退職面談を有効な時間にするには?面談する際の心構えや質問事例などを紹介
従業員を生涯にわたって雇用する終身雇用制度も、人材の流動化が進み崩壊しつつある日本。今や、転職することへのハードルも下がり、働き方は大きく変わりつつあります。
もちろん、企業にとって退職者がでるのは悲しいこと。しかし、そこから学べることは沢山あります。
育成環境や研修内容、人間関係など、さまざまな要因によって退職に至ってしまった理由を退職者から引き出すことは、今後の組織改善につながる重要なポイントと言えるでしょう。
そこで、「辞め方改革」を掲げ従業員の退職体験を改善するためのサービスを提供しているハッカズークのCEOである鈴木仁志さんと同事業を推進する實重遊さんに、退職面談に臨む際の心得や本心を引き出すためのテクニックなど、質の高い退職面談のノウハウについてお聞きしました。
近年、退職面談が注目されている背景について教えてください。
鈴木仁志(以下、鈴木):退職面談が注目されている背景は、雇用の流動化が大きく影響しているといえます。総務省の労働力調査によると、2019年の転職者は351万人(※1)と過去最多となっており、企業側も終身雇用の終わりを宣言し始めた。
つまり、入社したら定年まで働くという社員は減少し、優秀な人材が転職や独立といったチャレンジをしやすくなる時代になるということです。
そのような中で、自社を離れたアルムナイ(企業のOB/OG)とその後も接点を持ち続けることの重要性が増しています。
アルムナイとつながりを持ち続けることは、再雇用や顧客化、口コミの改善・質向上、そしてイノベーションパートナーなど、企業にとってさまざまなメリットをもたらします。アルムナイ経済圏(企業と離職者、離職者同士の個人取引の含む市場規模)は年間で1兆円以上(※2)という推計結果も出ているくらいです。
その際にポイントとなるのが、退職面談です。より良い退職面談を実施することで、退職者との良好な関係性を維持できると考えています。
※1 出典/総務省統計局「増加傾向が続く転職者の状況」より抜粋
※2 出典/パーソル総合研究所「コーポレート・アルムナイ(企業同窓生)に関する定量調査」より抜粋
今こそ、各企業が退職面談の重要性や方法をインプットするフェーズということですね。
鈴木:退職面談だけではなく、退職者との繋がりを保つ方法のひとつである再雇用に関しては、さまざまな影響を受けて「戻りたい」と思うかどうかが決まります。
つまり、会社の環境や個人の心情により決断が大きく左右される。だからこそ、退職者との繋がりを保つうえでも、退職を決めてからの1ヶ月間をどう過ごすかはとても重要です。
その期間を私たちは「オフボーディング」と言っています。質の高いオフボーディングを経て、より良い辞め方をすることにより、その後の繋がりがポジティブになることは明確。
それら、退職面談を含むオフボーディングにフォーカスし、退職者に向けたアンケート調査などを実施しているのが弊社の實重(さねしげ)です。
退職面談を含むオフボーディングについて詳しく教えてください。
實重遊(以下、實重):従業員が入社するまでの期間から、在籍期間、そして退職期間という流れを整理すると、会社と個人の関係性は「候補者リレーション」「従業員リレーション」「アルムナイリレーション」という3段階に分けられます。
まず、候補者(応募者)が初めて会社と接点を持ってから入社するまでの期間の関係性が「候補者リレーション」。続いて、入社してから退職するまでの在籍期間が「従業員リレーション」。退職後の元従業員と企業の関係性が「アルムナイリレーション」です。
この中で、退職をすると言ってから実際に退職するまでの経験(従業員の引継ぎ期間や有休消化期間など)を退職エクスペリエンスと呼んでおり、その退職エクスペリエンスを構成する一連の流れがオフボーディングです。
オフボーディングで重要な考え方やポイントはどのようなことが挙げられますか。
實重:オフボーディングで最も重要なのが、今回のテーマでもある「退職面談」です。これは、最も良い瞬間と終わりの経験が、その体験への印象を大きく左右するという“ピークエンドの法則”からも証明できることです。
在職期間中におけるピークの体験と、エンドである退職時の体験がその会社の印象に一番大きな影響を与える。つまり、在籍中にとても良くしてくれた会社であっても、オフボーディングを失敗すると、悪い印象でエンドを迎えてしまうのです。
その後も会社に対して悪い印象を持ち続けることになり、アルムナイとしてのエンゲージメントも下がってしまうでしょう。
鈴木:このピークエンドの法則を理解することはとても大事です。分かりやすい例でいうと、レストランを訪れて接客も料理も最高で、滞在しているピークの時間帯は非常に上機嫌で過ごせたとしても、エンドである会計時にお店側と揉めてしまうとレストランの評価が一気に下がる。
これと同じ結果が、退職面談を含むオフボーディングでも起こる可能性があるので、注意が必要だということです。
退職の意思表明から実際に退職するまでの短い期間で、関係性が崩れないように回避する方策はあるのでしょうか。
實重:退職の意思表明から退職するまでの期間における体験、つまり退職エクスペリエンスをいかに良くするかが鍵です。弊社が行っている調査では、意思表明から退職までの期間で不快な思いをした経験があるか?という問いに対して、過半数以上の55.4%が「ある」と答えています。
