採用ミスマッチを防ぐ!さらけ出す採用手法「RJP」で採用力アップへ
―ありのままの会社情報を事前に開示する「RJP」を始めたキッカケを教えてください。
前の会社で、ひょんなことから社長になり、その時の経験が大きく影響しています。ずっとシステムエンジニアだったので社長業は全くの未経験。まずは人を増やして利益を上げなければクビになってしまうため、とにかく死に物狂いで採用に専念しました。求人の内容は見栄えの良いメリットをうたい順調に採用人数を増やしていったのですが、中には「聞いていた話と違う」という理由で辞める方もいて、私自身もどかしい気持ちを抱いていたのです。
その後、独立してエージェントグローを設立した時に、再スタートを切るのであれば会社都合の取り繕った情報ではなく正しい情報を開示しようと、採用手法にRJPを導入したのがきっかけです。SEの現場にいた頃は、お客様先からの受注額がどのくらいかも教えてもらえず、たとえ売上を伸ばしても自分の給与が上がるわけでもない。また、多くの案件があるのに自分が選ぶことができないなど、会社側にすべての裁量がありました。そんな業界の理不尽さも情報開示によって変えたいと思っていました。
―情報開示を行ってから、応募者の質などにも好影響はありましたか?
素直さやポジティブな思考をもっていて、人を信用したいという想いをもった応募者が多いと感じています。まだほとんどの企業が積極的に情報開示をしていないので、いくら求職者が信用したくても追求しなければネガティブな部分は見えてこないという現実がある。本当はそんな風に追求したくないという方が多いとは思うのですが、会社が真実を隠していたら自分自身のために調べるしかない。そこにストレスを感じている方が私たちの考え方に共感してくれています。
―すべてをさらけだすことで信頼度は高まりますよね。一方で情報開示を行った当初、想定外の問題や盲点などはなかったのですか?
十分に情報を開示していると思っていたら、そうではなかったということは何度もありました。会社の口コミなどを常にチェックしているのですが、「説明と違った」と書かれていたことがあって。私としてはしっかりと伝えているつもりでも、相手には伝わっていなかったのです。よくよく考えてみれば、面接時にこちらの伝えたことが分かりづらかったとしても、応募者からすればなかなか聞き直せないですよね。そこに気付かされて、説明資料のブラッシュアップや分からないことがないかをしっかり時間をかけて確認するようになりました。
―具体的に実施したRJP施策についてお聞かせください。
まずは、従業員がどのような情報を必要としているのかを把握するため、いっしょにランチをとるようにしています。そこで個々の要望や会社として改善すべきポイントが見えてくる。今導入しているRJP施策としては、ブログやSNSを活用した嘘のない誠実な情報開示をはじめ、自分が担当した案件の受注額と収入に反映される額がすべて分かる「給与システム」、健全な経営を行っていることを証明するための「決算報告書・役員報酬の開示」、リアルな労働環境を把握できる「残業時間の見える化」などがあります。
―従業員とのランチはどのくらいの頻度や人数で行っているのですか?
月に10人くらいの従業員を対象に、ひとりひとりとランチをとるようにしています。その月が20営業日であれば、半分は各現場にいるエンジニアのもとに出かけて食事しながら会話をする。これが本当に大切なことだと実感していますね。現場に行って話を聞くと、だいたい2割くらいは私が思いつかなかった改善点や入社前と入社後のギャップなど経営に役立つ情報をキャッチできるため、設立当初から3年以上続けています。スタートした頃よりは、徐々に改善点が減ってきているので、それだけ良い環境に向かっているという現状を知ることもできています。
―情報開示の精度が上がるにつれて、集まる求職者層に変化はありましたか?
ハイスペックのエンジニアが集まるようになってきたと同時に、前職で管理職をしていたという層も増えてきていますね。私のブログなどにも事業の話から口コミに挙げられた内容や “よくある質問”などをQ&Aにして記載することで、嘘偽りのない社風に魅力を感じて応募してくださる方が増えました。管理職などの経歴を持つ方は、経営に近いポジションにいるということもあり、情報を隠す会社であれば不信感も膨らみます。そのため、私たちのような情報の透明化を推進する経営方針に共感する方が多いのだと思います。
―求職者のネガティブな思考を払拭する効果も、情報開示にはあるのですね。
それをより実感したエピソードがあります。弊社の従業員に、前の会社で労働組合の役員として「これだけ内部留保が出ているならもっとボーナスを上げてください」など、経営陣にビシバシ指摘していた経歴をもつ男性がいます。彼と初めてランチ面談をする際、もしかしたら色々と言われるのかなと覚悟していたのですが、提案はするもののネガティブな指摘などは一切ありませんでした。中でも印象的だったのが「この会社に労働組合は必要ないですね」という言葉。従業員が気持ちよく働けるために情報開示を行っているという想いをしっかりと受け取ってくれていることに感動しました。
―情報開示の姿勢に興味・関心を示す応募者の年齢層に特徴はありますか?
