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多様な人材の活用~海外文献から読み解く新型コロナ後のHRトレンド~

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2020年から続くトピックスである新型コロナウイルスは、いまだ世界中で生活、仕事、経済に影響を与え続けています。変異株も発見されていることから、「After コロナ」ではなく「Withコロナ」について、真剣に考えるべき時代になっているとも言えるでしょう。日本企業においては、コロナ禍を機にこれまでの経営マネジメントの在り方が問われている転換期であり、過渡期と捉えるべきです。

さて、このような環境下で、皆さんはどのような方法で人事業務の情報を収集しているでしょうか? 

本コラムでは、海外のHR関連の各文献で2020年に想定されていた「コロナの世界におけるHRトレンド」が、現時点でどのような進捗となっているのか? 改めて、欧米のメディアの情報から読み解いていきます。バズワードに踊らされずに、あくまでも自社の環境と比較し、経営者やHR担当者の認識を新たにする機会となれば幸いです。

今回は、昨年米国ガートナー社が最高人事責任者(CHRO)に対して仕事の未来に影響を与えるトピックをヒアリングした結果、彼らが特定したトレンドの一つである「多様な人材の活用」について取り上げます。

「多様な人材」の定義とは?

欧米的な働き方から見た英語の“ダイバーシティ(Diversity)”と、日本的な働き方から見た日本語の“多様性”では切り口やその定義が異なります。今回は、これまでの背景と課題を踏まえて、これら混然一体となった多様な人材をどう扱うのかという点に焦点を当て、それぞれの定義を見ておきましょう。

①欧米的な労働観における「ダイバーシティ」の区分

「ダイバーシティ」には、「①表層的ダイバーシティ」と「②深層的ダイバーシティ」の2種類があると言われています。

①表層的ダイバーシティ

「表層的ダイバーシティ」は、自分の意思で変えることができない生来のもの、あるいは自分の意思で変えることが困難な属性を意味します。具体的には、「人種・年齢・ジェンダー・性的傾向・障がい・民族的な伝統・心理的・肉体的能力・特性・価値観」が相当します。

②深層的ダイバーシティ

「深層的ダイバーシティ」は、表面的には同じに見えるが、内面的には大きな違いがあるもののことを意味します。具体的には、「宗教・職務経験・収入・働き方・コミュニケーションの取り方・受けてきた教育・第一言語・組織上の役職や階層」が相当します。

深層的ダイバーシティは、表面的には同じに見えるために観察することが難しく、見落とされがちで違いに気付かれにくいという性質があります。この深層的ダイバーシティをどう理解し、どう活用していくかは、組織マネジメントの大きな課題です。

②日本的な労働観における「多様性」の区分

一方、日本的なマネジメントにおいては、上記のような欧米型の区分よりも以下のように「①雇用形態」「②人材の属性・特徴」「③採用手法」の三つに分類して「多様性」が語られることが多いと思います。

①雇用形態……正社員・契約社員・パート社員・派遣社員・嘱託社員等、雇用形態

②人材の属性・特性……性別・年代・学生・外国人・高齢者等

③採用手法……新卒採用(いわゆるプロパー社員)・中途採用(一般応募・人材紹介)・転籍または出向(関係会社や銀行等)社員・雇用延長等

日本においては、これまでの「正社員プロパー中心主義」から、多様な雇用条件で能力のある人がさらに働きやすくなるための変革と、これまで以上に、女性や外国人等の能力を活用していくことが課題となっています。

「多様な人材」が重視されるようになった背景

欧米企業も日本企業も、もともと「多様性」よりも「同質性」の重視・活用を目指す傾向が強く、業界内の同質化競争に勝つための社内統制が重視されてきました。

特に日本企業では、人材採用においても、個人が有するスキルやタレントより、価値観も含めて自社カルチャーの「型」に合致するかどうかに重きを置いていました。しかし、IT技術の進歩やグローバル企業の必要性が高まったことなどによって、グローバル企業だけでなく独自性を保っていた日本企業においても、多様性を積極的に取り入るように変化を迫られています。

①企業のグローバル化

ダイバーシティの考え方が広まった一因として挙げられるのが、企業のグローバル化です。国や地域を越えて、地球規模でさまざまなやりとりが行われるようになり、日本企業の海外進出と海外企業の日本進出の両方が進んできました。国際競争の激化は、製造業以外のさまざまな業界に事業規模を問わず波及することになり、多様な価値観を持つ世界中の顧客ニーズにマッチするような商品開発やサービス提供によって、世界規模での消費拡大を余儀なくされています。国境だけでなく、業種の境目も溶けたのです。

今の市場で生き残るために、企業は多様な価値観の受容、国籍や人種を問わない優秀な人材の採用や育成に力を注がざるを得なくなったのです。

②労働人口減少と労働人口構造の変化

日本に限らず先進国において、労働人口減少の深刻化は同じ課題です。企業は、必要な従業員を確保できないことから操業できない可能性が出てきています。日本においては、15~64歳までの社会で働くのに適した人口(生産年齢人口)は、1995年をピークに、2015年には当時と比べて1,000万人ほどが減少しています。今から30年後の2050年には、日本では約2,000万人以上も減少すると予想されています。

