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採用は恋愛、かつマーケティングである。敏腕キャリアコンサルタントが語る「求職者目線」の採用戦術

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採用する側ではなく、採用される側の立場、いわゆる受け手の立場が強くなっている昨今。

「選ぶではなく、会社も選ばれる側である意識を持たなければいけない」

そう語るのは、アクシス株式会社 代表取締役・末永雄大様。キャリアコンサルティングの経験豊富な同氏に、求職者は会社のどこを見て応募しているのか、会社を選んでいるのかを伺った。

なぜ今、売り手市場なのか?

Q現在の売り手市場であれば、人材獲得に企業が頭を悩ませているという現実があります。「そもそも売り手市場と言われているのは、いつ頃から始まっているのですか?

末永:そうですね。まず、求人が非常に落ちこんだ部分としては2008年からリーマンショックのあった2011年までというところでしょう。もちろん業界によっても変動はありますが、感覚としては2011年の暮れから2012年初めくらいにかけて、徐々に回復して求人が増えていき、いわゆる今の売り手市場となってきたと思います。

人材業界では7〜8年周期で景気変動があるといわれていまして、例えば2008年を基準とすると7年後は2015年。こうなった背景というのは、景気変動の波などと同じで、何十年も前からずっと繰り返している周期なんです。リーマンショックと震災で凹んだところを取り戻そうといった影響もあると思います。例えば当時新卒の採用を控えた企業が、最近になって、中途から若手層を採用しようというような動きは確かにあると思います。

あとは単純に景気が回復したので、そこに対して増員が必要になってくるというところが理由としてあるでしょう。

また、業界によっては、若手層が構造的に減っている中で、転職市場で20代を中心に採用している会社は多いです。実際、転職する人は、「27歳」が一番多いと言われています。しかし、単純に20代が構造的に減っていっている中で、奪い合いが起きているというマクロ環境の影響もあるかもしれません。

採れる会社と採れない会社はどこが違うのか?それは“求職者ファースト”か否か。

Q企業側・人事側の目線からお伺いしますが、一般的に採用難易度が高いと言われるITやエンジニアを採りたいという時、彼らから選ばれる会社になるためにどのような所を大事にしていけばよいのでしょうか。

末永:この記事を読まれている方はIT業界だけでないと思いますので、ITやエンジニアに関わらず、一般論でお話します。いろいろとありますが、一言で言うと、採用においてもマーケティング視点を持てているか否かだと思います。

マーケティング視点について、大きく分けると二つあります。一つは、採用ターゲット(顧客)視点をターゲットに知られる努力をしているか。もう一つは、選考においての接客レベルが高いか、です。

私が得意なインターネットマーケティング分野での例え話になってしまいますが、仮に、ホームページで例えるなら、前者は、サイトへの流入を最大化するフェイズと、後者がサイトに訪問した見込み客に接客をして、コンバージョン・クロージングするフェイズに分かれていると考えてください。

いくら良いサイトやコンテンツ、商品を持っていても、来てほしい見込み客のターゲット自体が曖昧だったり、ターゲットからの認知が足りなかったりすると、誰にも気づいてもらえません。

反対に、いくら集客力があっても、ホームページそのものが使いづらいサイトの設計やコンテンツになっていれば「ざる」な状態で、仮に多くのユーザーを集めても、コンバージョンにつながらず、無駄になってしまいますよね。

それと同じで、ターゲットとなる求職者への認知を積極的に増やそうと努力していたり、実際にエントリーいただいた求職者に対して、きめ細やかな接客対応を行なったり。そういうことが大事だと思っています。

Q例えば、「接客」の部分はどうすればよいのでしょうか?具体的なアクションを教えていただけないでしょうか?

末永:選考過程でのきめ細かなケアですね。採用においての接客というのは、選考過程で求職者の方とのコミュニケーションに尽きると思います。例えばですが、選考スピードが遅い会社はとても多い。

求職者はたいてい、不安な状況にある方が多い訳です。そのような方々は、何かしら感情的になっている、ある意味、特別な心理にある方々なんです。

そんなナイーブでセンシティブな時に、「面接後に何も音沙汰が無い」、「メールが返って来ない」、「選考の連絡が無い、結果がいつまで経っても来ない」となると、ついつい色々なことを妄想してしまいます。

Qつまり、丁寧にコミュニケーションを図らなければ企業への熱意は冷め、かつ採用難易度も上がるのでしょうか?

