採用と育成のプロが教える書類選考で見るべきポイント
入社後に思ったようなパフォーマンスを発揮してくれない――。多くの人事担当者が口にする悩みです。この悩みを解消するには、自社の採用プロセスを抜本的に見直す必要があるかもしれません。
「特に書類選考は求職者の質の評価には向いていません。その特性を理解したうえで実施しなければ無意味になってしまいます」と指摘するのは、多くの企業の採用を支援している株式会社採用と育成研究社の鈴木洋平さん。
採用プロセスでは自社の求める人物がどんな能力を持っているべきなのかを明確にしたうえで、書類選考では何を確認する、適性テストでは何を確認する、面接では何を確認するという異なる切り口で臨むことが重要だと鈴木さんは話します。採用と育成のプロである鈴木さんの、採用プロセスを効率化するための指摘をひとつずつ紐解いていきましょう。
採用において最も重視しなければならないことを教えてください。
鈴木:中途採用でも新卒採用でも、選考では「入社後のパフォーマンスや定着について予見したい」と人事担当者は思っています。採用に関しては、求職者の質、量、コスト、時間という要素が絡み合っています。
このうち質が伴わないとそもそも採用する意味がまったくありません。質の高い、すなわち優秀な人材を採りたいと思うのは当然のことです。次に量。10人を募集したいのか、100人を募集したいのか、この量についても守らなければなりません。それからコスト。2人を採用するのに1億円かけてよいかというと絶対にそんなことはないので、コストについても守る必要があります。最後に時間。2週間でとにかくほしいと思っているのか、半年かけて1人を採用すればいいと思っているのか、企業によって事情が異なります。この時間も守らなければなりません。だから質、量、コスト、時間を考えて採用をしていく必要があるのです。この4要素はトレードオフの関係にあるからです。
4つの要素は定量的に評価できるのでしょうか。
鈴木:このなかで定量的に測定できるものは、量とコストと時間の3つです。守らなくてはならない4つの要素のうち、3つは誰が見ても明らかなのです。「10人募集したのに5人しか採用できなかった」「100万円しかかけられないのに150万円かかってしまった」「2週間だと言われたのに3週間かかってしまった」など、成否を判断しやすいのはこの3要素です。
会社にはKPIがあったり、上層部からの「これを守れ」という制約があったりします。ですので「予定どおり10人採りました」「100万円という決められたコストで、決められた2週間という期間以内に2人をきちんと採りました」というかたちで、この3要素だけで採用がうまくいったと評価されがちです。
言い換えると、質をおろそかにしてしまうケースが多いのですか。
鈴木:はい。何をもって質が伴っていると評価するかはとても難しく、例えば喫煙所で役員とたまたま会って「今回の中途社員はどうか」「いい感じです」などと言ってそれで終わっている会社もあると思います。
しかしここをしっかりやらない限り、採用は絶対に成功しません。入社後にパフォーマンスを発揮してもらうには、質が伴わないといけません。コストを守ったからといって、その人が活躍できるかといえばそんなことはないのですから。
質はどのように評価すればよいのでしょうか。
鈴木:質の測定をどうするのか、その手法のひとつが面接であり書類選考です。テストやグループワークも質を測る方法のひとつです。このうち書類選考は求職者のパフォーマンスを直接観察するわけではないので間接評価になり、評価の精度が低くならざるを得ません。
しかし出身大学名や前職までの企業名などは、能力の予見可能性がゼロではありませんよね。
鈴木:はい。たとえば「Googleに勤めていました」「Appleに在籍していました」という経歴は、「だったらまあやれるかもしれないという具合にある意味では読めますから。
質の評価はスコアにしにくいのですね。
鈴木:はい。質の評価で得点化できるものは少ないと思います。また、得点がわかるけれども値段が高いという特徴があります。たとえば適性テストは1人当たり数千円かかります。100人に受けさせたらそれだけで数十万円のコストが必要です。
そもそも書類選考は必ずやらなければならないのでしょうか。
鈴木:書類選考に関しては、必ずやらなければいけないというものではありません。たとえば3か月間に3名採用したくて応募が30件だったとします。その場合、全員と面接をすればいいのです。スピードを求めるのなら、これがいちばんの方法です。というのも、書類選考は質の評価に向いていないのです。
