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組織開発と人材開発はどう違う?組織のパフォーマンス向上への新アプローチ

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人材開発という言葉を聞き慣れている人事は多いと思いますが、組織開発という言葉を初めて聞く人事はまだまだ多いのではないでしょうか。さまざまな人事課題を抱え、日々、組織のパフォーマンス向上に取り組む人事の悩みを解決へと導いてくれる組織開発について詳しく解説していきます。

組織開発とは何か

組織開発とは、会社などの組織で働く人と人との関係性を高め、組織を活性化させる取り組みや支援を実施することです。1958年頃にアメリカで誕生し欧米を中心に拡大した言葉で、英表記は“Organization Development”。「OD」と訳されて使われています。具体的には、組織内の課題を表面化させたうえで、従業員一人ひとりが当事者として解決策を考え、実行するプロセスを踏むこと。つまり組織開発の手法はひとつではなく、組織ごとに異なります。

組織開発が注目されている背景

組織開発が注目されている背景は、個人の働き方が大きく変化する時代を迎え、組織自体にも変化が求められているからです。日本社会では、終身雇用が当たり前であったことから、基本的に横並びの考え方や風土により企業主体の価値観が植えつけられ統治されてきました。しかし、現代は激しい社会の変化に対して、機動的な事業運営が求められています。個々のスキルや能力に対する正当な評価が重視され、自己成長やより良い職場環境に就くための転職は当たり前。ダイバーシティの観点から、外国人採用も積極的に行われるようになり、組織内の価値観にも多様性が生まれています。

また、コミュニケーションにも変化があり、テクノロジーの進展によって対話やメールが主ではなく、チャットやWEB会議などのツールを活用する企業も増えています。これらの大きな変化により、価値観の異なる個人同士の「関係性」を組織として強化・改善するために、組織開発が注目されているのです。

人事課題を解決に導く組織開発

近年、人事部門へのミッションとして、自社の強みの源泉となる「組織力」の向上に関する課題の解決が求められています。一般的にポピュラーな課題としては、「チャレンジしやすい風土づくり」や「多様性のある組織づくり」などが挙げられるでしょう。

人事部門はそれらの課題に対して、採用や雇用、人材配置や評価などの施策を投じて解決にあたりますが、コロナによる影響やダイバーシティなどの社会変容により、従業員一人ひとりの人事管理だけでは課題解決に困難が生じているのも事実。そこで、従来の従業員(個人)に向けた人事施策に加え、“人やグループの間に生まれる関係性に向けた施策”として、コーチングやオフサイトミーティングなどを活用した組織開発による多角的なアプローチが必要とされています。

組織開発のメリット・デメリット

組織開発のメリットは、「人」が主役となる現代社会に合った組織力を育める点です。近年、ビジネスのIT化やグローバル化が進み、さらに「人と人の関係性」が重要になります。こういった、働き方の多様化が進む現代社会においては、組織開発によるソフト面(コミュニケーションなど)の強化は非常に有効であり、ダイバーシティの観点からも多様な人材を受け入れられる組織体制の実現に繋がるでしょう。

一方、組織開発のデメリットは、人と人の関係性に注力するあまり、単純に“仲の良い組織”になってしまうことです。重要なのは社員同士の関係性をより良い状態に保ちつつ個々のパフォーマンスを最大化させ、事業上の改題解決や目標を達成すること。そのため、組織開発の“目的”を見失わないように注意が必要です。

組織開発と人材開発の違い

人事を担う方たちの中には、「組織開発は皆無だが、人材開発には着手している」というケースも多いのではないでしょうか。「人材開発」とは、従業員個人に対して知識やスキルを直接与えることであり、対象となる個人のレベルアップを目的とした施策です。一方、組織開発は組織内の人と人との関係性や相互作用により、課題を解決していくことを目的とした施策であるため、根本的なアプローチ手法が異なります。

