「話しやすい人」はしゃべらない
ただし、ここまでは「必要条件」です。スムーズに会話ができて嘘をつかない人は、確かに人から好かれます。しかし、もう一つ「十分条件」が揃わないと、本当に重要な情報は集まってきません。それは、「口の固さ」。秘密を漏らさない人間だと思われることが決定的に重要なのです。
ところが少し考えると分かるように、「口の固さ」は、しばしば「話のうまさ」と反比例します。社交の場では、人から聞いた話を面白おかしくしゃべると簡単にウケがとれるので、ついやってしまいがちです。
しかし、機微に触れる情報まで同じ調子でネタにするとどうなるか。「あいつはおしゃべりだ」「口が軽い」ということになり、重要なことは教えてもらえなくなるでしょう。仮に面白いやつだと思われて人が集まってきたとしても、ビジネスに役立つ情報は入ってきません。人気者になれたとしても、仕事上のメリットはあまりないのです。
これには「小さな秘密から守る」という意識が必要になります。もしあなたが、重要な情報を教えてもらえないタイプだとしたら、無意識のうちに「小さな秘密」を漏らしてしまっている可能性があります。
例えば、友人から恋愛についての悩みを打ち明けられたとしましょう。別に本人から「この話は他人には絶対にしないでね」などと釘を刺されたわけではありません。でも、本人にすればみんなに知られたい話ではないはずです。こうした情報が「小さな秘密」に当たります。
人は、こうした話を聞いてしまうと他人に言いたくなってしまうものです。他人の秘密や悩みを聞いて抱え込むことは、ある種のストレスになります。それを別の人に吐き出して楽になりたいという心理が生じやすいのです。それで、「ねえ、知っている?◯◯さんから相談を受けたんだけど……」と話してしまうわけです。記者の間では昔から「噂話を広めたければ、話の最初に『これは秘密なので他言無用だが…』と言えばよい」と言われているほどです。
しかし、たとえ小さな秘密であっても、それを漏らすことは二重の意味で自分の首を絞めてしまいます。第一に、それを聞いた相手は、無意識に「この人に相談すると、同じように他人に話されてしまうリスクがあるな」と感じて警戒します。さらに、相談を受けた当事者ではないので、ほとんど心理的抵抗なしに聞いた話を言いふらす可能性があります。そのうち相談者の耳にも入り、あなたとの友情にもヒビが入るかもしれません。
じつは、人の評価というものはこうした小さな積み重ねによって決まってきます。昔から「人の口に戸は立てられぬ」「悪事千里を走る」などと言って、そうした噂は自分が思う以上の速さで拡散してしまうものです。よほど注意しないと、あっという間に信用を失ってしまうのです。また、本当に重要な情報が耳に入るようになるのは、こうした「テスト」の後で「あの人は口が固い」という評価が定着してからです。
だから、そういう人と付き合う時は、「何を話して何を話さないか」という原則を強く意識する必要があります。相手に気に入られようと自分が知っている秘密や噂話を軽々しく耳に入れるのは逆効果です。そういう人は「小さな秘密」を厳格に守るからこそ、口コミの中心にいるのです。むしろ、「その話については、知っているけど言えません」といった、原則的な態度を見せた方がいいでしょう。
付け加えれば、そういう人には「◯◯さんは優秀だ」といった他人についての良い話は積極的に伝えるべきです。これは秘密ではないので、口コミネットワークに乗って広がります。先ほどの噂話と同じで、いつか本人の耳にも「あなたが褒めていた」という情報が入るでしょう。その人にとってこれほど嬉しい話はありません。あなたから直接言われてもお世辞と見分けがつきませんが、第三者に言っていたということは心から思っている証拠だからです。しかも、周囲に自分の評判が広がるのですから、あなたに感謝するはずです。
- 労務・制度 更新日:2020/04/16
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