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コロナ禍で急拡大!「テレワーク」における法律・労務管理基礎知識とポイント

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新型コロナウイルス感染症の拡大によって多くの企業が「テレワーク」を実施したことにより、多くの方が「テレワーク」を経験しました。このように急速な普及・定着が進む中、2021年3月には厚生労働省がテレワークに関するガイドラインを改定し、テレワークの活用を一層積極的に推進する運びとなっています。

とはいえ、実際に自社の社員にテレワークを認めるとなると、労働時間の把握や情報漏えい対策などの課題が出てきますよね。

今回は弁護士・堀田陽平さんをお迎えし、「テレワーク」における法律・労務管理の基礎知識について、JAPAN HR TV 2021で行われた講演を記事にまとめました。
「テレワーク」とは、「情報通信技術を用いた事業場外勤務」のことを指します。簡単に言えば、PC、携帯・スマートフォン、タブレットなどを使って普段のオフィスの外で仕事をするということです。

さらに細かく分類すると、家で働く「在宅勤務」、駅前などにあるサテライトオフィスを使用する「サテライトオフィス勤務」、そして、外回りをしながら合間にカフェで仕事をするような「モバイル勤務」に分けられます。
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企業側にとっては、業務効率化による生産性の向上、離職防止などがメリットとして挙げられます。また、新型コロナウイルス感染拡大や最近の災害の激甚化などを踏まえると、事業継続計画(BCP)の観点からも注目が集まってきています。
一方で、労働時間の管理の難しさなどのデメリットも存在しています。
従業員側にとっては、通勤時間の短縮、業務効率化、ワーク・ライフ・バランスの確保などのメリットが挙げられます。デメリットとしては、仕事とプライベートの切り分けが困難になる点などがあるでしょう。
働き方改革実行計画の「柔軟な働き方の促進」の一つとして2018年(平成30年)に「テレワークガイドライン」が策定されましたが、なかなかテレワークの普及は進まない状況が続きました。
そんな中、新型コロナウイルス感染症が拡大。感染拡大防止の観点から、より一層の「テレワーク」の普及・定着を図るとともに、課題も多く見えてきました。
そこで21年(令和3年)3月、冒頭でもお伝えしたとおり、テレワークガイドラインがさらに改定されました。
早速、改定された「テレワークガイドライン」を見てみましょう。
上図右側にある改定前のガイドラインと比べると、一見するだけでかなりボリュームが増えたことが分かります。

では、テレワーク導入にあたりどのような点に気を付けていけば良いのでしょうか。次からは、具体的に改定ガイドラインに沿って詳しく見ていきましょう。
ここからは、改定ガイドラインに沿ったテレワーク導入の実務について解説します。一問一答形式でまとめていますので、自社の状況に合わせて必要な事項を確認してみてください。

 Q:テレワークを導入するためには就業規則の改定が必要なのか?


A: 法的に、「必要か」というと、必ずしも必要というわけではありません。
しかし、実際にテレワークをうまく回していくためには、テレワーク規程などのルール策定をしておくことが極めて重要となってきます。



テレワークをただ単に「事業場外(オフィスの外)で仕事をすること」と捉えるとすると、「就業場所」の定めは、就業規則に必ず必要な記載事項ではないため、就業規則改定が法的に「必要」というわけではありません。

ただし、特定の労働時間制度を利用する場合や始業・終業時刻を変更する場合、従業員に費用を負担させるものがある場合などの特別なルールを設定するときには、改定が必要になります。

その他にも、服務規律、セキュリティなどの観点から、実際上はルール策定をしておくことが極めて重要です。実際に、ルールを定めた企業と定めていない企業では、テレワークでの生産性に差が生じたというデータもあるようです。

 Q:就業規則の改定が法的に必要ないのであれば、何も対応しなくて良い?


