【尖った企業理念を持つ会社】食の原点を見て、中途入社メンバーが「ミッションの語り部」となる――株式会社エー・ピーカンパニー
過去に類を見ない採用難に見舞われている日本。人手不足感が強まる飲食業界にあっても、さらなる苦戦を強いられることが否めません。
こうした厳しい環境の下、着実に中途採用実績を積み重ねているのが「塚田農場」「四十八漁場」などを展開する株式会社エー・ピーカンパニーです。
「食のあるべき姿を追求する」というミッションを掲げ、食品の生産から流通、販売までを一貫して手がける「生販直結」の六次産業化ビジネスモデルを築いています。
このミッションが応募者を惹きつけ、高い内定承諾率にもつながっているという同社。中途採用社員の育成にもミッションが強く関わっているそうです。人材開発本部の上野翔さん、日野裕史さんに、その採用・育成戦略を伺いました。
全国各地の生産者や契約農家と連携して、直接食材を仕入れている同社。看板ブランドである「塚田農場」では、宮崎県日南市や鹿児島県霧島市、北海道新得町での自社養鶏場経営も行っています。
「食のあるべき姿を追求する」というミッションが生まれたのは、同社がまだ居酒屋1店舗のみを経営していたときのこと。店舗を差別化し、地鶏の仕入れコストを下げるために始めた自社養鶏場運営を通して、「儲からない」「後継ぎがいない」という第一次産業の厳しさを垣間見たそうです。
外食産業の立場から食材産地の産業や雇用を活性化できないか。飲食店経営を三次産業の枠内だけで考えるのではなく、食の流通の根幹である一次産業にも思いを馳せ、実際に関わっていくことはできないか。
そんな思いで掲げたミッションを体現する姿は、中途採用にも好影響を及ぼしています。
日野さん「当社でもたくさんの方に応募していただくのは簡単ではありませんが、ミッションを本気で語れることは採用でも強い武器になっています。選考を経て内定を出した方のほとんどが承諾してくださるのですが、これは私たちのミッションに共感していただけた結果だと思います」
実際に同社の中途採用における内定承諾率(2017年1月〜6月)は96パーセントと、非常に高い水準です。応募数そのものを増やすのが難しい昨今、「内定から採用」の歩留まりが高いことは大きなアドバンテージとなります。
上野さん「当社への応募動機を伺うと、大きく3つのパターンに分かれます。1つは六次産業化というエー・ピーカンパニーのビジネスモデルに興味があること。2つ目は飲食業態をはじめ、中食やブライダルなど幅広い事業に携われること。そして3つ目が独自のサービス戦略に惹かれること。これらの要素はすべて、根っこをたどっていくとミッションに行き着くんです」
とはいえ、応募者のすべてが最初からミッションそのものを強く意識しているわけではありません。エー・ピーカンパニーに興味を持ち、応募したいと考えた理由は人それぞれ。
面接の過程では、それをミッションにつなげていくためのコミュニケーションを重視しているそうです。
日野さん「『入社後に活躍してくれそうだな』というイメージが持てるのは、ミッションを意識してくれる人です。当社のミッションには『追求する』という述語が使われていますが、これは時代の変化に合わせて自分たちも変わり続けよう、という意思を示したもの。これを理解して入社してもらうことが大切だと考えています」
面接では会社のミッションに共感してもらうだけでなく、それをもとにして「個人として打ち立てるミッション」を考えてもらうための会話を重ねます。これは入社後の研修にもつながっていきます。
上野さん「転職って、実際のところは前職の環境に何かしらの不満があって動いているところがあると思うんです。それを引きずったり、隠したりした状態のままでエー・ピーカンパニーに入社すると、また同じ不満を感じてしまうかもしれない。個人のミッションを考えることは、それを防ぐためにも大切なことだと思います」
中途採用者向けの研修は主にディスカッション形式で、「前職ではどんな仕事をしていたか」「何を大切にしてきたか」などを語り合います。現時点での自身の課題に気づき、将来的な課題についてもともに考える場として活用しているといいます。
また研修だけでなく、一対一の面談も積極的に実施。入社前後は人材開発本部のメンバーが、現場への配属後は営業部門の上長が向き合い、コーチング形式で一人ひとりの課題感を継続的にヒアリングしていきます。
営業部門の社員数は700人以上。この規模の中、一対一で向き合い続ける環境を作るには、コーチ役となる上長へのバックアップが欠かせません。
階層別に「副店長向け」「店長向け」「エリアマネージャーや部長などの幹部向け」の研修を実施し、スキル向上を支援。面談のあり方や、コーチングの進め方を目線合わせしています。
さらに、1人エリアマネージャーが担当する店舗数を5店舗程度に抑えるなど、無理のないマネジメント体制を敷いているといます。
こうして採用段階から入社後にかけてのミッションの浸透を図っている同社では、さらに「ミッションの語り部になってもらう」ための取り組みも進めています。その一つが、生産現場に赴く研修です。
上野さん「社員が養鶏場へ行き、かわいいひよこが育つ姿や、最終的に鶏を締めて血抜きし、食肉として加工されるまでのリアルな現場を見るのです。水産現場では、漁師さんとともに海に出ることもあります。こうして食の原点を見る体験を通じて商品に自信を持ってもらいつつ、『食のあるべき姿を追求する』というミッションをもう一段深く考えてもらいます」
こうして生産現場をその目で見てきた社員は、自然とミッションの語り部となっていくそうです。店舗に戻ってからは、自発的に他の社員やアルバイトスタッフに体験を伝えるようになります。ミッションを語る研修を入社3年目の若手に任せることもあるのだとか。
日野さん「皆がミッションを自発的に語ることで、会社の経営を自分ごととして考える『自走集団』になっていきます。これを広げていくため、VR(仮想現実)技術を使って生産現場を体験できる研修も開発しました。
社員だけでなくアルバイトスタッフにも参加してもらい、ミッションの浸透をさらに推し進めていきたいと考えています」
2017年は「塚田農場」のブランド10周年、会社設立から15周年という節目。このタイミングで同社では、ミッションに共感し、これからの会社を担ってくれる人材の採用をさらに強化していきたいと考えています。
上野さん「採用の入り口でミッションを効果的に伝えていくことが大切なので、人材紹介会社さんなどにも協力をお願いしているんです。コーディネーターの方を私たちの会社説明会にお招きして、理解を深めていただけるようにしています。求職者にエー・ピーカンパニーのことを説明していただく際の資料も作りました。ご紹介いただいた人材の早期離職を防ぐことにもつながるので、互いにWin-Winになれる取り組みだと思っています」
事業の根幹にあるミッションが求職者の純粋な興味を喚起し、強い入社動機につながる。入社後の育成においても、ミッションが軸となって人材の成長を促していく。エー・ピーカンパニーの取り組みは、採用難時代の大きな参考事例となりそうです。
【取材協力】
株式会社エー・ピーカンパニー
人材開発本部/人材開発部 マネージャー 上野翔さん
人材開発本部/人材開発部 日野裕史さん
「塚田農場」「じとっこ組合」「四十八漁場」「芝浦食肉」など、直営・ライセンスを合わせて256の飲食店舗を展開。独自の六次産業化ビジネスモデル「生販直結」を掲げ、全国各地の生産者や行政との連携を推進するほか、自社での養鶏場や牧場経営、農業、漁業なども手がける。宅配弁当やブライダル、通販、小売など、「食」を軸とした新規事業も積極的に展開中。
- 人材採用・育成 更新日:2018/05/17
-
いま注目のテーマ
-
-
タグ
-