弊社の場合ですと、20代後半から30代前半が応募者の約70%を占めます。理由を聞くと、前職の待遇面や評価制度に不満を持っている方が多く、特にこの年代は結婚や新居などのライフイベントにより、先々を考えて転職を考えるようです。転職先として弊社を選んでいただけているのも、携わった仕事の金額が開示されており、自分の給与にどう反映されるのか、今期どのくらい昇給するのかが全てシステム化されていつでも明確に分かるので、日々の生活スタイルと照らし合わせてイメージできる。そこが、求職者の欲求を満たすメリットになっています。
モチベーションも非常に高いですよ。事実、弊社のエンジニアは営業活動にも協力的で、現場の状況や情報を共有してくれるため、お客様に交渉する材料を得ることができるのです。これも、エンジニア自身が金額を把握しており、自分の価値を高めれば、それだけ自分に還ってくることを知っているからこその行動。この相乗効果により、案件の単価が上がり会社の売上も伸びるという好循環が生まれています。
―情報開示により、離職率にも影響があるとお考えですか?
情報開示をしていなかった前職の離職率は20%後半でしたが、弊社でいうと現在15%くらいですね。この業界の離職率は平均30%と言われているのでかなり良い数字ですが、実のところ弊社は離職率をあまり気にしていません。むしろ退職を推奨しており、これまで6名ほど独立して社長になっています。同業の会社を起業した方や弊社のグループ会社として起業した方など、退職後の進み方は様々です。
他にも、夢はあるけどお金がないという方には、ここでエンジニアとしてお金を貯めてから夢を実現すればいいし、もし失敗したら戻ってくればいいと話しています。最も大事にしているのは、従業員にとって何が幸せかを最優先することです。
―従業員ファーストであることが大事ということですね。
全てをさらけ出すことで、何でも言いやすい風土は創れます。それによって、退職することになってもネガティブではなくポジティブに捉えることができる。設立当初から副業も称賛する風土なので、規則に縛られるのではなく従業員がオープンに多くの経験を得ることができています。例えば、エンジニアでありながら営業力を身に付けるために仕入れや販売などにチャレンジしている従業員もいますよ。
従業員の労働時間も情報開示を活用してサポートしています。弊社の残業時間は、1日平均30分、1ヶ月平均は12.3時間ですが、これだけ抑えられているのも残業状況を把握できる仕組みが整っているからです。社内システムで月の残業時間にボーダーラインを定め、そこをオーバーした従業員の名前と電話番号が社内にアラートで通知される。従業員にリアルタイムで連絡を入れて、現状確認やフォローを行うというフローです。また、長時間労働者がいないかの会議を毎月開催しており、月30時間以上の残業をしている方の名前を開示し、どのようにアプローチして改善するかを話し合っています。
―情報開示を実行している企業が少ない原因はどこにあるとお考えですか?
多くの企業が情報開示をしない、またはできない原因は3つあると私は考えています。1つ目は、従業員に情報開示をした方がモチベーションの向上に繋がるという基本認識がないこと。2つ目は、従業員をそもそも信用していない可能性があること。そして3つ目は、会社都合によるお金の流れや条件などがあり、その後ろめたさから情報開示できないというパターンです。
私も正直なところ最初は怖さがありました。メリットはあるという認識はもっていたのですが、従業員に情報を開示することで、必要以上に要望が増えたり、情報があるだけに有らぬ詮索をされるのではないかと。しかし、そう思っている時点で従業員を信用していないということに繋がってしまうので、自分自身の経営を正しい方向に導くためにも、解説付きの決算報告書や私の役員報酬なども含めて情報開示をするようになりました。従業員に対しても、経営側が無駄なお金をつかっていないという証明になるので、より深い信頼関係を築くことができます。
―RJPを取り入れて採用を成功させる上で大事な考え方や活用ポイントをお聞かせください。
今世に出ている求人を見ると、良い情報が載りすぎだと感じています。求人として参考になる会社はないか大手の求人サイトなどを常にチェックしているのですが、「この会社すごく素敵だな」と思って調べてみると、嘘が多かったり離職率が高かったりするんですよね。確かに、見栄えの良い情報を載せないと他社に負けてしまうという気持ちも分からなくはありませんが、それでも私は嘘偽りのない正しい情報を載せた方が良いと考えています。
なぜなら、結局どんなに良く見せたところで入社後にギャップを感じて辞めてしまうからです。応募者の数は減ってしまうかもしれませんが、ポジティブなこともネガティブなことも含めて正しい情報を開示することで、入社後のアンマッチがなく定着率が上がって口コミも良くなる。採用におけるRJPは長期的に見てもプラスになることが多いのです。
―ただ情報を開示するだけではなく、従業員と会話をする時間を確保して、常に情報開示のブラッシュアップを行うことが大事だということがとても良く分かりました。本日はありがとうございました。
入社前にネガティブな一面を把握することでギャップを防ぐ免疫が作られる「ワクチン効果」、多くの正しい情報を得ることで本当に入社したい会社なのかを自己選択する力が高まる「スクリーニング効果」、せきららに企業の情報を開示することで信頼感や帰属意識を高める「コミットメント効果」、仕事のやりがいや大変な部分を包み隠さず伝えることで職務に対して意欲的な人材が集められる「役割明確化効果」など、RJPにより得られる効果は様々です。良い情報を求人に載せて応募数を増やす手法が主流となっている現状で、すべての情報を開示することに踏み出せない企業は多いと思います。しかし、それでは求職者のリアリティショックは増え続け、離職率は改善できません。採用ミスマッチを改善し、長期的に活躍してくれる人材を採用するためにも、時代とマッチしたRJPを取り入れてみてはいかがでしょうか。
- 人材採用・育成 更新日:2020/03/03
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