企業を成長させるダイバーシティとインクルージョン
最も成功しやすい組織とは、最も多様で熱心な労働力を持つ組織です。 デロイトの調査によるとダイバーシティとインクルージョンのレベルを上げることによって業績が80%向上した例があります。
人間は受け入れられ、潜在能力を最大限に発揮できると感じるとき、より積極的に、生産的で創造的になることができるのです。
『Inclusive Leadership: The Definitive Guide to Developing and Executing an Impactful Diversity and Inclusion Strategy: – Locally and Globally』は、ダイバーシティとインクルージョンの専門家である著者、シャルロット・スウィーニーとフレア・ボスウィックが、ダイバーシティとインクルージョンのある組織づくりを実現するための方法を解説しています。
その概要をご紹介しましょう。
なぜ、職場のダイバーシティとインクルージョンに取り組む必要があるのでしょうか? 主に次のような理由があります。
- 職場における差別禁止の法律を守るため
- 多様性のある企業が消費者に選ばれる傾向があるため
- 競合他社と差別化を図るため
- 組織を改革し生産性を上げるため
法律を守ることはもちろんですが、文化的な理由からダイバーシティとインクルージョンに取り組む企業が増えています。
例えば、アメリカでは消費者購入の85%を決定するのは女性で、ほかの国でも同じような傾向です。そのため、ダイバーシティやインクルージョンに取り組む企業が顧客や取引先から好まれています。競合他社に遅れないためにダイバーシティやインクルージョンに目を向ける必要も出てきました。
また、ダイバーシティとインクルージョンが達成できている職場は、達成できていない職場より従業員の生産性が12%高いというマッキンゼーの調査結果もあります。ほかにも、様々な調査で、ダイバーシティとインクルージョンが組織のパフォーマンスに良い影響を与えることが分かっています。
組織内のダイバーシティとインクルージョンの現状を知ることができるデータを集めて分析し、組織の中で何を変えなければいけないかを見つけ出します。また、取引先、顧客、ステークホルダーの意識を調べることも必要です。
ここでは従業員に対して、どのようなことを調べればいいかを例に挙げてみましょう。
● 従業員のデモグラフィックデータ
組織の中でどのような人が働いているのか細かく知るために、年齢、性別、人種、障がいの有無などのデモグラフィックデータを集めます。ほかにも信じている宗教、ジェンダー、セクシュアリティ、最終学歴、扶養家族の有無などの情報も聞くことができれば役立ちます。
ただし、無理に聞き出してはいけません。例えばアンケート形式で調査をする場合には「無回答」の欄をつくり、情報提供をするかどうかは本人の意思に任せます。
プライバシーに関する情報を聞き取ることが違法になる国もあるため「何を聞くか」を決めるときには注意が必要です。組織内の職位や職種ごとに、それらの人がどのように分布しているかも調べます。
● 従業員の意識調査
組織の中で尊敬と尊厳のある扱いを受けていると思うかどうか従業員に聞きます。例えば次のようなYes/Noで答える質問を含めたアンケートを実施します。
- 私は従業員としての価値を認められていると思う
- 私の上司は私がパフォーマンスを上げるために必要な指導や成長できる方法を提供してくれる
- 私の上司は私の尊厳を認め、尊敬の念を持って接してくれる
- 職場の人たちがお互いにオープンで正直だと感じる
- 職場での良いパフォーマンスが正当に評価されていると思う
- 私は職場における機会均等やダイバーシティとインクルーシブについてよく理解している
- この企業はビジネス全般において機会均等やダイバーシティとインクルージョンを向上させるために努力している
● 人材管理データ
人材管理データとは、魅力ある人材の採用を決めてから、その人が仕事を辞めることになるまで、人材のライフサイクルを全体的に捉えたものです。採用活動、昇進、退職前の面接などの各ステージで、その従業員に何が起きたかを理解することは、組織の中の問題点を見つけるのに役立ちます。
採用活動や昇進は機会均等に行われているでしょうか?
また、組織の中で様々なポジションにいる人たちを集めダイバーシティとインクルージョンについて考えるフォーカスグループを結成するのも良いアイデアです。フォーカスグループは定期的に集まり、組織の中で何が上手くいっているか、何を改善できるかについて話し合います。
さらに管理職の人たちがダイバーシティとインクルージョンについてどのような視点や見解を持っているか人事部の担当者が確認することも大切です。
ダイバーシティとインクルージョンに取り組むことで、どのような組織にしたいのか明確なビジョンをつくります。例えば「私たちはダイバーシティとインクルージョンを中心にビジネスを考えます。」というような目指す姿がビジョンです。そして、それを実現するための戦略を次のようなテンプレートに当てはめながら考えていきます。
- テーマ
- アクション
- 担当
- 期限
- 効果の測定方法
【例】
テーマ:採用エージェントにビジョンを周知すること
アクション:採用エージェントに当社のダイバーシティとインクルージョンの基準を伝え、それに沿った採用活動をすることを約束してもらう
担当:Aさん
期限:第一四半期中
測定方法:〇%の採用エージェントがダイバーシティとインクルージョンの対策に応じている
組織の中で変革を起こす役割を担う人をチェンジ・エージェントと言います。組織の文化や慣習を変えることは簡単ではありません。
ときには反対意見に立ち向かわなければならないでしょう。ダイバーシティとインクルージョンに取り組むチェンジ・エージェントになる人は、反対意見にも打たれ強く、先を見て行動できる素質が必要です。また、向上心と、誰からも信頼されるコミュニケーションスキルがなくてはいけません。
まず、セミナーやワークショップに参加してダイバーシティやインクルージョンに関する知識を深めましょう。また、本書のようなリーダーシップに関する書籍を読み、リーダーに必要な能力を理解することも大切です。
そして自分に足りない能力を埋める方法を見つけましょう。チェンジ・エージェントの役割は、チームメイトに好かれることではありません。好かれなくても尊重されることを目指してください。
業界の中のダイバーシティとインクルージョンについて、信頼できるベンチマーク(水準)があるか探してみましょう。また、競合企業はどのような取り組みをしているでしょうか?
