組織を活性化するOJTリーダー
新人社員に仕事を教えたり、ときには相談に乗ったりと、彼らにとって頼りになる存在でもある「OJTリーダー」。企業によって違いはありますが、おおむね入社5年目前後の社員が、このポジションを担当することが多いようです。中には「持ち回り制」で担当者を決めているという組織もあり、人気のあるポジションとは言えないのかもしれません。
しかし実は、優れたOJTリーダーの存在がもたらす波及効果は、新入社員だけでなく企業全体にもおよび、組織を活性化するパワーを持っているとも考えられるのです。
そこで、真に優れたOJTリーダー像とはどんなものか? 優秀なOJTリーダーがもたらすメリットは? さらには、適した人材は? といった点について考えていきます。
OJTリーダーは「損な役割」なのか?
OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)とは、企業内で新人社員などに対して仕事上の指導育成に当たる伝統的な教育方法です。その中心となるのがOJTリーダー。役割としては、新人社員に仕事を教えるだけでなく、職場での人間関係などに関わる相談や仕事以外の相談にも応じるなど、いわゆるメンターとしての役割も求められます。
かつては「ブラザー(シスター)制度」とも呼ばれていたように、このOJTリーダーは、新人社員が親和感を持って「良き先輩」として接することができる、入社3年目くらいから10年目くらいまでの若手社員が担うことが多いのが現状です。
しかし、入社して3〜10年目前後の社員は、部署やチーム内でも責任のあるポジションを任されるなど、たいていは業務に忙しい人であることが多いもの。そういった人たちにとって、OJTリーダーのオファーは、光栄である反面、「う〜ん、できれば断りたいな…」というものなのかもしれませんね。
少し気が進まない程度ならまだしも、「毎日こんなに忙しいのに、新人の面倒まで見るなんて最悪だよ! 大変なだけで給料があがるわけでもないし……」と、不満を抱えている状態ではOJTリーダーは務まりませんし、ましてや新人社員をしっかりとサポートし、企業の活性化に貢献するという「優れたOJTリーダー像」には程遠いものになってしまうでしょう。
OJTリーダーの頑張りが組織にメリットをもたらす
現在、社員研修を企画・運営する企業の多くがOJTリーダーに対する研修を手掛けています。そこでは、新人社員をどう指導し、伸ばしていくかというノウハウだけではなく、「OJTリーダーの取組次第で、組織やグループに大きなメリットがある!」ということをしっかりと理解する、OJTリーダーの意識改革も組み込まれていることがほとんどです。
では、OJTリーダーの取組によってもたらされる「メリット」とは、どのようなものなのか、いくつか挙げていきたいと思います。
組織のモチベーションを高める
新人社員の相談にのり、的確な指示を出して「前向きな姿勢」を保つことは、OJTリーダーの最も重要な役割です。そして、新人社員が前向きな姿勢で日々努力し、業務に取り組む姿は、他の社員にも刺激を与え「新人ががんばっているのだから自分も…」と感じさせ、少なからずモチベーションも高まります。
OJTリーダーのきめ細かなサポートが組織を活性化させ、仕事のやりやすい、成果の出やすい環境づくりにつながるのです。
「忙しさ」の軽減へとつながる
新人社員を指導し始めた時は、確かに手取り足取りで教えなくてはならないことも多く、自分の仕事時間が削らざるを得ない場面もあるはずです。
しかし、その最初の数カ月、新人社員に対峙し、丁寧にじっくりと指導を行えば、新人社員は早々に仕事を覚えてくれます。そうすれば、忙しい他のメンバーの仕事を早期に新人に任せることもできるはずです。
OJTリーダーとしての最初の数カ月間、忙しいからと「それなりに」指導していたのでは、新人がなかなか仕事を覚えることができず、いつまでも仕事を任せられないという悪循環を生む可能性も。OJTリーダーが本気で指導し、早い時期から新人に仕事を振ることができれば、組織全体の忙しさも軽減するのです。
健全なチームワークを保つ
もしOJTリーダーがいなかったら、組織のリーダー(マネージャー)が新人社員の指導を行うことになります。
そうなると、本来行うべきマネジメントに使う時間が割かれ、マネジメントが手薄になってしまう可能性も。新人の教育に追われ、必要な時に指示がでない、ミーティングの準備ができていないといった支障をきたしてしまえば、その組織やグループはマネージャーからの指示を受けず、一人ひとりが勝手に動くようになり、チームワークが乱れてしまう恐れもあります。
OJTリーダーが新人の教育を担うことで、マネージャーは本来のマネジメントに集中することができ、健全なチームワークを保つのです。
OJTリーダーに適した人材とは?
このように取り組み次第では組織に与える影響も大きいOJTリーダー。
しかし、先にも述べたように、その役割を任されて「忙しいのに面倒だ」、「やりたくない」とネガティブな気持ちなってしまうような人も少なくありません。このような感情の裏側には、新人教育に時間が割かれ、自分の業務が滞る(=自分の売上が落ちる)ことへの不安があるのではないでしょうか。
しかし、「自分の売上が落ちる」ことへの恐ればかりを気にしているようでは、OJTリーダーとして組織を活性化させることなどできないはずです。そもそも意識の高いOJTリーダーであれば、新人教育という業務のなかから自らの仕事へのヒントを掴んだりすることもあるでしょうし、OJTを任されたからといって業務に支障が出ると決まっているわけでもありません。
また一方で、OJT中、新人に自分が抱えている雑務を押し付けたり、なんでも言うことを聞く部下のように扱う人物ではそもそもの信頼関係が築けず、OJTの成果など期待しようもありません。
そういった意味で、自分の成果だけではなくチームや組織全体、そして会社全体のことを考えて動くことのできる、いわゆる本質的な「中核社員」こそ、OJTリーダーとしてふさわしい人材なのではないでしょうか。
OJTリーダーを努めるメリット
チームのため、会社のために自分のスキルを高めることを厭わない「中核社員」にとって、OJTリーダーを担当することは、まさに自己のビジネススキルを高める絶好のチャンスでもあります。
OJTリーダーとして新人教育を行うと、これまでの自分の仕事を振り返る場面が大幅に増えるものです。その業務が「なぜ必要なのか?」、「なぜこのやり方をしているのか?」、新入社員たちに判りやすく説明するなかで、自分が普段何気なくやっていたようなことについても、「果たして、あれは正しかったのだろうか?」などと振り返ることができます。
また、まったく知識のない新人たちに仕事を教え、時には悩みを聞き、適切な指導を行う……、そうしたOJTリーダーの役割は、本来マネジャーが行う「人材育成」そのもの。つまり、自分が将来、マネジャーになった時に、OJTリーダーを担当した経験が大きく生きてくるのです。
さいごに
「自分で考え、動ける人材を育成する」、それこそが理想的なOJT。これを実現するには、会社として、あるいはグループとしてどのような人材を育てていきたいのかを、OJTリーダー当人と共有するだけでなく、
- 「OJTリーダーの役割を担うことはキャリアアップのチャンスであること」
- 「そして取り組みによっては、組織やグループに大きなメリットをもたらすのだ」
これらのことをしっかりと理解しておきたいもの。
「入社順に持ち回りでOJTリーダーを指名している」という企業は、OJTリーダーという存在の本質的意義を軽視しているとも言えるでしょうし、もしかしたら新人社員・組織、両方の成長のチャンスを積んでしまっているのかもしれませんよ。
- 人材採用・育成 更新日:2015/10/02
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