役割行動給制度を導入するための6つの手順
こんにちは、若林です。前回は、働く人の能力を元に等級と賃金を設定し、人が成長し能力が上がれば等級・賃金も上がるという「人」を軸として作られた職能給人事制度の導入の流れをご紹介いたしました。しっかりと制度の作り込みを行うことが出来れば、職能給制度を運用することは十分可能です。ですが、“仕事調べ”部分の作り込みを十分にしなければ、結局は従来のような年功序列に近い制度と変わらない運用になってしまうという特色もありました。
今日ご紹介するのは、役割行動給制度の導入の流れになりますが、役割行動給制度は制度が単純な仕組みとなっているので、中小企業には導入しやすい制度となっています。皆さんの会社で、参考にして頂ける部分があれば幸いです。
役割行動給制度の最も大きな特徴は、組織としてどんな役割を評価すべきかを、自社の社員達で議論し決定するという点にあります。前項で確認したように、組織課題を解決するための新しい人事・賃金制度を導入するプロジェクトを立ち上げ、意欲の高い社員を集めます。立候補でもいいですし、経営陣側から声をかけて応募させるのもいいと思います。
メンバーを選ぶ際は、様々な意見が出やすいよう部署が偏りすぎないこと、考え方の似通ったメンバーばかりに偏らないこと、建設的な意見を発信する社員を選ぶこと、などに留意しながら選出します。
プロジェクトメンバーが今後の方向性について深く理解した上で、実現するための具体的な役割行動がどのようなものかを自分たちで議論し、それぞれの現場の実情も考慮しながら決定していくことで、制度を創りあげていきます。
チーム結成後、はじめに議論すべきテーマ例としては、
- 自社の良いところ、悪いところはどこか。
- 理想の会社、社員満足度の高い会社とはどんな会社か。
- 抽出された課題点の因果関係分析
- 課題が発生している業務は、どの工程、どの部分か。
- 自社の課題点を解決する方向性は?
など、社員の不満が出てきやすいテーマを設定して行うとよいでしょう。本音で議論し合える状態を作りだすことが、より現実味のある、実情に添った制度にするための秘訣です。
会社の課題を解決するための行動を作成していきます。役割行動には3種類あり、①全社共通用 ②専門別 ③管理職用 です。
全社共通用は、等級の差に関係なく、社員に共通して良いとされる行動を定めます。例えば、「コミュニケーション」「チームワーク」「向上心」などの項目の中で、それぞれ具体的な行動を明文化します。
専門別は、それぞれの部署・職種に応じて求められる行動を定めます。例えば、営業職の場合「計画性」「達成意欲」「洞察力」「問題解決能力」などの項目の中で、具体的行動を明文化していきます。
管理職用は、部下の育成・部下の行動を監督するための行動を定めます。例えば、「部下の掌握・育成の役割」「業務改善の役割」「企画立案の役割」などの項目の中で、具体的に明文化します。
役割行動を設定していくおおまかな流れは下記です。
- メンバーが、役割行動給の構造について理解を深める。
- コア、専門別の役割行動に採用すべきだと考える項目や分野を検討する
- コア、専門別の検討した項目分野について、それぞれ具体的行動を決定する。
- 管理職用役割行動について、項目分野の検討と、それに対する具体的行動を決定する。
- 重複がないか、誰にでもわかりやすい文章になっているかを最終確認する。
- 等級の段階数、職位名などを検討し、等級ごとの責任や達成度などを議論し、「役割行動等級基準書」を作成する。
- 経営陣への提案と承認を行う。
会社にとってどの行動が社員に求められるかを議論し決定した後、社員の行動について評価を行う方法を考えていきます。
それぞれの具体的行動に対して、1項目ずつ「マイナス1~プラス5」までの自己評価と、上司評価を行います。マイナス1については、「役割行動をほとんどしようとしない」、あるいは「全く別の行動をすることがある」などの際につける点数となります。
全ての項目の合計点の平均点をだし、ランクを付けていきます。ランクは、等級ごとに「S~D」までを設定します。低い等級については、S~Dの平均点の数字も低めに設定し、高い等級については、高めに平均点を設定します。
非常にシンプルなので、わかりやすい評価方法となります。
賞与なので行動評価だけでなく、業績成果を強く反映させたい場合、ウエイトの配分に注意しながら設定していきます。行動評価、業績評価だけでなく、業績の中でも個人評価と部評価とをどのようなウエイトで配分するかなども重要となります。この賞与の評価については、職種別に設定する必要があります。細かい計算式については、考課表のようなイメージでよいかと思います。
考課表の平均点によって、等級別に平均点を照らし合わせランクを出します。業績については、個人・部門の達成率別にランクを設定します。係数は、それぞれのランクに応じて係数表を設定しておきます。行動給・個人別業績・部門業績それぞれのウエイトと配分率については、こちらも個別に設定します。
計算式の参考例としては、
算定基礎額(給与) × 賞与基準月数(通常賞与支給月数) × 配分合計率(※100にならないこともある) × 調整率(業績に応じて都度設定) × 出勤率 = 賞与支給額 など、勤怠状況も入れる企業もあります。各社、それぞれ大切な項目を参考例から追加・削除しながら計算式を設定されてみてください。
いかがでしたでしょうか。役割行動給の場合は、職能給と比べて評価方法がシンプルでわかりやすいものになります。役割行動給の利点に、社員が実際の役割行動を定めるため、その行動が設定された背景や経緯などの理解が社内に深まり、現場に人事制度が浸透していく、というものがあります。
人事制度は、社員がその制度の構造や設定された背景を理解することで、適切に機能するようになります。そういった意味でも、役員や人事だけで作られた制度ではなく、プロジェクトチーム化して社員が作った制度のほうが、納得感があり適切な運用がなされるようになります。
今回ご紹介した役割行動給制度の導入方法について、皆様の会社で制度の見直しをされる際に、参考にしていただければ幸いです。
- 労務・制度 更新日:2020/03/31
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