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オフィス環境から働き方改革!空間と制度による生産性への好影響とは

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個人と組織から考えるオフィスの在り方

Qオフィスにおける「働きやすい空間」と「働きにくい空間」の違いは、どんなところにあるのでしょうか?

山下:まず、オフィスとは誰のものかという考え方をもつことが大事です。ひとつは、ワーカー自身が働く個人の場所。もうひとつは、企業側の視点で、生産性の高い場所、さらには企業が掲げる経営目標を実現できる場所です。この個人と企業という2つの観点で見ていくと、個人としては、最低限の機能が備わっているかどうかで働きやすさに差が生じるでしょう。ただ、難しいのは「好み」の問題です。

Q確かに、個人の好みに合わせるとなると、コストもかかるし統一性も損なわれてしまいそうですね。

山下:そこが個人レベルで見たときのオフィス空間の難しいところです。企業としてはある程度は共通した場を提供したいけれど、個別性にも応えていかなければならない。静かなオフィスが好きな人がいれば、がやがやした環境の方が集中できる人もいますからね。そこで効果的なのが、最低限の機能性が担保された上で、個々が選択できる仕組みづくりだと考えています。最近では、ワーカー自身が場所と時間を選択しながら働けるアクティビティ・ベースド・ワーキング(以下:ABW)が日本でも少しずつ広まってきています。このように、どこまで選択できるかというのが働きやすいオフィスにとって重要になってきています。

Q固定ではなく、選択できるかどうかがカギとなるのですね。では、企業という観点ではどのようなオフィスが理想的なのでしょうか?

山下:企業としてみた場合は、働きやすさ、働きにくさというよりかは、目的を達成できるかどうかというところがポイントになります。(模式図参照)今までのオフィスは、大きく分けて「単純作業型」と「課題解決型」の2つの仕事が主流でした。これが現在では、テクノロジー(AIやIoTなど)が代替することで、単純作業などはオフィスでやらなくていいという声が増えています。その分、課題解決やコラボレーションの比重が大きくなり、今後は「課題探求型」という、答えもやり方も分からないような手探りで行うタイプの仕事をオフィスで行うという風潮が高まっています。目的によって事前に様々なパターンを検証したほうが良いと言えますね。

Qそれらは、業種や職種によっても同じことが言えるのでしょうか?

山下:業種や職種においても、目的を果たす上で有効な生産性とは何かということに焦点を当てた方が賢明でしょう。例えば、心地よいオフィスが本当にワーカーにとっていいのかという問題があります。家はリラックスできるけど、仕事はできないという人がいるように、オフィスを家のようにリラックスできる環境にすることが、みんなにとってハッピーな空間かというと一概には言えません。多少の緊張感や刺激を与えたほうが生産性は向上する場合もあります。このように、業種や職種においても、ビジネスが成功するために何が必要かを見定めた上で考えたほうがいいと思います。

生産性に好影響を与える色づかい

Q働きやすい空間について伺ってきましたが、オフィスの色味も生産性に影響は出るのでしょうか?

山下:一般的には、暖色系の方が興奮状態にしたり、活性化させる効果があります。寒色系はその逆で、鎮静化させたり、落ち着かせる効果があります。例えば、陸上のトラックを赤から青に変えている競技場などが最近増えています。これは、人間が集中して同じ場所を見続けられるという観点から、青色の方がいいと言われているからです。事実、タイムのムラが軽減されているそうです。同じような考え方で、オフィスにおいても落ち着いた配色の方が安定したパフォーマンスを発揮できると言えます。ただ、これには様々な説があって、色そのものが効果を変えるというよりも、色の濃淡による影響の方が大きいという説もあります。

Q「ワークスペース」と「会議室」とで、有効な色などはありますか?

山下:一般的な傾向として、ブレストなどの議論をする部屋は暖色系を選ぶ企業が多いです。ただし、国籍やカルチャーによっても色のスペクトラムの感じ方に違いがあるので注意が必要です。例えば虹を見た時に何色と認識するかも国によってバラバラで、日本では7色と認識していますが、アメリカでは6色ですし、ドイツは5色だとされています。今後、さらにグローバル化が進み、様々な国籍の方たちが混ざり合う社会になっていくので、色の捉え方は世界共通ではないということを頭に入れておく必要があると思います。

Qグローバル化のお話が出ましたが、海外オフィスなどで注目されているトレンドカラーはありますか?

