【会員限定】ウィズコロナ時代の新卒採用のポイントは? いま、学生が大切にしている価値観を知っておこう
この記事は、2021年4月21日に開催された人事向けオンラインセミナー「マイナビ市場動向報告会」にてお送りしたセミナーの内容を基に再構成して作成されています。
新型コロナウィルスによる採用活動に混乱が生じた2020年、そしてその状態のまま新年度の採用活動がスタートした2021年。
オンラインでの採用活動をすすめる上でのオペレーションは整理され、その点では昨年ほどの混乱は起こっていないという企業も多いでしょう。
しかし、学生にとっては一生に一度の新卒就職活動。このコロナ禍において、彼らは企業の何を見て、何を基準に就職活動を進めているのでしょうか。
現代の若者が持つ価値観(インサイト)の分析を強みに、採用ブランディングを専門としたコンサルティングを提供する、Game Changer合同会社の代表、前川寛洋さんのセミナーから読み解きます。
学生の動向を知るため、まず示されたのがインターンシップに関するこちらのデータです。
データを見ると分かるように、ウェブ形式であっても対面式であってもインターンシップに参加する最も大きなモチベーションは「選考を受けようと考えている企業が開催していたから」となっており、一見、大きな変化はないように見えます。
が、今年の状況を踏まえて数字を見ると、ここには大きな変化があると前川さんは言います。
「ウェブ開催の大きなメリットである参加ハードルの低さを活かして、情報収集目的で『広く浅く』参加する学生が増えるとの予測も当初は挙がっていましたが、実際には自分の興味分野にある企業を深堀りするような動きをとる学生が多く、情報収集目的でのインターンシップ参加は思ったほど多くありません。
裏を返せば、これまでインターンシップの参加価値として大きな比重を占めていた体験そのものの価値、就活仲間との出会いなど付加価値要素がウェブ開催になったことで抜け落ち、目的が選考や企業理解といったインターンシップ本来の目的に移っていることを示しています」(前川さん)
さらに、インターンシップに参加する学生の持っている「情報」にも大きな変化があると言います。
「今の学生は事前の情報収集に重きを置いた『調べる就活』をメインに動いている傾向が強く出ています。企業サイトや就職情報サイト、SNSなどを通じて幅広く情報を収集し、その中で企業を見極めようとしているんです。インターンシップや企業説明会といった場での『体験』は、その集めた情報の正しさを確認する、追加で知りたいことを質問するための場として活用している学生が多くいます」(前川さん)
いまの学生は「Z世代」とも呼ばれるデジタルネイティブ世代。知りたいことはまず調べる、という行動が若いうちから浸透しています。
そこへコロナ禍が重なり、会社説明会やインターンシップに参加し、そこで得られた体験、情報をもとに就職したい企業を選ぶ「参加する就活」のハードルが高くなったことから、「調べる就活」へ強くシフトしているそうです。
また、その調べる「深さ」も、私たちが考える以上の深度を持っており、SNSを通じた生々しい情報、企業の公式情報ではないものまで収集しているとのこと。
ではなぜ、ここまで彼らは「調べる就活」を徹底するのでしょうか。
そこには、学生の「焦り」が反映されていると前川さんは解説します。
「就職活動全体がオンライン中心になり、さらに大学の授業もオンライン化して自分と同等レベルの他の学生が今なにをやっているのか、ということを知ることが難しくなっています。つまり、相対的に自分の就職活動がどの程度の進捗になっているのかが分からず、焦りを感じ、それが行動量の増加にあらわれています」(前川さん)
示されたデータでも、インターンシップの応募社数は例年を上回っていることがわかります。
しかし一方で、前川さんはこれは必ずしも企業側にとって有利な状況にはつながらないとして、その理由を2つ指摘しました。
「ウェブ形式のインターンシップは日程調整が容易なことから、自分の興味範囲にある企業群から複数を受けるという行動が目立ちます。つまり、これまで5社のインターンシップにしか参加できなかった学生が、10社のインターンシップに参加することもできるということです。それだけ競争優位性が求められます」(前川さん)
また、もう一つの理由は「インターンシップ参加社数」の数字に現れる学生のインサイトに隠れていると解説します。
「インターンシップの応募社数が大きく伸びたのに対し、参加社数は微増にとどまりました。これは、インターンシップの選考に落ちた学生が多いことを示しています。これもまた学生の焦りを生み、『縦に深堀り』する学生ばかりでなく、『横の広がり』を意識して周辺分野の企業へもアプローチを始める学生が増えるでしょう。
つまり、インターンシップに来た学生が本当に自社や自社の業界を志しているかは不透明です」(前川さん)
これまでの常識として、インターンシップに参加した学生は確度の高い選考母集団を形成すると考えられてきました。が、Z世代の特長とコロナ禍における就職活動の変化によって、単純にそうとも言えない状況が生まれているようです。
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いまの状況、そして学生に対して有効にインターンシップを実施するための方法を知るヒントになるのが、次のデータでした。
「企業に対して最もよい印象を抱いたインターンシップの期間」についてのアンケート結果を22年卒と21年卒で比較したグラフです。
22年卒ではワンデー仕事体験が大きく伸び、逆に2―3日やそれ以上の長期インターンで満足度が大きく低下していることがわかります。
「従来であればインターンシップといえば最低でも2−3日、長ければ1カ月以上という期間をかけることが学生の満足度につながっていましたが、その状況は大きく変化しました。
