HRテック活用でミスマッチが激減。カルチャーフィットする人材を見極める方法
企業が未来を描く上で重要とされる「経営デザイン」について、具体的に教えてください。
経営デザインとは、将来の「ありたい姿」から、「現状」を認識することにより、今なにをなすべきかという「変革課題」をとらえて実践することを特長とする、経営の仕組みづくりです。つまり、経営において根幹を成す部分を設計図としてまず見える化することを目的としています。
経営の仕組みづくりとして“経営の見える化”を目的とする背景には、どのような理由があるのでしょうか。
きっかけは、経営や事業の承継問題がありました。日本全体の高齢化が進んでいるのと同様に、経営者の高齢化も右肩上がりで推移しており、今、70歳以上の経営者はそれほど珍しくありません。そのため、今後、経営者が勇退する企業が増えることは確実であり、特に中小企業における事業承継は、以前から大きな課題となっていました。
経営品質協議会の泉谷直木代表(アサヒグループホールディングス会長)をはじめ経営者がこの問題に大きな危機感を示し、私たちは生産性向上を担う立場として「経営デザインによる生産性向上プログラム」を立ち上げ、その一環として2018年に創設したのが「経営デザイン認証制度」です。経営の見える化によって、いわゆるワンマン経営のような“人の経営”から、次世代が当事者意識をもって改革に取り組む“組織の経営”にシフトするお手伝いをしています。
“組織の経営”に向けた経営デザインで重要なポイントなどがあれば教えてください。
経営デザインは、言い換えれば「これからの経営設計図」になるので、自社の経営がこれから目指す方向を次世代の幹部が中心となって明確にしていきます。トップである経営者ひとりが今の事業に対して、“とても価値がある”と言ったところで、結局は次世代の幹部になる方が同じ想いを持っていなければ意味がありません。
つまり、彼らが魅力に感じられるように伝えて、経営をバトンタッチすることが必要です。そのため、経営幹部や社員それぞれが経営デザインづくりに参加して魅力を言葉にして共有することにより、組織全体の力で経営変革と事業成長を図ることが重要なポイントになります。
最近耳にするようになった「カルチャーフィット」の意味について教えてください。
企業カルチャーと求職者の価値観や性格特性が合っているかどうかを採用基準に設ける手法です。企業カルチャーとは業務を行う際に必要なスキル以外の部分と言えるかもしれません。
たとえば、仕事を進める方法は様々ありますよね。メンバーで話をして決めるのか、1人ですぐに判断するのかどうかなど。その仕事の進め方に影響するものとして、企業理念や、規律、既存メンバーの特性、キャリアに対する姿勢などが企業カルチャーです。
企業カルチャーと求職者の特性が合っているかどうか、お互いの「好き嫌い」を企業全体や既存のメンバー、求職者双方で許容しあえるのかなどが採用シーンで注目されているんです。
「カルチャーフィット」する人材を採用するメリットはなんでしょうか?
離職率を下げられます。
ある研究では、「カルチャーフィット」 を重視しない企業よりも、重視する企業の方が新卒入社6年以内の離職率が低いことがわかっています。また、「カルチャーフィット」を重視しない会社では、入社12ヶ月後の退職率が高い傾向もあるそうです。退職率が下がることで、採用や育成にかけたコストも無駄にならずに済みますよね。
「カルチャーフィット」していない人材は、やりたい業務内容ができなくなったら辞めやすい。また日々のメンバー同士のコミュニケーションに不協和音が発生しやすく、仕事を進めるためにもコストが掛かります。結果的にその積み重ねが自社の利益を減らすことにもつながります。
逆に「カルチャーフィット」している人材は、他社から今の倍の給料でスカウトされたとしても自社に残ってくれる可能性があります。なぜなら給与面以外で自社で働く理由を持っているからです。どんなに優秀な人材でも理念や人間関係、意思決定の方法などに価値を感じて働き続けてくれるんです。
他にどのようなメリットがあるのでしょうか?
カルチャーフィットしている人材が多いと、メンバーが連携して仕事しやすくなると思うんです。
近年、テクノロジーの発達により、これまで通用していた事業内容やスキルが陳腐化しやすくなっています。そのため企業は変化に対応できる組織をつくる必要があります。しかし、そこに向けた業務のやり方や細かなルール設定やマニュアル化は難しいですよね。
それよりも、大枠の行動指針が決まっていて、メンバーそれぞれが自律して動けるほうがいい。実際に動き出すときに、メンバー同士の価値観が合っていることで、コミュニケーションコストがかからず、早く動き出すことができます。今も成長を続けている企業は、カルチャーが共有されており、自律して動けるメンバーが多いからではないでしょうか。
自社にフィットする人材を見極めるにはどうすればいいのでしょうか?
まず自社のカルチャーについて知ることが大切です。既存メンバーに話を聞くことからはじめましょう。
「あなたは、なにを大切にして仕事をしているのか?」
「自社の好きなところはどこなのか?」
「どうして好きなのか?」
これらを聞いてみることで、いくつか共通する要素が出てくると思います。
たとえば、50名規模の企業だったら何名くらいに聞けばいいのでしょうか?