山下:最近注目されているカラーは緑です。取り入れ方としてはリアルな植栽を使ったものがトレンドです。緑は人を安心させたりする効果があると言われており、シリコンバレーなどのTech系企業も導入しています。特に注目されている概念として「緑視率」があります。これは、視界の中に最大何パーセント緑が入っているかをあらわす比率で、25%入っていると人に安心感を与えることができると言われています。メガネのJINSが「Think Lab(シンクラボ)」というコワーキングスペースを手掛けていますが、世界一集中できるスペースとうたっており、そこにはふんだんに緑を取り入れて緑視率を高めています。また、オフィス空間改善方法のひとつである「バイオフィリックデザイン」も注目されています。これはナチュラルな素材を使ったり、実際に植物などの緑を配置して、オフィス空間に自然を感じる、自然に還っていくようなデザイン要素を取り入れる手法で、生産性の向上やストレスを軽減させる効果もあるとされています。

選択の自由度UPで生産性もUP

Qフリーアドレスなどを導入する時に、アイテムは統一したほうが良いのでしょうか。

山下:フリーアドレスの場合は、行う仕事によって場所を選ぶので、集中したい時は個室のようなスペースで行って、コミュニケーションを図りたい時は複数の人が座れる場所に行くなど、機能に応じて場所や家具なども変わっていくというイメージですね。選択の自由度が上がることで、生産性向上にもつながるケースは多くなると思います。

Qオフィス移転の予定がない企業がオフィス空間を変えるとしたら、どのような手法が挙げられますか?

山下:ハード(空間)を変えないのであれば、ソフト(制度)を変えるというのは一つの手だと思います。先ほども話題に挙がったフリーアドレスの導入も効果的です。営業職が多い会社であれば、日中はみなさん外に出られていてオフィスには事務職の方しかいない状態があると思います。そこにフリーアドレスを導入することで、座席の数を半分にして余ったスペースを有効活用できるでしょう。他にも、リモートワークなどを導入することで、ワーク・ライフバランスを整えることもできます。それらのソフト面を変えることによって、ワーカーのフレキシビリティを高めていくことが可能になります。

Q制度などのソフト面を変えることでも、働き方にバリエーションが生まれそうですね。

山下:はい。そのひとつが「マグネットスペース」を作るという手法です。例えば、必要に駆られて立ち寄るコピー機やごみ箱を一ヶ所にまとめたり、生理現象として誰もが利用するトイレへの動線上に家具や掲示板を配置するなど、様々な機能や機会をひとつのエリアにまとめて磁石のように人を吸い寄せるというものです。利便性は悪くなるのですが、人が出会うチャンスが生まれ、そこがコミュニケーションスポットになっていきます。私のおすすめは、コーヒーメーカーを置くという方法です。自動販売機は滞留時間が短いのですが、コーヒーメーカーはある程度待たなければならないので、そこに様々な人が訪れ、出会いのチャンスが広がります。

Q低コストで始められるので魅力的ですね。オフィス空間づくりによって生産性に変化が生まれた事例などあればお聞かせください。

山下:フレキシブルに働ける環境づくりが進んでいる代表的な国として、オーストラリアとオランダが挙げられます。この二つの国は、ほとんどの企業が時間と場所を自由にワーカーが選択できるようにして生産性を高めています。例えばオーストラリアにある大手企業の「ナショナルオーストラリアバンク」という銀行は、6000人が本社で働いており、全員が自分のデスクを持たずにどこでも働く場所をチョイスして良いという環境づくりを行っています。さらに、本社以外の家やカフェでも働く場所の選択肢は自由。そうすることで、育児や介護などの問題もある程度解消されていきますし、趣味や副業などもしやすくなり、モチベーションの向上やリクルーティング、あるいはリテンションにおいても有効な事例となっています。

カルチャーに目を向けたオフィスづくり

Q日本企業が、海外の事例のようなオフィス空間をつくる際の課題点などはありますか?

