経営と人材をつなげるビジネスメディア

MENU CLOSE
1 ty_romu_t20_side-job_211018 roumu

副業と兼業の促進に関するガイドライン「簡便な労働時間管理の方法」を解説

/news/news_file/file/t-bnr_gyoseishoshi_w910h386_15.png 1

ここ数年、副業を推進する企業が増えています。副業や兼業は、単なる年収アップの手段ではなく、キャリア形成の一環としても認知されてきています。しかし、これまでの法制度(特に労働関連法規や、社会保険制度)では、副業や兼業が想定されてこなかったため、現在でも体制整備が追いついていない面があります。

そのような状況下で、2018年に「副業と兼業の促進に関するガイドライン」が厚生労働省から発表されました。2020年9月に一部改定され、副業・兼業をしている社員の労働時間管理についての方針を示されています。

今回は、ガイドライン改定までの副業をめぐる企業の意識と、改定されたガイドラインの内容について紹介します。

労働政策研究・研修機構の調査にみるこれまでの企業の意識:多くは副業に消極的

副業が増えているとはいっても、まだまだ消極的な企業も少なくありません。

労働政策研究・研修機構が2018年に実施した「多様な働き方の進展と人材マネジメントの在り方に関する調査(企業調査・労働者調査)」では、「副業・兼業の許可する予定はない」が75.8%でした。どのような理由で副業・兼業を許可したくなかったのでしょうか。

消極的になる理由①過重労働になるかもしれないし本業に支障が出たら困るから

副業・兼業の許可をする予定がない理由としては、「過重労働となり、本業に支障をきたすため」が82.7%でした。つまり、自社の労働者が副業をすることによって働きすぎとなり、結果として本業(自社)でのパフォーマンスが落ちたら困るということです。

確かに、副業を可能にしてしまうと、業務時間外に何時間働いても、それを制限することは難しくなってしまいます。人間の体力や気力は有限ですから、例えば夜通しほかの職場で働いてから、昼間自社に出勤されて眠そうにされても困るということではないでしょうか。

消極的になる理由②労働時間の把握ができない

続いての理由が、「労働時間の管理・把握が困難になる」(45.3%)ということでした。副業であっても法定労働時間を守る必要があり(労働基準法第32条)、労働時間を通算で管理しなければなりません(同38条)。

法定労働時間を超えて労働者を働かせる場合には、割増賃金を払わなければいけません。副業先で法定時間外労働が発生した場合は、残業代を副業先が支払うことになります。しかし残業代を支払うためには、本業の職場も、副業の職場も労働者のトータルの労働時間を把握していなければなりません。また、副業としてフリーランスになる場合は労働時間管理の対象外になります。そのため、労働時間の管理・把握は大変困難でした。

消極的になる理由③ほかの従業員の負担が増えるかもしれない

副業をしていることで、さまざまな手続きが煩雑になります。また副業として働く人を受け入れる場合も、賃金や保険料の処理が通常と異なります。

調査を通じて制度が整備されていない状況が明らかになった

労働政策研究・研修機構が行った調査では、以上の理由によって副業に消極的な企業が多く、また制度上の課題が出てきました。自社の社員が副業をする場合も、副業の社員を受け入れる場合も企業にとってはデメリットが多く、手間が増えてしまうという状況だったのです。

これらの課題を踏まえて、2020年9月の「副業と兼業の促進に関するガイドライン」の改定が行われました。

改定された「副業と兼業の促進に関するガイドライン」

副業と兼業を促進する内容ですが、2018年の策定時と異なる点は「簡便な労働時間管理の方法」が提示されたことです。まだ「副業と兼業の促進に関するガイドライン」を読んだことがない方のために、概要と今回の改定部分を紹介します。

副業と兼業の促進に関するガイドラインの概要

全体の内容としては、「副業・兼業の場合における労働時間管理や健康管理等」が主です。
副業・兼業を希望する労働者が、安心して取り組めるように、労働時間管理や健康管理についての基準を示しています。ガイドラインでは、労働者が副業・兼業をする自由については基本的に認めています。

さらに、副業・兼業に関する企業と労働者側それぞれの視点からみたメリットと留意すべき点を列挙して解説しています。
特に、企業にとっては以下の点がメリットであるとしています。

  1. 労働者が社内では得られない知識・スキルを獲得することができる。
  2. 労働者の自律性・自主性を促すことができる。
  3. 優秀な人材の獲得・流出の防止ができ、競争力が向上する。
  4. 労働者が社外から新たな知識・情報や人脈を入れることで、事業機会の拡大につながる。

