人事から“CHRO”へ変身!社員が力を発揮できる組織をつくるCHROの目指し方
強い組織づくりを実現していくために、CHRO(最高人材リソース責任者)を置く企業は増えてきました。しかし、まだまだCHROの存在価値が各企業に広まりきっていないのが現状です。そこで、会社にCHROがいることで、社員と組織の関係がどれほど最適になり、力を発揮できる組織になるのか。社外CHROサービスを企業に提供する株式会社RECOMO代表の橋本祐造さんにお話をお伺いしました。
CHROとは、一言で定義すると「人がベストパフォーマンスを発揮できる状態を作ることに対して責任を持つ」ことです。ここでいう「人」とは、メンバーやマネージャーだけでなく、CEOなども含めた関わるすべての人たち。そう言った意味でCHROとCEOは対等なポジションにあります。
CEOが日々の煩雑な業務課題に追われて経営の仕事がなかなかできないという声をたくさんの企業で耳にします。CEOが経営の仕事に集中できるように、CHROは企業の「在りたい姿」から逆算してそれを実現するために役割を果たす存在です。
とはいえ、割と多いのはCEOが任命した人事責任者や人事部長がCHROを担っているケース。「人事のことをすべて任せる人」「人事部長と同じように経営と現場の間に立つ存在」と勘違いされていて、結果的に経営と現場の板挟みになってしまい、つぶれてしまうことが多々あります。そうではなく、CHROはチーフとして「人材」の最高執行責任を担うポジションであることをしっかりと理解しなければいけません。
何を考え行なっているかというと、まずは会社が現状どういう状態なのかを把握することから始めます。そうして現状を理解する中で発見した課題が、なぜ生まれてしまったのかを深掘りする。それを繰り返すことで見えてくる世界観があります。
それは何かというと、経営者のある種の原体験。「なぜ会社を立ち上げるに至ったのか」や「この会社は一体どういう存在なのか」「人や組織に対してどういう想いを持っているか」という部分。そこを一つひとつ確認していくことで、いま自分たちが置かれている現状と起きている理想とのギャップを把握します。
そして、「自分たちは何者なのか」「どこに向かっているのか」「ありたい姿とはどんな姿なのか」といった30年先、50年先、100年先という自分たちが生きていないかもしれない世界で、自分たちはどういう存在でいたいのかを考えていく。さらに、自分たちが何のために存在しているかを証明する「解決する社会課題は何か?」を確認していく。
そうしたことを繰り返し行って「自分たちの独自の価値観=コアバリュー」「自分たちが何者でどこに向かっているのか」「これから先どうありたいのか」という未来の姿と現状とのギャップを埋めていくのです。自分たちが描いていきたい未来を言語化して、実行する。それがCHROの存在価値であり、やるべき役割だと考えています。
人に対するあくなき興味関心とか、人と人がつながりあうことで生まれる創造力のハーモニーとか、それに対しての認知認識をしているのか、といったところは最低限必要な能力だと思います。でも一番大事なのは、CHROのCは経営者なので、業績にコミットすること。これは絶対にやり遂げなければいけないので、経営者視点で物事を捉えられるかがとても重要な能力になります。
CHROは「HR」を駆使して業績にコミットします。先ほど「人のベストパフォーマンスを発揮できる状態を作る」とお伝えしましたが、もうちょっと抽象度高く話すと「人の可能性や価値を最大化させる」ということ。そのために何をするかというと、コアバリューを大事にして各施策に落としていく。
例えば、採用だったら「自分たちのビジョンを反映させたものになっているのか」「ビジョンに共感してくれる人を採用できているのか」。教育だったら「自分たちの大事にしているポリシーを伝えられているのか」といったことをCHROは問われる。そこを解決する経営視点でとらえる能力が必要です。
はい。ですから、人事のみの経験だけではCHROとして活躍するのは難しい。業績にコミットするために必要なC(経営者)の視点を養うために、今まで得てきたナレッジや経験値を外に向かって発信したときの反応や、世間では自分のレベル感がどういう風にとらえられているのかを常日頃から客観視しておくことが大切です。
また、できるのであれば副業なり、自分で事業を興してみるなり、自ら動くことによってその対価として報酬を外部からいただく経験は、ある種の経営につながるのでやったほうが良いですね。
これは、実際に自分自身が独立して事業を興して、対価として報酬をいただいて、売上げから利益をあげるにはどうしたらいいかを経験した上で大事だと感じたこと。外側からも内側からも、自分をプレーヤーとしてもマネジメントする経営側としても見ることができるので、片側だけに立っていたら感じられないジレンマを味わうことができる。その経験が、CEOと対等に渡り合うCHROに必要なCの視点を養ってくれます。
人事の仕事はすごく忙しくて、ついつい視野が狭くなりがち。ですが、もうちょっとマクロの視点でとらえたほうが良いと思います。すなわち、自分たちが本当にやらないといけないことは、どんなことなのか。問題の本質はそこに詰まっています。
例えば、離職率の高い会社があったとします。離職率を下げるためにどうするかというと、離職した分を新たに採用して埋め合わせる会社がすごく多い。ですが、それでは結局、「血がどんどん外に流れているから、どんどん輸血しろ」と言っているのと同じ。本来すべき止血を先にしていない状態なのです。
ですから、本質的なところの止血をするためには、社内のフォローアップの仕組みを作るとか、そもそもの仕組みを変えるとか。もしくは、仕組みを作るために今やっている自分たちの業務の中から採用や日程調整をアウトソーシングして、その分で捻出できた時間を使って仕組みを作るとか。本質を見抜いて、何をどう改善すれば、効果的なのかを考えることが重要です。