A: 「就業の場所」は労働条件通知書の明示事項であるので、仕事の開始の段階でテレワークをするような場合には、労働条件通知書にその旨を記載する必要があります。



労働条件通知書には、「雇入れ直後」の労働条件を記載する必要があるため、仕事開始の段階でテレワークを行う場合には、「事業場、自宅、その他会社が認めた場所」などと「就業の場所」に記載することが必要です。

仕事の開始のあとからテレワークを行うことになった場合には、改めて上記のように「就業の場所」を記載した労働条件通知書を交付することは、法的には不要ですが、従業員の理解のために改めてこれを交付することも望ましいと言えます。

 Q:テレワーク中の労働時間の把握・管理はどうする?


A: テレワーク中も労働からの解放が保障されていない限りは、「労働時間」です。
ただし、改定テレワークガイドラインでは、自己申告による把握・管理も柔軟に認めています。



テレワーク中は社員が働いている姿を直接見ることができないため不安になる方もいらっしゃると思いますが、休憩時間や休日などのように「労働からの解放」が保障されていない限りは、たとえ家の中の待機時間であっても労働時間として扱う必要があります。そのため、労働時間の適正な把握・管理が求められます。

テレワーク中の労働時間の把握・管理については、改定前のテレワークガイドラインでは原則としてPCログやタイムカード等の客観的方法によるとし、自己申告は例外で、その場合には定期的な実態調査などの措置を要するとしていましたが、改定テレワークガイドラインにて一定の緩和が行われました。

どのような緩和が行われたのか、改定テレワークガイドラインのポイントを見ていきましょう。
労働時間の確認手段が緩和
上記の②(※)の箇所に注目してください。

改定テレワークガイドラインでは、パソコンの使用時間など客観的な事実と、自己申告された労働時間の間に著しいかい離があることを把握した場合には、労働時間を補正することが必要とされています。

ここでいう「把握した場合」というのは、例えば申告された時間以外にメールが送信されている、始業・終業時刻外で長時間パソコンにログインしていた場合など、客観的に見て申告された労働時間と実際の労働時間にかい離があることを使用者側が確認できる状態を指します。

逆に言えば、そういった事実が把握されていない場合は「労働者が申告した労働時間」をもとに労働時間を計算し、賃金を支払っていれば問題はないということになります。

 Q:テレワーク中のための労働時間制度はある?


A: 現行法上はテレワークに特別な時間制度はなく、現行の制度を工夫して活用する必要があります。



例えば、改定ガイドラインでは「フレックスタイム」や「事業場外みなし」はテレワークの労働時間制度として親和性が高いとされています。
一方で、下記のデータが示しているように、ほとんどの企業が通常の労働時間管理のままテレワークを行っていることが分かっています。
業務内容や勤務実態などに鑑みながら、自社に合った制度を導入することでより効率的にテレワーク中の労働時間管理を実現できます。

 Q:テレワーク中によくある中抜け時間への対応は?


A: 休憩として扱ったり、時間単位年休として扱うという方法があります。
が、いずれも手続き上のコストが大きいため、改定ガイドラインに沿った柔軟な対応に切り替えると良いでしょう。



テレワーク中は、家事などやむを得ず中抜けをすることがよくあります。

これを休憩時間として扱う場合は、始業・終業時刻が変更となる可能性もあるため、始業・終業時刻を変更し得る旨を就業規則に記載しておく必要があります。特に、中抜け時間を休憩時間として扱うことにより、労働時間がずれ込み、22時以降の深夜時間になる場合があるため、注意しましょう。
また、時間単位年休として扱う場合には労使協定が必要となり、手続き上のコストが大きいことが問題となるでしょう。

改定テレワークガイドラインでは「中抜け時間」についても労働時間の把握・管理の程度が緩和されています。
ポイントは、「中抜け時間について使用者は把握していてもしていなくてもどちらでも良い」とされていることです。ただし、「把握しない」とする場合には、始業と就業の時間のみを把握し、休憩時間を除いた時間を一括して「労働時間」と見なすことができると明記されています。
つまり、「把握をしない」とする場合には、中抜け時間も働いたものとして扱い、賃金を支払い、労働時間の上限規制を順守することが条件となっていることには注意が必要です。
すでに紹介したように、「事業場外みなし」を活用することも管理コストの大きな削減につながります。

