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コーポレートガバナンスとは?専門コンサルタントが語る"その必要性や強化ポイント"について

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ビジネス上、至るシーンで見聞きする「コーポレートガバナンス」。経済産業省主導で纏められた『伊藤レポート』で日本企業の利益率が海外企業に比べて著しく低い状況に警鐘を鳴らされたことに端を発し、その解決の手掛かりとして、金融庁と東京証券取引所が中心となり『日本版コーポレートガバナンス・コード』をまとめられました。

コーポレートガバナンスと聞くと上場企業を対象とした仕組みや制度といったイメージが強いでしょうが、果たして中小企業やベンチャーには無関係な話なのか?今回は組織・人事領域を中心としたコンサルティングサービスの最前線で活躍するコーポレートガバナンスのプロフェッショナル、マーサージャパン株式会社のプリンシパルである亀長尚尋氏に、コーポレートガバナンスの概要から強化のポイントなどをお聞きしました。

コーポレートガバナンスとは

コーポレートガバナンスの定義や目的について教えてください。

コーポレートガバナンスは、近年非常に耳馴染みのある言葉になってきたと思うのですが、皆さんの捉え方はまちまちで、唯一の明確な定義は存在しません。私の経験・理解に基づく簡潔な定義としては、株主や投資家、従業員や顧客、あるいは経営者自身など企業を取り巻く関係者の利害を適切に調整する仕組みだ、ということです。その最適化を通じて企業全体、社会の利益を最大化することが目的だと思っています。

コンプライアンスとの違いはどこにあるのでしょうか。

コーポレートガバナンスが、“経営者が株主や投資家など関係者の考えを取り入れて経営者自身の考え方をアップデートし、経営をより良くするための仕組み”であるのに対して、コンプライアンスは法令や規範の順守を謳う概念であり、コーポレートガバナンスという目的の一部になり得る概念だと捉えています。要するに、コーポレートガバナンスを実現するための一つの手段としてコンプライアンスという概念を捉えることできる、という考え方です。

皆さん、コンプライアンス違反が起こるケースとして、企業の不祥事を思い浮かべる方が多いと思います。但し、そうした不祥事の多くは「経営者が不誠実だから起こった」というよりも、経営者としてなすべき思い切った判断・適切な判断を行えなかった結果、それでも利益を継続的に確保しなければならない中で魔が指して道理に反した判断を下してしまうケースが多いと認識しています。

そのため、コンプライアンス違反を防ぐ意味合いで、経営者自身が不正を起こさないための水際対策、抑止力としてコーポレートガバナンスが機能すれば、意思決定のプロセスや経営方針を見直すためのきっかけにもなり得ます。つまり、コーポレートガバナンスをコンプライアンスという概念・機能がサポートしているという捉え方が、2つの概念の関係を適切に表しているのではないかと思います。

コーポレートガバナンスの必要性

日本企業にとってコーポレートガバナンスの必要性はどのようにお考えでしょうか。

日本企業の業績が海外他国の企業に遅れを取っている理由を掘り下げると、伊藤レポート等にあるように、売上高に占める利益が低い、つまりシンプルに「稼ぐ力が弱い」という事実に行き着きます。その原因として、先行きの悪い事業の撤退などの思い切った判断ができず、将来の成長に向け適度なリスクテイキングをしてこられなかったからである、と理解されています。

これは、目の前の社員たちの利益を保護しようと、必要な膿出しや痛みを伴う改革を避け現状維持に甘んじてきた結果であり、内部の論理を重視し過ぎた経営の弊害であるともいえます。その構造にメスを入れる手段としてコーポレートガバナンスを機能させるべき、という論理が、日本の当局、あるいは、我々実務家が共有する考え方です。株主や投資家など外部の意見を取り入れ、良い意味で「空気の読めない発言」や異分子を経営に取り込んでいく。これをやらなければ日本企業の成長はこの先も覚束ない。この現状の打破に寄与することが、”失われた30年”を過ごしてしまった後の日本において、コーポレートガバナンスの重要な存在意義であると考えます。

