オンボーディングの意味は?効果やポイントを紹介
オンボーディングとは、企業が採用した従業員に対して行う教育・育成プログラムのひとつです。もともと『船や飛行機に乗ること』を意味する「on-board」から派生した言葉であり、“企業”という乗り物に新たに加わったメンバーがいち早く馴染み、パフォーマンスを発揮するための手助けをするという意味を持っています。
そう聞くと、入社後に行われるオリエンテーションや新人研修、OJTをイメージする人も多いかもしれません。しかし、それらはいずれも入社後に集中的に行われる傾向にあり、完了次第、すぐに既存社員と同等の業務を任せる傾向にあります。自走できない段階で業務に取り組んだ結果、「もしかして自分はこの企業とは合わないのではないか」と考えた社員が定着せずに辞めてしまう……といった事態が起こっています。
また、オンボーディングは全員一律のプログラムを集中して行うシステムではなく、社員ごとに組まれたプログラムを長期的に行っています。疑問点を都度聞けたり、悩み事を相談できる環境は、新しい環境になかなか慣れない新入社員をサポートするのに最適だといえるでしょう。
オンボーディングは誰のもの?
オンボーディングの対象となるのは、新卒入社の社員だけではありません。近年では、新卒入社よりも研修の期間が短い中途採用者こそ、オンボーディングが必要だと考えられています。
中途採用者の多くは、前職でのやり方を引きずってしまう傾向にあります。「前職での活躍を理由に採用したのに、なかなか成果を出してくれない」と思う企業も少なくありませんが、理由は中途採用者が成功したパターンをアップデートできなかったり、これまでは必要なかったスキルが求められる状況に挫折してしまうため。入社の時点で「即戦力」であることを期待され、周囲もそういった目で見る環境は中途採用者にプレッシャーとなり、戸惑ってしまう原因にもなっているのです。
オンボーディングのはじまり
もともと、オンボーディングはアメリカの経営コンサルタント会社、プライムジェネシス社の創始者であり取締役でもあるジョージ・ブラッドと共同経営者であるメアリー・ヴォネガットが必要性を提唱したことから広まった取り組みです。
そんなオンボーディングが広まったのは、多くの企業が「人材育成の費用対効果の低さ」を課題に感じていた点が大きく関わっています。
個人差はあれど、新入社員が即戦力になるまでにかかる時間は半年から1年ほどだと言われています。企業としては「1日も早く自走できるレベルになってほしい」というのが本音ですが、厚生労働省の「新規学卒者の離職状況」では、大学を卒業した新卒者のおよそ3人に1人が3年以内に離職していることが明らかになっています。
早期の離職となれば、採用や教育にかけるコストも水の泡。そんな状況を改善すべく、多くの企業はオンボーディングに注目しています。
オンボーディングの効果
では、オンボーディングを実施することでどのような効果が得られるのでしょうか。
1.定着率の上昇
離職の理由のひとつとして「職場の人間関係」がありますが、これは職場で孤立してしまったり、良好な人間関係を構築できなかったことが関係しています。どんなにやりたい仕事であったとしても、人間関係を憂うつに感じ、働く意欲がわかなければ意味がありません。
一般的に組織に参加したばかりの人は、「どうすればいいのかわからない」、「誰に相談すれば解決するのかわからない」と不安を感じやすいもの。しかしオンボーディングですぐに相談できる環境を整え、成功体験を重ねるまで徹底したサポートを続ければ、不安も解消できるはずです。
2.採用コストの無駄をなくす
先述した通り、採用した人が定着する前に離職してしまえば、採用までに費やしたコストは全て無駄になってしまいます。そこからさらに新しい人材を探し、採用する必要が生じると余計なコストがかかります。
オンボーディングにより採用者が定着すれば、採用におけるコストが余計にかかることはありません。時間を含め、別の物事にリソースを割けるため、結果として企業の業績アップにもつながります。
3.団結力が高まる
オンボーディングは新入社員と既存社員のコミュニケーションを活性化させる効果も期待できます。コミュニケーションを取るのが担当者だけだった従来の研修とは異なり、オンボーディングは同じ企業で働くさまざまなメンバーと関わることも珍しくありません。コミュニケーションを通し、人となりを知ることで良好な人間関係が築かれ、ときにお互いに助け合う雰囲気作りも出来上がります。
4.エンゲージメントの向上
