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共感力がビジネスを成功させる

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コンサルティング会社Red Sliceの創業者でありブランドコンサルタントのマリア・ロス氏の著書『The Empathy Edge: Harnessing the Value of Compassion as an Engine for Success』は、ビジネスが直面する様々な問題が、共感の欠落によるものであると指摘します。組織をより強くし成功に導くには、リーダーシップ、職場の文化、企業のブランド戦略に共感を取り入れることが必要です。その方法を簡単にご紹介しましょう。

なぜビジネスに共感が必要なのか

共感はビジネスを有利にする

共感的であることは、ビジネス上の合理的な意思決定をする能力を否定するものではありません。共感的な職場はビジネスを有利にできます。

1. 共感は革新に拍車をかける

Googleの生産性向上計画「プロジェクト・アリストテレス(Project Aristotle)」では、最も革新的で利益の出るアイデアが、共感のようなソフトスキルによって率いられたチームから生まれていることが確認されました。

2. 共感によって顧客のニーズや欲しいものがわかる

顧客に共感できれば、そのニーズに素早く対応することができます。例えばスティーブ・ジョブズは、顧客を理解することに力を入れたので、Apple社のプロダクトデザイナーは顧客が欲しいと思うものを先取りして知ることができました。

3. 共感が従業員のパフォーマンスを上げる

共感やコラボレーション能力に優れている従業員は、たいていの場合、技術力が高いだけの従業員よりも速く進歩できます。

例えば、Googleの社員に100項目以上のアンケートを実施しその結果を分析した調査Project Oxygenでは、社員が成功するには、コミュニケーション能力、協調性、自発性、リーダーシップなどのソフトスキルが重要であることが明らかになりました。よいリーダーになるためには、高い技術よりも、メンバーに共感したり話を聞いたりする能力のほうが重要であるという結果は、調査チームにも意外だったようです。その後Googleは、ソフトスキルを重視した人事研修を行っています。

4. 共感を重視したブランドや職場はミレニアル世代やZ世代を引きつける

1980年代から2000年代に生まれた若い世代の人たちは、独自の視点を持ちその視点を大切にする雇用主にこだわります。企業は若い世代の専門家たちが、単なる性別や人種よりも広い多様性を重視していることを知っておかなければなりません。この世代の人たちが望むのは「タスク型ダイバーシティ(cognitive diversity)」です。

タスク型ダイバーシティとは、多様な考え、思考、哲学、そしてコラボレーションを通じてビジネスの問題を解決することなど、個人の能力や知識、経験や価値観の多様性を指します。

5. 共感が売り上げやビジネスの成長を促す

Brighton Jonesは「思いやり」をビジネスに取り入れ、ウェルスマネージメント業界のトップリーダーとなりました。ほかの企業でも共感や思いやりをビジネス戦略として取り入れるケースが増えてきています。

うわべだけではない共感的な組織に必要なもの

共感はビジネスを有利にしますが、うわべだけでは顧客から見抜かれてしまいます。組織のリーダーシップ、組織文化、企業ブランドに本当の共感があるかどうか次の質問に答えてみましょう。この質問は、共感的な組織に合う正しい人材が雇用できているか確認することにも使えます。

使命と価値観に基づいた行動ができていますか?

1組織の内部、および外部にいる人たち全てが、私たちのストーリー、価値観、目的を理解できているでしょうか? さらに、それらをマーケティングメッセージや顧客サービスとしてアウトプットできていますか?

共感を育むためにどのような内部方針や慣行が整っていますか?

1共感やコラボレーションをすることに報酬が用意されていますか? パフォーマンスレビューで評価されるようになっていますか?

安全で信頼できる環境を作っていますか?

社内の人が競争を強制されずオープンにコラボレーションできる環境がありますか? 失敗を恐れずに新しいアイデアを提案できる雰囲気が必要です。また、率直な意見を言った人が不利を被らないようにしなければいけません。発言者が守られなければ、誰も意見を言わなくなってしまうでしょう。

企業文化に合う正しい人材を雇っていますか?

商才だけでなく心の知能指数(エモーショナル・インテリジェンス)が高いことを採用の条件にしていますか? 組織が目指す企業文化に合う人材を雇う必要があります。例えばBrighton Jonesという企業では、「より良い人物になりたい人」を採用すると決め、面接で「今まで、より良い人物になるために何をしてきたか」とか「いままで体験した最も大きな失敗や失望は何だったか。それをどう乗り越えたか」という質問を候補者に投げかけ、企業文化に合う人材かどうかを確認しているといいます。

積極的で柔軟なカスタマーサービスを導入できていますか?

カスタマーサービスの方針は信頼を基に作られていなければなりません。顧客と接する従業員は、一人ひとりの顧客が必要としているニーズに対応できていますか?