中小企業では経営者自身がオーナーであるため、特にそうした変革が起きにくい。ストックオプション制度等を導入していても、経営者以外の株主の多くはその会社の従業員であり、経営者との上下関係がハッキリしているので、株主目線での対等で忌憚のない議論は起きにくいと考えられます。ただし、IPOを控えている中小企業やベンチャーの視点で考えると、コーポレートガバナンスの知識と備えは必ず求められます。

中小企業がコーポレートガバナンスを上手く取り入れれば経営効率がアップするとも言えそうですね。では、コーポレートガバナンスが弱い企業はどんな末路を辿るのでしょうか。

コーポレートガバナンスが十分に備わっていないからという理由だけで市場から退場、ということはないです。経営者に対するガバナンスが形式上整っておらず、必ずしも対外的な開示に積極的でない会社の一部には、結果的に業績状況も良く、株主や投資家からの評判も高く、事業的に成功している組織は少数ながら存在します。ただし、経営者が明確な変革ビジョンを持たず、事業モデルがあまり魅力的ではない上に、コーポレートガバナンスも充実していない、という場合には、不確実・不連続な経営環境の変化に対応できずにいずれ成長が頭打ちになるのが、最も予期しやすい結果です。そういった意味では、コーポレートガバナンスの整備はそれが備わっていれば十分という経営システムではなく、持続的な成長を下支えする重要な要件の1つである、コーポレートガバナンスとて万能ではない、という捉え方が最も適切であると思います。

コーポレートガバナンスを強化するメリットについて

投資家の目を意識して稼ぐ力の向上に繋げる。それ以外に考えられるコーポレートガバナンスのメリットを教えてください。

いわゆる「両利きの経営」を下支えする仕組みになりうるという点でしょうか。成熟事業を抱える多くの日本企業では、今年十分なご飯を食べるために、事業の成長性にかかわらず、まずは今持っている事業で利益を創出することが大切、という考え方が先行しているきらいがあります。これがなかなか経営の効率化に繋がりにくい要因ではあるのですが、並行して、成功が全く確約されていない中で、新しい事業の種を作る、事業化へのリソース配分を進めることが必須です。

しかし、これは口で言うのは容易いですが、今ある事業の効率化を進めてパフォーマンスを最大化するのと、ビジネスの新機軸を打ち出して実現するのでは、全く別の組織能力が求められ、また、新たな取り組みがすぐに大きな成果を得るケースも少ないため、日々ギリギリで経営効率を追求している既存事業との間でコンフリクトが生まれやすく、非常に困難を極めます。

何期にもわたって中期経営計画に「新規事業の創出」「成長戦略の実現」と謳っていながら、社内のリソースのほとんどを既存事業に割いてしまっているような企業では、社外取締役が、経営者に対して、事業の新機軸を実現するだけの覚悟を有しているのか、遠慮なく詰めてほしいですよね。社外取締役自身も経営者から依頼を受ける立場でそのような発言をすることを避けたくなる。だからこそ、経営者としては耳の痛いことを言ってくれることを本気で社外取締役に期待しなければいけないのだと思います。「両利きの経営」を本当に実現しようと思えば、経営トップが意思をもって新規事業部隊が成功するまでの”滞空時間”を準備しなければならず、それには膨大なコストと失敗の恐怖と戦う胆力が必要になります。多くの経営者は本質的にそれを理解しながらも実施しきれない。そこで、社外取締役ができることはまだまだ多くあると思っています。結果、外部取締役などの存在により、良い意味での「空気の読めない発言」や異分子を自然と取り込むことになるので、「両利きの経営」を実現できるケースがあります。そうなってくると、コーポレートガバナンスをきっかけとしてイノベーションの創出を助ける環境がどんどん整っていくことを願っています。

