育成にも効果有!退職した社員を再雇用するジョブ・リターン制度
はじめにジョブ・リターン制度を導入した経緯を教えてください
これまでの日本では、ひとつの会社で長く働くことが美徳とされるような風潮が続いていました。ましてや出戻りなんて許さない。そんな空気感が漂っていた。それが少しずつ時代の流れと共に変わりはじめ、ここ数年でひとつの会社で働き続けることのほうが、時代に合わなくなってきたんです。
これから労働人口が減少していく中で、ただ単に労働力の確保ではなくて、男性・女性はもちろん、シニアや外国人、LGBTなど様々な人が活躍できる。そんな多様性を受け入れて、将来に渡って社員から選ばれる会社に私たちは変わっていかなければいけない。そのひとつの取り組みとして、1度退職した社員を再雇用するジョブ・リターン制度を導入しました。
退職した社員の再雇用は、これから主流になっていくのでしょうか?
少し前のプロ野球では、入団会見のときに将来は大リーグに行きたいと言うとバッシングを受けていました。それが最近では、同じように入団会見のときに大リーグでプレーする意思があることを主張してもバッシングされることはありません。また、1度球団を出たら戻れない風潮がありましたが、今では大リーグで活躍後に自分が元々いた日本の球団に戻ってプレーすることも受け入れられるようになりました。
これからの日本企業も、同様の変化があってしかるべきだと考えています。キャリアアップを意識して、転職することを前提に入社してくる人が増えてくる。それを理解した上で会社も社員の成長をサポートし、時期が来たら背中を押して送り出してあげる。そして、戻ってきたいと言ってくれる社員が出てきたら再雇用する。このようなサイクルが主流になってくると考えています。
これから利用者が増えると予想しているジョブ・リターン制度のメリットを教えてください
退職して次の会社で何年勤務して、どんな業務に関わって経験を積んできたかによりますが、再雇用によって「新しい知見」や「新しい価値観」を持って帰ってきてくれることは、とても大きなメリットです。ひとつの会社で働いていると、その中でしか物事を判断できなかったり、蓄積された資産の中でしか情報を得られなかったりする。なので、一歩外に出て得られた経験が視野をグンと広げてくれ、以前いたときとは違った活躍を期待することができるようになります。
また、外に出ることで働いていた当時は気づけなかった会社の魅力にも気づいて戻ってきてくれる。そのため、仕事に対しての熱量もさらに高まり、より大きな期待を寄せられるのです。とはいえ、すべての人が再雇用の対象には当てはまりません。仕事を途中で放り投げて辞めてしまった人などの再雇用は難しい。きちんと仕事をまっとうして退職された方、というハードルを設けることは必要だと考えています。
社員が戻ってくることによって、現場にはどのような影響を与えてくれるのでしょうか?
当社の労務構成のボリュームゾーンが40代後半から50代半ば。そのため、慣れ親しんだ環境や続けてきた取り組みへの変化を、前向きに捉えてくれない社員もいます。しかし、ジョブ・リターン制度を通じての即戦力社員の入社は、長く働いている社員はもちろん、すべての既存社員の意識改革にもつながっているのです。そういった変化が、新たなカルチャーなどを積極的に取り入れる環境を生んでいます。
最近で言えば、サテライトオフィスや週休3日制という新しい働き方も検証を重ねながら制度化して、今では社内に浸透してきています。これも、外の空気を吸って新しい物の見方や価値観などを持ってきてくれた社員たちがもたらしてくれた、変化のひとつ。ただ現場で活躍するだけではなく、こうした良い影響を与えてくれるのもジョブ・リターン制度の魅力でもあります。
意識改革のほかに、戻ってきた即戦力社員が与えている影響はありますか?
