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雇用情勢の「先」を読む経済統計 雇用は景気から一歩遅れる〜失業率(中)~

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前回、「GDP(国内総生産)より失業率の方が景気実感に近い」と書きました。それはGDPが様々な経済統計を組み合わせて計算した指数であるのに対し、失業率は自分の生活に結びつけて直感的に理解できるからです。

ただ、雇用関連の統計を景気指標として使う場合、注意しなければならない点があります。実は、失業率はGDPなど主要な景気指標から少し遅れて動く性質があるのです。新卒採用の担当者が「学生の売り手市場で人材獲得競争が激しいから、景気は過熱しているな」と感じていても、実際の景気はすでにピークを越えて悪化し始めている、といったことが起こり得るのです。

そもそも「景気」とは?

景気が「好況」と「不況」を波のように繰り返していることはだれでも知っています。しかし、「今は景気が良い/悪い」と言うときの「景気」が具体的に何を指すのかについては、人によって微妙に違います。自営業をしている人なら家業が儲かっていれば「景気が良い」と感じるでしょうし、会社勤めをしている人ならボーナスが増えたときにそう感じるのではないでしょうか。

では、政府が「景気が回復している」などと言うときの景気とは何を指しているのか。「消費が活発であるかどうか」「就職がしやすいかどうか」「収入が増えているかどうか」「株価が上がっているかどうか」……。様々な考え方がありそうですが、実は「生産活動が活発かどうか」を基準にしています。

例えば最も重要な指標であるGDPは「国内総生産」ですし、政府が公式の景気判断をする際に使う景気動向指数の一致指数も、足元の生産を反映する統計を組み合わせて計算します。ですから、政府が「景気が底を打って回復し始めた」などと言うときは、「生産活動が活発化し始めた」ことを意味しているわけです。

景気が変化するメカニズム

と、聞いてもまだモヤモヤしている人がいるかもしれません。「生産も消費も雇用も、景気が良いときは良いし、悪いときは悪いのではないか」というわけです。しかし現実には、これらの変化には、それぞれ微妙なタイムラグが生じます。なぜそうなるかは、景気の変動がどのように起きているかを考えると見えてきます。

上の図を見てください。経済活動は「消費」「生産」「雇用」など様々な要素に分解することができます。そして、それぞれが連動して一つの流れを形作っています。経済ニュースを読んだり、景気の先行きを考えたりするには、このサイクルを頭に入れておくことが重要になります。

このサイクルをスタートから見ていきましょう。経済活動とは「社会で必要とされているモノやサービスをみんなで手分けして産み出す営み」です。ですから、まずは世の中でどれくらいのモノやサービスが必要とされているか、つまり需要が出発点になります。

現在であれば、コロナ禍により「都心のオフィスの必要性が薄れた(投資)」「欧米への輸出が減った(貿易)」「外食する人が減った(消費)」といった変化が起きています。こうした情勢を踏まえた上で、人や企業はどれだけモノやサービスを生産するか決めるわけです。

需要に合わせて生産を行うと利益が発生します。生産が拡大して利益が増えているときは、企業はさらに事業を拡大するため工場や店舗を新設したり、生産用の機械を買ったりするでしょう。つまり投資が活発になり、これが需要をさらに増やすことになります。

同様に、利益が増えれば、企業は従業員の給料やボーナスを上げたり、新たに人を雇ったりします。そうすると雇用や賃金が増えます。収入が増えた人は消費を増やすので、これも需要の拡大要因になります。これは景気の拡大局面で見られるサイクルですが、残念ながら現在はコロナ禍をきっかけに需要が急減したことで、経済活動の縮小がさらなる縮小を生む悪循環が始まっているわけです。

このサイクルを改めて見ると、なぜ雇用が景気(=生産)から遅れて変化するのかが理解できるでしょう。また、ビジネスの現場を思い浮かべても、実際にこうした流れになっていることが分かるはずです。

例えば大企業なら、新卒などの採用計画を入社試験の半年以上前に立て始めているはずです。その時点で生産が活発で人手不足が生じていれば採用人数を増やすでしょうし、人が余っていれば減らすでしょう。雇用には、こうした計画と実行のタイムラグが起きやすいのです。

景気悪化でも2月まで低水準

実際の数字を見てみましょう。景気動向指数の一致指数を見ると、すでに昨年の夏には緩やかな景気後退が始まっていることが分かります。これに対し、完全失業率は今年2月までは2.2〜2.4%と歴史的な低水準で推移していました。

これはほぼ「完全雇用」、つまり転職中の人などを除き、働きたい人の大半は職がある状態です。なお、日本の失業率はコロナ禍が始まってからも、政府が休業手当を支払った企業に雇用調整助成金を出すなどの緊急措置を取った効果もあり、景気の悪化ペースからすれば緩やかな上昇にとどまっています。これは4月に14.7%まで跳ね上がった米国などと比べ対照的といえます。

こうしたタイムラグがあるということは、裏返すと雇用情勢の変化は事前にある程度、予測できることを意味します。例えば足元の生産活動の水準を見れば、1〜3ヶ月後の変化が見通せるわけです。では、具体的にどのような指標に注目すればいいのでしょう。

参考になるのは、景気動向指数を計算する際に使われる経済統計です。この指数には景気の現状を表す「一致指数」に加え、「先行指数」と「遅行指数」があります。その名の通り、景気の先行きを示すものと、少し遅れて動く指標という意味です。それぞれの構成要素のうち、代表的なものを3つずつ挙げておきましょう。すべて知りたい方は内閣府のホームページをのぞいてみてください。

このように、同じ雇用関連の統計でも、景気に先行して動く新規求人数、一致して動く残業時間(所定外労働時間)、遅れて動く完全失業率、と分かれています。それぞれの統計の特徴や見方についてはこの連載の中で説明していきます。

用語解説

  • 【景気】:国や地域など特定の社会における生産、消費、雇用など経済全般の動向。長期的には経済活動が活発化する好況期と、低迷する不況期を繰り返しており、このサイクルは景気循環と呼ばれる。
  • 【景気動向指数】:内閣府が毎月発表する、景気の変化に敏感に反応する経済統計を組み合わせて算出した指標。政府が公式の景気判断をする際に使用している。足元の景気状況を示す「一致指数」、変化を先取りする「先行指数」、遅れて変化し確認に使われる「遅行指数」の3種類がある。それぞれについて、改善している指標の割合を示すDI(ディフュージョン・インデックス)と、変動の幅やスピードを示すCI(コンポジット・インデックス)があるが、現在の景気判断ではCIが重視されている。
  • 【需要】:個人や企業といった経済主体の、モノやサービスなどの商品を買いたいという欲求。これに対し、個人や企業といった経済主体の、モノやサービスなどの商品を売りたいという欲求や売る行為を供給と呼ぶ。
  • 【投資】:将来的な便益を得るためにお金を投じること。具体的には個人が住宅を買うことや、企業が工場や店舗を新設したり、生産用の機械を購入したりすることを指す。経済学ではこうした「実物への投資」を指すことが多く、株式などの有価証券を買う投資とは分けて考えられる。
  • 【消費】:個人や企業といった経済主体が、現在の欲求を満たすためモノやサービスなどを購入し消耗すること。将来的な便益を得るのが目的で、購入したものがすぐには無くならない投資とは分けて考える。
  • 経営・組織づくり 更新日:2021/10/21
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