コーポレートガバナンスの進め方

コーポレートガバナンスを導入するうえで、有効な進め方はあるのでしょうか。

まず、コーポレートガバナンスの導入を本格的に進めたいと考えた時に、当たり前のことを言うようですが、「何を最大の目的として導入するのか?」をハッキリさせることが重要です。コーポレートガバナンスを経営者視点で見ると、株主視点での意思決定・丁寧な対外開示を求められ、経営上の自由が一部奪われるという捉え方も成り立ちます。なので、経営者の本音が「お上(当局)からの指令だからやっている」ということだと、コーポレートガバナンスはあまり効果的に機能しません。

自社の事業を通じてどのように社会に貢献したいのか?それを実現する上で、自社は企業を取り巻く関係者からどのように認知されるべきなのか?そのためにどのような情報を積極的にアピールすべきなのか?といった思考回路で、自社が存在する価値や目的として明確化し、それらを実現するための戦略をブラッシュアップしていく。現在半ば”ブーム”のように映っているであろう”ESG”概念の隆盛は、グローバルな社会・消費者意識を反映したインベストメントチェーンの変化であり、少なくとも当面は加速することはあっても、重要な経営テーマでなくなる可能性は低いでしょう。そういった認識に基づくと、そのトレンドに対し斜めに構えて義務的に対応する姿勢では、損失の方が大きいでしょう。それを好機として上手く活かし、経営にポジティブな影響をもたらしていこうとする姿勢が、コーポレートガバナンスを進めていく上で今最も重要なのではないでしょうか。

コーポレートガバナンスの強化ポイントとは

プロから見たコーポレートガバナンスの強化ポイントとは何でしょうか。

コーポレートガバナンスの強化を図るには、逆説的なようですが、「執行側の意思をどれだけ反映できるのか」が極めて重要です。もちろん、第一義的な目的はガバナンスであり、ステークホルダーの代表である社外取締役・委員からの監督ではあります。ただ、だからといって監督側にイニシアティブを譲りすぎるのは避けるべきです。本来は執行側の裁量で決定すべき事項、執行側が持つ情報なしに最終判断ができないテーマに対しても社外取締役などが過度に口を出してしまうケースも多く、越権行為とまでは言わないものの、そうした「行き過ぎたコーポレートガバナンス」を如何にコントロールできるかも極めて肝要です。このため、セールストークだと思わないで聞いて頂きたいですが、我々コンサルタントのような、いわゆる行事役がいる方が執行と監督の間でバランスの取れた関係性を保てることは多いです。

経営者は社外取締役などに対してむしろ遠慮せずに意思をよりハッキリ伝えるべきでしょう。その上で、その経営の意思に対して、GoodQuestionsを投げかけてもらう。そうすることで、外部からの意見のうち有用なものはポジティブに受け入れることもできます。そして、ついつい内部への干渉が過大になってきた際は「それはこちら側の仕事です」と言える関係性。良い意味での「牽制関係」が保てるようになると、コーポレートガバナンスが上手く機能するのではないでしょうか。

コーポレートガバナンスで古きを壊し、新しきを創る

1980〜1990年初頭にかけた、ジャパン・アズ・ナンバーワン時代。かつては世界のビジネスで栄華を極めたわが国も、今では「後進国」とレッテルを貼られる場面が多々あります。そうした日本企業に求められているのは、古い物事にとらわれず、新しい風を吹き入れてイノベーションを促進することではないでしょうか。そして、その手段としてコーポレートガバナンスは1つの有効な処方箋になるでしょう。暖かな春風を浴びるだけでなく、時には厳しい冬風を全身で受け止めることも必要なのです。

もちろん、亀長氏が話すように「コーポレートガバナンスは万能」ではないでしょう。しかし、高い企業成長性を手にするための条件であることは確かであり、企業とその関係者が理想的な関係性を構築できた時、今までになかったイノベーションが巻き起こる可能性が大いにあります。また、コーポレートガバナンスは必ずしも上場企業の専売特許ではないので、中小企業における活路を見つけ、企業としての固い殻を破るソリューションへと変貌させることを目指してみてはいかがでしょうか。

2021年2月19日時点の情報です。

  • 経営・組織づくり 更新日:2021/07/22
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