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チームワーク力は、リーダーが創りだす心理的安全性にあった!

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多様な人材が集まり、多様な働き方が広まっている現代において、会社がひとつとなり、しっかりと業績を伸ばしていくには、チームワーク力が今まで以上に必要になっています。しかし、今までと同じやり方ではリーダーについてくる部下はいません。部下全員が同じゴールを目指し、チームに誇りを持ち、仕事に励めるチームにしていくために、リーダーはどのようなチーム作りをしていくべきなのか。長年、チームワークとリーダーシップの研究をされてきた村瀬様にお聞きしました。

チームワーク力のある組織とは

Qはじめに、チームワーク力に欠ける組織の特徴とその原因についてお聞かせください。

チームワーク力が欠けている組織というのは、チームをいかに運営するかという意識の乏しさからくると考えています。アメリカのように様々な人(人種)が集まって、ひとつの大きなプロジェクトを回さなければいけないという状況下では、必然的にチームワークを駆使する必要が出てきます。 だからといって日本にはチームワーク力が全くないというわけではないのですが、やはり日本人同士が集まる企業の多さや、新卒採用で構成された人員、同じような教育レベルという部分をみると、異なる個をひとつのチームとして動かす意識はそこまで重視されていないと感じています。

Qそれは、日本の文化なども影響しているのでしょうか。

歴史の流れや文化による影響はあると思います。移民と多様性の歴史をもつアメリカはそうせざるを得ない前提があったので、“チーム”という発想になる。一方で、日本企業が創造性やパフォーマンスを高めるために、最初からチームを運営するためのワークショップやトレーニングを実施しようという意見はなかなか出てきません。リーダーシップや戦略を磨くことが優先される傾向にあるため、チームワークを強くするなどの発想が生まれにくいのだと感じています。

もちろんチームとして働いていないというわけでは決してありませんが、そもそもチームで何かを組み立てる必要性やその手法に対する教育をあまり受けていないという背景が影響しているのだと思います。

Qそうなると、他国と比べてチームに対する捉え方の違いや差は生じてしまいますね。

私は長くアメリカに在住していたので分かるのですが、例えばアメリカの大学教員は、いかにコラボレーションをやってきたかという部分を評価されます。教員として、ティーチングが必ずしもメインではなく、研究が最も重要で価値があるとされているからです。

ただ研究の本数をこなせばいいわけではなく、研究チームをいかにまとめてコラボレーションを行い共著論文を出版してきたかが重要視される。この評価に関する視点は教員だけではなく、企業の中でも同じです。

このように、チームの運営が評価対象として根付いていることが、アメリカと日本との大きな違いといえるのではないでしょうか。

相互理解から生まれる心理的安全性について

Qチームワーク力を高めるには、どのような取り組みが必要なのでしょうか。

「チームワークとは何か?」と聞かれたときに、「コミュニケーション」と答える方は多いと思います。チームワーク力を高める上でコミュニケーションはもちろん大事ですが、実はもっと重要なことがあります。

チームワークを3つのカテゴリーに分類して考えてみましょう。1つ目は、連携や助け合いに代表される「行動」。2つ目は、このチームで働いているからこそ何かを成し遂げられるという信頼や雰囲気などの「感情」。3つ目が、従業員同士が思っていることを相互に理解できている「認知」。

チームのパフォーマンスに対して、この「行動」、「感情」、「認知」の中でどれが最も影響するかというと、「認知」があるかどうかなのです。チーム内の個々が思いや考え方、価値観を共有し合えている状態が、高い業績を達成するための重要な条件です。そして、最も重要なチーム認知の一つに、心理的安全性が挙げられます。

Q心理的安全性とは、どのような状態なのでしょうか。

心理的安全性の第一人者であるハーバード大学のエドモンドソン教授は、「チームメンバーがお互いに“このチームでは対人リスクをとっても大丈夫だ”と信じている状態」だと定義しています。この状態に組織を導くためには、いかに許容される雰囲気をつくれるかがチームを運営するリーダーの重要な役割になります。

例えば、会議でメンバーから様々な意見が出たとき、面倒くさがらずに多様なアイデアを活かせるよう耳を傾け、何でも意見を言える雰囲気づくりを率先してつくるのです。そして、目指すべきゴールを明確にしたり、ロールモデルや役割を示してあげたり、どのような価値観をこのチームでは大事にしていくかというメッセージをリーダーは積極的に発信する必要があります。

Qリーダー自ら従業員への接し方を意識して、提案を許容することが大事なのですね。

そのリーダーの姿勢や行動によって、徐々に「違いや間違いを許容する雰囲気」が定着し、チームのパフォーマンスは向上していきます。新しいことにチャレンジしたいけれど却下される。アイデアを出しても否定される。そんな関係性では、従業員は心理的に妥当な水準の仕事のみするようになってしまうでしょう。

新しいことへのチャレンジや多様な意見が増えると、今までにはない“ぶれ”が生じますが、このぶれが開発やイノベーションには重要です。毎回80点を目指している人では、創造性を高めるのは難しい。だからこそ、リーダー自らがチャレンジすることを推進して、創造性を尊重するように従業員をサポートしていくことが大切なのです。その姿勢が組織に浸透し、従業員は「リーダーが信じてくれている。もっと頑張ろう。」という思いと自主性が育まれ、心理的安全性のある組織へと生まれ変わることができます。

Q心理的安全性のある組織づくりで、事例などがあれば教えてください。

靴修理チェーンのある企業は、現場の心理的安全性を育んだリーダーシップを実践されています。その企業は、長年変化が起きていない組織体制でした。なぜなら現場ではなくコーポレートが主体となって全てを決定していたからです。そんな中で当時執行役員だった方(現在の社長)は、現場の高い技術力を活かすことにシフトしました。今までのコーポレート主義から徹底的な現場主義にこだわったのです。

