仕事ができる人を見つけ出すパフォーマンスベースの採用活動
『The Essential Guide for Hiring & Getting Hired』の著者、ルー・アドラー氏は、The Adler Groupの代表として企業の採用戦略コンサルティングをする傍ら、リクルーターや企業の採用担当者向けにオンラインセミナーなどのトレーニングコースを開講し、世界中から受講者が集まっています。本書は、アドラー氏が提唱するパフォーマンスベースの採用活動の実践方法を解説する入門書です。
パフォーマンスベースの採用活動とは、従来の採用活動よりも実際の業績を重視した採用活動をすることで、企業が望む人材を採用できるようになるというアイデアです。ここでは、まずパフォーマンスベースの採用活動を実施するために必要なことを、ご紹介します。
パフォーマンスベースの職務内容を書き出す
職務内容(ジョブディスクリプション)を、パフォーマンスベースのリストに変更することは、とても簡単なことですが、どの企業でもあまり出来ていません。
例えば営業を担当する人を雇うにしても、その企業に必要なのが、大胆な方法で新規開拓を進めてくれる人材なのか、コミュニケーション能力を活かして顧客管理ができる人材なのかによって、採用したい人物が変わってくるはずです。
企業がどのような人を採用したいのか、はっきりと明記し、候補者を含めた採用試験に関わる人が全員で共有できる職務内容リストを作ることがポイントです。
本書には、次のようなパフォーマンスベースに書き直した職務内容の例があげられています。その一部を紹介します。
カスタマーサービス職の例
「90日以内に、現在のクライアントから1日30件以上の電話を受け、企業の特典プログラムに必要なすべての更新処理ができるようになること」
「30日間のトレーニングプログラムに合格し、ユーザーインターフェイスとダッシュボードのレポートシステムをマスターすること。60日以内に、新しいユーザーにアドバイスできるようになっていること」
国際的な企業の合併プロジェクトリーダー職の例
「IT部門や経理部門と協力し、第2四半期までに、SAPインターナショナルレポーティングシステムの統合をすること」
「最初の30日間でプロジェクトの現状を把握し、タイムラインや最低でも達成するべき成果を含む、詳細なアクションプランを作成すること」
アドラー氏が本書で紹介している方法では、細かいステップに沿って、技能ベースの職務内容をパフォーマンスベースに書き直していきます。その大まかな要点をあげてみます。
- 候補者が採用されたと仮定して、入社3か月目から12か月目に達成すべきことを3~4個書き出す
- 必要な技能を並べるだけでなく「~する」という具体的な行動を示す文章にする
- 目標を数字で表し、明確で行動指向的なリストであること
- いつまでに、どのような結果を出すかが入っていること
パフォーマンスベースの採用活動では、職務に必要な資格や能力を並べるだけではなく、具体的な評価指標を書き出します。そして、その内容を達成できる人材を選ぶための採用試験を実施します。この職務内容のリストは採用試験を受ける候補者にも公開し、企業がどのような人材を望んでいるかを知らせます。そうすることによって、採用後に候補者の希望と仕事のミスマッチが起こるのを防ぐことが出来ます。
その仕事に向いている人、企業文化に合う人を採用する
パフォーマンスベースで考えられた職務内容リストと候補者を照らし合わせることや、面接でパフォーマンスベースのインタビューをすることで、候補者が環境に適合するかどうかを知ることができます。適材適所が考えられていないと、能力がある人を採用しても充分なパフォーマンスが得られません。しかし採用試験では、この間違いが非常によく起きているとアドラー氏はいいます。
職務内容リストは面接官が適材適所を判断する基準にもなる
パフォーマンスベースの採用活動では、採用後にどのような仕事を任せるか書き出してみることによって、面接官もその内容を参考に、同じような作業をしたことがあったり、似たような成果をあげたりしてきた人を見つけることができます。