例えば、若手従業員の生産性が低いという課題があった場合、人材開発によるアプローチは、対象となる“個人”に向けた育成施策として研修やOJTを実施する。それに対して、組織開発のアプローチは、若手従業員だけではなく教える側の先輩や上司といった職場全体の“関係性”に着目し、チームや部署内でのミーティングや対話の機会をコーディネートしながら、より良い環境を築きます。

組織開発の実践に向けた手法(手順)

解決すべき課題は企業ごとに異なるため、組織開発における決められたルールは存在しません。しかし、最善とされているベーシックな手法(手順)はあります。ここでは、その実践に向けた具体的な6つの手法と代表的なフレームワークをご説明します。

1.目的の明確化

組織開発には、組織を健全化するなどしてより良くするという指標はありますが、組織開発そのものは手段であり目的ではありません。組織開発はあくまで、現状よりもさらに良い組織にするための手段です。そのため、組織が目指すべきゴール、つまり目的を明確にすることが、ぶれることなく進むための道標になります。

2.現状を把握する

組織の目的を明確にしたら、目には見えない個々やグループ内での関係性に着目します。ここで注意が必要なのは、“職場に元気がない”などの漠然とした「印象」ではなく、具体的な「事実」に基づいた現状把握を行うこと。まずは、従業員へのヒアリングやサーベイなどを活用し、情報を収集したうえで整理しましょう。根拠のある事実から導き出された課題が可視化されることで、精度の高い組織開発が可能になります。

3.解決すべき課題の設定

明確になった課題が従業員個人にある場合でも、個人の資質や能力などに対して解決策を企てるのではなく、複数の従業員または上長などが関係していることに注目するのが組織開発の特徴です。そのため、ヒアリングやサーベイから得た複数の原因をベースに課題の仮説を設定します。また、複数の従業員や部署を巻き込むケースも多いため、早々に役員など裁量のあるキーパーソンへの合意を得ておくと、スムーズに施策を進めることができるでしょう。

4.アクションプランの企画

設定した課題の仮説に対して、試験的なアプローチの実施・調査 “パイロット・スタディ”を実施するためのアクションプランを練ります。ポイントは、長期的なプランではなく短期的プラン(スモールスタート)で小規模に展開すること。例えば、ミーティングをコーディネートしたり、ワークショップをファシリテートしたり、小さなトライアルからスタートすることを心がけます。また、検証する際の効率化を考え、定量や定性に注意しながらプランを企画するとよいでしょう。

5.検証&FB(フィードバック)

パイロット・スタディを経て成果が出たら、何が良かったのかを検証し、ポイントを精査したうえで、関係各位にFBしましょう。このように、スモールスタートによるスピーディな検証を行うことで、人事部門や組織改善を担う役職者の向上心にも好影響を与え、さらなる改善策を練るためのエネルギーに繋がります。

6.成功した施策を全社導入

フィードバックによる改善が行われた施策は、その成果も含めて社内全体に共有・展開します。パイロット・スタディによる成功ポイントの分析と整理を行ってから実施することで、根拠のある施策を効率的に実現することができるのです。全社に展開した後も、継続的に検証し続けることで、施策自体をさらにブラッシュアップでき、従業員エンゲージメントの向上も期待できます。

代表的なフレームワーク

・コーチング

個々の悩みや課題に対して答えを与えるのではなく、社員一人ひとりの中に解決策があるというスタンスでヒアリングし、答えを引き出す手法。コミュニケーションを通じて、自主性や新たな価値観を醸成しながら内側からの変化を促します。

・AI(Appreciative Inquiry)

組織の課題よりも可能性やなりたい姿に目を向け、現状を肯定的に受け入れつつ、みんなで未来の目標に対するアクションプランを描く手法。発見(Discover)、夢(Dream)、設計(Design)、実行(Destiny)の各フェーズにて個々の想いや考えを共有し、組織開発へと繋げます。

・ワールドカフェ

その名の通り、カフェにいる時のように社員がリラックスした状態(飲食をするケースも)で対話を行う手法。時間制でメンバーをシャッフルすることで、カジュアルに多くの意見を聞いたり話したりできるため、組織に変革を起こす気付きやアイデアが得られやすくなります。