一方で、「必要な就業時間の把握・管理や健康管理への対応、職務専念義務、秘密保持義務、競業避止義務をどう確保するかという懸念への対応が必要である。」と留意点を指摘しています。これらの留意点は、前述の調査でもアンケート結果に副業・兼業の許可をしない理由として挙げられていました。

そもそも、労働者の心身の健康確保や、ゆとりのある生活を確保するためには労働時間や健康管理が必須であり、あくまでも適法な副業・兼業を推進したいという厚生労働省の姿勢が窺えます。

「簡便な労働時間管理の方法(管理モデル)」とは

さて、前述の調査においても企業が懸念していた労働時間管理についてですが、厚生労働省は「簡便な労働時間管理の方法」をガイドライン内に発表しました。

正式には、「労働時間の申告等や通算管理における労使双方の手続上の負担を軽減し、労基法に定める最低労働条件が遵守されやすくなる簡便な労働時間管理の方法(以下「管理モデル」という。)」と表現されています。

管理モデルの概要

管理モデルが作られるまでは、本業先と副業先の労働時間の申告や通算といった手間がかかっていました。労働基準法上の要請によるものでしたので、本業先と副業先の労働時間を申告、通算することは必須でした。しかし、管理モデルを適用すれば、一定の条件下においては、本業先と副業先がお互いの労働時間を把握しなくてもよくなります。労働者としては、副業先で何時間働いたのかを申告する必要がなくなり、手続きが簡単になります。

ただし、どのような形の副業であったとしても労働時間の申告が不要になるわけではありません。労働時間の上限や割増賃金に関する規定があります。この他にも注意点はありますが、今回は特に企業の手間となってきた労働時間の申告と通算について触れました。

管理モデルを読み解くときの前提

管理モデルには、使用者Aと使用者Bが登場します。使用者AはBよりも先に雇用契約を締結しており、労働者からするとAが本業となります。Bは副業先です。

適用条件

管理モデルを適用するための条件として、

  • 本業の法定外労働時間と副業の労働時間が単月で100時間未満、複数月の平均で80時間以内であること
  • 本業の企業は法定外労働時間の労働について、副業先の企業は労働時間について、それぞれの職場の36協定の延長時間の範囲内として割増賃金を支払うこと

が挙げられます。

労働時間の上限をそれぞれの職場で決める

適用条件を満たす労働については、労働時間の上限を本業と副業の職場でそれぞれ決めて、その通りに働く限りにおいては、本業と副業の職場がお互いにほかの職場の労働時間を把握しなくても、労働基準法を守ることが可能になります。

導入方法

現段階でも就業規則などに副業の上限時間数が定められていることがあります。導入の際には、本業の企業において、副業・兼業を行う労働者に対して管理モデルによって副業をすることを求める流れになります。副業先は、本業の企業の求めや副業をしようとする労働者に応じる形で、管理モデルを導入します。

「簡便な労働時間管理の方法( 管理モデル)」の注意点

管理モデルの注意点を紹介します。

割増賃金について

企業として気になるのは割増賃金をいくら支払う必要があるのか、ということでしょう。

本業の職場は法定外労働時間について、副業の職場は労働時間についてそれぞれ割増賃金を支払います。時間外労働の割増賃金の率については、それぞれの企業の就業規則等で定められた率になります。

時間数を守らなかった場合は違反に問われる可能性がある

労働時間をそれぞれの職場で決めたものの実際はその通りではなく、時間外労働の上限規制を超えてしまった場合は、働かせすぎた企業の方が、使用者として労働時間通算に関する違反に問われる可能性があります。取り決めをしたら、その時間内で労働をさせることが重要です。

まとめ

今回は、2020年9月に改定された「副業と兼業の促進に関するガイドライン」について紹介しました。「簡便な労働時間管理の方法」は、あらかじめ決めておいた時間内での労働である限り、本業の企業も副業の企業もお互いに労働時間数を把握する必要がないというものです。これにより、副業をする社員の労働時間管理の手間は今までよりも楽になると思われます。

しかし、通算ルールは原則として変わっていません。あくまでも例外的に、簡便な方法をとることができるようになっただけです。定められた時間数を守らなかった場合は違反に問われる可能性もありますので、無理のない時間数設定にすることが重要です。

      • 労務・制度 更新日:2021/10/19
      • いま注目のテーマ

      • タグ

      RECOMMENDED

      • ログイン

        ログインすると、採用に便利な資料をご覧いただけます。

        ログイン
      • 新規会員登録

        会員登録がまだの方はこちら。

        新規会員登録

      関連記事