この時、候補者の経験は、同じ業界でなくてもかまいません。別の業界でも同じようなパターンで仕事をしてきた人なら可能性があります。例えばセールスの仕事なら、販売するものが違っても、仕事の流れが似ていることは多いものです。
本人が好きな仕事や本人がやってみたいと思っていた仕事が出来る時、上司の仕事の進め方や企業文化に合っている時、その人のモチベーションは指数関数的に増加すると本書には書かれています。
1年先の人物像を思い描くことが採用を成功させる秘訣
十分な能力を持つ人が採用できない、優秀な人を採用したのにパフォーマンスが上がらない時には、どのような人物を必要としているのか、パフォーマンスベースの視点から、もう一度じっくりと考えてみるといいようです。経験や技能をあげるだけでなく、1年先に期待するパフォーマンスを書き出し、それが実現できそうな候補者を採用試験で選ぶようにします。
では、実際の面接試験でどのようなことができるか、ルー・アドラー著『The Essential Guide for Hiring & Getting Hired』を参考に、ご紹介します。
面接の目的と最初の30分を乗り切る方法
候補者の評価をすることだけが面接ではありません。面接官は、まず求人するポジションの職務内容をよく理解し、それを候補者に伝えることが大切です。本書では面接の主な目的を次のように定義しています。
面接の主な目的
- 適性とモチベーションを正確に把握する。
- 候補者に、企業の採用基準が常に高水準であることを伝える。
- 仕事に期待されることを、大げさでなく、くどくならずに伝える。
- この仕事に就くことがキャリアアップにつながることを知らせる。
- 交渉をする-最終選考まで待たずに色々な段階で交渉をすすめる。
面接の最初の30分が失敗につながる
誰でも第一印象に流されやすいものです。第一印象がよければ、その人がその後、何を言ってもポジティブに受け止めやすくなります。また、第一印象がよい人には肯定的な答えが出やすい質問、逆に第一印象が悪い人には厳しい質問をしてしまうこともあります。しかし、印象が良いことと、能力があるかどうかは別の話です。
面接の最初の30分に起こるバイアスのことを本書では Moment1と呼び感情に流されない面接をするよう勧めています。Moment1を乗り切るためのテクニックを簡単にご紹介しましょう。
- 評価を下すのを30分待つ。面接の最初の30分は本題に入らず、今までの経歴などを聞いて、感情的にならないようにする。
- 第一印象を+か-でメモし、意識的に逆の対応をする。
- コンサルタントに相談するような気持ちで候補者と話す。同僚でもなく、第一印象に左右されないビジネスライクの関係を意識する。
- 面接の前に電話インタビューを入れる。
- 候補者を緊張させない。30分ほど経てばリラックスするので、本題にはそこから入る。
パフォーマンスベースの採用面接をする
パフォーマンスベースの採用面接において、アドラー氏は今まで所属していたグループで上位25%に入っていた人材を採用することを目標としています。今までの功績や実績を確認することや、面接の質問を工夫することで、上位25%で活躍していた人かどうかを判断し、高い成果が見込めるトップランクの人材を採用します。本書では、その方法について段階ごとに丁寧に説明されていますが、ここでは概要を掴んでいただくために手順をご紹介します。
- パフォーマンスベースのジョブディスクリプションをつくる《前編参照》
- 30分ほどの電話インタビューで上位25%の人材かどうか判断
- 面接ではスコアカードによる5段階評価をする
- 面接官を変えて何度か面接をする
- エビデンスベースのレベル評価で採用を決める
電話インタビューのポイント
電話インタビューでは、履歴書の内容と、いままでの経歴について確認します。そして、後に述べる「上位25%の人材を見つけるための、成功者パターン」に当てはまるかチェックします。見込みがあるようなら、その人の最も大きな業績について話を聞いてみれば、次の段階に進む人材かどうかが判断できるでしょう。
スコアカードによる5段階評価
