売上2億円を失ってまで働き方改革を実行した「幸楽苑」の目的と想い
昨今、労働時間の見直しや改善をはじめとした働き方改革が進んでいます。しかし、一方的な働き方改革によって、「退社後に外で仕事しなければいけなくなった」「休日返上で働かなければ目標を達成できない」という声も耳にします。
そんな中、2018年11月の新社長就任以来、現場の苦労を把握し、働きやすい環境づくりのために様々なチャレンジを続けている「幸楽苑」。新社長が就任前から温めてきた「大晦日の夜と元旦の店舗休業」の働き方改革は、世の中でも大きな話題となりました。
そこで、新聞広告で大々的な告知をした「大晦日の夜と元旦の休業」は、どのような目的で行ったのか。そして、働き方改革にかける想いについて株式会社幸楽苑ホールディングス代表取締役社長の新井田昇さんにお話を伺いました。
社長就任が11月だったので、「大晦日の夜と元旦の休業」を実施するまでに時間はあまりありませんでした。「幸楽苑」は日本全国に508店舗(2019年5月)もあります。そのため、本当に店舗を休みにしても問題ないかどうかをスピーディーに検討を重ねる必要があったのです。
そこで、社長に就任した瞬間に会長のもとへ向かい、年末年始を休みにしたい旨を伝えました。当初は反対されると思っていましたし、反対されたら根気強く説得しようと思って臨んでいたんですが、意外なことに「いいじゃないか!」と、あっさり認めてくれました。
目先の売上げや利益よりも、従業員に休んでもらってモチベーションを上げてもらうほうが長期的に見て得になることをすぐに理解してくれたんです。準備は大変でしたが、会長の理解もあって早期の実施を実現できたと思っています。
大晦日の夜と元旦を休業することで、2億円の売上げを失ってしまうことはわかっていました。それでもいいから休業しよう、ということで実施したんです。この休業は、なによりも現場で働く従業員に喜んでもらいたいという気持ちが強かったです。新聞広告でお伝えした「大晦日の夜と元旦の休業」が話題になりましたが、従業員が安心して休めるようにするため、多くのお客様にお知らせする目的で新聞広告を掲載したのです。
実は、休業したことによって新しい発見がありました。売上げロスのカバー施策として用意した、12月31日の年越し中華そばの販売と1月2日からの福袋や紅白餃子・紅白ラーメンの販売。この商品の売れ行きが好調で、1月2日の売上げは過去最高を記録しました。そして、既存店客数前年比は110%UP。既存店売上前年比は119%UP (福袋の売上げ含む)と、大晦日の夜と元旦の休業によるマイナスを取り戻すような結果になったのです。
毎年、お正月に来店されるお客様は全国で30万人もいます。初詣後に幸楽苑での食事を恒例行事にしているお客様もいると思います。それでも、きちんと事前に告知をしていたことで、お客様から「2日に行くね!」という声を多数いただくことができました。お客様にとっても、従業員にとっても、年末年始の休業はとてもプラスに働いたと思っています。
もともと現場というよりは本社サイドから働き方改革を始めました。というのも、6年前に出向先から本社に戻ってきたのですが、その時に今のままの働き方ではダメだと感じたのです。なぜなら、朝早くの経営会議のために、時には朝5時に出勤して、朝6時から会議をやる。それで定時に帰れるかというと、夜遅くまで仕事しているわけです。
早い人で20時くらいに帰り始めて、遅い人だと23時くらいまで仕事をして帰る。その光景を見ていて、「そんなに仕事があるのかな?」と思いました。出向先から本社に戻ってきたばかりですから、まずは観察することから始めたんです。そうしたら、あまり仕事をしていないことが段々とわかってきて、みんな上司がいるから帰らないということが見えてきました。
6年前、私は創業者の社長(現会長)に1つお願いをしました。それは、「土曜に社長(現会長)が来ると働き方改革ができないので、申し訳ないけど土曜は会社に来ないでほしい」と失礼ながらにお伝えしたのです。私の考えを理解していただいて、土曜に来なくなると取締役も来なくなりました。
そして、取締役が来なくなると部長も来なくなり、部長が来なくなると課長も来なくなり、課長が来なくなると全員来なくなりました。本社での働き方改革は優良企業並みに進み、休みもしっかりと取れる環境へと変わっていったのです。そうした変化の中で、現場(店舗)はお客様商売なのでなかなか働き方改革を行えていなかったのですが、3年前にようやく改革に着手することができました。
休日休暇や長時間労働といったくくりだけじゃなく、人事評価も働き方改革の1つだと考えてきました。そこで、人事部長と役員に公正な評価制度の作成をお願いしたのです。今までの評価制度は評価基準が曖昧で、目標設定も一方的だった。そのため、現場からの不満が多かったんです。
全員が納得する評価制度をつくるのは難しいですが、目標が明確になり、結果が出ればきちんと評価される。そんな公正な評価制度があれば従業員に喜んでもらえると思ったのです。評価制度をつくるために、外部パートナーに協力を依頼し、人事と共につくり上げていきました。2019年4月から活用していくことが決定。これまで以上に従業員のモチベーションが高くなることはもちろん、公正な評価によって給与や職級が上がり、従業員の家族にも喜んでもらえるようになることが、今からとても楽しみです。
- 経営・組織づくり 更新日:2019/06/13
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