同制度を使う場合には「労働時間を算定し難い場合」という条件が必要な上、テレワーク中の労働者に適用する場合には「通信機器を常時通信可能な状態にしておくよう使用者からの指示がない場合」であるとされ、よく内容を読めばそうではないのですが、「通信がつながる状態である場合には常にこの要件を満たさない」と誤解されることが課題となっていました。

改定テレワークガイドラインでは「通信機器を常時通信可能な状態にしておくよう使用者からの指示がない場合」という条件の記載は残しながらも、この条件を満たす場合を例示し、より分かりやすく周知しています。
難解な内容ですが、要するに「PCやスマホを持っていて、通信がつながる状態であったとしても、使用者からの指示に対し、その応答のタイミングは労働者の裁量に任されている」という場合には事業場外みなしが適用できる、という内容です。

事業場外みなしが適用できると、労働時間の把握管理が不要となるため、使用者にとっての負担が軽減されるとともに、働く側にとっても柔軟な働き方が可能になるというメリットがあります。
しかし、事業場外みなしの適用が否定された判例もありますので注意しましょう。適用否定となった判例と、適用された判例、それぞれ2件の事件を合わせてご紹介します。
「阪急トラベルサポート事件」(最高裁平成26年(2014年)1月24日・海外ツアーバス添乗員の事案)

海外バスツアーの添乗員である従業員が、時間外勤務手当などの支払いを求めて旅行会社を提訴した事件です。
使用者である旅行会社は、添乗業務に「事業場外のみなし労働時間制」を適用されると主張しましたが、従業員は添乗業務は「労働時間を算定し難いとき」には当たらないと主張し、争っていました。

判決では、予定された旅行日程の途中で変更を要する事態が生じた場合、その時点で会社の指示を受けるよう求めていたことや、旅行終了後は添乗日報を提出するため、業務の遂行状況などの詳細な確認が可能であったことから、事業場外のみなし労働時間制の適用は認められませんでした。
ナック事件(東京高裁平成30年(2018年)6月21日。営業職の事案)

コンサルティング会社が、不正な営業活動を行っていたことを理由に従業員を懲戒解雇したところ、従業員が会社に対し残業代などの支払いを求めて提訴した事件です。

この事件の場合は、顧客の選定や訪問の場所、スケジュールなどが営業担当社員の裁量に委ねられていました。また、上司が事前にこれを把握して個別に指示したりすることはなく、訪問後の出張報告も極めて簡易な内容であって、その都度具体的な内容の報告を求めるというものではなかったことから、使用者が労働者の勤務の状況を具体的に把握することは困難だとされ、事業外みなしが適用されました。
判例・裁判例を見ると分かるように、裁判所は「労働時間を算定し難い」か否かを諸般の事情を総合的に考慮して判断しており、「通信がつながるかどうか」だけを判断理由にしているわけではありません。

重要なのは「仕事の裁量を与えているかどうか」です。この点は、テレワークガイドラインも同様です。テレワークにおいて事業場外みなしを使用するときも、仕事の裁量を与えてよい従業員なのかどうかを見ていく必要があるでしょう。

 Q:テレワーク中の仕事の状況は監視できる?


A: できないわけでないが、従業員への説明や、テレワーク規程などに定めをおくことが適当です(特に、PCのカメラ機能を用いるような場合には、要注意)。
また、就業時間中及びその前後以外は、監視をしないようにする必要があります。



従業員にもプライバシーがあるため、監視は社会通念上相当な範囲に限って可能とされています。

例えば、マウスカーソルの動きを監視するような方法であればプライバシーには触れる程度は小さいので、特段問題はないものの、テレワーク規程(職務規程に含まれるテレワークに関する項目)に含めておくとリスクを低減できると思われます。

