人事といえば、人材管理、労務管理というイメージですが、企業経営を取り巻く環境が目まぐるしく変わるなか、近年では経営戦略における貢献など、人材管理のエキスパートを超える役割が求められるようになってきています。

そこで今回は、そうした変化が起こる背景を踏まえながら、これからの人事担当者に求められる役割およびスキルとは何かを探ります。

人事担当者が実感する、人事に求められる役割の変化

企業における人事の役割について、ミシガン大学のデイビッド・ウルリッチ教授による有名な定義があります。それは、以下の4分類です。

1. ビジネス戦略のパートナー（ビジネスの成果に貢献する）
2. 人材管理のエキスパート（人事管理を精密に行う）
3. 従業員のチャンピオン（従業員代表として従業員の声を経営に届ける）
4. 変革のエージェント（組織・風土改革実行を中心的に担う）

2015年2月～3月に実施されたHR総研の調査によると、この4分類のうち「最も求められる人事の役割」の「現在」と「今後」を企業の人事担当者にたずねたところ、興味深い傾向が見られました。

「現在」の役割としては、「人材管理のエキスパート」が33％と一番多く、続いて「ビジネス戦略のパートナー」が31％とほぼ同数になっています。

一方で、今後求められる役割としては、半数を超える担当者が「ビジネス戦略のパートナー」と回答しており、多くの人事担当者が、経営者から「ビジネスの成果への貢献」を期待されていると感じていることがわかります。

人事担当に期待される役割が高まっている理由

「企業は人なり」といわれるように、企業が発展し続けるには、組織能力の維持・発展を支える人材を採用し、育て、マネジメントしていくことが不可欠です。経営には、ヒト、モノ、カネ、情報などが大切であり、これらの資源のなかで能動的な主体であるヒトに関わる人事は、企業の成長・発展において欠かせない役割を本質的に担っているといえます。

加えて、経営環境がグローバル化し、その状況も激しく変化するなか、経営者は常に迅速な経営判断に迫られるでしょう。人事担当もそうした状況や変化を敏感にキャッチし、人材マネジメントの分野における今後の展開や必要な対応策を即時に提供できることが求められるのです。

効率的な事業運営をするために、アウトソーシングを含めた最適な人員配置が不可欠となっている業界は多く、新卒採用、中途採用、M&Aによる転籍社員など、社員の属性が多様化するケースも増えてきています。こうした社内外の経営課題にも柔軟に対応できることが重要なのです。

いま、人事スペシャリストとして求められるスキルとは？

1. 人事の専門能力

「現在いる人材をいかに配置すれば企業が成功するか」「どんな人材が足りていないのか」「多様化する労働力にどう対応していくのか」などといった経営課題を解決できるスキルが、専門能力として必要とされています。日本の労働行政や労務関係の法令だけでなく、人材開発・育成、組織行動、組織開発といった分野においても、知識を深めたほうがよいでしょう。

2. 社内外の状況を把握する力

企業全体の利益構造を知るための会計知識や、現場で実際に起きていることを理解する力など、社内の状況を把握できることがまずは重要です。加えて、業界における他社の動きや労働市場の傾向など、幅広い視野を持って企業を取り巻く状況を分析できる能力も、経営に貢献していくためには必要でしょう。

3. 問題解決能力

そして、持っている知識、把握できた状況からベストなソリューションを導き出す企画・立案力や、それを経営者や現場などあらゆる人に伝えながら実行に移せるコミュニケーション能力も大切です。

できることからスキルアップを！

ご紹介したアンケート調査では、約半数の担当者が「人事の仕事をライフキャリアとしたい」と回答、また約8割が「人事分野の専門家として能力向上に努めている」と答えています。対象企業の規模は、従業員数300名以下：63件、300名～1000名：48件、1001名以上：35件であるため、企業の大小にかかわらず、自身の人事担当としてのキャリアを重視し、能力の向上に努める姿が見えてきます。

いきなり「経営に貢献できるスキルを」といわれると難しいかもしれませんが、意識を変えるだけでも目に入る情報や得られる知識は違ってくるもの。ビジネス感覚を養えるスキルの習得に向けて、できることから始めてみてはいかがでしょうか。