人材育成における基礎作りを。OFF-JTの手法とメリット・デメリット
人材育成は、その会社の未来をも左右します。良い人材を採用して終わることなく、トレーニングなどで人材を自社に最適化していくことにより、さらなるパフォーマンスの向上が期待できます。
一般的な人材育成訓練としては、OJT(On-the-Job-Training)とOFF-JT(Off-the-job-training)が挙げられますが、多忙な業務に追われるなかでは、より実務的なOJTがメインになりがちです。
しかし、優秀なビジネスパーソンを育成するためには、OJTと対をなすOFF-JTが非常に重要です。両者の役割の違いをしっかり理解し、効果的に人材開発に取り入れていけるよう、今回はOFF-JTの特徴や手法について学んでいきましょう。
OFF-JTとは?OJTとの違いは?
OFF-JTとは(Off-the-job-training)の略称です。通常の業務を行うなかで、教育を行うOJT(On-the-Job-Training)とは異なり、通常業務から離れて機会を設けて実施する人材教育方法です。
OJTとOFF-JTの違い
OJTは、業務の中で、先輩社員が指導対象の社員と一緒に仕事をしながら必要な知識やスキルを教える人材育成方法です。そのまま実務に活かせる能力が身につく反面、各場面での教育になるため体系的な知識を学びにくい傾向にあります。
一方で、OFF-JTは、専門家が作成したカリキュラムを元に講義形式などで行われます。このカリキュラムは受講者が体系的な知識を身に着けられるように設計されています。
数字から見るOFF-JTの実情
令和3年度に厚生労働省が行った「能力開発基本調査」の調査ではOFF-JTを実施した事業所は70.4%で、労働者一人当たり平均額は1.2万円でした。
また、正社員に対する今後3年間のOFF-JTに関する支出見込みでは「増加させる予定」が35.7%、「減少させる予定」が1.1%で、増加する予定が大幅に上回る一方、「実施しない予定」が35.3%でした。
さらに、実施したOFF-JTの内容に関しては「新規採用者など初任層を対象とする研修」が76.1%、「ビジネスマナー等のビジネスの基礎知識」が47.2%となっており、基礎知識はOFF-JTで学ばせたい意向が見られます。
OFF-JTのメリットとは?
OFF-JTとOJTは、しばしば対の関係で語られます。OJTには「現場で学ぶことができ実践的である」というメリットがありますが、OFF-JTのメリットは大きく分けて4つあります。
メリット1. 体系的に学べる学習機会
1つ目のメリットは、「体系的に必要な知識を学べる」ことです。
OJTでは、すぐに使える現場の知識の習得に終始してしまうことも多く、それがどのような意味を持つのかなどを論理的に学ぶことが難しいという問題があります。しかしOFF-JTにおいては、その業務に必要な知識や考え方などを、系統立ててじっくり学ぶことができます。
メリット2.教育の均質化で知識量のバラツキが少ない
2つ目のメリットは、研修結果の個人の知識量・成長にバラツキが少ないことです。
OJTは、教材は現場に合わせてケースバイケース、また、マンツーマンに近い形で、直属の先輩社員が指導者になるスタイルが中心です。その結果、指導者の能力や相性によって、社員の成長が左右されてしまいます。
一方、OFF-JTは、同じ講師のもと同じ教材で多人数が学習するスタイルが中心です。同じ講義を受けた受講者は、均質化された同じ教育を受けるため、研修を受けた結果の個人の知識量は、バラツキが少ない傾向にあります。
メリット3. 新たな関係性の構築
3つ目のメリットは、「横の繋がりができやすい」ということが挙げられます。
多くの場合、OFF-JTの目的は、新入社員の教育もしくはマネジメント教育。新たに管理職となった社員や中堅社員に対してOFF-JTを実施している、と答えた事業所が45%に上ります。
事業所の形態にもよりますが、部署が分かれている場合、横の繋がりは希薄になりがちです。自分の上司・部下のみと接する時間が長くなり、“同じ立場にある人”と距離ができてしまうこともあります。
そこでOFF-JTを実施することにより、研修生同士、つまり“同じ立場にある人”同士でのコミュニケーションが生まれます。自然に彼らと会話をすることになるので、横の繋がりを持つことができます。
また、OFF-JTでは、社外の人たちと一緒に学ぶ外部が主催する研修もあります。その研修を通じて、自社では学べない新たな知識を得たり、社外の人脈を広げたりもできます。
メリット4.全社方針と必要な知識の標準化
4つめのメリットは、会社の方針や必要な基礎知識を一度に教育し標準化がはかれる点です。
例えば、自社の理想の管理職像を定義し考え方を浸透させる効果や、全社員を対象としたコンプライアンス研修や個人情報保護法研修など事業に必要な統一した基礎知識を授けることができます。
OFF-JTのデメリットとは?