この理由として、まず『オンラインで何時間も画面を見る』ことで集中力が途切れてしまうことが挙げられるでしょう。学生からも『画面が暗転して自分が反射して見えたとき、自分は何をやっているんだろうと疑問を抱いてしまう』という声が上がりました」(前川さん)
そして、先ほども解説された「学生側は事前に十分な調査をしている」ことも理由であると言います。
「社員の人柄や会社の雰囲気を知る、というインターンシップでこれまで重視されてきた付加的な体験価値が期待できないため、学生側は『選考のために参加する』『事前に調査した情報を確認するために来ている』という傾向が強くなっています。なので、短期間で効率よく密度の高いインターンシップに対する満足感が高く出ているんです」(前川さん)
このような状況下で、企業側はインターンシップで何を学生に提供するべきなのでしょうか。
そのヒントとして、マーケティング用語である「ZMOT※」を挙げ、こう解説しました。
「すでにお話しているように、今の学生はインターンシップなど体験の場に来る前に徹底的な調査をして、すでに意思決定はできています。これまでよりも、意思決定のタイミングが前倒しになっていると考えてください。
ここで重要なのは、採用サイトや就職情報サイトで何を提供し、イベントで何を補完するのかという考え方です」(前川さん)
つまり、すでに自社のことを知り尽くした学生に対して、さらに何を提供できるのか、といった点を中心にコンテンツを構成するべきと前川さんは解説します。
「SNSなどを通じて学生の認知を得て、学生が興味を抱いてくれる情報を採用サイトなどを中心に提供、その確認に訪れる学生に対してさらに好印象を抱いてもらえるような体験、情報の設計を心がけましょう。ターゲットにしている学生の資質や傾向によって大きく異なるので有効なコンテンツを一概に言うことは難しいのですが、共通して気をつけるべきことがいくつかあります」(前川さん)
それは、基本に立ち返った「コンテンツの快適さ」だと言います。
「学生に話を聞くと、企業側がウェブでのインターンシップや説明会、面接の実施に不慣れだと『この企業に入って本当に大丈夫かな』と不安を抱くという声が多く聞かれます。これからリモートワークが広がっていくであろうことを見据えるとなおさらです。
その時、不安を覚える閾値は『大学のオンライン授業よりも快適かどうか』にあるんです。これは大学のオンライン授業が特別に快適だというわけではなく、学生が普段接しているオンライン環境よりも劣っているものに強い不安感を抱いているということですね」(前川さん)
続けて前川さんは、その「不安」を抱かれない方法として具体的な3つのTipsを示しました。
「まず、オフラインのコンテンツをそのまま流用しているパターン。リアルの場では活きていたであろう『間』がオンラインでは活きてこない、グループごとに分けた議論をリアルでは俯瞰して見られていたものが、オンラインだとそうはいかない… さまざまな理由でオフライン用コンテンツの流用はいい結果を生みません」(前川さん)
そして次が、機材トラブルへの対応です。
「学生側は、遅刻してはいけないと考えて早めにオンライン環境にログインしようとします。その時、まだURLが開いていないと『URLを間違えたかな』など不要な不安を抱かせてしまいますので、10分前には開けておくようにしましょう。
また、ネットワークやPCに起因する不可抗力的なトラブルに対応するためのバックアップを用意して、いざという時にスムーズに移行できるようにしておくこと、高音質なマイクを使って耳へのストレスをできるだけ減らすことも重要です」(前川さん)
そして最後が「スクリーンショット」への対策です。
「学生がオンラインでのインターンシップや説明会の良い点として挙げるのが『自分のペースで知らない言葉を調べながら参加できること』です。対面式では、その場でスマホを取り出して調べることはできませんからね。
加えて、画面のスクリーンショットを撮ってあとで見返すことができるのも、オンラインの大きなメリットです。スクリーンショットを保存されても困らない程度の内容に留めるといった安全対策も必要ですが、一方で保存してもらったとき、あとで役に立つように図解やグラフを多用したわかりやすいものにしておくことでポジティブに活用することができるでしょう」(前川さん)
オンラインでのインターンシップで画面のスクリーンショットを撮られることに不安を覚える企業の担当者の方もいらっしゃると思いますが、そこを逆手にとって理解を深めるためのコンテンツとして活かすというアイディアでした。
22年卒のインターンシップに関する数字から読み解いた動向、そして企業がとるべきアクションについてのアドバイスが詰まったセミナーでした。
「調べる就活」へと大きくシフトした22年卒、そしてそれに続くであろう23年卒以降の学生に対しては、これまで通りの情報提供では遅れをとってしまう可能性があります。
「ZMOT」を意識した充実した情報提供、それを補完してさらに魅力を伝える密度の高い効率的なインターンシップ。この2つを意識するだけでも、新卒採用戦略は大きく変わるのではないでしょうか。
セミナーの終盤に、受講者からこんな質問が挙がりました。
「結論として、いま学生が大切にしている価値観をどう捉えればいいのでしょうか?」(受講者)
この質問に対する前川さんの回答を最後にご紹介します。
「学生は限られた手段、環境の中でなんとか自分の目指す企業を見つけ、就職しようと努力しています。それでも、様々な不安があるでしょう。その不安の解消を企業側もまた限られた手段の中から精一杯にやってくれている。そう感じた企業には恩も感じるし胸が打たれる、と話す学生は少なくありません。不安解消、そのための情報提供と設計を心がけてください」(前川さん)
- 人材採用・育成 更新日:2021/06/22
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