そして国や地方自治体が企業のダイバーシティとインクルージョンを支援しているかどうかも調べてみてください。
組織の文化や慣習を変えるためには、力のある協力者を見つけることが重要です。改善の基準となる信頼できるデータを集めながら、ダイバーシティとインクルージョンを促進させる上で役立つ可能性のある個人、組織、フォーラムなどの連絡先リストを作成しましょう。
そしてフォーラムやネットワークに参加することで知識を高めながら、力を貸してくれる協力者を見つけます。
ダイバーシティとインクルージョンを推進するためのチームを組織の中につくります。その業務だけをする専門チームにするか、ほかの仕事と兼任するチームにするかは組織によりって異なり、それぞれに次のような長所短所があります。
● 専任チームの長所
- ダイバーシティとインクルージョンを優先的に考えられる。
- フルタイムの業務であるため外部から仕事を真剣に受け止められる。
- 専門家を雇うことでレベルの高い活動ができる。
● 専任チームの短所
- 組織のほかの人が自分には関係ないと思ってしまうことがある。
- 組織内の別の部署とコラボレーションが生まれにくい。
- サイロ化しやすく自己完結で終わりやすい。
● 兼任チームの長所
- ほかの任務についても知っているため組織についての認識が高い。
- 組織全体で長期的な持続可能性のために議題に取り組むため、ほかの人の知識が増える。
- 職務によって異なる視点を継続的に持ち込むことができる。
● 兼任チームの短所
- 本業のほうが優先されやすく、取り組みがなかなか進まない。
- 専門的な知識が足りないことで優先順位を間違えたり質やスピードが劣ってしまったりする場合がある。
- 外部の人からあまり真剣に受け止めてもらえないことがある。
給与や賞与などの条件の面にダイバーシティとインクルージョンを反映させるように継続的に働きかけます。ニュースや海外の情報など外部の討論や議題を活用して社内の進歩につなげましょう。
管理職やリーダー職にも、ダイバーシティとインクルージョンへの取り組みを繰り返し要請します。
退職は様々な理由で起こりますが、傾向を知るために退職の動機についてのデータを集めます。退職を決めた人と面接をする以外にも、アンケートや聞き取り調査など色々な方法が考えられるはずです。
データを分析して、どのような従業員が退職しやすいのか調べます。例えば、退職者の年齢に偏りがあるでしょうか?結果を元に、ダイバーシティとインクルージョンの観点から退職者を減らすための対策を練ります。
対策のアイデアは様々ですが、企業の同窓会組織をつくり、退職した人たちとネットワークを築くことが優秀な人材の復職につながるかもしれません。また、定年退職が近い人のために段階的に勤務時間や日数を減らすプログラムができれば、もっと個々の体力やライフスタイルに合わせた働き方ができるかもしれません。
包摂的(インクルーシブ)なリーダーは、自分の理想とする働き方をはっきりと認識しています。その上で、自分のスタイルを柔軟に曲げ、異なる考え方や働き方をする人、モチベーションの度合いがまったく違う人などを受け入れ、まとめることができます。
このような包摂的なリーダーを育てれば、チーム内の誰もが尊敬と尊厳のある扱いを受け、自分自身のままで活躍できるようになるでしょう。それがインクルーシブリーダーシップです。
著者は、インクルーシブリーダーシップを鍛える方法として、いくつかの建物や都市に分散しているチーム、または世界各地に点在する環境や文化が違うチームを、どのようにまとめスキルアップさせていくか考えてみることを提案しています。
ダイバーシティとインクルージョンが向上するとビジネスにも利益をもたらします。例えば、障がいのある人が使いやすい製品や、ユーザーの文化や人種に合わせた製品などの開発がよい例でしょう。
多様な民族のメンバーで構成されるチームであれば、海外進出にも有利です。また、文化を越えてサプライヤーと取引をすることで、新たなチャンスが生まれることもあります。
ダイバーシティとインクルージョン推進の担当者にとって大切なのは、調査結果や事例を元に市場での可能性を数字で示すことです。
ダイバーシティとインクルージョンへの取り組みが成功しているブランドは、顧客や求職者を引きつけます。マーケティングの部署と協力することで広告やWEBサイトを変えたり、製品やサービスを開発する部署にアドバイスをしたりと、これまでの取り組みから得た知識を生かすこともできます。
ダイバーシティとインクルージョンへの取り組みは、企業が本当のイノベーションを起こすために、なくてはならないものです。そして、多様性と包括力のある文化ができたところで終わるものではありません。その文化が続いていくように継続的な努力が必要です。
タイトル Inclusive Leadership: The Definitive Guide to Developing and Executing an Impactful Diversity and Inclusion Strategy: – Locally and Globally (English Edition)
著者 Charlotte Sweeney & Fleur Bothwick (著)
出版社 FT Press(初版2016/11/04)
ISBN-10: 1292112727
ISBN-13: 978-1292112725
- 人材採用・育成 更新日:2021/02/03
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