デメリット1. 即時性・実践性
一方、OFF-JTにもデメリットはあります。OFF-JTは上でも述べたように、知識などを系統立てて学ぶという訓練方法です。そのため、OJTのような即時性・実践性はあまり求められません。
将来的には役立つ知識や考え方の基本は学べたものの、それを実践で活用する機会がないということもあり得ます。このように「結果がわかりやすく表れるまで時間がかかる」というのがOFF-JTの大きなデメリットです。
デメリット2. 時間の確保
加えて、日々の業務のなかに学びの機会があるOJTとは異なり、OFF-JTの場合は通常業務とは別に教育の機会を設けなければなりません。つまり「訓練自体にも時間がかかる」のです。
デメリット3. 研修コストの捻出
お金を払って勉強させている状態になるため、事業所にとっては「経済的な負担」がデメリットになることもあります。特に外部機関に委託した場合、その費用も発生しますので、実施する前には十分検討をするべきでしょう。
デメリット4.一次的な生産性の低下
OFF-JT研修は業務時間内に行われ、その間、社員は業務に携わることができなくなります。
結果、生産性の低下や、仕事の遅れを取り戻すための残業で人件費が余計に発生する可能性があります。
いざOFF-JTを行うとき、どんな手法をとるべきか
ひと口にOFF-JTと言っても、その手法はさまざまです。それぞれの特徴とメリットとデメリットについて見ていきましょう。
1. 集合研修
研修を受ける人が会議室などに集まって受けるものです。その場にいる全員に対して同じ知識を与えることができ、グループワーキングやグループトークに非常に向きます。
ディスカッションやシミュレーションを行うことに長けている手法とも言われます。しかし大人数で行うため、ともすれば受動的になりがちです。グループでディスカッションの時間を設けて研修を活性化しましょう。
2. 通信教育
まとめられた要点を、安く手軽に、時間が空いたときに学んでいけるのが通信教育です。人を集めて行う必要がなく、自席で任意の場所で学習ができるため、移動や場所にかかるコストも必要ありません。効率面でもコスト面でも非常に優秀な学習方法です。
ただし、受講者の意欲が低い場合は効果を発揮しません。達成度を人事評価の対象に含めるなど学習意欲を高める工夫が必要です。
3. e-ラーニング
通信教育のひとつに数えられる場合もありますが、インターネットで動画などを見て学習し、途中でテストなどをする手法です。一度動画や資料を作ってしまえばそれを使いまわせるため、「依頼料が高すぎて毎回頼むことはできない……」というような、非常に高レベルな講師に依頼することもできます。
通信教育と同様に移動や場所のコストは必要ありませんが、基本的には一人で受講することが多く、自主性が求められる学習体系のため学習者のモチベーション管理が難しいという課題もあります。達成度を人事評価の対象に含めるなど学習意欲を高める工夫が必要です。
4. 外部講座
外部から講師を招いたり、外部に学習に行ったりします。上で挙げた「外部で学ぶことのメリット」がそのまま生きてきます。新しい観点からものを見る、広い視野を手に入れる効果が期待できます。
反面、自社にぴったりフィットした教育内容であるとは言い難いケースもあります。事前に内容を確認し慎重にプログラムを選びましょう。
OFF-JT研修の種類
OFF-JTで行われる研修は目的に応じてさまざまです。ここでは代表的な研修の例を紹介します。
階層別研修
社員の階層に応じて必要とされるスキルを学ぶ研修です。
- 新入社員研修
- 中堅社員研修
- リーダー研修
- 管理職研修
- 評価者研修
- アルバイト研修
職種別研修
職種に応じて以下のような必要なスキルを学ぶ研修です。
- セールス研修
- 技術研修
- コミュニケーション研修
- マーケティング研修
基礎研修
階層や職種に関わらず、社員全員が知っておくべき内容の研修です。
- コンプライアンス研修
- 個人情報保護研修
OFF-JT研修で活用できる助成金
OFF-JTには、厚生労働省が用意する「人材開発支援助成金」の制度を利用することができます。この制度では、OFF-JTにかかる経費に加えて、研修時間中の社員の賃金への助成も行われます。
助成金を受給するには、訓練開始日の1か月前までに「訓練計画届」をハローワークに提出する必要があります。また、OFF-JTのみを対象とするケースやOJTとセットにするケースもあり、実施するOFF-JTが助成金支給の要件を満たしているか事前に確認しましょう。