現場に足を運び、お客様にいちばん近い距離にいるスタッフの声に耳を傾け、必要なものがあればすぐに購入し、困ったことがあれば即座に解決するよう行動に移す。現場が人員不足に陥った時は、100人規模の人材を採用しました。実は、以前からこの人員不足の問題は現場が発信していたことでしたが、当時は本部が行動に移していませんでした。それを実際に行い、現場をフォローしたのです。

また、今まではアッパーミドルマネージャーなどのいわゆる上層部には、現場の人間は就けない事実がありました。そこで、現場が重要というメッセージを伝えるために、現場出身者をその役職に就かせるという人事を実行したのです。

まさに、言葉だけではなく行動をとることで従業員の信頼は高まり、チームのパフォーマンスも上がったのです。これこそ、心理的安全性のある素晴らしい組織づくりの成功事例ではないでしょうか。

これからの時代に必要なリーダー像

Q多様性の時代には、どのようなリーダーシップが必要なのでしょうか。

日本は、まだ多様性を受け入れた社会としての歴史が浅いですし、男性中心で考えてしまう場面も多々あると感じています。そのため、まずは多様性に向けた受け入れについてリーダーが積極的に発信して、行動に移す必要がある。その次に、多様性をどう活かして育むかのプロセスが重要になるので、まずは海外での事例に倣って実践するのもひとつの手だと思います。フィンランドでは34歳の女性が首相になって話題になりましたよね。多様性を育むという意味では、「今までと違うことを実行して様々な人たちが活躍できるような場をつくる」という良い事例です。

周囲が多少反対しても、女性や外国人の雇用、若い人材のリーダーへの抜擢など、行動に移すことが大切です。例えば、自分が働く企業の上層部が全てアメリカ人だった時に、自分たちは上にいけないだろうなと思ってしまう方は多いはず。重要なのは、自分たちはここまでなのだろうなと従業員から思われてしまう企業ではなく、頑張れば自分たちにもチャンスがあると思われる企業であることです。多様性の時代を生き抜くチームを育むためには、ロールモデルとなる事例をリーダーたちが作っていく必要があるでしょう。

Qリーダーが方向性を示すことで、どんな時代でも前向きに捉えるチームワークが育まれるのですね。

チームに対する信頼や個々の自信を生み出す方法を考えるのは、これからの時代さらに重要になるでしょう。これは、チームエフィカシー(team efficacy)といって、要するにチームの能力を信頼するということ。優秀な人材が揃っていてもチームで連携できなければ、「ここでは上手くいかない」という心理的状況に陥ってしまいます。

スポーツの世界でも、実力のある選手ばかりが集まるチームが個々の強みを活かしきれずに負けてしまうことがありますよね。ビジネスの世界でも同じで、自分に対する自信だけではなく、チームに対する自信や信頼がないと本領発揮とはいきません。そのため、チームエフィカシーを高めて、チームで成し遂げることの喜びや成功体験を増やすことも、これからのリーダーに必要な役割といえるでしょう。

Q確かに、チームエフィカシーが低いと個々の連携が乱れ、チームの創造性やイノベーションにも悪影響を及ぼしますよね。そうならないための解決法などはあるのでしょうか。

リーダーシップについて研究を進めていく中で、創造性やイノベーションを活性化させるには、従業員に“失敗をさせる”ことが非常に重要であるということが分かってきています。失敗から学び、次に生かすことができなければ新しいことは生まれません。

日本の特徴として失敗しないようにするという風潮があるので、まずは失敗を許す雰囲気をリーダーがつくることで、従業員は自ら学習することやチャレンジすることに対して意欲的に取り組むようになるでしょう。

Q失敗させることが従業員の創造性や企業のイノベーションに繋がるのですね。一方で、リーダーが学ぶべきことは何かありますか。

テクノロジーについてもっと学ぶべきです。アメリカと比べて、日本はまだテクノロジーを使い切っていない印象がある。私がアメリカにいた時は、歩いて20分くらいの距離にいる人と仕事をする際も往復で40分のロスになるので、WEB会議をするのは当たり前でした。

チャット機能などもコミュニケーションの手段として効果的です。リーダーが現場の一部の人に情報共有や指示をした際に、同じチャットグループにいる他の人たちも間接的に情報を得ることができ、結果的に業績が上がるという報告もあります。今後は、このテクノロジーを組織として取り入れて、コラボレーションをもう一段階上げることが、新時代を勝ち抜く上で大きな鍵を握っていると感じています。

Q心理的安全性を創り出すには、リーダーが模範となって積極的に行動することが大事だということが分かりました。本日はありがとうございました。

これからの時代に必要なリーダー像

多様な人材を受け入れることによって、企業の競争力を高める必要がある時代に突入した日本。これまでのリーダーシップを見直さなければならない場面が増える可能性は大いにあります。より複雑化する雇用環境の中で、従業員が「この会社のために頑張ろう」と思える状態を創り出すには、リーダー自らがメッセージと共に行動を起こし、失敗を許容して新しいことにチャレンジさせる風土を築き上げることが重要。今よりさらに強いチームワーク力を育むためにも、心理的安全性について社内で議論してみてはいかがでしょうか。

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  • 早稲田大学 准教授/村瀬 俊朗

    2011年、中央フロリダ大学で博士号取得。ノースウェスタン大学・ジョージア工科大学で博士研究員を務め、ルーズベルト大学で教職に従事。2017年9月から現職(リーダーシップ・チームワーク研究)

  • 人材採用・育成 更新日:2020/04/22
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