山下:課題点として、日本は工場などのブルーカラー系カルチャーによってオフィスが作られていることが多い点です。それは伝統的にメーカーが強いという歴史が影響しているからですが、何時から何時まで場所を特定されて作業をするというケースがほとんどで、非常にフレキシビリティの低い状況が続いています。ホワイトカラーというのは、基本的には仕事の成果は頭の中で出来上がることが多いわけですから、体を拘束することにあまり意味はないはずです。固定概念に縛られずに、もう少し選択できる働き方や空間をつくることで、日本企業の生産性は高くなるのではないでしょうか。

Q今後、働き方に自由度が増えると管理が大変そうと感じる企業も出てくると思いますが、メリットやデメリットはありますか?

山下:短期的にみると、フリーアドレスやABWは成果が上がりやすいという傾向があります。例えば、移動時間が減るとか、直行直帰しやすくなるとか、自分の好きな場所を選べるということで個々のモチベーションが高くなるというメリットがあります。一方で、長期的にみたときに難しいのは、ロイヤルティが下がりやすいということです。企業や同僚との接点が減ってしまうケースも出てくるので、そこを配慮する必要があります。

QABWの観点からもオフィスづくりで気を付けることはありますか?

山下:一般的に海外の場合は、ジョブに対して能力を持っている人を即戦力として採用する形をとっていますが、日本の場合は新卒で一括採用したり、中途採用においても企業によってやり方が標準化されていません。そのため、現場で育てていくOJTのスタイルをとっているケースが非常に多い。ABWのように散り散りに働くことと、OJTとでは相性が悪いので、その点は対処が必要です。一方、海外は成果主義なので、プロセスよりも結果を重視する文化があるため、ABWには適しているともいえます。

あとは、文化的な問題ですね。国によってコンテクストの重要度が異なるという考え方があります。コンテクストが低いというのは、文脈や空気を読まなくていい社会。コンテクストが高いのはその逆です。日本は世界から見てもっともハイコンテクストだとされています。そのため、せっかくルールや環境を整えても現場の空気でそれが形骸化しがちです。ABWを上手く運用するには文化そのものを変えていく必要があります。特に中小企業などは、そういったカルチャーをもっている傾向が強いので注意が必要です。

Q国のカルチャーはなかなか変えられないので、そうなるとやはり企業の中でのカルチャーを変えていくことが近道のような気がしますね。

山下:そうですね。ABWのように分散型で働きましょうという時流に乗るという意味でも、着手しないと手遅れになるところまで来ています。育児の問題、介護の問題というのは、企業の中で顕在化している課題ですから。また、特にミレニアル世代以降の人たちは、バラエティに富んだ人生を考えています。兼業や副業などもそうですし、趣味を広げたり、NPOで働きたいという風に会社だけに全ての時間を捧げようとは思っていません。だからこそ、カルチャーを見直すことがオフィスを考える上でとても大事なことだと感じています。

働き方改革により多様性が求められる時代に突入し、オフィスにおける生産性の向上や働きやすさにおいても、企業としての目的や文化を明確にした上で、それぞれに合った空間・制度を考えることがとても重要だと分かりました。本日はありがとうございました。

コストを掛けずにオフィス環境は変えられる

オフィス環境を空間から変えるには、コストも時間も掛かるため、なかなか踏み出せずにいる企業は多いと思います。最初の一歩として、変化に対応している企業の見学がおすすめです。そして、改めて企業が目指すべき方向性を明確にしながらカルチャーを見直し、ワーカーが能力を発揮できる制度や仕組みといったソフト面を変えることで、生産性に好影響を与えるオフィスに生まれ変われる可能性があります。これから社会で活躍するミレニアル世代以降のことを考えても、このタイミングでチャレンジしてみてはいかがでしょうか。

(参考)POINT PARK UNIVERSITY ONLINE「非言語コミュニケーションによる7文化の違い」

  • 人材採用・育成 更新日:2020/01/17
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