【会員限定】オンラインでも安定的な採用を行うために、知っておきたい3つの「トレンド」と「ポイント」
現場の実感をデータ化することで見えた採用活動における3つの「激動」
「自ら問いを設定して自ら探求せよ」「社会に必ず研究の知見をお届けせよ」という2つのモットーを軸に企業や組織における人材開発・組織開発に関する研究を行っているという中原研究室。今回のイベントではマクロなデータからは見えづらい、現場レベルでの就職活動の変化について解説していただきました。
新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、大きな変動の中で迎えた2021年卒の採用活動。就活生は苦しい就職活動を強いられている…と考えている方が多いと思いますが、実はマクロで見てみるとその影響はそれほど大きくなかったといいます。
実際、就職氷河期と呼ばれるリーマンショック後の2009年の求人倍率が0.4~0.6前後を行き来していたのに対し、2020年6月における求人倍率は1.11倍。前年比で0.5ポイントほど落ち込んだものの、比較的高い水準を維持したままでした。(※1)
とはいえ、実際にはほとんどの企業や学生が、大きな転換を迫られたと感じているのではないでしょうか?
マクロなデータからは見えてこない「変化」は大きく分けて次の3つの要因によるもの、と佐藤さんは語ります。
- 先行き不透明な市場
- 就職活動の早期化、長期化
- インターンシップのオンライン化
これらの変化にはどのような背景があるのでしょうか? 佐藤さんが解説します。
まずは1つ目の「先行き不透明な市場」について。
「これは業界によってその状況が大きく異なっており、建設、流通といった業界では求人倍率が6倍を超える一方、コロナウイルス感染症の流行による影響を受け、金融やIT業界では0.3倍前後になる(※1)など、業界ごとに採用状況に大きな差が見られます」(佐藤さん)
求人倍率が特に低い業界について中原教授は「日本の新卒一括採用制度は年に一度の定期採用。先行きが不透明な中では判断を先延ばしにして、とりあえず取りやめる方向に偏りがち」と分析しています。
今年の就職活動のもう一つのトレンドである、2つ目の「就職活動の早期化、長期化」については、柴井さんより学生の目から見た現状の解説がありました。
「近年、就職活動を大学3年生の春から始める人が増加する、いわゆる早期化の傾向が見られるようになりました。今年はこの早期化に加えて、内定を持っていても7月から8月まで活動を続けて、複数の内定を持ったまま長期の就職活動を行う傾向が昨年より強くなっています。その背景には、コロナ禍による社会状況の見通しの悪さがあるでしょう」(柴井さん)
中原教授もこうした長期化の傾向は実際に見られるとし、「内定を出せば入社してもらえるという前提が崩れている」と企業に向け警鐘を鳴らしました。
そして3つ目のインターンシップのオンライン化について。
「インターンシップを実施する企業、そして参加する学生が増え続けるなか、コロナ禍の影響を受け、来年以降の採用に向けてインターンシップの一部をオンラインにシフトする企業も増えています。
とはいえ、マイナビが企業を対象に行った「 2021年卒企業採用活動調査」では、インターンシップの全面的なオンライン化への賛成意見は1割未満になっており、なんとかオフラインでも実施したいという願望もあるようです」(佐藤さん)
この一見相反する現状に対し、中原教授は、
「コロナ禍の影響を受け、感染拡大防止のため、数を絞り、トップ層のみを厳選したインターンシップを開催する企業や、秋冬まで伸ばしてなんとか対面のインターンをやろうとする企業も多い印象で、完全オンライン化への壁はまだまだ厚いように感じます」とコメント。
インターンシップをオンライン化することへの課題は多くの方が実感しているようで、受講者からはチャットを通じてさまざまな意見が寄せられました。
ブレンデット・リクルーティングとは、オンラインとオフラインを組み合わせた採用活動を指します。
当日、イベント参加者に向けて行われた「来年度以降の採用フローでオンライン、オフラインをどのように活用するか」というアンケートでは、およそ4分の3に当たる74.8%が一部のフローをオンライン化すると回答。一方、全過程オンラインで行うという回答は5%、従来どおりオフラインで行うという回答は6.5%にとどまりました。
参加者のチャットの中にはオンライン就職活動に疑念を抱く声もありましたが、そうした意見を受けて中原教授はこう語ります。
「気持ちは分かるのですが、オンラインは絶対嫌と言ってしまうと、それは感染拡大には配慮しない、つまり従業員の健康に配慮しないというメッセージと捉えられてしまいます。感染拡大に配慮しますよ、というメッセージを出しつつ、いかに会社の魅力を提示するのか、そのバランスをオンラインとオフラインを組み合わせてとっていく必要があります」(中原教授)
その上で、前提となるのがポイントの2つ目「Digital Fluency」なのだそうです。
単なるスキルではない配慮としてのDigital Fluency (IT環境への対応能力)
ブレンデッド・リクルーティングを行う上で、採用担当者はITツールへの対応能力が問われるようになっています。しかし、こうしたDigital Fluency (IT環境への対応能力)を単にツールを使えるという「スキル」と解釈してしまうのは危険だと言います。
「企業の採用関係者にとって、ITスキルだけでなく、ITツール特有の課題への対応が重要になります。特に個人情報の取り扱いは重大な問題です。例えば、今回の調査では、学生のうち、約12%が面接録画に不安を感じていることが明らかになりました」(柴井さん)
柴井さんはデータを提示しながら、学生の抱く不安について解説してくれました。
データにもあるように、録音・録画についてプライバシーを気にするほか、「オンライン面接を行う時に、プライベートな空間を映すことに抵抗があるか?」というアンケートでは実に50%以上の学生が「はい」と回答したとのこと。こうした結果を受け、今年就職活動を行った柴井さんはこう続けます。
「部屋の広さ・内装の問題や親御さんとの関係上、家でオンライン面接を受けることに抵抗を覚える学生も少なくないです。実際、知人の中には、背景の映り込みを懸念してオンライン面接をトイレのドアの前で受けたという人もいます。
こうしたオンラインならではの課題や悩みをきちんと先読みし、丁寧に対応していくことが学生たちの企業の印象を変え、個人情報を任せる安心感を生み出します。事前に簡単なレクチャーをしたり、受け答え以外の情報を結果に反映させないことを約束するなど、学生も採用担当者も共に安心・安全・安定的な採用活動をやっていけたらいいのかな、と思います」(柴井さん)
しかし、オンラインでもポイントさえ意識すれば企業の魅力はきちんと伝えられると中原教授は説明します。
「フルオンラインの採用活動で重要になるのは、内定者フォローです。基本的には対面で行う場合の3倍以上のコンテンツを用意して、どんな仕事をするのか、誰と働くのか、のイメージをじっくりつくり上げていくことが必要になります。情報が少ないまま、学生たちが見えない部分に「期待」してしまうと入社前後のフローで現実と理想のギャップが大きくなりすぎて、早期離職や内定辞退につながってしまうんです。
特に、どこで誰と働くかをイメージできるかがその後の定着率を変えるのではないかと思っています」(中原教授)
こうした言葉を受け、佐藤さんも自身の経験から印象がグッと良くなった企業のオンラインイベントを振り返ります。
「僕もオンラインの懇親会に参加した際、人事ではない社員が話しているグループに割り振られたことがあるのですが、社員同士のリアルなやりとりを見ることができてすごく良かったです。思い返しても入社のイメージが湧くいい懇親会だったな、と思います」(佐藤さん)
- 人材採用・育成 更新日:2020/10/29
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