また、「ある」と答えた人を対象に、会社への気持ちはどう変わったか?と質問したところ、31%が「好意が薄れた」、25.9%が「嫌いになった」と答えています。この結果からも、退職エクスペリエンスが与える影響の大きさを理解したうえで、退職者に冷たい対応をすることは避けるべきです。
退職エクスペリエンスのひとつでもある退職面談でも、注意すべきポイントがありそうですね。
實重:退職面談で注意すべきポイントは、退職者の立場にたって意見を尊重することです。これまで、面談する側や退職者本人など多くの方と話してきた中で、関係性が悪化するポイントも見えてきました。
例えば、企業側が退職者に対して、強すぎる引き留めを行うこと。この背景には、部下が退職すると自分(上司)の評価が下がるので、それを阻止したいという利己的な要因。
あるいは、“退職者=裏切り者”という文化が組織内にあり、常態化してしまっている風土的な要因があることが多いです。これらの要因に基づく過度な引き留めは、関係性悪化の代表的なケースといえます。
会社を辞める意志を伝えるまでに、いろいろな悩みや葛藤を乗り越えて決断したという退職者は少なくありません。それを否定するような対応では、心を閉ざしてしまって本質的な退職面談ができなくなってしまうのは当然のこと。
大前提として、退職の意志を尊重することからスタートするのがポイントです。
退職者が心を閉ざさない退職面談をするためには、面談する担当者の選定も重要ではないでしょうか。
實重:おっしゃる通りです。在籍中から良好な関係性が築けているだけではなく、それに加えて意志を尊重しつつ、退職者が「自分は必要とされている」と思える引き止めを丁度いいバランスで実践できる人が適任だと思います。
鈴木:双方の信頼関係も重要で、仕事面での距離があまりにも遠い人に対しては、フランクに本音を交えた会話は難しいでしょう。
反対に、直の上司や先輩など距離が近すぎても本音を言えないケースはあります。その際の方策としては、2段階に面談を分ける方法が効果的です。
採用面接でも、一次面接や二次面接というように面接を分ける場合があると思いますが、それと同じようにそれぞれで担当者や聞くテーマを変えることで、退職の理由や社内の課題点が見つかる可能性は高まります。
退職者の本音を聞き出すテクニックなどがあれば教えてください。
實重:退職者の本音を聞き出すうえで大切なのは順番です。まずは、「認める」ということ。
これまで務めてきた仕事内容と貢献してくれたことと、退職者が考えて決めたこれからの進路の2つをしっかりと受け止め、認めてあげましょう。ここを最初に実行することがテクニックのひとつといえます。
また、採用面接の時のように、面談をする担当者は、これまでの配属や残した成果など、退職者について調べる事前準備を怠ってはいけません。
次に大事なことは、しっかりと「聞く」ことです。どんな経緯でいつから退職を考えていて、どんなことに悩んでいたのかを丁寧にヒアリングします。
担当者が「認めて」「聞く」ことができなければ、退職者も無難に退職面談を切り抜けることを考えます。すると「一身上の都合」という常套句を理由にするケースが増え、今後の組織づくりのヒントやアルムナイとしての関係性を得ることは難しくなるでしょう。
退職面談を含むオフボーディングでの事例などがあれば教えてください。
實重:例えば、退職するタイミングと退職してから3ヶ月後に、面談とアンケートをセットで行い、退職理由や会社への評価などの本音や改善策を聞き出します。
その結果を企業側の学びに活用することで、オフボーディングのプロセスを変えることも可能。アルムナイが新しい会社と元いた会社との比較を客観的に行い、その結果をフィードバックすることで組織改善につなげていくケースも増えています。
鈴木:フォローアップ面談を退職者に提案することも進めています。退職者が新しい会社に入ってから予定を調整しようと約束しても、忙しくてなかなか調整できないというのはよくある話です。
それから3ヶ月くらい会わなくなると連絡しづらくなってしまう。そこで、フォローアップ面談をする旨を退職面談の時に提案するのです。
例えば、退職者の転職先がビジネスで提携できそうな場合、「入社したら上司に提案して欲しい」と先にアポを入れてしまう。これによって、アルムナイをオープンイノベーションのパートナーにできる可能性は高まります。
退職面談をより良い機会にしてアルムナイと繋がることは、これからの雇用を支える方策といえますね。
鈴木:これからは新たな人材を採用するのが難しい時代になります。そのため、退職面談を含めてアルムナイとの良好な関係性を築くための準備を始める企業の数が増えているのも事実。
テレワークなどの働き方が当たり前になり、入社初日からオンラインで仕事をしたり、業務委託や副業をしたりすることが当たり前になる日は近いでしょう。
そうなった時に、全く知らない人とオンラインや副業で繋がるよりも、一緒に働いていた元社員にアルムナイ制度を活用して仕事をお願いする方が進めやすいのは当然のこと。
これからアルムナイのニーズは確実に増えていきます。
實重:アルムナイと繋がるシステムによって、辞め方を改革し、退職エクスペリエンスをより良くすることを追求していく。それが、私たちのミッションです。
辞めた後も企業と人が繋がることにより、退職者=裏切り者というイメージは払拭され、新たなビジネスパートナーとして関係を継続できる。今後、人材の流動化が加速したとしても、オフボーディングを改善すれば、今までの雇用を超えた新しい関係性を築いていけるはずです。
- 労務・制度 更新日:2021/01/20
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