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多様な働き方を実現する「従業員シェア」における法律・労務管理基礎知識とポイント

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コロナ禍によって需要が減少した企業が自社の従業員を他社にシェアする「出向」や、多様な働き方への社会的な理解が進む中で「兼業・副業」にも注目が集まっています。

言葉としては浸透していますが、従業員を出向させる場合や実際に企業が外部人材を受け入れる場合はどのようなポイントに気を付ければ良いのでしょうか。

今回は弁護士・堀田陽平さんをお迎えし、「従業員シェア」における法律・労務管理の基礎知識について、JAPAN HR TV 2021で行われた講演を記事にまとめました。
「従業員シェア」という言葉自体はあまり聞き慣れないかもしれませんが、いわゆる「出向」や「兼業・副業」のような、ある企業で雇用されている人材を他社でも活用することを指します。

最近では、大手航空会社の社員が接客や語学などのスキルを生かしながら他社での業務を開始したことが話題になりました。

この「従業員シェア」は、出向に注目が集めっているものの、大きく以下の4パターンに分けられます。
大手航空会社の事例は「① 出向」に分類されるものです。
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まずは、注目度の高い「兼業・副業」から解説します。

これはコロナ禍以前から政府が議論を進めており、具体的なアクションとして2018年(平成30年)に「モデル就業規則」の改定、「副業・兼業ガイドライン」の策定が行われ、20年(令和2年)9月に「副業・兼業ガイドライン」の改定が行われました。また、21年(令和3年)7月には、改定副業・兼業ガイドラインに対応したQ&Aも策定されています。
一言で「兼業・副業」といっても、その形態は大きく分けて2パターンがあり得ます。
例えば、A社に従業員として雇用されながらB社にも雇用されている場合(雇用✕雇用)には、先ほど紹介した「副業・兼業ガイドライン」が適用されますが、B社に雇用されずフリーランスとして副業や兼業の業務委託を受けている場合(雇用✕非雇用)は「フリーランスガイドライン」に従い、競争法が中心的に適用されます。後者の点は見落とされがちですので注意しましょう。

まずは、「雇用✕雇用」を対象とした制度について説明していきます。
厚労省は、労基法の38条1項(労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する)の解釈について、「『事業場を異にする場合』には、『事業主を異にする場合』も含む」旨の解釈通達を出しています。つまり、事業主が異なっていても労働時間は「通算して」計算する必要があるということです。

さらにガイドラインでは、「本業企業、兼業・副業企業にかかわらず、通算の結果、法定時間外に労働させた方が労基法上の法的責任を負う」としています。
つまり、一般的な事例としてよくある「他社でフルタイムで働いている従業員のシェアを受け入れる」という場合には、受け入れ側に負担が大きくなります。(下図 パターン②)
では、どのように労働時間を把握すべきでしょうか。
ガイドラインと解釈通達では、副業先の労働時間の把握には客観的エビデンスは不要で、労働者からの自己申告のみで把握すれば良く、申告漏れや申告内容に誤りがあっても使用者に責任はないとされています。

これは「自社以外での労働に対する指揮監督権がないこと」に加え、「使用者が労働時間について知らないのであれば故意は存在せず、労基法違反は成立しない」とする法解釈に基づいています。

他方で、民事上の賃金請求に関する裁判例として、18年(平成30年)には、「A社で雇用されていた従業員がB社での副業・兼業をした上で、労働時間の通算を前提にB社に対して割増賃金の請求を行った事案」がありましたが、「使用者に兼業・副業の状況についての確定的な認識がない」として請求棄却となった事案もありました。
労働時間の管理について、厚労省は改定副業・兼業ガイドラインで、「管理モデル」という簡便な労働時間の管理方法も提示しています。
大きく見ると以下のような内容です。

①【A社の1カ月の法定外労働時間】と【B社の1カ月の労働時間(所定内+所定外)】の合計が単月100 時間未満、複数月平均 80 時間以内となる範囲内において、両社の事業場における労働時間の上限をそれぞれ設定。

②A社は自らの事業場における法定外労働時間の労働について、B社は自らの事業場における労働時間の労働について、それぞれ割増賃金を支払う。

複雑なようですが、要するにB社では労働時間について「あらかじめA社で設定した時間働いてきた」と扱えば良く、逐一その日の労働時間を確認しなくても良いということになります。
ただし、あくまで簡便な労働時間の管理方法であって、割増賃金などの法的責任を免除しているわけではないので注意が必要です。
労働者の安全を守る義務として使用者が負う「安全配慮義務」については、厚労省が兼業・副業の場合においても本業先と兼業・副業先での労働の状況などの「全体を総合して」配慮する必要があると示しています。

つまり、過労などから労働者を守るため、労働者の総労働時間を把握しておくことは本業の使用者にとっても、兼業・副業の使用者にとっても、必要なリスクヘッジとなります。また、過労などの状況が見られる場合には、一度行った兼業・副業の許可を取り消すことができるよう、取消規定を定めておくことも重要です。
「管理モデル」と「安全配慮義務」の関係のように相反するとも思える内容もあり、兼業・副業を従業員に認めることは企業側に管理コストとリスクをもたらすものという印象を抱く方もいるでしょう。

しかし、裁判例からは「企業には従業員の兼業・副業について裁量はない」とされ、原則として兼業・副業を禁止・制限することはできません。

例外的に、労務提供上の支障が生じる場合、競業によって自社の利益が損なわれる場合や秘密の漏えいがある場合などには禁止することもできますが、それも「なんとなく危なそう」ではなく、具体的な危険性の存在が必要です。