私が人事責任者をしていた時に、よくメンバーに「あなたの求める答えは画面の中にない。あなたが命をかけて採用した人を、現場にいって1週間くらい見ておいで」と伝えていました。「どんな顔をして働いているのか」「周りの人とどういう人間関係になっているのか」「何に心配や不安を感じているのか」「将来に対してどんなことを考えているのか」「ポジティブなのか、ネガティブなのか」。
現場に出て一つひとつヒアリングした上で採用活動やオンボーディングを実施するからこそ、最適な一連の流れが生まれるのです。
そういった行動を起こすために何が必要かというと、時間を捻出すること。そのために意識したほうがいいのが、「何を一番になすべきなのか」「自分たちが一体何者なのか」「どこに向かってどうありたいのか」。この3つを自分たちで定義します。
そして、現状を鑑みたときに生まれるギャップを埋めるためにはどうしたらいいのか、ということを意識してやっていく必要があると思っています。実は経営者も同じことをしていて、CHROになるためにはやる必要性があると感じています。
人は自分が見たい現実しか見ません。例えば、「昨年が80名くらいだったから今年は100名を採用しよう」といった根拠のない理論で採用人数を決める企業はけっこうあると思います。しかし、これでは見たい現実を見ているだけで、本質をとらえた未来が見えていないのと同じこと。経営者は人が見たくない現実を見ないといけません。
日本では全体の労働人口が減少していますが、もしも会社の数が変わらなかったら人手不足倒産が起きます。そこら中で会社が溶け出していきます。そうした見たくない現実をきちんと見た上で、採用の仕方をどうしていくべきなのか考え、判断し、指針を示していけるのがCHROの存在価値です。CHROはC(経営者)の視点で物事をとらえられるので、会社の未来を見据えた最適な人員計画や採用計画を練ることができます。
CHROは元々、CEOにしかできない業務に集中してもらうために、CEOの中にあったHRの領域を切り出したポジションです。そのため、CEOと同じように本質から描きたい未来に迫って、人がベストパフォーマンスを発揮できる状態に社員も組織も変えていける。
「この人なら現状を打開してくれるんじゃないか」という期待を感じさせる存在だからこそ、心理的な効果が高いのです。ですから、社内外に対して「うちの会社はこういう想いを込めてCHROという役割、ポジションを置きます」と宣言すると、この会社は経営資源の人・モノ・金・情報の「人」に対してコミットしている、フォーカスしているというメッセージとして伝わるので、社内外の反応も変わっていきます。
以前、私がCHROとして関わった企業についてお話しします。その企業は従業員数30名程度の小規模な会社でした。そのため、私が入ったときにはCEOが人事のところにぜんぶ首を突っ込んでいる状態。それではCEOの本来の役割を果たせないので、「既存事業を伸ばす」「新規ビジネスの次の柱を立ち上げる」「上手く回るためのキャッシュの仕組みを持ってくる」「会社の未来を社内外に発信し続ける」の4点をCEOの仕事と決め、人事周りはCHROが進めていく話をしました。
まず初めに取り掛かったのがミッション・ビジョン・バリューの策定。会社を進めていく上で大切な指針がなかったので、ミッション・ビジョン・バリューを確定させました。これは、全社員を巻き込んで決めていきました。
そして、基本的には「採用の場面」「入社後のオンボーディング」「フォローアップの面談」で必ずミッション・ビジョン・バリューに触れるようにしたのです。さらに、そのバリューを浸透させるために、会議室の名前もバリュー名に変えたり、いろんなコミュニケーションの度に口にするようにして、話題にのぼるようにしていきました。
こうした取り組みの結果、どういう風に変わっていったのか。まず組織状態の改善のところでいうと、それまでは「社長が良い人だからついていきたい」という声が多かったのが、エンゲージメントの調査をやってみると「会社の未来やビジョンに惹かれて」という声が多くなったのです。エンゲージメント率は上昇し、離職率は低下して一桁台に。30名だった会社が、2年弱で200名の会社に成長しました。
要因としては「自分たちが何者で、どこに向かっていて、どうありたいのか」がきちんと伝わる状況を作れたことが大きいと感じています。売上げはまだまだこれからの状態でしたが、目指すべき方向が明確だったことで優秀な人材が集まりやすく、且つ人が辞めない組織になったと思います。
また、「人の気持ちはどこで変わるのか」というタイミングを見計って、フォローアップを大事にしていたことも要因の一つかなと思います。人は6ヶ月くらいで気持ちが変わっていきます。これを主語が変わると言っていて、1ヶ月目の時の主語は「私」。3ヶ月目くらいの主語は「うちのチームは」になる。6ヶ月目くらいになると急に「うちの会社って」になるのです。
この6ヶ月目の時に、不平や不満が出やすい。大体の会社が1ヶ月から3ヶ月くらいの期間でフォローしますが、一番大事なのは6ヶ月目。ここでちゃんと不平や不満を聞いて、それに対して対応するなり、いさめるなり、別軸にもっていくなり、人員の再配置をするなり、仕事の再配置をするなり、もう一度ミッション・ビジョン・バリューを落としこむなりが必要になります。
労働人口が減少している日本において、企業間の競争はさらに激化していきます。そうした状況下で勝ち抜いていかなければならない中小企業は、より強い組織づくりが求められていきます。社員が同じベクトルを向き、高いエンゲージメントによって長く働き続けてくれる。そうした会社を作っていくためにCHROの存在は、これから欠かすことができなくなります。
しかし、まだまだCHROとして活躍している人は少ないのが現状です。これからCHROとして活躍の場を広げていきたい人はぜひ、橋本さんがお話されていたCの視点を養うことから始めてみてはいかがでしょうか。
- 労務・制度 更新日:2020/06/04
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