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中途採用を失敗させないために 「職のミスマッチ時代」に備え人事は何をすべき?

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中途採用に「即戦力」を求める企業は多いことでしょう。

しかし中途採用は、変化する時代に企業を対応させ続けるためにも重要なものです。 先を見越した人材確保の場であるという側面にも、注目する必要があります。

即戦力を採用しても、それが人材の逐次投入 (小出しに投入すること)というだけになってしまっては採用にかかる時間もコストも垂れ流しになり続けます。

そこで今回は、人事担当が知っておきたい日本の人材市場の将来像をご紹介していきます。 先を見越した人材確保の参考として、お役立て下さい。

2020年代後半に訪れる「職のミスマッチ」時代

三菱総合研究所の推計によると、日本の人材市場は2020年後半から「職のミスマッチ」時代を迎えると指摘されています(図1)。

図1 2020年代後半からの労働需給ギャップ
(出所:「技術革新(AI等)の動向と労働への影響等について」厚生労働省資料)p1

2020年代後半から、生産職、事務職で多くの人材が過剰となる一方、専門技術職で大幅な不足が発生します。また、わずかな割合ではありますが、管理職の不足の幅も広がっていることがわかります。

これらはおもにAI・IoT・ロボットの導入がもたらす変化です。生産現場や事務職にはすでにロボットやAIが浸透しつつあることは多くの方がご存じでしょう。 一方でこれらの技術を最新のものに保ち、さらなる革新を進めるための人材が欠かせなくなるということです。

そしてAI・IoT・ロボットがもたらす人材需給ギャップは「遅れて顕在化する」という点にも注意が必要です。将来の人材ポートフォリオがどのようになっていくのか、具体的に2つの図でみてみましょう(図2、3)。

まず、2015年の人材分布です。4つに区切られた仕事の特徴が挙げられており、それぞれに属する人数を示したのが下の図です(図2)。

図2 2015年の日本の人材ポートフォリオ
(出所:「技術革新(AI等)の動向と労働への影響等について」厚生労働省資料)p2

そして、それぞれの領域での人数分布は、このように変化していくという推計です(図3)。

図3 2030年の人材ポートフォリオ
(出所:「技術革新(AI等)の動向と労働への影響等について」厚生労働省資料)p4

2030年までには上のように人材ポートフォリオをリバランスできることが望ましい、ということを示す数字でもあります。

専門職確保はすでに苦戦が始まっている

さて、足下の変化を見てみましょう。 マイナビの中途採用に関する調査では、企業の間ではITを含むスペシャリスト人材の不足感が最も大きくなっています(図4)。

図4 2022年前半の正社員の過不足感
(出所:「中途採用実態調査2022年版」株式会社マイナビ)

すでに存在しているこの傾向が2020年代後半にはより顕著になる、というわけです。 この点は中途採用にあたっての大前提となります。 早めの確保、教育が企業の先々を左右することは間違いないでしょう。

現代の人材マネジメントの大きな課題

しかし、せっかく中途採用で専門職人材を手に入れたとしても、成果や目指すところが見えない状況が続くと、企業にとっても採用された人材にとっても不幸なことです。 じつは、この状況は他人事ではありません。現在の企業が人材マネジメントのうえで抱えている課題として、経済産業省は下の3つの視点を指摘しています (図5)。

図5 人材マネジメントの在り方に関する課題例
(出所:「人材マネジメントの在り方に関する課題意識」経済産業省)p11

これには、2つの要因があると筆者は考えます。

まずひとつは、即戦力(=現在ある一時的な問題を解決してくれる人材)にばかり目が行ってしまい、戦力の逐次投入になってしまっている可能性です。

そして、もうひとつの要因は、より深刻です。 DXという新しい時代にあって、DXを前提にした経営戦略が明確でない状態に陥っている可能性があるのです。 経営戦略が明確でないために、人事戦略もうまくいかない、という状況です。

この状態では、専門職人材が欲しいと言っていくら確保しても、無駄になりかねません。 企業が人材を使いこなせず、採用された人材も成果が見えない状況となれば、せっかく採用した人材にすぐに去られてしまうことでしょう。 ビジョンのない場所でスキルだけを搾取される環境を、転職者は好みません。

よって、経営戦略を決定するトップが人事にもコミットすべきというのが経済産業省の指摘です。

外資系企業との競争力

さて、もうひとつ興味深い統計があります。 外資系企業と日系企業の従業員構成です(図6)。

図6 中途入社者の割合
(出所:「企業の戦略的人事機能の強化に関する調査」経済産業省資料)p8

上図は、日本企業は新卒採用を人材確保のメインとしているのに対し、外資系企業では人材の流動性を前提に人を採用していることを示しています。 よって外資系企業のほうがはるかに中途採用に積極的であり、日系企業の大きな競争相手になっていることは明らかです。実際に経済産業省も、日本企業の雇用コミュニティは、現在の外資系企業のような新しい形に変化する必要性を示しています(図7)。

図7 雇用コミュニティの変化
(出所:「事務局説明資料(経営戦略と人材戦略)」経済産業省)p4

メンバーの出入りを前提とした雇用形態への変化が必要、というわけです。 そこには中途採用だけでなく、フリーランスや複業・副業者の力も必要になっていくことでしょう。

明確な経営戦略に紐づいた人事戦略を

中途採用というと、「抜けた人材の穴埋め」の色が濃い企業も少なくありません。しかしここまで見てきたように、中途採用はその場しのぎのものではなく、中長期的で明確な経営戦略の中に含まれなければなりません。よって、経営陣と人事担当の密な連携が欠かせなくなります。

また、組織の中を人材が自由に出入りし、外部からの風を持ち込むことが前提にある組織づくりをしていかなければなりません。

ある経営者がこのように語っていたことが筆者には印象に残っています。 社員の離職について、 「無理に引き止めないが、今後もなんらかの形で自分の会社と関わり続けて欲しい」 というものです。

これがまさに、今後求められるスタンスなのです。なお、今後の人事戦略には、以下のような原則・方策が必要だと指摘されています(図8)。

図8 これからの日本企業に求められる人材マネジメント
(出所:「企業の戦略的人事機能の強化に関する調査」経済産業省資料)p24

「企業の戦略的人事機能の強化に関する調査」「企業の戦略的人事機能の強化に関する調査」 p24中でも筆者が大事だと思うことが2つあります。

ひとつは、「3つの原則」の2つめ、 「個人と企業がお互いを選び合い、高め合う関係」 という点です。

もうひとつは、「6つの方策」として挙げられている6つめ、 「経営トップ自ら、人材および人材戦略に関して積極的に発信」 するべきであるという点です。

外部との競争力強化のための中途採用は、明確な経営戦略のもとに実施されて初めて実を結ぶのです。

  • Person 清水 沙矢香

    清水 沙矢香 -

    2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。
    取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。

  • 人材採用・育成 更新日:2023/03/15
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