また「正社員に限って兼業・副業を認めたい」という声もよく聞かれますが、上記の例外的に認められる禁止理由の内容からも分かるように、むしろ非正規社員の方が禁止理由に当たらないことが多く、不許可とすることは難しいでしょう。
まず、「労基法上の責任が発生する可能性がある」ということを認識しておきましょう。
そのリスクを十分に考えた上で、安全配慮義務も踏まえた労働時間の把握とその方法は慎重な検討が必要です。また、兼業・副業を巡る「労働時間の通算」についてはさまざまな議論があり、最高裁判決はまだありません。
自社がどのようなスタンスを取り、制度を作っていくのか社内での議論が重要になります。
続いて、雇用関係のない業務委託での従業員シェアについて解説します。

2021年3月に、省庁を横断して「フリーランスとして安心して働ける環境整備のためのガイドライン」(通称:フリーランスガイドライン)が策定されました。

ここでいう「フリーランス」とは、「実店舗がなく、雇人もいない自営業主や一人社長であって、自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者を指す」としています。

フリーランスガイドラインは、これまで発注者と取引に関して法律の適用関係が曖昧になりやすかったフリーランスに対して、競争法、労働法の適用を明確にすることが狙いとされています。
下請法上、取引条件を記載した書面(発注書など)の交付は義務とされ、交付しなければ違法となります。
一方、資本金や取引内容などの関係で下請法が適用されない場合は、独禁法が問題となり、取引条件を記載した書面を交付しないことは、独禁法上「不適切」とされ、違法ではありません。しかし、現在この場合での書面交付についても法制度を検討する議論も行われているため、注意をしておくべきでしょう。
雇用関係はないにもかかわらず、実質的に企業側(発注側)の指揮命令下にあるフリーランスは「偽装フリーランス」と呼ばれます。

働く場所や時間、仕事の進め方などを命じられ、事実上の被雇用者であるにもかかわらず、労基法上の責任が生じない「フリーランス」と偽装して発注するものです。

このような偽装フリーランスに対しても、就労実態に照らして客観的に「労働者」と判断される場合には、労働基準法などの労働関係法令が適用されます。フリーランスガイドラインでは、偽装フリーランスに対し、適切に労働関係法令を適用するために「労働者性の判断基準」とその判断方法を明確にしています。上図の赤枠を出発点とし、発注先が「フリーランス」なのか、事実上の労働者(被雇用者)なのかを判断する必要があります。
フリーランスガイドラインでは、独禁法・下請法がフリーランスにも適用されることが明記されています。これまでも適用されていましたが、あまり認識されていない現状を改善することが目的です。
フリーランスガイドラインでは以下の12類型の行為に独占禁止法の適用があることを改めて確認しています。

特に報酬の支払い遅延や減額、著しく低い報酬の一方的な決定、一方的な発注取り消しなどのトラブルが多く発生していますが、これらは独禁法・下請法違反となり処罰の対象となります。
何よりまず確認すべきなのは「業務委託であればなんでもOK」ではないということです。
労働者性(被雇用者性)があると判断されることもありますし、そうでなくともフリーランスも独禁法や下請法に守られた存在であり、適法に扱わなければ処罰の対象になり得ます。下請法は「大企業から中小企業を守る」というイメージがありますが、フリーランスガイドラインにおいては、中小企業も規制を受ける側に立つことに注意しましょう。
最後に「出向」について確認します。
出向とは「出向元企業の従業員の地位を保持したまま、出向先企業の従業員となって出向先企業の仕事をすること」を指します。

自社の従業員を出向させる場合には、下図に示す4つのステップを踏む必要があります。
また、実際にテレワーク環境で勤務している従業員の大半が「継続してみたいと思う」と回答し、テレワーク非実施者の約半数も「してみたいと思う」と回答しています。
最初のステップである「出向命令権」の確認でつまずかないよう、現在の就業規則、個別の労働契約はしっかり確認しましょう。
供給元(雇用元)から供給先へ労働者を供給し、供給先から指揮命令を受ける「労働者供給」と「出向」は、形式だけ見ると同じです。

しかし、「労働者供給」は許可制の下で行われる、いわゆる「労働者派遣」以外の事業会社が、業として(反復継続する意図を持って)行うことはピンはねを防止する目的で原則として禁止されています。

コロナ禍における雇用維持を目的とした出向は、「労働者を離職させるのではなく、関係会社において雇用機会を確保する」に類するため、適法となります。最初から出向させる目的で人を雇い、出向させる場合は職業安定法違反となりますので注意しましょう。
個別の労働契約で出向を禁止している場合にはもちろん、専門性の高い従業員や勤続年数の長い従業員、採用時に出向の可能性を明示していないなどの理由から黙示的に出向命令を排除する合意が認定されることがあります。
労働者に対する権限は基本的には出向元と出向先の出向契約によって分配されますが、身分関連については出向元、指揮命令関連については出向先のものが適用されることが一般的です。
また、雇用保険、社会保険については「出向労働者が生計を維持するのに必要な主たる賃金を受けている方」の企業が主な責任を負うこととなります。

労災保険のみ、出向先に責任がありますので注意しましょう。
コロナ禍による需要減少で社員を解雇せずに済んだり、自社にはいない多様なスキルを生かして事業の活性化をかなえたりと、企業側にもメリットの大きい「従業員シェア」ですが、ここまで見てきたように実現には一定の管理コストが発生します。

とはいえ、政府も多様な働き方を推進している昨今において、従業員シェアの導入を全くしないということは果たして企業の利益となるでしょうか。

自社のさらなる発展と社員の活躍のため、ぜひ前向きに検討していただきたいと思います。
  • 労務・制度 更新日:2021/11/10
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