尖った企業理念を持つ会社|店舗でもバックオフィスでも、すべてのスタッフが大切にする「うぬぼれ」――株式会社鳥貴族
多業種展開をする企業も多い飲食業界では珍しく、「鳥貴族」ブランドのみで直営を中心に出店を加速してきた同社。2017年11月末時点で596店舗を展開し、中途採用も精力的に進めています。
そんな鳥貴族の採用現場では、「焼鳥屋で世の中を明るくする」という理念が積極的に語られています。
「鳥貴族の理念は、誰もが共感しやすいものだと思っています。『世の中を明るくしたくない』と考える人は、おそらくほとんどいませんよね。皆が願っている当たり前のことを、あえて声を大にして言う。そんな姿勢に共感してくれる人は多いと感じています。
店に足を運んでくださったお客さまが明るくなれるだけじゃなくて、この環境に身を置けば働く自分自身も明るくなれるかもしれない、と」(江野澤さん)
私たちの理念は『鳥貴族のうぬぼれ』として全店に掲げていますが、実際にお店を見てもらうことではっきりと伝わることも強みだと思います」(久保山さん)
この理念が制定されたのは、鳥貴族が創業から6年を迎えた頃。代表取締役の大倉忠司氏は創業当時から「焼鳥屋で世の中を明るくする」という志を持っていましたが、当時は「たかだか数店舗の焼鳥店が主張するにはあまりにも大げさでうぬぼれている」と受け取られたこともあったそうです。
しかし大倉氏の「たかが焼鳥屋、されど焼鳥屋、焼鳥屋の事業を通じて世の中を明るくできる」という思いは本気でした。そこでこの志をあえて「うぬぼれ」という一言で表現し、理念として明文化したのだといいます。
店舗で「鳥貴族のうぬぼれ」を見てファンになり、その思いを強く持った状態で応募する人も多いのだとか。掲げられた理念が採用ブランディングにつながっていることはもちろん、採用時のミスマッチを防ぐ意味でも重要な役割を果たしています。
全店舗のスタッフが毎日必ず見ている「鳥貴族のうぬぼれ」は、店舗数がまだ数店舗の時代から掲げられているといいます。
創業期から会社を支える現役員以外のほとんどのメンバーは、この理念のもとで入社してきました。江野澤さんが入社したのは、ようやく10店舗目に達した頃でした。
「私は入社当初、実は理念というもの自体に肯定的ではなかったんですよ。前職は営業職で、いろいろな会社に出入りしていたんですが、だいたいどこの会社でも立派な理念を掲げていますよね。
でも実態はそうではないところがほとんど。理念が形だけになっているという『会社あるある』をたくさん見てきたので、鳥貴族も同じだと思っていました」(江野澤さん)
そんな江野澤さんが入社後に衝撃を覚えたのは、毎月開催される店内ミーティングに参加したとき。そこでは、店長も社員もアルバイトも全員が参加して「どうすれば『鳥貴族のうぬぼれ』に書かれていることを実践できるか」を真剣に議論していたそうです。
本部で働く社員たちも皆口ぐせのように「焼鳥屋で世の中を明るくしたい」と言っていました。皆が本気で理念を実現しようとする姿を目の当たりにしたのです。
「私も中途入社組。前職では鳥貴族の取引先企業に勤めていて、鳥貴族をよく知っている状態で入社しました。
永遠の理念として掲げる『鳥貴族のうぬぼれ』だけでなく、永遠の使命『外食産業の地位向上』、永遠の目的『永遠の会社』という3つを掲げていて、入社前からどれも大好きでした。
社内にはこれらの理念を体現している人たちが多いことも知っていて、取引先として見ている頃から面白い会社だな、と思っていました」(久保山さん)
久保山さんが入社まもない頃、とある企画を立てて部下に説明しました。そのときに返ってきた反応は「久保山さん、それをやることで焼鳥屋で世の中を明るくすることにつながりますか?」というもの。
一つひとつの仕事が理念につながっているかを深く問われる会社なのだと、改めて感じたそうです。
店舗にも本部にも深く浸透している同社の理念は、どのようなプロセスを経て浸透しているのでしょうか。
「全店舗に掲げている『鳥貴族のうぬぼれ』は、すべてのスタッフが毎日必ず目にしています。実際の仕事のシーンに直結することが書かれているので、深く心に焼き付くようですね。
また、理念が書かれた『鳥辞苑』というオリジナルツールをアルバイトも含めた全スタッフに渡しています。総務や経理など、中途入社で店舗を経験していないバックオフィスのメンバーも同様です」(江野澤さん)
この『鳥辞苑』は、スタッフ全員がいつでも見返せるように携帯することとなっています。入社時の研修では理念を学ぶ際に使用され、日頃の店舗でのミーティングにおいても内容を読み合わせるなど、全社のスタッフにとって、とても身近な存在となっています。
理念に基づいた会話が交わされるのはもちろん、その志に日常で触れられるようにする工夫も、社内で理念を浸透させていく上での大切な要素となっているのです。
理念への共感は、入社後だけでなく、入社前の採用段階から重要視しています。求人広告や説明会、面接、入社手続きといった一つひとつのプロセスにおいて、「理念をいちいち語る」のだとか。
「鳥貴族の理念はとてもピュアな話をしているので、『自分には相容れない』という人もいないわけではありません。明らかに価値観が違うな、という人は採用に至りません」(久保山さん)
「効率性や利益を最優先に考えたい、飲食業をあくまでもビジネスとしてのみとらえたいという人は、結果的に入社していないように思います」(江野澤さん)
中途入社者も新卒入社者も、入社後は「理念研修」を受講。毎回約3時間をかけて、創業期を知る役員が当時からの思いをじっくりと語るプログラムで、お客さまとのエピソード事例や先輩社員たちの経験談などを語ることで理念の意味を伝える場としています。
その他の研修でも、参加者で理念プレゼンをし合ってディスカッションし、理念への理解を深めていくこともあるそうです。
こうして浸透させた理念の体現度は、「お客さまからのお褒めの言葉」としてフィードバックされます。
「お客さまの声はメールで本部にいただきます。この中でお褒めいただいたメンバーは、全社共有の場で発表しているんです。
もちろん会社として評価したり、スタッフ同士で称え合ったりすることも大切だとは考えていますが、何よりも重視すべきはお客さまの率直な声。お褒めの言葉をいただいたスタッフ本人も、何よりもうれしいはずです」(江野澤さん)
焼鳥にこだわり、焼鳥で成長し続ける鳥貴族。同社が大切にする「永遠の理念」「永遠の使命」「永遠の目的」は、その名の通り変わらない価値観として生き続け、部署に関わらずさまざまなポジションのスタッフによって体現されていました。
- 経営・組織づくり 更新日:2018/02/01
-
いま注目のテーマ
-
-
タグ
-