従業員エンゲージメントを高める新制度を導入するポイントは“コミュニケーション量”と“付け足し”にあり
Q選択型人事制度でも十分に自由な働き方ができていたと思うのですが、なぜ新しい人事制度を導入することにしたのですか?
恩田:私たちが理想とするのは、100人100通りの働き方を実現すること。しかし、多様なメンバーが集まっているサイボウズでは、希望する働き方が9分類の選択型人事制度でも収まらないケースが増えてきました。「それならどうすればより多様な働き方を実現できるか」という話を2016年の年末くらいから話し合うようになりました。
さらに、今の制度でうまくいっているところ、いっていないところの社内アンケートも取りました。その後、社内に向けて新制度説明会や意見交換会を何度も繰り返し、ようやく2018年4月に「働き方宣言制度」を導入することができました。
Q100人100通りの働き方を実現する新制度を導入するにあたり、大変な部分はありましたか?
恩田:決められた制度の中で働くなら、メンバーは自分たちの働き方をそれほど深く考える必要はありません。しかし、100人100通りの働き方が実現できる「働き方宣言制度」では、自分に合った働き方、あるいは自分が働きたい働き方を自身で考えて伝えなければいけません。そこの大変さはあるかなと思います。
さらにほかのチームメンバーも100人100通りの働き方があることを認識して受け入れないといけないので、事業の成果と個人の幸福度のバランスがとれるように、チーム全体としても業務を調整していく必要があります。そこは特に、現場を仕切っているマネージャーが大変な部分かなと思います。
Qたとえば、週5日勤務で残業ができる人と週4日で残業しない人が一緒のチームになったときに問題が出てきたりしませんか?
恩田:出ることもあるかもしれません。例えば、全員でのミーティングを設定しづらくなるし、急な仕事に対応できる人が限定されることも考えられます。ただ、働き方やスケジュールを見える化することで、スケジュールや役割分担を調整できるようにしています。また、グループウェアで普段のコミュニケーションが見える化されていることで、ミーティングに参加できなかったメンバーとの情報共有もサポートできているのではないかと思います。
Q「働き方宣言制度」を導入したことによって、どんなメリットが考えられますか?
恩田:今までは9分類の働き方しか見られなかったので、その人が何を希望しているのかが見えづらかった面がありました。それが、今の新しい宣言制度に変わってからは、何を希望しているかが明確にわかります。そのおかげで、今まで以上にコミュニケーションがとりやすくなったというメリットはあげられると思います。働き方がオープンになったことで、限られた時間の中で必要なコミュニケーションがとりやすくなったため業務効率が向上したという意見もでています。
できるだけオープンにしていくことが、多様性を受け入れられることにつながると、私たちは思っています。
Q先ほどのお話だと、「働き方宣言制度」の議論がスタートしたのが2016年の年末。実際に新制度が導入されるまでに1年以上、かかりました。新制度を整備し、導入するのはやはり難しいことなのでしょうか?
恩田:正直、「働き方宣言制度」を導入するまで、こんなに時間がかかるとは思っていませんでした。コミュニケーションを取っていくなかで、人事部門として「この制度でいこうと思います!」と出して、それについて意見を募ってみるといろいろな意見が出てきたんです。それでまた、出てきた意見を踏まえてもう一度練り直し、経営会議で承認を得て、説明会を開いたときも「もうちょっと変えたほうがいいね」という意見があり……議論をじっくりするのが、サイボウズのスタイル。真剣に、あらゆる可能性を考慮しながら話し合ってきた結果、導入するまでに1年以上かかってしまったという流れです。
Q制度の押し付けではなく、受け入れられるまで向き合う姿勢が大事なのですね!そのオープンな風土は、どうやって生まれたのでしょうか?
恩田:ひとつは、説明責任だけでなく、質問責任という文化が根付いていることが挙げられます。説明責任というのは一般的によく言われますが、サイボウズでは質問責任ということも強く言っています。モヤモヤしたときにそのまま抱えて、たとえばお酒の席などで愚痴るのではなくて、言うべき人にモヤモヤしていることを伝えて、説明してもらって議論する。隠しごとをしない、影で愚痴を言わないことなども言い続けているので、そうしてオープンに議論できる環境を整えてきたことが、今につながっていると思います。
人事部門としては質問責任と言っている以上、意見を聞く機会を設けることも意識してやっていて、説明会などでも意見が出れば、しっかりと議論していきますので、必然的に長い期間のコミュニケーションは必要になります。つまり、新しい制度を導入し、浸透させていくには、制度を作っていくまでのプロセスや従業員も含めたコミュニケーションの回数がとても大事だと思っています。
Qその考えは、創業当時からのものなのでしょうか?
恩田:実は2005年のサイボウズは、離職率が28%にも達していました。4人に1人は辞めていってしまう……当然、継続的な会社の成長を考えると「これではダメだ」ということになり、人事部門として働き方について考え、改革を進めることになりました。
そこで行き着いたのが、100人いれば100通りの働き方があるという考え方。新しい制度を作るとか、会社としてこうしようとか、会社都合の視点ではなくて、離職率を改善するためにまずは1人ひとりのニーズを聞き入れていこうと。多様な人の働き方を実現するためには、まずはコミュニケーションを増やしていくことが必要だと私たちは考えています。
Q最後に新しい制度を従業員に浸透させるために、何か工夫していることやヒントになるようなことがあれば、教えてください。
恩田:制度を一律に変更してしまうのは、施行する側も受け入れる側も大変だし、場合によっては抵抗を生んでしまいやすくなります。そこでサイボウズでは、変更するというよりも既存の制度に「付け足す」というイメージで制度を増やしていくので、受け入れてもらいやすいのだと思います。
たとえば、選択型人事制度も9分類という枠に違和感がでてきました。それを解決するために、選択型人事制度に収まらなくなった人が増えてきた際も「枠からはみ出している人に合う働き方を、どう付け足しましょうか」という話し合いからスタートしました。議論を重ねた上で枠を無くして「働き方宣言」を付け足したというイメージです。コミュニケーションの量と付け足すことが、新しい制度を導入するには大切かなと思います。
- 人材採用・育成 更新日:2019/02/14
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