この傾向は日本だけではありません。すでに人口を増やすニーズが生活環境においても政策的にも無くなり、慢性的な人手不足に陥っている先進国では、多様性を容認した社会・組織を作り、人材を確保する必要性にせまられているのです。

(参考:平成28年版高齢社会白書|内閣府)

③雇用意識・価値観の多様化

「仕事と私生活の両立」、「やりがい・達成感志向」、「能力や技術・個性の発揮の重視」、「帰属意識の希薄化」等、さまざまな雇用意識や価値観で仕事を捉えようとする人たちが増えています。また、女性の労働人口の増加によって、家事や育児などにおける男性の役割も変化するなど、従来の雇用意識や価値観は終焉を迎えています。

自己の能力が活かせる企業の選択、ワークライフバランスを重視する働き方の選択が進むなかで、企業側も多様化した雇用意識や価値観への対応、多様なニーズに対応できる柔軟なマネジメントを行い、個々の能力の発揮、モチベーションの向上、企業との信頼関係の構築を図ることが急務となっているのです。

④消費の多様化

日本をはじめとした先進国の消費市場は成熟し、飽和状態にある一方、個人の消費志向は多様化しています。さらに消費の意味も「モノの消費」から「コトの消費」への移行が進んでいる状態です。

これに対応するために、同一性を尊重する組織を変革し、柔軟な意思決定・自由な発想の創造などダイバーシティの要素を企業戦略へ積極的に取り入れなければ、企業は生き残れなくなってきています。つまり、ロールプレーイングゲームの主人公のごとく、戦士、魔法使い、僧侶、旅芸人といった異能のスペシャリストを集めて最強のパーティー(チーム)を組み、不確実性が増大する両極化の時代を乗り越えるための変革の旅に出なければならないのです。

⑤組織の複雑性の増大

リーマンショック後、世界的にM&Aが加速し、多くの企業が失敗を回避するために国有化されるという潮流がありました。今般のパンデミックが収まれば、同様に加速すると思われます。企業は、混乱時のリスクを軽減し、管理するために、地理的分散を拡大し、二次市場への投資に重点を置くようになるはずです。

このような規模の複雑化と組織運営の複雑化は、オペレーティング・モデルの進化に伴い、リーダーにとっての課題を生み出すことになるでしょう。企業のある部分で必要とされていることが、他の部分では通用しない可能性があるため、ビジネスユニットがパフォーマンス管理をカスタマイズできるようにする必要があります。

また、組織の複雑さが個人のキャリアパスを複雑にしているため、再教育やキャリア開発のサポートを提供し、例えば、リソースを開発したり、社内のポジションを可視化するためのプラットフォームを構築したりすることが必要になっているのです。

⑥ダイバーシティ&インクルージョンの実行困難性

2018年のマッキンゼーのレポートによれば、従業員のダイバーシティで上位25%に入る企業は、そうでない企業よりも33%も高い財務実績を上げていることが証明されています。データ分析によって「企業にとってダイバーシティ&インクルージョンの推進は必須」、「義務や責任という枠を超えて、従業員の多様性が業績向上に直結する」、「多様な従業員を抱える企業は、そうでない企業よりも優れた業績とイノベーションを実現している」という結果が明らかになっているのです。

しかし、「どうすれば実現できるか」について、ほとんどの組織が分かっていないことも同時に示されています。

参考:Delivering through diversity, 2018

「多様な人材活用」にむけたアプローチ

「ダイバーシティ&インクルージョン」は「違いが混在する集団的な労働力の構築」を目標にしていますが、今回のテーマである「多様な人材活用」も、到達地点は同じであると考えるべきです。これは、人材とビジネスの目標を達成するために、全員が一丸となって環境を整えることを目的としているからです。

しかし、ガートナー社の調査によると、米国企業のリーダーには多様性がないことが明らかになっています。企業における上位ポジションのうち、少数民族・人種の女性が就いている割合はわずか10%であり、少数民族の男性が就いている割合はわずか18%という結果が出たのです。この問題は、昨年2020年のBLMをきっかけとして、すべての社員が活き活きと働ける環境を構築するためのデモが始まって以来、顕著になりました。

では、多様な人材を活用するために、HRリーダーたちが実践できるアプローチには、どのようなものがあるのか、この章でお伝えしていきます。

参考:2020 Gartner Advancing Underrepresented Talent Survey

①HRリーダーシップチームが把握している課題

CHRO(n=113)は、ワークフロー・予算・方針・インセンティブを活用して、以下のように、企業におけるインクルージョンを推進すべきだとしています。

  • シニアリーダーレベルでの多様性を高めるために、組織的に多様な指導者候補者にとっての障壁や収入の問題を解決する。
  • メンタルヘルスの状態を把握する。(実際にシニアリーダーの“90%”は、個人的なメンタルヘルスの経験を話せる状態にない。)
  • 柔軟な雇用モデルに再設計する。(退職年齢の高い労働者を巻き込む、組織は一時的なスキルギャップを解消し、長期的なスキル移転を確保するなど)
  • リーダーとしての責任(Job Description)に、対峙する行動への期待を加える。