末永:はい。採用側はそもそも、ターゲットにしている求職者の方には併願企業があること、つまりライバルがいるということを、ほとんど認識できていない、もしくは忘れてしまうことが多いのです。

求職者は先程、お話ししたように不安ですし、現職で忙しいのです。その状況下で今の会社を辞められるタイミングをあらかじめ計って面接に来ており、「この時期を逃したら転職できないぞ」と考えている人も結構多い。

こういったことを無視して、企業側が自分達のペースで選考過程を設計していると、他社に乗り遅れてしまいます。

ライバルとなる優秀な会社は、内定を出したら「1週間以内で結論を決めてください」と回答期限も区切って決めさせるなど、様々な工夫しています。そんな状況で、自社が1次面接が調整中だったりすると、その間にライバル企業に取られてしまうというわけです。

「なぜ合格したのか」、優秀な求職者ほどフィードバックを欲しがる

末永:また、接客について、もう1点、先程細かなコミュニケーションと話しましたが,面接後の丁寧なフィードバックが大切なんです。

採用力のない会社は「通過です。2次面接にどうぞ。以上です」と、事務連絡しか伝えません。しかし、これではNG。求職者にしてみれば、直接面接官と1時間じっくり話をして、そこでの手ごたえや、できていなかったことを反省しながら面接結果を待っていたわけですよね。

それなのに、単に「1次面接合格です」と事務連絡を受け取るだけだと、何が良かったのか、逆に課題や懸念事項はあったのか?わからないままになってしまいます。

優秀な人ほどそうしたコミュニケーションに違和感を感じるんです。ここがダメだった、と感じていた部分をスルーして合格通知が来ても、自分の何を評価してもらえたのかが、わからず、かえって戸惑ってしまいます。

内定辞退率の高い会社は、恋愛で例えるならば、今まで全く好きという姿勢や雰囲気を出さなかったくせに、突然「好きです!」と告白し、それで断られて、「なぜ断るんだ!」と言っているようなもの。

ある程度、求職者にその気、つまり採用する姿勢があるなら、面接の都度、評価した部分をフィードバックしてあげればいいのです。本人も企業が一定は評価してくれているんだと認識しつつ、内定の見込み度を評価しながら、その企業の入社への覚悟などの気持ちを温めています。

そして、気持ちが温まった状態で最終面接、内定が出て、意思決定が出来るわけですから、それまで、その素振りを一切見せずにいきなり内定を出して拒否され、なぜ断られたんだ、と嘆くのはおかしいですよね。

人に合わせて制度さえも変える、サイバーエージェントの“アメーバ採用”

Q末永さんから見て、採用力のある企業はどこですか?具体名を上げてもらえればと。

末永:弊社のクライアント様でもたくさんいらっしゃいますが、例えば、私の前職であるサイバーエージェントでは、内定を出した人に対して、その人に合わせて制度さえも変えていくというスタイルでした。

本当に採用力のある会社からは見習うべきことがあります。通常、転職志望者は内定をもらった上で、最終的に意思を決める際に、「正直なところ、この部分が気になり、入社への意思決定ができない」と悩んだりします。

しかし、「いや、うちはこういう制度なんで、それに従える人でなければそもそもいりません」と、たいていバッサリと断られてしまいます。

Qただ、サイバーは違うと?