共感力のあるリーダーとは

チームリーダーから企業のトップまで、どのレベルのリーダーでも組織の共感力を推進させることができます。リーダーがメンバーに心から共感していれば、チームはリーダーに忠誠を示すようになり目標達成へ向けてチームを上手くまとめることができます。またリーダーが顧客に共感できれば、顧客のニーズを素早くくみ取り顧客に合わせた製品開発もできるでしょう。

そして時には共感が起業のきっかけとなることもあります。環境保護や貧困支援などの社会的課題に目を向け、誰かを助けようとする気持から始めるソーシャルビジネスは、そのよい例です。

共感力があるリーダーになるには

共感できるリーダーになるために焦る必要はありません。共感は人間に生まれつき備わっている必要不可欠なものであると研究によって証明されています。共感力があるリーダーになるためには、生まれつき備わった共感をどれくらい表すか、そして発達させるかということにかかっています。共感力があるリーダーになるための条件をあげてみましょう。

  • ・心に余裕を持つ(5分間の瞑想が効果的)
  • ・人の話をよく聞き、謙虚になる
  • ・ほかの人や物に興味を持つ
  • ・映画、ドキュメンタリー、演劇など、多様な視点を持つことができる話に触れ、想像力を働かせる
  • ・段階的に達成感を得ながら目標を追いかけたり、上手くいったことをノートに書きとめたりしながら自信を持てるようにする
  • ・部下や顧客との交流を無駄なものと思わず、同僚の仕事を助けるために声をかけたり、顧客へのセールスコールをかけたりする。
  • ・部下や同僚、顧客との共通点を探し、そこからつながる新しいコミュニティができるか考える

共感的なアクションとは

部下や同僚、あるいは顧客と接するときに「私たち」という意識を持ち、お互いが同意することを強調したり、同じ目標に向かっていることを明確にしたりすることが共感を生みます。例えば「私たちは、この会社を成功させたいですね。」とか「私たちはお客様に喜んでもらって、また来てもらえるようにしたいですね。」という言い方をすることで一緒に成し遂げたいという気持ちがよく伝わります。

また「あなたの目標はなんですか?」と聞くよりは「あなたには、どのような考えがありますか?」と聞いたほうが、その人の考えを深く聞くことができます。今までと使う言葉を変えてみることが大切です。そして、お互いのメンツを潰さないようにすること。反対意見を持っている人を徹底的に叩いてはいけません。会話の中では「そうですね。でも……」と言うより「そうですね。それに加えて(こんなアイデアもあります)……」と続けたほうが共感的になります。

共感的な企業文化とは

共感的な企業文化には一貫性が必要です。企業がマーケットに対して何かを約束したとしたら、全員が必ずそれを守らなければなりません。そうしなければ文化を創ることはできません。共感的な企業文化ができると従業員の定着率があがり、離職が少なくなります。そして生産性も上がり利益も増えます。さらにカスタマーサービスが向上します。

共感的な企業文化を創るために

共感的な企業文化とはきまりや行動のことだけではありません。その文化にふさわしい人を集め、その人たちが求めることを成功させることです。そのために共感的な企業文化を創る6つの戦術が提案されています。

1. フレックスタイム制の導入など、小さな行動から始める

働く場所や時間を自由にすることで子育てや介護をしている社員への共感を示します。

2. 従業員が安全を感じ信頼できる環境をつくる

良いリーダーを選ぶこと、メンターシップや研修があること、オープンなコミュニケーションができること。上から命令するだけの組織ではなく、従業員が組織から支持されていると感じられることが欠かせません。

3. オープンなコミュニケーションができるようにする

まずは2の環境をつくります。そして、従業員同士が集まれる場を作ったり、ビデオ会議やSNSを使ったりしながら、誰もが積極的に意見交換できるようにします。

4. 上下関係や世代を超えて気軽に話し合える機会を作ったり、メンタリングプログラムを作ったりすることで、世代間の理解を促進する

共感的な文化をつくるには、異なる世代間にある誤解を解くことが大切です。

5. 共感することで認められ賞賛されるようにする

ほかのチームメンバーから感謝される行動をした従業員を表彰する機会を設けるといいでしょう。

6. 創ろうとしている文化に合った人材を採用する

組織が目指す文化には、どのような特徴を持った人が必要か考えること。そしてその特徴を持った人を見分けるための面接問題を考えること。

共感的なブランドとは

ブランドはビジネスパフォーマンスに大きく影響を与えるものです。共感的なブランドになれば、パフォーマンスを維持することができ、そのブランドは長く続きます。ブランドを愛してくれる顧客が増えれば、ロイヤリティも生まれます。そして、よい評判を得たり口コミが広がったりする効果もあります。