②現在と将来の組織のタレントマネジメント強度

CHROの44%が最優先事項と捉えている「現在および将来のタレントマネジメントの強さ」は、トップビジネスの人事の専門家にとって非常に重要です。しかしながら、以下の様な課題が挙げられています。

  • リーダーシップの候補者含めたタレントは多様性に欠けている:49%
  • 当社の後継者管理プロセスでは、適切なタイミングで適切なリーダーが得られない:35%
  • 効果的な中堅リーダーの育成に苦慮している:27%

リーダーシップに多様性が欠けているその理由としては、「不明確なキャリアパスと昇格へのステップ」「シニアリーダーとの接触が不十分」「メンターやキャリアサポートの欠如」の3点があげられています。

③ダイバーシティネットワークを優先する

ネットワーキングは従業員をサポートするための素晴らしい方法ですが、ネットワークには役割やスキルレベル、経験などの多様性が欠けていることが多く、シニアリーダーの関与も限られています。そこで、成長に焦点を当てた「ダイバーシティネットワーク」を意図的に構築することで、多数派・少数派に限らない様々な人材をサポートし、個々の従業員、リーダーシップ、組織に利益をもたらします。

ダイバーシティネットワークは、活用していない場合と比較して、多様な従業員のエンゲージメントを向上させるのに効果的であり、かつタレントモビリティの機会を増やすことに効果がある可能性が高いとされています。

なお、成長に焦点を当てたアプローチでは:

  • 人脈は役割・スキルレベル・経験などさまざまであること
  • 成長と昇格を支えるシニアリーダーに接触できること

上記の2点を考慮に入れる必要があります。

④多様な人材を活用できるようアクセス障壁を下げる

人事マネジメントなどの経営メンバーが、多様性(特性や属性、雇用形態、仕事の動機)に応じて、その期待する役割を明確化、能力を発揮できる仕組みづくりを、経営の施策として実行すべきです。AIや新しいテクノロジーにより、障害を持った人々などでも仕事ができるような機会を作ることができれば、人材不足の解消へ役立ちます。

多様な人材を活用するためには、「仕事へのアクセスビリティの確保」や、「身体面や精神面に障害を持った人々のマネジメント」についても学ぶ必要があるでしょう。

ガートナー社の調査によると、労働力に占める障害者の数は2023年までに約3倍になると予測されています。組織は、既存の採用システムや社内の人材管理システムを監査して、身体的・精神的障害を持つ従業員のアクセスの障壁がないかどうかを確認する必要があります。

さらに、HRリーダーは、管理者が「精神・情緒障害者の管理」に関するトレーニングを受けられるようにする必要があります。何が参入障壁になっていて、どうすればそれを打開できるかについて、企業が考えることが重要です。

多様な背景を持つ候補者が将来の新規採用の選考対象になるように、対策を講じる必要があります。

ダイバーシティや多様性の下での人材活用の議論

現代は、コロナショックがもたらしたビジネス環境の激変が、変革の大きなチャンスをもたらしている時代だと言えます。このチャンスを活かせるかどうかは、刻々と変化する状況に応じて、多様な人材を柔軟にキュレーションするためのエコシステムを構築できるかどうかにかかっています。要は、ロールプレーイングゲームのごとく、異能のスペシャリストを集めて最強のパーティー(チーム)を組み、不確実性が増大する時代を乗り越えるための変革の旅に出なければならないのです。

実際にアメリカの政府でさえも、今般バイデン政権が着々と多様性ある組閣を進めています。バイデン氏は選挙時からダイバーシティを優先事項に据えており、「アメリカ史上最も多様な政権をめざす」「政権人事は、今日のアメリカ社会を反映したものにする」と約束してきました。女性初&黒人初&アジア系初の副大統領だけでなく、女性はもちろん黒人やヒスパニックを始めとした人種マイノリティや移民、LGBTQ、先住民など、これまで発表してきた閣僚・交換人事も意欲的な政権が誕生することが、2021年初めの象徴的な出来事になりそうです。

日本は資源の少ない国だからこそ、多様な人材こそが“資源”として見直されるべきです。今回の記事を参考にしていただき、改めて自社の組織戦略や人事戦略を見直すきっかけにしていただければ幸いです。

参考:平成28年版高齢社会白書|内閣府

参考:Delivering through diversity, 2018

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  • 鈴木 秀匡

    日立製作所やアマゾンなど、一貫して管理部門のビジネスパートナーとして人事総務労務業務に従事。現在は、欧州のスタートアップ事情や労働環境、教育事情の背景にある文化や歴史、政治観など、肌で感じとるべくヨーロッパへ家族移住を果たし、リモートで日本企業の人事顧問やHRアドバイザリーとして独立。三児の父。海外邦人のコミュニティプラットフォームのための財団法人立上げなど、日本のプレゼンスを上げていく活動にも奮闘中。

  • 労務・制度 更新日:2022/02/02
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