結果がみるみる変わる!採用面接や人材育成に活かせる心理学!
採用面接ではまず、面接者の緊張を和らげようと意識する人事担当者は多いですが、上手に面接者の心を開くポイントはありますか?
初めて会う人に対して、誰もが気づまり感や警戒心を持ちます。特に面接者はその傾向が強く、面接ではまずはじめにこの状態を打ち解くことが、心を開いてもらうためにはとても重要になります。心を開くとは、心理学では「ラポール(信頼関係)」を形成できた状態のことをいいます。では、どうすれば短時間のうちに信頼関係を築けるのか。ポイントは「あなたに興味を持っています」ということを示すことなんですね。
たとえば、名前の由来を聞いてみる。名前の由来を聞かれて不愉快に思う人はあまりいません。そうした比較的親しみやすい問いから、共感するポイントや共通の話題を見つけて、それをきっかけに話を広げていく。そうすることで、プラスの感情が芽生え、心の距離は一気に縮まります。そうして「ラポール」が形成されたときに、人は本音で話してくれるようになります。
警戒心が解けたあと、どんな質問を投げかければ面接者をさらに理解できるのでしょうか?
面接者は内定を取りたいので、最初はなるべく本音を出すまいと思いながら面接に臨みます。
また、最近は面接研修で訓練していますし、ある程度の質問を想定して答えを用意しているケースがほとんどです。だから私は、より面接者を理解するために、こういう質問をします。
「今までで一番印象に残っている出来事は、どんなことがありますか?」と。
この質問は、たいてい準備されていない質問なので、面接者はどう答えればいいのか考えます。このとき、どんな感覚を持つタイプか見分けることができるのです。
まず、エピソードを思い出すときに上を見る人。これは「視覚タイプ」の特徴で、イメージが先行し、映像処理をするために上を見ます。それから、真正面もしくは、やや下をまっすぐ見る人は「聴覚タイプ」です。特徴としては、論理的思考力が高く、考えるために一点を見ます。続いて、キョロキョロと目をやって探索行動を取ったり、目が一点に落ちて何かを感じようとする人は「触覚・運動型タイプ」です。体育会系の人に多い特徴ですね。
このように、初めて会った人でも目の動きに注目していれば、最初の3分でおよそどのタイプかがわかります。
タイプがわかると面接者に合った質問もできるので、面接の質が高まりますね。とはいえ、「よく見られたい」というのが面接者の本心。質問の答えがウソかホントか見抜くのは難しいと思うのですが、仕草や行動から本心を見抜く方法があれば教えてください。
「認識反射」で判断するとよいでしょう。これはどういうことかというと、“意表を突く質問”をしたときに「急に笑い出す」「急に目をパチパチさせる」「急に左右に動く」「急に声が枯れる」「急に飲み物を飲む」などの行動を起こすときは、言っていることと反対の可能性があるということです。
具体的に例をあげてみましょう。
ある仲が良さそうな夫婦がいます。夕食を食べ終え週刊誌を読んでいた夫に、妻はお皿を洗いながら「あなた、最近好きな人できたの?」と聞きます。そのとき、夫が週刊誌をパッと落として「そんなことあるはずないじゃないか!」と言う。これは内心では「バレたか」というときの反応であることが多いんですね。つまり、「認識反射」というのは、反射的に返ってきた態度や言葉の反対側を見なさい、ということです。これを採用面接の場面に応用してみましょう。
たとえば、面接者は受けている企業すべてに“第一志望です!”という姿勢で面接に臨みます。なので、私が面接官なら、いろいろとお話していく中でこう言うようにします。「あなたにとって我が社は、第三志望でもいいんですよ」と。このようなことを言う会社はないので、面接者は意表を突かれるわけです。
もし、第一志望ではなかった場合、「もちろん第一志望です!」と言いつつも、動揺して語気を強めて言う可能性があります。そう言った場合は、“ウソ”ということになる。本当に第一志望であれば、動揺も語気を強めることもしませんから。このように、面接者が想定していなかった意表を突く質問をすることで、本心は見抜けるというわけです。
採用面接では、面接官も会社の魅力をアピールしなければ、面接者に振り向いてもらえません。短い時間で、他社よりも強く印象に残る伝え方はあるのでしょうか?
強い印象を残すには、30秒以内に魅力を伝えることが大事です。これは、「エレベーター・ピッチ」という手法で、エレベーターに乗る短時間の間にプレゼンを行うテクニックですね。30秒という限られた時間の中で、初対面の面接者に簡潔にお伝えする。なぜ、短い時間で伝えるかと言うと、人は自分にしか関心がないからです。「当社の創業は1960年で…」と話しても記憶に残らないんですね。
こんな話があります。長男が成人式を迎え、家族で集合写真を撮りました。両親と長男と次男の4人で。その後、カメラ屋さんで現像してもらった写真を家に持って帰ったお母さんが、最初に写真を見ました。すると、「なにこの写真!私の表情が変に写っているじゃない!」と言います。そんなお母さんにお父さんが「長男の成人式の写真なんだからいいじゃないか」となだめる。けれどそのお父さんが写真を覗き込むと「なんだこの写真は!俺のモモヒキが見えているじゃないか!」と怒った。よくありそうなお話ですよね。このように人は基本的に自分にしか興味がないことが多いのです。
つまり、面接者にとってあまり関係のない「創業何年」という話はあまり効果的ではなく、面接者が入社後にどんな経験ができるのかをはっきり示すことが大事。「あなたが入社したら、こんな舞台が用意されているよ」「あなたの仕事では、こういうお客様とも接することができるよ」と伝える。これを30秒以内でアピールできると、他社よりも強い印象を残すことができ、興味を持ってもらうことができるのです。
売り手市場の今、求職者には選択肢がたくさんあります。これまで受けてきた企業の中から「この会社に入社したい!」と自社を選んでもらうためには、面接でどんなことを伝えればいいのでしょうか?
