「5つの質問」で人物像が浮かび上がる
これは、インタビューの段階で必要な情報を聞き出せていない証拠です。もちろん、記者は若くても一応はプロなので、「5W1H」といった基本情報はもちろん、それぞれについて数字や固有名詞などの「具体的なデータ」は聞き出しています。
ところが、それらをいくら詳しく書き込んでも、本人が醸し出す雰囲気や、性格の本質は見えてこないのです。
例えば学歴や職歴、趣味などを細かく知っても、「有名大学出身=真面目な秀才」といったステレオタイプのイメージしか湧きません。そんな情報しか引き出せないなら、わざわざ記者が対面でインタビューする必要などありません。
これは、面接についても同じでしょう。わざわざ本人と会う以上、履歴書などからは分からない部分を確認しなければ意味がないのです。
なぜ「詳しく聞いたつもり」なのに「具体的なイメージ」が浮かび上がってこないのか。それは、人間が「個別具体的な事象」を「抽象的な概念」に置き換えて世界を理解する傾向を持っているからです。
少し実験をしてみましょう。
あなたは、毎日のように使っているマグカップを、記憶だけを頼りに絵で描けるでしょうか。持ち歩いているペンや、家の電子レンジの正面でも構いません。見慣れているものを実際に絵で再現してみてください。
ぼんやりとしたイメージは浮かんでも、細かい部分が思い出せないケースがあるはずです。
職業などによる個人差はありますが、実習などでこの実験をしてもらうと、自信を持って細部まで描ける人はせいぜい2〜3割。ある程度は描けたという人でも、「答えあわせ」をして自分がいかに曖昧に記憶していたかに驚く例が少なくありません。
これは、私たちが物事を抽象的な「概念」に置き換えて記憶するからです。
マグカップであれば、実際には世界に一つしかない固有性を持っています。大量生産品だったとしても、歪みや色のムラで微妙に異なりますし、使っているうちに欠けたりして特徴が増えていきます。
しかし、人間はそうした細部を記憶していると脳の容量がパンクしてしまうので、「マグカップ」といった抽象的な概念に変換してしまうのです。
例えば、「そのマグカップは恋人からプレゼントされた」「そのとき、こんな嬉しいことを言われた」といったエピソードも一緒に聞けば、イメージが湧いてくるでしょう。
マグカップそれ自体だけでなく、それを気に入っている持ち主の姿も具体性を帯びてきます。
じつは、こうした部分を聞き出せるかどうかが、インタビューの成否を分けるのです。これを業界用語では「エピ(episode=挿話)」「アネク(anecdote=逸話)」などと言います。
ところが、それを聞き出すのが難しいのです。ほとんどの人は、「抽象的な概念」として記憶したことを「個別具体的な事象」に再変換して伝える訓練を受けていません。記憶をそのまま言葉にすると、どうしても抽象論を語ってしまうことになります。
「詳しく」聞いても、せいぜいデータやスペックについての情報が増えるだけで、肝心のエピソードやストーリーが見えてこないのです。しかし、その部分こそが本人を本人たらしめている重要な部分なのです。
もちろん、物事をストーリーやエピソードで語るのが上手い人はいます。記者としての経験から言えば、芸能人やプロのスポーツ選手など取材慣れしている人は大抵そうした能力を持っています。
しかし、学生や一般のビジネスパーソンにそれを期待しても求める結果に結びつかない可能性が高いと考えられます。インタビュアーの側が、それを引き出す必要があるのです。
付け加えておくと、エピソードを語るというのは自己紹介をする時の極意でもあります。学歴や職歴、趣味について語っても、相手はそれらと結びついたステレオタイプのイメージしか持てません。
また、そうしたデータやスペックのほとんどは簡単に「優劣」がつけられます。学歴なら「偏差値」、趣味なら「自分と同じかどうか」などの物差しをもとに、一瞬で判断されてしまうのです。
しかし、ストーリーやエピソードは、個別具体的なので簡単に優劣を測れません。
そうした情報を語ることで初めて、相手に「取り替えの効かない一人の人間」として認識してもらえるのです。記者はそのことをよく知っているので、自己紹介では意識してエピソードを語ります。
おそらく、「やり手」とされる営業職も、自分を覚えてもらうために実践しているテクニックではないでしょうか。
- 人材採用・育成 更新日:2020/07/14
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