育成場面においても変化が生まれています。というのも、一度退職した社員たちは、外に出たからこその苦労を経験している。その経験は人の痛みがわかるということですから、育成にも良い影響を与えてくれているのです。相手の気持ちがわかる人がマネジメントをする立場になるのは、とても適していることだと思っています。
また、これからは自分が突き詰めていきたい専門分野のプロフェッショナルが増えてくる時代。外資系企業では、以前からプロフェッショナルな人材が揃っていますが、個人商店のため育成が難しいと聞きます。時代の流れと共に日本の企業でも外資系企業と同じような問題が今後出てくるかもしれません。ですが、外に出てマネジメントを経験した即戦力社員が戻ってきてくれることで、仕事の苦労を理解した上でのマネジメントをしてくれます。ジョブ・リターン制度は、そんな組織を強くする制度でもあるのです。
様々な経験を積んだ社員が戻ってくることによって、既存社員にも良い刺激があるように感じますが、実際のところどうなのでしょうか?
先日戻ってきた社員に対して、職場から拍手が起きました。「よく戻ってきてくれたね!」と。本人は少なからず不安を抱いていたと思うので、戻りやすい雰囲気をみんなが作ろうとしているんだなと感じました。これは見方を変えれば、既存社員にとってもひとつの尺度になっていると思うんです。実際に自分が転職して、色んな経験を積んで、また戻ってきたいと思った時に受け入れてくれる会社なのかどうか。即戦力社員として戻ってきた人たちを迎え入れながら、そういったところも見ていると思います。
ジョブ・リターン制度は、キャリアアップや様々な理由で転職を考えている既存社員の背中を押す制度。そういうことでいいと思うんです。外に出て行く人は増えるかもしれませんが、1度外に出ていって、また戻ってくることができる会社になれれば、会社の競争力をさらに高めていくことにもつながります。また、それによって社員の幸せを今まで以上に支えてあげられる会社にも成長していけると私たちは考えています。
社員の幸せのために制度をつくっていることが伝わりました。制度をつくる時に大切にしていることはありますか?
これまでの日本の人事は、“みんなが一緒”という意味の平等主義でした。もう一つは、日本企業の人事制度は性悪説で作られている傾向にありました。「こういうことを制度でやると、こんな悪用のされ方があるよね」といったように。例えば、新幹線通勤をOKとした場合、「それなら東京駅から品川駅までもOKですね」と思う人が出てくるんじゃないか。そういう想定をして、“駅の区間を何キロ以上離さなければいけない”というように事細かに決めて画一的に運用してきたのが日本企業だったのです。
私たちもそうでした。でも、これからの時代は一人ひとりに合うように制度を変えていかなければいけないと思います。“東京駅―品川駅”の新幹線通勤は極論ですが、“東京駅―横浜駅”や“東京駅―大宮駅”の区間で新幹線通勤ができれば通勤時間を短縮できるわけですから、社員が様々な理由で困った状態にあるのであれば、個々の事情に適応していくことが今の時代には必要だと思います。性悪説から性善説を前提とした制度づくりを、とても大切にしています。
性悪説の考え方から性善説の考え方に変わるきっかけはあったのでしょうか?
おそらく人事部門が一番、封建的で今を守りたいと考えていると思うんです。でも、世の中が大きく変わっていく中で、会社も変わっていかなければいけない。そう考えた時に人事部門が殻を捨てていくところからスタートしないと企業文化は変わっていかない。そう強く思うようになったのが、3年ほど前です。
それからサテライトオフィスや在宅勤務などを推進していったのですが、現場のマネージャーからはよく「どうやってマネジメントするんですか?」と言われていました。でも、マネージャーは週の半分は出張に行っていて、社内にいる日でも多くの時間は会議で席を外しています。
ということは、実際のところ部下と直接コミュニケーションできる時間はそれほど多くありません。であれば、きちんと一定のコミュニケーションを取って、成果をみて、ちゃんと仕事をしているかどうかを確認できれば、自由な働き方は実現できる。そうした働き方を希望する社員を信じましょうというところから、性善説な考え方に変わっていきました。ジョブ・リターン制度もそうですが、社員を信じる心を持つことから新しい制度づくりをしていくと、社員が楽しく働ける制度になっていくのではないかと思います。
10年後も働きたい会社No.1を目標に掲げているメタウォーターさんの社員に対する思いがとても伝わってきました。そうした会社の姿勢が伝わるから、また戻ってきたいと思えるのですね。本日はありがとうございました。
- 人材採用・育成 更新日:2019/07/18
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