理想は全員です。
もし限りがあるのならば、自社で活躍している人と自社を愛してくれている人に聞いてみるのがいい。その人たちが感じていることが、自社のカルチャーであり、強みの部分にあたると思います。
次に、話を聞いた人たちが、普段メンバーとどういうコミュニケーションを取っているのか、どういう仕事の進め方をしているのかを見てみましょう。そうすることで、自社でいきいきと働くために必要な要素がはっきりしてきます。
面接で気をつけるポイントはありますか?
面接前に求職者の情報を読み込んで、できるだけ多く仮説を立てましょう。たとえば、転職回数が多い求職者の場合、その人は新しい環境に飛び込むことが好きかもしれませんよね。また、その要素が自社でどう活かせるかも考えておくといいでしょう。
もう一つのポイントは、一般論の色眼鏡を外すこと。たとえば、転職回数が多い人は「問題あり」とみられがちです。しかし、上記の仮説が正しければ、新規事業に積極的な企業にはフィットするかもしれません。
あと、自社で求めている要素を持っているか面接で直接聞くことも大切。面接だけで判断できない場合は、インターンで働くことを提案したり課題をやってもらうのもいいと思います。
質問のコツはあるのでしょうか?
自社が求めている要素をこれまでどう体現してきたか行動ベースで聞くことです。
たとえば、数字を基準にして物事を判断する人が活躍できる会社だった場合、
「これまで意思決定をどういうふうにしてきたか」
「上司に仕事の提案をする際にどう説得してきたか」
などを聞いてみる。
「数字で決定するのが好きですか嫌いですか?」
と聞いてはいけません。あくまで求職者が意思決定をする際のプロセスや行動について聞いて判断しましょう。
仮に、求職者の話すエピソードに疑いが生じたならば、更に具体的な行動を聞くことで、嘘か見極めることができると思います。
面接時での質問以外で、自社にフィットするか見極める方法はあるのでしょうか?
ツールの活用も一つの手段だと思います。自社のもので恐縮なのですが「mitsucari適性検査」というサービスがあります。これは適性検査と人工知能の分析を通じて企業と求職者のフィット度合いを可視化できます。
一般的な適性検査との違いは、求職者側だけではなく企業側も適性検査を受ける点。これにより自社のカルチャーを可視化し、求職者とのフィット具合をより客観的な視点で確認できるんです。
「適性検査」の内容について教えてください。
質問内容としては、「楽観的か、悲観的か」「興味のない仕事でも給料が高ければいいか、給料が低くても自分のやりたい仕事をしたいか」「プレイヤーとして働きたいか、マネージャーとして働きたいか」「チームの成長のために働きたいか、個人の成長のために働きたいか」「一人で集中してする仕事の方が好きか、人とコミュニケーションを取りながらする仕事の方が好きか」などが挙げられます。
それらの質問に回答することで14の軸が明らかになり、企業の特性と求職者のマッチ具合を判断できるんです。企業と求職者がどれだけ類似しているかだけではなく、部署ごとや、個人でも比べることができます。
人が判断するのとどう違うのでしょうか?
ツールなら認知バイアスを排除できます。人間の直感が間違っているとは思わないのですが、採用を決める大事な場面で、客観的な情報で判断できるのは大切なのではないでしょうか。
そもそもツールか人かのどちらかで判断するのではなく、共存して使えばいいですよね。面接官の他に、ツールという相談役が一人増えたと思えばいい。自社メンバーにも適性検査を受けてもらう時間はかかりますが、それができればあとはメリットしかない気がします。
「mitsucari適性検査」を導入したことで変化した企業の事例を教えてください。
たとえば、従業員規模50名前後の小売店が導入して、ミスマッチが減少し、内定承諾率が上がったという事例があります。
老舗自転車屋なのですが、紙面上での適性検査導入はしていたものの、データをうまく活用できてなかったそうです。また、組織拡大の時期であり、「人事業務の仕組み化を進めていきたい」という課題を持っていました。
そこで、検査時間が10分で済み、PC上でデータを簡単に管理できる「mitsucari適性検査」を導入したことで、求職者の分析が気軽にできるようになったそうです。
また、1次面接から導入することで、早い段階でミスマッチを防ぐことができ、面接の時間を有効活用できるようになったと言っていました。他の企業では、エントリーシートと同時に「mitsucari適正検査」を受けてもらうことで工数削減につながり、書類審査の選考スピードが上がったという声もありました。
「mitsucari適性検査」の効果的な使用方法はありますでしょうか?
できるだけ多くの求職者に1次面接で受けてもらうことです。その後どういう人が選考に進んで、どういう人が辞退しやすいのか傾向がわかります。また応募してくる人の傾向も掴めるかもしれません。応募してくる人の傾向と、実際に採用に至った人の違いがわかると、それをヒントに採用広報の仕方を見直すこともできるのではいないでしょうか。
次に、マッチ度の項目を細かくみることです。自社で活躍しているメンバーの中には、マッチ度が30%しかない人もいるかもしれません。その人のマッチしているポイントをみることで、最低限この軸は持っていないといけないという要素がわかります。また企業全体とのマッチ度は関係ないが、直属の上司とのマッチ度は重要という人もいるでしょう。
ツールを利用することで、自社で抱えている課題を把握し、それを深く考えるきっかけになるんです。なので、ツールを使いこなしつつ、人が考えを深め続けることが、「カルチャーフィット」する人材を見極めるためには大切ではないでしょうか。
- 人材採用・育成 更新日:2018/12/06
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