していると取り組みへの注目度がアップし、価値あるフィードバックを得やすくなります。

STEP07.効果検証

実際に実施したEVP施策が効果を発揮したかを、定量面と定性面から検証します。前者は離職率や定着率などの数値データ、後者はアンケート調査など従業員の心情に関係する情報を用いて効果検証を行ってください。

STEP08.改善実施

EVPは一日にして成るものではありません。ステップ⑦で明らかになった問題・課題を整理して、改善施策を打ち出しましょう。これら一連のサイクルを回し、継続的にEVPを実施していくことがとても大切です。

EVPが従業員にもたらすものとは

従業員の視点で考えた時、EVPは何をもたらすのか?主なメリットを挙げていきます。

  • 企業が「従業員のためになること」をしてくれるから、働き易さがアップする
  • 職場環境が改善されることで人間関係が円滑になり仕事へのストレスが軽減される
  • ワークライフバランスが整えやすくなり自分への投資時間が増える
  • 家庭を持つ従業員は育児や家事、仕事との両立が今までよりも楽になる
  • モチベーションが上がることで、仕事に対するプライドも増す
  • 今よりもっと仕事が好きになり自己肯定感が養われる
  • これらのメリットが企業の利益へと繋がり、ひいては自分の利益として還ってくる

これらの中で注目すべきは「仕事に対するプライドも増す」というメリットです。日本人は「仕事だから、好き嫌いは関係ない」と考える傾向が強く、仕事に対するプライドを持てない人材が比較的多く存在します。一方、海外では「好きなことを仕事にしたい」というダイレクトな願望を追い求める姿勢なので、必然的に「この仕事が好きだ」と思える人材が多いのです。

EVPを通じて仕事に対するプライドが増して、「この仕事が好きだ」と思える人材を増やすことは企業にとって計り知れない利益を生み出します。

EVPにデメリットはあるのか?

EVPにはデメリットというより、リスクはあります。従業員に対して企業が提供できる価値を考え、実施したにもかかわらず「それが裏目に出る」というリスクです。例えば、業務における成果を評価し、モチベーション向上を目的として「表彰制度」を設けた際は、制度を導入した背景や目的もしっかりと周知する必要があります。なぜなら、“社員同士を競争させて会社の利益を上げるため”といった解釈をする従業員がいる可能性もあるからです。また、営業職などの直接的な利益を生み出す部門以外(バックヤードなど)の社員たちに対する表彰・評価制度がなければ不平不満がつのるケースもあります。大切なことは、営業部門における成果だけではなく、公平な評価体制下での還元である旨を伝えること。

ただし、これらのリスクを引き起こす原因は、ビジネス・職場などの実態を考慮していない、または各現場への配慮(平等性)に欠けたEVP施策の展開であることがほとんどなので、対策は難しくありません。まずは、「EVP推進のためにどうすれば従業員視点に立った考え方ができるか?」を心がけるようにしましょう。

これからの時代、EVPによる価値提案は必須

日本経済における人材の流動性は、これからも増していくでしょう。しかしそれは忌むべき事態ではなく、むしろ歓迎すべき変化です。欧米経済と日本経済の発展の違いには「変化に対する柔軟性」が強く関係しています。

どんな時代・経済・情勢にあっても変化は起きるもの。それは雨風といった自然現象と同じくらい不可避なものであり、歓迎しながら共存していくのが正解です。

みなさんもぜひ、時代の変化に目を向け、受け入れ、企業が従業員に対して提案できる価値を考えてみてください。それだけで、EVP実施による人材資源の確保と活用のスタートラインに立つことができます。

出典:「令和2年上半期雇用動向調査結果の概要」厚生労働省

  • 労務・制度 更新日:2022/02/10
  • いま注目のテーマ

RECOMMENDED

  • ログイン

    ログインすると、採用に便利な資料をご覧いただけます。

    ログイン
  • 新規会員登録

    会員登録がまだの方はこちら。

    新規会員登録

関連記事