共感的なブランドは何から生まれるか

ブランドは組織の魂であり中心となる部分です。ブランドは3つの重要な手法によって伝達されます。

1. 視覚:どのように見えるか

デザイン、色、ロゴ、フォント、レイアウト

2. 言葉:どのような音、読み方か

エレベーターピッチ(短時間のプレゼンテーション)、WEBサイトコピー、音声

3. 経験:どのように行動し、どのようなビジネスをするか

製法、従業員、品質、届ける方法

3つの重要な手法には1つの共通点があります。それは、いくつもの異なるアクションを通して「人」がブランドを決めているということです。ブランドに心から共感している人がブランディングに携わっていなければ共感的なブランドは生まれません。まずは時間をかけて、どのような組織であるか、誰に奉仕したいのか、どのような価値を顧客に提供し、世の中にどのような形で、どのような方法で認められたいのかを考えることが効果的なブランディングの秘訣です。

企業ブランドの共感力を知るには、ブランドが従業員、顧客、社会にどのようなインパクトを与えているかを測る必要があります。その測定方法の一つとして、共感のコア要素が紹介されています。

共感のコア要素

本書に紹介されているThe Empathy Businessの創業者で、共感を重視したブランドコンサルタントのベリンダ・パーマー氏は、共感を7つのコア要素に分けて考えることで共感力を測定できるようにしました。パーマー氏は、7つのコア要素のレベルから企業ブランドの共感力を測定するサービスを提供しています。測定の対象となるのは顧客や従業員です。これらの要素を知っておけば、共感的なブランドの目安として役に立つでしょう。

  • ・エンパワーメント(権限委託:自分がビジネスに影響を与えられる)
  • ・意味と目的(自分の価値観に合う)
  • ・所属(チームの一員であると思える)
  • ・安心(約束したものを届けられる)
  • ・信頼性(自分を偽る必要がない)
  • ・コラボレーション(共に働ける)
  • ・倫理(責任感があると分かる)

例えば7つのコア要素を使った測定で企業のエンパワーメントを測るときには、リーダーに「あなたの部下は、毎日仕事に行くときに『自分の運命をコントロールできている。何かを変えられる。』と思っているでしょうか?」というような質問をします。著者は、共感のコア要素を測定することによって、企業が誠実であるか、それともできないことを言っているだけか理解できるといいます。

また、信頼性を測りたければ「職場での自分の見方と自宅での自分の見方にギャップはありますか? 仕事で最高の自分を出すことができていますか?」という質問をするといった具合です。

共感のコア要素は、7つの要素の英語の頭文字からEMBRACE(包容)モデルと名付けられています。その開発者であるパーマー氏によれば、共感的な組織に最も不可欠な要素は、自分がチームの一員だと思える「所属」です。「あなたは自分が何かの一部だと感じていますか? あなたが話すとき、その声を聞いてもらえていると感じますか? チームメンバーがあなたを重要だと思っていますか?」という質問で所属の要素が組織にあるか確認できます。

共感的なブランドをつくれる組織の特徴

共感的なブランドづくりに、企業の規模は関係ありません。どのようなサイズの組織であっても、次にあげるようなことをできるようにすれば実現可能です。

  • ・顧客の価値観に合うミッションがある
  • ・顧客が自分の価値を認められていると感じる言葉やサービス
  • ・顧客対応に熱意のある人材を雇っている
  • ・顧客一人ひとりのニーズを考え、当を得たカスタマーサービスの方針を実行する
  • ・フィードバックを歓迎する
  • ・顧客にパーソナルタッチを提供し、大切にされていると感じさせる
  • ・コミュニティや社会に共感を示し良い行いをする
  • ・顧客が困っていることや不安をよく聞き、それに応える

顧客と関わり、繋がり、喜ばせる、このようなサービスは収益よりも重要です。ブランドが顧客からどう思われるかは、従業員の日々の仕事ぶりにかかっています。そして、企業には、その任務を遂行できる人が必要なのです。

共感という視点からビジネスを見る

現在のビジネス戦略のなかで、リーダーシップ、企業文化、企業ブランドに共感を取り入れることは優先順位が低いかもしれません。しかしGoogleやギャラップ社などが発表している研究報告書を見ても、共感がビジネスに与える力は明らかです。これからのビジネスには、共感や協調性といったソフトスキルを鍛えることが欠かせなくなるでしょう。


タイトル The Empathy Edge: Harnessing the Value of Compassion as an Engine for Success
著者 Maria Ross
出版社 Page Two (初版2019/10/22)
ISBN-10: 198902579X
ISBN-13: 978-1989025796

  • 労務・制度 更新日:2021/12/15
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