組織開発の企業事例

既存の施策に対して、組織開発の視点を取り入れるケースもあると思います。例えば、人事課題が「リーダー層を育成して、次期マネージャー候補を生む」である場合、解決策は対象となるリーダー層への教育だけではなく、社内の関係性に目を向けた組織開発が必要です。現場へのヒアリングと調査を実施し、現在のマネージャーに共通するポイントを抽出。課題の仮説を設定したうえで、スモールスタートによる組織開発の施策を展開するというプロセスを踏んでいきます。ここでは、実際の企業の事例をもとに、どのようなプロセスを経て成果をあげたのかを見ていきましょう。

現場に目的意識を根付かせる方策

参天製薬株式会社では、組織開発をプロジェクト化し、現場の各リーダーが目的意識をメンバーに共有できる体制づくりを行っています。中でも組織開発が成功しているのは、外部のコンサルタントに入っていただき、まずは大まかな組織開発の指針を作成してもらうこと。そして、その指針をベースに、トップダウンではなく社員たちの現場視点を加えたうえで取り組んでいく。

つまり、最初は第三者であるプロの知見を参考にしたうえで、現場の社員自らが当事者意識をもって理想の組織に向けた方向性を考える状態へと導くことを大事にしています。その結果、上からの指示を待つ縦型の組織ではなく、対話型の要素を取り入れたフラットでモチベーションの高い組織へと変化を遂げました。

急成長した組織内の価値共有

グッドパッチは、ユーザーインターフェースのデザイン・設計・開発などを提供している企業です。設立から5年後の2016年に、事業拡大に伴う急成長を遂げ、大規模な増員を図りました。しかし、人材育成のプランニングや新人への価値共有が遅れ、組織内は新旧の対立や経営批判の不満が横行する事態。エンゲージメントは低下し、退職者が後を絶たない状態に陥ったのです。

そこで、2017年の新卒採用をきっかけに、仕事に必要なスキルや知識を全体共有する「ナレッジシェアリング」をはじめ、ネガティブな現状の開示や組織としての目標と成果指標のフレームワーク「OKR(Objectives and Key Results)を導入。また、バリューの再構築プロジェクトグループを発足し、全従業員から意見や提案をひとつにまとめるなど、多くのナレッジが組織内で共有されるようになったのです。その結果、各部署のエンゲージメントスコアが上昇し、特にマネージャー層のスコアは組織開発後の2年で27.0から82.2という劇的な変化を遂げています。

人材開発を軸にした組織開発

株式会社ニトリホールディングスは、戦略人事を軸にしつつ組織開発権をも人事がもち、職階数の少ないフラットな組織開発を行っています。組織のためではなく、あくまで“人(社員)のため”というスタンスのもと、タレントマネジメントと教育システムを連携し、人材開発と組織開発を統合。事業そのものの多様化が進む中で、同社にはさまざまなことにチャレンジしたいという人材が増えていきました。

そこで、個々の要望をしっかりと捉えるために「エンプロイージャーニー(組織内における社員の旅)調査」という独自の調査を導入。この調査結果とeラーニングなどの成果をもとに、社員一人ひとりの希望や興味をタレントマネジメントシステムなどのHRテクノロジーを駆使してデータ管理し、人材開発・組織開発に活かしています。

組織開発は次代を担う人事を強くする

組織には、戦略や業績、規則などの「ハード面」と、価値観や社風、人間関係などの「ソフト面」があります。ハード面は、数値や言葉を用いて見える化できるのですが、ソフト面は、言語化が難しく目に見えにくいものが多いです。このソフト面(人間的側面)に向けたアプローチを可能にする施策こそが、「組織開発」の特徴であり魅力です。コロナ禍で、人と人との距離が遠ざかり、働き方の多様化が進む現代社会。その中で、対話と協働をキーワードに従業員一人ひとりが当事者意識を持つ取り組みは、企業にとっての価値を育みます。経営と現場の双方に貢献する人事部門へと進化を遂げるためにも、今こそトライしてみてはいかがでしょうか。

  • 人材採用・育成 更新日:2022/01/27
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