一方、カメラを用いて監視する場合は高度なプライバシー情報を取得することになりますので、従業員本人の同意を取得することや、家の中が映らないようにするなどの配慮が必要でしょう。
前項で、テレワークに対応した内容を織り込んだ職務規程として「テレワーク規程」を定めることに触れましたが、具体的にはどのように定めていけばいいのでしょうか。
まずは、会社としてテレワークの目的や方針を定めることが重要です。上図には3つのパターンを例示しました。
これらのようにテレワークの目的・方針によって、具体的なテレワークの制度設計も変わってきます。

<テレワーク対象者の範囲>
ここからは具体的な条文例を示しながら解説します。

対象者の選定は、「全社員」「希望者」「育児や介護など理由のある社員」など、テレワークの目的に応じて設定しましょう。
その際、勤務状況の悪化やテレワークを許可した理由の消失などを考慮して、一度許可したテレワークを取り消すことができる内容をテレワーク規定に含める方が良いでしょう。
また、災害の発生等に備え、テレワークを命じることができる定めを置いておくとよいでしょう。

<同一労働同一賃金との関係>
同一労働同一賃金は、テレワークを含むあらゆる労働条件に適用されます。例えば、改定テレワークガイドラインでは、「正社員のみにテレワークを許可する」など、雇用形態の違いのみを理由にテレワーク対象者を分けることのないように留意する必要があるとしています。

よく「非正規社員にもテレワークを認めないといけないか」という相談を受けますが、雇用形態にかかわらず、業務内容や業務遂行能力の観点から区別するようにしましょう。

<テレワーク中の服務規律・情報漏洩対策>
社員ではない家族のいる環境で仕事をする、自宅以外で仕事をするなどテレワーク特有の事象に対応するために、テレワーク中の服務規律を別途定めることも可能です。

テレワークの場合、オフィス以外で業務を行うことから情報セキュリティは重要となるでしょう。別途、セキュリティガイドラインなどを定めている場合はそれに準ずる旨を明記しましょう。
また、自宅外(カフェなど)での業務も認める場合はさらに「のぞき見防止措置」なども含める必要があります。
テレワークにあたっては、通信費など社員の自己負担が発生することがありますが、その費用を労使のどちらが負担すべきかについては労働関係法令には定めがありません。

改定テレワークガイドラインでは、実情に照らして労使間で議論し、従業員に費用負担がある場合は就業規則に定めておく必要があるとしています。
上図が、想定される対応内容と検討の留意点です。
テレワーク中にオフィスへ出勤する場合はその実費を精算することが現実的ですが、管理コストの増大などの問題も発生します。

そこで在宅勤務手当を別途定めることも考慮されますが、こちらはこちらで通勤手当と異なり課税対象になったり、割増賃金として算定する必要があったりと一長一短です。

自社の管理コストや従業員の勤務実態を見ながら、慎重な議論が求められます。
ここまで、従業員のテレワークに関して管理コストや規程類の整備について解説してきました。想像よりも複雑で尻込みしてしまった方もいるかもしれません。

ですが、上記のグラフからも「(これからも)新型コロナウイルス流行時と同程度にテレワークの利用を維持したい」と考えている企業が多いことが分かっています。
また、実際にテレワーク環境で勤務している従業員の大半が「継続してみたいと思う」と回答し、テレワーク非実施者の約半数も「してみたいと思う」と回答しています。
企業側、従業員側の双方が求めているテレワーク。これからは「テレワークの定着」が、人材獲得に大きく影響していくものと思われます。
規定の新設・改定など管理コストが大きいテレワークですが、積極的な導入が採用市場における優位性を確保するためには必要不可欠でしょう。
多様な働き方が認められ、政府も推進している現在においては、企業も従業員の権利を守り柔軟な対応が求められます。

テレワークや従業員シェアを実施するに当たって検討すべき事項は、ここまで解説してきたように想像以上に多いものです。必要であれば専門家の助けを求めることも必要になるでしょう。

単に従業員の満足度や事業の継続性だけでなく、採用市場における競争優位性も左右しかねない「働き方」への理解と制度の整備を進めていきましょう。
  • 労務・制度 更新日:2021/11/10
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