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リモートワークの需要増への対応~海外文献から読み解く新型コロナ後のHRトレンド~

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  • 鈴木 秀匡

    日立製作所やアマゾンなど、一貫して管理部門のビジネスパートナーとして人事総務労務業務に従事。
    現在は、欧州のスタートアップ事情や労働環境、教育事情の背景にある文化や歴史、政治観など、肌で感じとるべくヨーロッパへの家族移住を果たし、中小企業の人事顧問やHRアドバイザリーとして独立。三児の父。
    海外の邦人のためのコミュニティ作りなど、日本のプレゼンスを上げていく活動にも奮闘中。

今般の新型コロナウイルスは、世界中で生活、仕事、経済に影響を与えています。日本企業においても経営マネジメントの在り方が問われている転換期なのではないでしょうか。

そのようななか、皆さんは、どのような方法で人事業務の情報を収集しているでしょうか?

本コラムでは、海外のHR関連の各文献で想定されていた「コロナの世界におけるHRトレンド」が、現時点でどのような進捗となっているのか? 改めて欧米のメディアの情報から読み解いていきます。バズワードに踊らされずに、あくまでも自社の環境と比較し、経営者やHR担当者の認識を新たにする機会となれば幸いです。

今回は、今年米国ガートナー社が最高人事責任者(CHRO)に対して仕事の未来に影響を与えるトピックをヒアリングした結果、彼らが特定したトレンドの一つである「リモートワークの需要の高まり」について取り上げます。

海外におけるリモートワークの普及状況

すでに欧米では、新型コロナウイルス感染症拡大の第3波・第4波を受けている地域もあり、テイクアウトのみを行うレストランや休業を続ける店舗がほとんどとなっています。また、多くのオフィスワーカーに対しても自宅勤務を継続することが求められています。

各国、各都市で新型コロナウイルスの拡大状況が異なるなかで、企業はどのような対策を講じているのでしょうか。さまざまな報道が出ているなか、改めて情報を整理してみましょう。

欧米においてリモートワークは急速に広がっている

もともと、欧米のオフィスワーカーと呼ばれるホワイトカラーは、PCを自宅に持ち帰って業務を行うなど、一部リモートワークを行う人たちが存在していました。

調査企業米Gallup社のパネル調査では、リモートワークを行ったことがある人は2015年にはすでに37%に達しており、平均的なリモートワークは月に2日程度という結果が出ていました。

それが、今般の新型コロナウイルスによる自宅待機命令地域の拡大により、リモートワーク率は62%にまで広がりを見せています。

(参考:Gallup: In U.S., Telecommuting for Work Climbs to 37%)

米Gartner社が2020年4月に、317社のCFO(最高財務責任者)を対象に行った調査では、75%が何らかのレベルで半永久的にリモートワークの社員がいる状況を続けていくと返答していました。これは、リモートワークが継続可能で、かつコスト削減に役立つことを示した結果です。

また、欧米では、すでに多数の大企業がリモートワークを新型コロナウイルス後も引き続き実施していくことを発表しています。例えば、MicrosoftやAmazonは期限付きで、Googleは2020年いっぱい、Twitterや課金プラットフォームのSquareなどは社員が選択すれば半永久的にリモートワークを続けることを許可しています。第3波・第4波と自宅待機命令が下されるにしたがって、よりリモートワークの普及スピードが上っている状況が見て取れます。

(参考:Gartner : CFOs looking to make remote work, telecommuting more permanent following COVID-19)

(参考:Gartner:CFO Survey Reveals 74% Intend to Shift Some Employees to Remote Work Permanently)

リモートワークポリシーの必要性は今後さらに高まる

先ほどの最新の調査では62%がリモートワークであるとお伝えしましたが、それでも普及はまだ不足しているという評価を受けており、今後さらにリモートワークが推奨されていくでしょう。なお、米Jobvite社の調査によれば、人事部門の84%がリモート採用に取り組んでおり、書類選考や面接などの採用プロセスがリモートに移行する傾向にあるとも報告されています。また、2030年までには、Z世代が完全に労働力に参入するため、リモートワークの需要は30%増加するとも予測されています。

(参考:Coronavirus hiring:How recruiters are selecting and interviewing job candidates during the pandemic)