スコアカードによる評価では、企業の評価基準をあげ、その項目について5段階評価をします。例えば、モチベーション、技能、管理能力、チームワーク、職場に合うかどうか、上司に合うかどうか、企業文化に合うかどうかといった項目が考えられます。次に、その項目について達成度の具体例をあげます。
例えば技能の項目なら、仕事に必要なスキルがない場合は「1」、十分に仕事に活かせるスキルがあるなら「3」、すでに必要技能を身につけていてほかの人に教えられるレベルなら「5」となるでしょう。そして、総合的に次のようなレベルで評価します。
レベル1 | 技能、モチベーションともに足らないので不可 |
---|---|
レベル2 |
技能は優れているが仕事に必要なモチベーションが低い、企業文化やマネージャーの方針に合わない |
(レベル2.5) | 平均的なパフォーマンス |
レベル3 | 採用してもいい安定したパフォーマンス |
レベル4 | 期待以上のパフォーマンス |
レベル5 | ハイポテンシャル人材 |
アドラー氏は、評価をするときの注意点として、レベル1はもちろん、モチベーションが低いレベル2の人材を絶対採用しないことをあげています。技能面で優れていてもモチベーションが低く、企業文化に合わない人は企業に悪影響をあたえます。レベル2の人は、他のレベルの人よりも技能的には優れている場合もあるので注意が必要です。
本書(Kindle版を含む)には、スコアカードを始め、パフォーマンスベースの採用面接に使う書類見本が付録としてついています。パフォーマンスベースの採用面接について、もっと深く学びたい方には役立つでしょう。
上位25%の人材を見つけるための、成功者パターン
アドラー氏によれば、トップランクの人材は、過去にもどこかで話題になっていたり、活躍していたりします。電話インタビューや実際の面接で出る実績エピソードは、その人が成功しやすい人か判断する材料になります。
成功者パターンの例
- 特別に成し遂げた仕事がある。大きな仕事を任された。
- 昇進が早かった。特別な賞や業績によるボーナスを受け取ったことがある。
- 企業のなかで部署や役職を超えた改革プロジェクト等に抜擢されている。
- 企業の大きな決定に関与したことがある。
- 一度辞めた会社に呼び戻された、または再就職したことがある。
パフォーマンスベースの採用面接に欠かせない2つの質問
「問題が起きたら、どう解決しますか?」という行動に関する質問をすると、回答者が頭の中で答えを作ってしまいます。実際に、その人がそれを出来るかどうかがわかりません。パフォーマンスベースのインタビューでは、実際にその人が体験したことを通して話を進めていきます。特に次の2つの質問は欠かせません。
1.あなたの最も大きな業績は何ですか?
例えば、この問いについて次のように話を進めます。
- プロジェクトの内容と、主なタスクがどのようなものだったか。
- プロジェクトを進めるなかで問題が起きたか。
- チームの中で、どのような役割をしたか。
- 時間はどれくらいかかったか。
- 周りの人の反応。
- 結果、どのような変化をもたらしたか。
2.過去に起きた問題を、どのように解決しましたか?
例えば、この問いについて次のように話を進めます。
- 最初にしたこと。
- 問題の根源をどう見つけたか。
- 誰にアドバイスをしてもらったか。
- 他の案と比較検討したか。
- どうやってベストアプローチを決めたか。
- 何が一番大変だったか。
このように、候補者の体験に沿って細かく話を膨らませていくことで、その人が実際にどのような仕事をしてきたのかがわかります。理想論だけではなく実像をつかみやすくなります。
パフォーマンスベースにすることで、採用活動の精度を高める
前編では、必要な人材をパフォーマンスベースで再考することで、企業が採用したい人物像を浮かびあがらせました。後編では、実体験に沿ったパフォーマンスベースの採用面接をすることで、候補者の実像がつかみやすくなりました。最終的に、欲しい人材像と、候補者の実像をすり合わせることによって、今までよりも精度の高い採用活動ができるようになることが、パフォーマンスベースの採用活動の趣旨です。
- 人材採用・育成 更新日:2018/03/15
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