末永:ええ。サイバーエージェントは、「この人を本気で採りにいくためにどうしたらいいか」、と、制度を新たに設計・変更するべきかどうか、定期的に社内で議論しています。その該当者にかかわらず汎用性のあるものであれば、本格的に制度化していくんだそうです。採用への本気度と、柔軟性がとてもある会社だといえます。

ここからわかるように、やはり採用力のある会社は、採用したいターゲットに合わせて今の自分達自身さえも変えていこうという考えがありますね。

例えば、内定を出したエンジニアに高級なワークチェアを選ばせたり、ハイエンドなモニターを選ばせたり、これから会社のメンバーとなる人間に思い入れを持った会社の採用力は高いです。

恋愛でも、好きな人ができたら、その人の好みのファッションに変えたり、自分を改善したり、成長する努力をしますよね。それを採用でもできている会社って意外と少ないんだと思います。

Q採れる会社と採れない会社では、相手に合わせる意識が全然違うのですね。

末永:そうですね。接客についてお話ししてきましたが、冒頭にお話しした、もう1つのターゲット視点・認知フェイズでも、そうした思想が重要と思っています。

一般にマーケティング力がある会社というのは、ターゲティングとターゲットに刺さるメッセージングが明確な会社なんですよね。

マーケティングの世界では、「ペルソナ」の設計は当たり前で、自社がターゲットとする具体的な人物像を細かにイメージした上で、具体的な「誰」に対して、どのような「メリット」を提供して、自社を選んでもらうかのストーリー設計が明確なんですよ。でも、採用においては意外と、こうした思想がない企業が多いですね。

Q人員が足りないから、思考停止的に募集を出しているような?

末永:そう、先に自社の基準だけをつくって線引きして、「この経験と能力があって、このようなことが出来る人か」だけを見ます。

でも、反対からの求職者側の目線で、そうした条件に当てはまる人があなたの会社に行くメリットはなんですか、と考えてみてほしいです。

採用は企業側の立場が強いと思っている会社もまだまだ多いですが、優秀な人はそうした会社を選ばないですよね。採用したいターゲットが明確ならば、彼らはなぜうちに来てくれるのか。転職理由は何か、転職で何を解決したいと考えているのか。それを考えないといけない。

現職で忙しい人たちがあえて今の会社を辞めてまで、別の会社に行こうと思っているのには、適当な気持ちではなく、何かしらその人の深い課題や強い期待があるんです。それが何かについて、採用側も考えを巡らせない限り、いつまで経ってもすれ違うんです。

マーケティングの世界では、「ユーザーサクセス」という言葉としてあると思います。見込み客の成功を支援するのがマーケターの役割であると思うのですが、採用においても求職者のキャリアや仕事の成功を人事や採用側が考える必要がある。

彼・彼女にはどのような課題があって、どのようなことを転職を経て解決したいのか、うちに来ればそれをどう解決できるのかというオファーができないと転職する意味が、本人にとってないんです。

採用力のある会社や担当者は、「うちは彼・彼女を評価するし来てほしいけれど、正直ご本人の志向性を理解しちゃうと、うちに来るメリットがないな〜」と言って見送りにされたりしますね。

Q総じて、マーケティング的に採用ということを考えていますね、末永さんは。で最後に、末永さん自身が今後目指すところについてお聞かせください。

末永:現在弊社では、20代の方が一番多くご相談にいらっしゃるのですが、皆さん一律に「これからの時代、会社に依存できる時代じゃないから、今からしっかりと準備しておいて、30代40代以降になっても会社に依存せずに生きていける力をつけていきたい」とおっしゃります。

若い方ほど、そういった志向の方が、増えているなと感じています。一方で、「でも、そのために具体的に今からどういった方向性に進んでいけば良いのかがわからない」という声も多いです。

こうした自立的なキャリアを志向している方々を支援していきたいと考えています。弊社では、「自立型人材」と呼んでいるのですが、自立型人材になるための道筋を、私たちがプランニング・提案をしつつ、一緒に考えていくというスタンスでサービス提供をしています。

自立型人材の条件とは、簡易にお伝えしてしまうと、キャリアにおいて「汎用性」と「専門性」の2つを重視していく事を推奨しています。

ただマニアック過ぎて使えない専門性は汎用性が無いので、汎用性が広い領域において、専門性を高めていくという事が大事ですね。より多くの自立型人材を創出していきたい。そうした志向の方々のキャリアプランを一緒に考えていきたいですね。

  • 人材採用・育成 更新日:2016/03/09
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