そのような将来が予測されているなか、先進的なリモートワークポリシーを持たない組織は、人材をひきつけられず、人材を維持するうえで競争上不利な状況に陥るともいわれています。これから2021年を迎えるにあたり、HRは、洞察力をもってビジネス上の意思決定を行うために、常にトップレベルのスキルを身につけておく必要があります。

まず、HRが決めるべきことは、「エンゲージメントとリスクマネジメントを両立するために、何をするのか」ということです。日本の労働法に照らし合わせて、自社の働き方の選択肢を見直すことから始めてみてはいかがでしょうか。

オンラインのオンデマンドプラットフォームが増加

リモートワーク制度の導入や、従業員の柔軟な働き方を認めると同時に、HR Techツールは、分散したチームでもアクセスができ、かつ利便性があるよう、変化する働き方へ対応する必要があります。オンデマンドプラットフォームの重要性はより高まり、従来のシステムは新しい働き方や組織形態に対応していく必要があるでしょう。

(参考:10 HR Tech Trends for 2020 Every Talent Leader Must Consider|HR TECHNOLOGIST)

SaaSソフトウェアへ支出の増加

この急を要するリモートワーク対応のために、さまざまなSaaSツールの利用が増加しています。米国株価の急上昇銘柄を見ても、リモートワークのセキュリティやVPNアクセス、ビデオ・コミュニケーション環境、遠隔ラーニングに関するツールが含まれていることが分かります。

SaaSツールの導入が急速に進むとともに、その購買意思決定のプロセスなども大きく変化しています。

米G2社によると、新型コロナウイルスの影響によるSaaSツール購買について、88%が「急にリモートワークが決まった」とされていますが、「将来的にもSaaSソフトウェアへの支出が増える」と47%が回答。「新型コロナウイルスの現状と今後も同等になる」と答えた企業が33%にものぼっていました。

この結果から、リモートワーカーは、新型コロナウイルスが収束した後も新たなSaaSツールを利用していく必要性を認めていることが分かります。

(参考:G2:Research Remote Work Survey)

企業としては、新型コロナウイルスが収束した後も、別のウイルスが猛威を振るうことを前提にして自社のBCP(事業継続計画)を見直すとともに、BCPに基づいたSaaSソフトウェアへの投資を検討していくことが大切です。

バーチャルワークプレース(Anyway, Anytime)のテクノロジー

グローバルにどこでも仕事ができる環境において、競争力を維持するためには、企業は対応力のあるテクノロジー・インフラストラクチャ(IT戦略)や、強化されたバーチャル・コラボレーション・ツールに投資する必要があります。また、リモートワーカーのためのトレーニングや個別のパフォーマンス管理、インセンティブ戦略にも投資する必要があります。

ただし、柔軟な働き方のニーズに対してさまざまなサービスが出てきているものの、まだ初期段階で、SaaSそのものにはまだ成長の余地があるということに注意が必要です。

コラボレーション型のワークスペースやバーチャルオフィススペースなど、リモートワークの課題を解決するためのソリューションはすでにいくつか存在していますが、この分野はまだ黎明期にあり、ソリューション開発の競争にさらされている状況下にあります。

HRは、リモートワークが投資戦略であることを明らかにし、まずは自社のリモートワークの導入目的(Why)を明確化してください。そのうえで、どのようなツールを導入するのか(How)を決めましょう。この基本的な順番を間違えないようにすることが重要です。

セキュリティ対策への投資

リモートワークには大きなメリットがありますが、運用するには厳しいセキュリティ対策が必要です。セキュリティ対策を講じなければ、コンピュータウイルスに感染したり、ハッキングされたりするリスクが高まり、ITチームに大きなプレッシャーがかかります。

サイバー攻撃の脅威に晒されれば、従業員が再び安全に使用できるまで、サーバーやシステムをシャットダウンして洗浄する必要があります。これは、短期的に作業を停止することを意味し、結果的に収益を失う可能性があります。

また、ウイルスがデータ漏洩やクライアント情報へのハッキングにつながる可能性もあり、収益やブランドへ甚大な影響を与えかねません。IT部門は、社内のコンピュータやサーバーを保護するためのシステムを整備する必要があります。

加えて、IT 部門が実施しなければならない対策としては、ビジネスサーバーのセキュリティを強化することが挙げられます。特に、複数の場所からアクセスする場合には注意が必要です。

また、チームは定期的にパスワードを変更し、その内容を記録しておく必要があります。多くの企業では、IT 部門がパスワードを管理していますが、全員が定期的な更新スケジュールを立てるのがベストです。