以前、中堅企業の研修を担当させてもらったことがありました。研修には入社3年目の全員25歳の社員の方が参加していたんですね。私は本音トークをしたいと思って、人事の方には退出してもらってこんな質問をしてみました。
「30歳過ぎても、この会社で働いていると思いますか?」と。
そうしたら誰一人として手を挙げなかったんですね。「会社には長く働きます」と言っていても、本音では30歳までに転職や退職をしたいと思っているのです。
ようするに、「当社に入れば人生安泰」という話ではなく、「5年後には今以上の市場価値を持って転職できるよ」と伝えるほうが面接者には魅力的に映るんですね。転職の選択肢がたくさんある求職者から選ばれる会社になるには、“会社をあなたの飛躍の舞台にしていい”と言えるかどうかがポイントになるのです。
社員を育成する際に成長意欲を高める伝え方や、逆にやってはいけない指導方法を教えてください。
「目的」と「目標」の違いをきちんと認識すること。目的とは「何のために」。目標とは「どこに向かって」。この違いがあります。きちんと社員を育成するには、この「何のために仕事・事業をしているのか」という目的と、「どこを目指しているのか」という目標を明確にすることが重要です。
たとえば目標はあっても、目的を持たない会社がけっこう多い。何件訪問するとか、何件電話するとか、目標を達成することだけにとらわれる。それでは意欲は低下する一方です。そうではなく、「何のために私たちのビジネスはあるのか」「会社が何のために存在しているのか」を問いかけ、言い続けることが成長意欲を高めていきます。
確かに目標ばかりにとらわれると「お客様のために」という気持ちが失われてしまいますね。では、意欲が低下してしまった社員を意欲的にさせるには、どうすればいいのでしょうか?
ローパフォーマーとハイパフォーマーを分けるものは大きく4つあります。それは「共感力」「協力的姿勢」「向上心」「責任感」です。「共感力」とは、相手や置かれている場への関心。「協力的姿勢」とは、目標に向かっての貢献。「向上心」とは、進歩・成長する喜び。「責任感」とは、責任=応答する能力。
業績不振者と呼ばれるローパフォーマーには、共感力も、協力的姿勢も、向上心も、責任感もありません。一方でハイパフォーマーは、この4つの要素を備えている人が多いと言えます。この4つがパフォーマンスを大きく分けるのです。
日本全国の企業で研修やカウンセリングを行っていく中で、こういう例がありました。ある企業のローパフォーマーの中に、社会人野球優勝チームの控え選手がいました。上司からは「お前は本は読まないし、野球バカだし、社会人野球で挫折したから、ここに来て仕事している」と評価されていたのです。
そんな彼と私は面接をしました。野球のポジションを聞くと「キャッチャーです」と答える。キャッチャーは第二の監督とも言われ、頭を使うポジションです。そこをずっと守り続けてきたということは、頭がいい証拠。そのことを彼に言うと、嬉しそうな表情をするんですね。そうして心を開いてくれたところで、「あなたの目標はなんですか?」「どうありたいですか?」と聞きました。でも、出てきた答えからは挫折感しか伝わってこなかったんです。
彼は、社会人野球で挫折したことを十数年経った今も引きずっている。だから私は「子供たちと一緒に学んでみない?」と勧めました。子供に勉強を教えるのではなく、自分の勉強ですね。野球も勉強も子供と一緒にするようになって、彼は「協力」を覚え、勉強するようになって自分の目標も見えてきた。自分のような人のために組織横断的な非公式の勉強会を開いたんだそうです。
その半年後、学術論文まで読むようになりました。そして彼は、仕事でも力を発揮するようになり、ハイパフォーマーになったのです。
「共感力」「協力的姿勢」「向上心」「責任感」の4つを身につけると人は変わる、という実例ですね。言い換えれば、この4つが備われば、8割の人はマインドが変わり、結果を出せるようになるといえるでしょう。そのためには、勇気づけることが大事。マインドを変えるきっかけをつくってあげることです。
なるほど、勇気づけが重要なんですね。今から取り組める勇気づけの実践方法を教えてください。
アドラー心理学は「勇気づけの心理学」とも言われています。さまざまな困難に直面しても自分で乗り越えていける力を培えるのが「勇気づけ」です。
相手を勇気づける実践方法には“3つの態度“と”5つの技術“があります。
3つの態度とは、相手に寄り添う「共感」の姿勢、相手の善意を見つけ続ける「信頼」の姿勢、相手を敬う「尊敬」の姿勢です。5つの技術とは、「感謝を表明すること」「ヨイ出しすること」「聴き上手に徹すること」「相手の進歩・成長を認めること」「失敗を許容すること」です。
人材育成に関わる人はぜひ勇気づけに必要な3つの態度と5つの技術を実践してみてください。
“勇気づけ“ができる人を育てることが、まず会社が取り組むべきことなのかもしれないですね。お話いただいた採用面接や人材育成に活かせる心理学は、どれも明日からでも実践できる内容で勉強になりました。本日はありがとうございました。
- 人材採用・育成 更新日:2019/04/02
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