OFF-JTの導入・運用方法
ここではOFF-JTの導入・運用方法を紹介します。
課題の認識
例えば、OJTで新入社員にビジネスマナーを教えている工数がない場合にはビジネスマナー研修、評価者によって人材の評価に乖離がある場合は評価者研修。管理職の質にバラつきがあり離職が多く定着率が低い場合はマネージャー研修など。
経営層が感じている課題、現場が抱えている課題の情報収集を行い、研修で改善できる課題をリストアップし必要な研修を定義しましょう。
OFF-JTの対象者選定
研修を受ける対象者を選定します。社から指名する他に、参加希望者を受けつける方法もあります。
また、OFF-JTのメニューを用意して、社員に選ばせる方法を採用している企業もあります。
OFF-JTのゴール設定
研修後にどのような状態になれば合格かゴールを設定します。後述するカーク・パトリックの「レベル4フレーム」を参照に指標を設定する方法があります。
OFF-JTの運営方法を選定
外部のセミナーに参加するのか、講師を呼んで実施するのか、社員を講師として実行するのか、OFF-JTの運営方法を選定します。
外部の研修サービスを利用する場合
内容にもより変化しますが、研修を受ける社員一人当たり数万円程度。研修対象の社員の交通費や宿泊費なども会社側が負担する必要があります。
講師を呼んで研修をする場合
講師の実力・知名度・拘束時間によって大きく変わり、数万円から百万円の費用がかかります。自社の予算や目的にあわせて依頼先の選定を行いましょう。人気講師の場合は、数ヶ月前に日程を調整する必要があります。
OFF-JTの助成金に関する手続き
実施するOFF-JTが助成金の対象の場合になるか調査します。対象であるならば「訓練計画書」を作成し、OFF-JT実施前に管轄のハローワークへ提出しましょう。
OFF-JTの評価・効果検証
OFF-JTを実施後、設定したゴールを基に結果の評価を行います。理解度を図るためにテストの実施や、レポートの提出を求めましょう。
研修の評価手法として、カーク・パトリックが提唱した「レベル4フレーム」があります。評価の指標として参照しましょう。
レベル1:反応 | レベル2:学習 | レベル3:行動 | レベル4:成果 |
---|---|---|---|
対象者はOFF-JTに熱心にとりくんだか? | どの程度、知識を習得したか? | 対象者の行動はOFF-JT後に変化したか、実務に活かしているか? | 対象者がOFF-JTを受けたことで、どのような成果を出したのか?。 |
アンケートやレポートの内容で測定します。 | テストやレポートの内容で測定します。 | 行動の観察やヒアリングを行い評価します。 | 売上やパフォーマンスの向上、会社の業績向上で評価します。 |
OFF-JTの導入事例
ここではOFF-JTを実施した具体例を紹介します。
管理職人材の意識変革
老舗ジーンズメーカー株式会社エドウィンは、若手人材を育成する能力を向上すべく管理職人材向けのOFF-JTを実施しました。
OFF-JTの内容は、研修参加者全員でビジネスドラマ仕立ての動画コンテンツを視聴し、その登場人物たちの行動を各自が評価し、結果をディスカッションする手法を採用。
ディスカッションを通して、自分とは異なる視点や考え方を整理し、評価者としての能力を高め、意識を変えることに貢献しています。
管理職のエンゲージメントを高め離職防止
SBI損害保険株式会社は、これまで実務研修が中心で、管理職としての自覚やスキルを磨く研修が不足しており、また、社としての統一した管理職像が鮮明ではない課題がありました。
そこで、自社の独自の管理職の基本像を作り、エンゲージメント能力を高めるOFF-JTを管理職向けに実施して、若手人材の育成や離職防止の効果を狙っています。
会社と目的に適したOFF-JTで人材の土台を築く
OFF-JTには、知識やスキルの取得にあわせて、会社の統一した考え方や方針を浸透させる効果もあります。
OFF-JTを実施することで、社員は、新たな刺激を得ることで日々の業務を見直し、行動の変化を促せます。社員の階層の変化や異動にあわせてタイミングよくOFF-JTを実施していきましょう。
参考
- 人材採用・育成 更新日:2023/08/24
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