書類選考で評価できるのは何の能力なのか。突き詰めて考えると、結局それはその人の文章力だと私は思います。文章力があれば優秀そうに見えてしまいます。その文章力にしてもインターネットから転用できるものなのです。友だちに書いてもらうことも可能です。詐称というと言い過ぎかもしれませんが、フェイクができるのです。それもあって質の評価には向いていません。
書類選考をやるかどうかもよく考えないといけないのですね。
鈴木:はい。採用はトータルで設計することが重要なのです。コストを抑える、スピードも求める、量も求める、高い質も求める――それは無理な話です。
とはいえ、応募が多いから書類選考をする企業も当然ながらあります。ご指摘の前提を踏まえたうえで、書類のどこを重視すればよいのでしょうか。
鈴木:まずは「自社で採用したい人材がどんな能力を持っているべきか」をはっきりさせる必要があります。それをしないと文章力だけしか評価できませんから。その書類で何を評価しようとしているのかを決めていないと、選考する人が複数人になると主観に依存し、質がバラバラになってしまいます。これは面接についても同じことが言えます。私はなるべく主観を排除したほうが良いと思っています。
そのうえで、たとえばその人のリーダーシップを評価したいとします。その場合、前職でアサインされたプロジェクトでどんな行動を起こし、どんなパフォーマンスを発揮して成功に至ったのかというプロセスを読むしかありません。その行動の事実からリーダーシップや主体性を予見できる可能性はあるからです。ただしその精度はかなり低いので、面接で必ず確認する必要があります。
そういう意味では履歴書よりも職務経歴書のほうを重視すべきなのでしょうか。
鈴木:履歴書レベルではリーダーシップなどの測定は不可能です。職務経歴書のなかで代表的な経歴が詳しく書いてあれば、リーダーシップや主体性を見ることが少しはできるかもしれません。
しかしそれよりも、たとえば建築家だったら本人が書いた設計図を見せてもらったり、プログラマーだったら本人が組んだプログラムコードを見せてもらったりしたほうがよっぽど効果的です。プログラマーの募集なら「こういうプログラムを書いてください」と課題を出せば、その人の力量が職務経歴書よりも高い精度でわかります。これも一種の書類選考です。
課題を出すと応募が減るのではないですか。
鈴木:はい。書きたくないと思う人が多いでしょうから。だから先ほど申し上げた質、量、コスト、時間の何を重視するかです。書類選考で質を重視したいとなったらやはり何かを犠牲にしなくてはなりません。この例の場合、量、すなわち応募の数を犠牲にするのです。最終的に優秀な人材を2名採用することが目的であるのならば、母集団は減ってもかまわないという考え方です。
重要なことはトータルで採用を設計すること、そして書類選考の時点で何を評価するのかを明確にすることです。そうすれば、リーダーシップのあるなしは書類ではなく面接で確認する、という考え方もありうるのです。全部のプロセスですべての能力を確認する必要はありません。
入社後に思うようなパフォーマンスを発揮してくれないと感じる人事担当者は多いように思います。そうしたギャップはどうしても生じてしまうものなのでしょうか。
鈴木:書類選考に限らず、そうしたギャップは大いにあります。特に書類選考は、いわば化かし合いの世界なのでフェイクが通りやすいのです。書類選考と適性テストと面接は補完関係にあるので、面接に呼ぶ前の評価の精度を上げたいのならば、コストをかけてでも適性テストを実施すべきです。
最後に、企業の人事担当者に対してメッセージはありますか。
鈴木:採用は求職者の人生に関わる仕事です。だから企業の目線や企業の論理だけで求職者を振り回さずに、キャリアを形成していくという観点を持って携わってほしいと思います。
人材募集のWebページひとつ取ってもそうです。実際の企業とはかけ離れたことを書いて、良さそうだと思って応募してきた人を採用したけれど、全然違うから辞めてしまうことがよくあります。その人の人生に大きな影響を及ぼしてしまうのです。そのことを頭の片隅に置いて採用活動をがんばっていただければと思います。
- 人材採用・育成 更新日:2018/08/23
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