オンボーディングでは新入社員ひとりひとりに対し、企業への理解を深めるための施策が行われます。結果として企業で働く自覚を持たせ、エンゲージメントを向上させることにつながります。
オンボーディング成功のポイント
メリットに気を取られ、「早速うちも導入してみよう!」と見切り発車でオンボーディングの導入を決めても、成果を得られることは難しいでしょう。オンボーディングを成功させるためには、いくつかのポイントを押さえておく必要があります。
1.目標設定
オンボーディングでは、「その部署ではどのようなスキルが必要なのか」「いつまでにどれほどの業務ができるようになってほしいのか」といった目標設定が欠かせません。目標設定がされれば、それまでにどんな教育プログラムを行うべきなのかが明確化し、企業側での準備ができるようになります。
オンボーディングの目標設定は、採用基準を定めることにもつながります。スキルや素質を見極められるため、採用にかかる時間を削減できるでしょう。
2.企業を知ってもらう取り組み
業務だけでなく、企業の社風やビジョンを新入社員に知ってもらう取り組みを行いましょう。企業を知ることでエンゲージメントが高まり、「1日でも早く戦力になれるよう頑張ろう」と社員も積極的な姿勢を見せてくれるかもしれません。
・上層部が企業の歴史やビジョンを説明する会
・先輩社員による企業独自の文化やルールを紹介する場
・社員目線の社内報作り
・内定者を対象とした企業見学
また、入社後のギャップを恐れ、企業のデメリットをひた隠しにすることは避けましょう。新入社員にとって、不信感につながるのはデメリットではなく、ひた隠しにされていた事実です。デメリットも包み隠さず、それをカバーするための施策やデメリットを上回るメリットを伝えるようにしましょう。
3.コミュニケーションを活性化させる取り組み
新入社員が業務での疑問点を質問するほか、ときにプライベートでの悩み事を相談できる場を設けるのもオンボーディングでは有効です。
・メンター制度
・部活動の紹介や体験入部
・シャッフルランチ
・社内での飲み会
・定期的な1on1面談
・相談窓口の設定
また、コミュニケーションの一環としてツールの活用もおすすめです。たとえば同じタイミングで入社した「同期」を対象としたチャットルームを作り、ランチの誘いや困ったときの質問など気軽なコミュニケーションが取れる場を作っておくのも、ヨコの繋がりを強化するうえで有効です。
4.学習ができる環境づくり
新入社員がスキルを磨き、新たな知識を学べる環境を整えておくのも、オンボーディングでは重要です。
・eラーニングツールの使用許可
・参考書購入における補助
・社内勉強会の実施
・社外セミナー参加費の補助
興味を持った参考書の購入や、社外セミナーの参加が気軽にできるようになれば、積極的に学習する姿勢が身につくことが期待できます。周りからはたらきかけるのも大切ですが、自ら学ぼうとして得た知識やスキルは新入社員にとって自信につながるでしょう。
5.定期的な振り返り
定期的に取り組みや成長を振り返る機会を設けると、新入社員のモチベーションアップにつながります。
そのためには、1ヶ月ごとに目標と反省を行い、フィードバックと評価を伝えましょう。日々の成長を評価することで、確実な成長を実感させ、「来月はもっと◯◯をできるようにしよう」と自ら具体的な目標設定を行うようにもなります。
6.社内全体での情報共有
オンボーディングは社内全体での取り組みです。新入社員のこれまでの取り組みなどを情報共有できるようにしておき、プログラムによっては他部署のメンバーが関われるような環境を整えましょう。
オンボーディングの取り組みは、対面でしか実現できないものばかりではありません。新入社員が地方の支店に配属された場合でも、オンラインツールを活用することでオンボーディングは十分可能です。
たとえばコミュニケーションツールはチャットのほか、オンライン会議ツールやバーチャルオフィスツールも有効です。文字だけでは伝わらない、微妙なニュアンスもつかめるためより良好なコミュニケーションが生まれます。
また、代表的なオンボーディング施策である研修も、オンライン会議ツールを使えば場所にとらわれずに実施できます。リアルタイムで映像を配信する形式にすれば、疑問点をすぐに聞けるため、新入社員の間で教育格差が生じることを避けられます。
中途・新卒を問わず社員の定着率を上げるためのオンボーディング
- 労務・制度 更新日:2021/12/23
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