人材育成の新時代、ワークショップを使いこなす
京セラの創業者、稲盛和夫氏は「人生・仕事の結果」を「考え方×熱意×能力」という方程式で表しています。稲盛氏はこのうち能力を「先天的なもの」と定義し、高められないものとしています。仮に高められるものだとしても、スキルや能力には座学の研修が効果的であることは先に述べた通りですし、研修で教えられない専門的な能力に関してはOJTが有効でしょう。
残る2つ、考え方と熱意は医療用医薬品の研究者にとって非常に重要なテーマです。医療用医薬品の研究開発は成功確度が低く、長い年月がかかります。必然的に、自ら何をどう考え、どのように熱意を高めるかを考えなければなりません。
これらを取り扱う場合の学習目標は「より良い考え方を習得する」「自分の熱意の源泉は何かを知る」といった表現になります。このような学習目標を達成するためには深い内省が必要であり、ワークショップとの親和性が高い領域と言えます。
前回の「研修設計時に見落としがちな2つのポイント(後編 実践編)」でご紹介した「病院見学研修」を例にとって説明します。ただ病院見学をしただけでは新しい情報をインプットしたにすぎません。事前にチームビルディングを行い、事後に対話の時間をとって初めて、この研修がワークショップとして機能します。
医療用医薬品の研究者は、薬が実際に使われている現場を見る機会がなかなかありません。いまだ疾患に苦しむ患者様や、より良い治療のために奮闘する医療従事者の皆さまを目の当たりにして、心が動く研究者は多いです。見学を通して価値観が揺さぶられるのです。
その後、しっかりと対話の時間をとり、自分の意見を言葉にすること、他者の意見を聞くことで、利己的な目先の成果から最終的なゴールを見据えた利他の考え方へ意識が変わる、熱意を高め努力する重要性を再認識するなどの変化が起こります。
「正解のない『問い』に向き合う力」は、厳密には能力の一つかもしれませんが、感覚的で抽象度が高く、状況にも依存するため、なかなか座学では身につきません。正解のない「問い」に向き合う力は厳密には2つに分かれると考えています。1つはそもそも良い問いをたてる力、もう1つは正解のない問いに対して自分なりの回答を見出す力です。
研究現場では、過去に例がなく新しいアイデアが求められる状況や、複数の課題を一気に解決する斬新な切り口が必要な状況など、正解のない問いに向き合う場面がよくあります。どのような問いを立てれば現状を打破できるのか、自分はどう向き合えば良いのか、非常に悩ましい問題ですが、ワークショップが活用できる学習目標になり得ます。
社内ワークショップでプロのファシリテーターを交えた対話を行っていると、自分たちだけでは発想できなかった視点からの問いや、日常的には使われない深く内省を促すような問いが投げかけられることがあります。自分の引き出しにない問いに触れると、その分だけ受講者の視野は広がります。ワークショップで取り扱うテーマの抽象度を高めること、他者の視点を取り込むために社内外を問わず多様な人と交流できる仕掛けを盛り込むことなどが、正解のない問いと向き合う力を育てます。
- 人材採用・育成 更新日:2020/07/21
-
いま注目のテーマ
-
-
タグ
-