効率的なリモートワークプロトコルを維持するためには、チームが自宅で仕事ができるように、また、より多くのリモートワーカーを仲間に入れられるように、サイバーセキュリティを優先させる必要があります。

リモートワークの課題

リモートワークが急速に広がるなかで、リモートワーク特有の課題も浮き彫りになっています。

リモートワーカーの孤独感の解消

多くの従業員が、そのキャリアのなかで初めてリモートワークをすることになり、孤独感が増す可能性があります。リモートワーカーの19%は、すでに孤独感に悩まされているという結果も出ています。新型コロナウイルスによる不安と相まって、このような孤独感は心身の健康を害し、長期的にはワークフローに影響を与える恐れもあるため、組織はこの問題を解決する必要があります。

(参考:Buffer:State Of Remote Work)

例えば、定期的にビデオ会議を開催することや、仕事が終わった後に、ビデオセッションなどを通じてオンラインで懇親会を開催できます。これらは、従業員が職場環境を超えて絆を深めるために必要なものです。

また、Slackのようなツールを使用する場合に、従業員が雑談をするための専用チャンネルを作成することも一つの方法です。加えて、セーフティネットとして、産業医と連携したメンタルヘルスケアなどの対策も行っていくことも孤立を防ぐ意味で重要になってきています。

効果的なリモートコミュニケーションの確立

リモートワークが広がるなかで、企業が従業員とコミュニケーションをとる方法も変化しています。従来であれば、電子メールがコミュニケーションの主要な形態だったかもしれませんが、2020年には電子メールがワークフローを減速させる可能性も高まっています。

今や、企業が必要としているインスタントなコミュニケーションの需要に、電子メールのやり取りでは追いつくことができません。リモートチームコミュニケーションを効果的に行うために、企業は社内の従業員だけでなく、社外の関係者との関わり方も変える必要があります。たとえば、Web通話は、企業が連絡を取り合うための最も一般的な方法になりつつあります。

コミュニケーションの手段を決め、コミュニケーションツールを選定すると同時に、コミュニケーションツールのルール作りを始めていきましょう。

透明性の向上

ここ数年、あらゆる分野において透明性を求める声が強くなっています。「大手企業が顧客の機密情報を第三者に販売していた」という最近のニュースを受けて、透明性はビジネスを運営するうえでより重視されてきています。

しかし、透明性のある文化を構築するのは、リモートワーク環境下では特に難しくなります。 企業にとって重要なのは、リモートワーカーとのやりとりや、リモートワーカーへの期待を可能な限りオープンにすることです。

このためには、徹底したオンボーディングセッション、定期的なブリーフィング、ミーティング、インストラクションマニュアルの設計、オフィススペース内外でのコミュニティ感覚の醸成を実行する必要があります。

リモートワーカーが、取り組んでいるプロジェクトの最新情報や、直面しているかもしれない障害をオープンに共有することができれば、誰もが、どこでも、いつでも、どんなプロジェクトでも最新の情報を得ることができ、顧客やビジネスの問題に対処しやすくなります。

【まとめ】
リモートワークによってフェアネスな環境づくりを

現在のパンデミックの影響により、リモートワーカーは、もはや特別な存在ではなくなっています。欧米では、リモートワーカーの増加に伴い、企業があらゆるツールをオンラインに移行し、効果的なデジタルワークプレイスを構築し始めました。これに伴い、職場では、課題に応じてチームワークを促進するだけでなく、クライアントや顧客とのエンゲージメントを図るためにも、多くのリモートチームツールを利用し、「オムニチャネル化」する必要性にも迫られています。

今回の紹介を通じて、会社に社員が出勤できない状態でも、仕事に参加することが可能な仕組みづくりや、そのための人事戦略を見直す必要性がお分かりいただけたのではないでしょうか?

しかしながら、ボーダレス企業の多い欧米においては、各国の人材が国境を越えてつながるためにリモートワークという仕組みが自然と広がっていったという背景があることを、忘れてはいけません。リモートワークが広がった背景にあるのは、“イコーリティ(平等性)”ではなく、“フェアネス(公平性)”という考え方なのです。

HRは、リモートワークという環境を一部の人だけに提供するのではなく、「誰もが柔軟な働き方をしていいはずだ」というフェアネスの考え方を前提に、自社の課題に真正面から取り組んで欲しいと願っています。

  • 労務・制度 更新日:2021/12/22
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