制限の多い人事にもテレワーク導入!在宅勤務の実現の仕方とは
フリーアドレスの導入、サテライトオフィスの設置、テレワークの導入。働き方改革の流れに乗り、新しい働き方を積極的に取り入れる企業が増えてきました。しかし、新しい働き方がすべての職種に適応できるわけではなく、一部の職種に限られてしまっているジレンマ。特にテレワークは“会社から離れると業務に支障をきたしてしまうから、私たちには難しい働き方”と、人事の方々は思われているのではないでしょうか。
でも、取り組み方次第では人事でもテレワーク可能。実際に全社員テレワークを実現し、働き方コーディネートサービス事業を展開するTRIPORT 株式会社では、社長みずから色々な働き方を実践しています。そんな、たくさんの成功体験を得て、平成30年度には厚生労働省・経済産業省・東京都からもテレワーク関連の表彰・選定・認定されている代表取締役社長の岡本秀興さんに「様々な制限があってテレワークが難しい人事が、リモートで仕事を行える方法」をお伺いしました。
人事は主に「採用」「教育」「人事考課」といった仕事を担当しますよね。それを今まで通りのやり方で行なってしまったら、すべての業務に支障が生まれてしまう。例えば、“採用”なら「面接者と会えないから直接会って話をするように相手を知ることができない。どうやって面接すればいいの?」というテレワークの問題(支障)が出てきます。
また、“教育”なら「在宅で新入社員に仕事を教えるとなると細部まで教えることは難しい」という問題も出る。さらに“人事考課”では、例えば「管理部のような数字では判断しきれない職種の場合、直接働いている姿を見られないテレワーカーは尚更、正当な評価をしてもらえないのではないか…」という問題も出てくるのです。このように、出てくるであろう問題を事前に対処しないまま在宅勤務を始めては、人事のテレワークは成功しません。
人事に限らず、テレワークを取り入れてみたけど思ったような成果が見られなかったり、現場サイドが導入に前向きじゃない場合などは、テレワークによって起こりうる問題を想定せず、さらには解決策すら考えず、いきなり導入しているケースが多い。だから、失敗に終わってしまうのです。
大切なのは“テレワーク”という働き方を実現できるように、一つひとつの仕事を“見える化”し、具体的な対策としてメスを入れること。「採用」であれば“在宅でもできる面接方法”や“直接会えない分の面接者情報を収集する方法”といったリモート採用時における経営リスクを“見える化”し、その問題点への具体的対策を考えていく必要があります。
「教育」「人事考課」も同じように、問題点を見つけて一つひとつ紐解き、どんな対策を取ればテレワークは実現できるのか。ということを徹底的に考えることが解決につながっていくのです。人事のテレワークを始める前に、導入後のことをきちんと想定した対策を練っているかどうか。それだけでも、テレワークの実現性は高まります。
例えば「リモートで採用はどうやるのか」という疑問を人事のみなさんは持っていると思います。私たちの場合、テレビ会議と同じように面接者と画面を通して面接を行います。ただ、テレビ会議だと対面じゃないから見えない部分も出て来るという意見がある。その指摘は正しくて、そのための対処方法を考えることが重要なのです。
方法は様々ありますが、例えばポテンシャルや潜在意識などを検査する150問の「性格適性検査」を独自に開発し、面接者の資質を見える化。面接者には事前に検査を受けてもらいます。その結果を見て、今求めている人材のステータスにどれだけ寄っているか、テレワークの働き方に適性があるか、ということを見極めていく。このように、いきなり面接することはせず、事前に面接者のタイプがわかるように対策を取っているのです。
また、当社では原則、すぐに無期の雇用契約を結びません。まずは、雇用契約前に業務委託契約、または有期の雇用契約を結ぶ。この契約は一見、労働者に不利のように思われてしまうのですが、テレワークは労働者にとって実際にやってみないとわからない部分も多い。なので、1ヶ月間の業務委託契約や、有期の雇用契約を結んで、「会社のこと、仕事のことを体感してください」と面接者に伝えています。
もしテレワークの働き方、また会社自体が合わなければ、業務委託なので気楽に辞退できる。そうしたメリットが労働者側にもあるので、テレワークでも働いていけると思ってもらえたら雇用契約を行います。そのため、業務委託の期間でお互いを知ることができているので、画面を通しての面接でも採用の質が落ちることはありません。むしろ直接対面で面接しただけで雇用契約するよりも、断然リスクを抑えたうえでしっかりと採用活動を行うことができているのです。
同じ空間にいなくて、対面じゃないから、仕事を教えるのは難しい。そう多くの人が思っていると思います。そんな心配を払しょくするため、当社では徹底した業務の“見える化”をし、動画マニュアルや業務を遂行するうえで活用できる各種テンプレート等を作成。「こういうシナリオの時には、こういうチャットメッセージを送る」というテンプレートを用意したり、「こういうケースの時には、こういうフローで進めていく。このフローの、このステップのときには、こういうto doをしていく」というのを事細かに見える化したり。動画マニュアルを観たら、ひと通りわかるレベルまで作り込んでいきます。
動画マニュアルは、一部署だけではなく、すべての部署で作成しています。それでも、それだけでは怖いと思うので、さらに社員がテレビ会議でフォローする体制を構築。このように教育方法も仕組み化することでリモートでの育成が可能になって、社員一人ひとりがしっかりと成長できるのです。
目の前で仕事ぶりを見てない人をどうやって適正に評価するのか。この議題は、とても気になるところだと思います。評価に関しては“テレワークだから”という話なのかという部分を掘り下げていった結果、“テレワークだからではない”という答えに行き着きました。世の中の多くの評価は、労働量や労働時間に対しての成果に応じた対価を支払う形。でもそうではなくて、「創造した付加価値」に応じた対価を支払う形が、本来あるべき姿だと私たちは考えています。
そこで当社では、目に見える定量的なデータで評価する「業績評価」と、何かを実行した回数で定量的に分析して評価する「行動プロセス評価」、経営指針や理念に基づいた考え方や行動をしているかを定性的に評価する「経営理念評価」。この3つの軸で評価することで、「創造した付加価値」が“見える化”され、少しでも「誰もが納得できる評価」に近づけるのではないかと考えています。
3つの評価軸それぞれにウェイトをつけ、例えば営業だったら業績評価:30%・行動プロセス評価30%・経営理念評価40%という比率に設定。これが人事だったら、業績では評価が見えにくいので、業績評価0%・行動プロセス評価50%・経営理念評価50%という比率で評価していく。相手の仕事ぶりが見えない分、テレワークでも取り組みを創造した付加価値で評価できる仕組みをつくることが重要なのです。こうした評価制度をPDCAで回しながら作り上げたり、面接や教育などの環境を整えることで、テレワークが難しい人事を始め、全社員のテレワークを実現できています。
2019年7月で6期目になるのですが、創業して2年くらいで事業がどんどん回りだして、創業メンバーだけでは対応が難しくなりました。そこで新たな人材を採用しようと思ったのですが、ベンチャーで資本力も知名度も無い会社でどうやって人材を集めたらいいのだろう、というところから優秀な人材を集める方法を模索していきました。
その時に、9時〜18時出勤で働く出社型の人材は他社に取られている。それならば、育児しながら働いているママさんとか、親の介護をしながら働いている方とか、障害を持っている方とか、“働きたくても思うように働けていない人材”がいることに気づいたのです。なぜ思うように働けないのかを紐解いていくと、「場所」や「時間」の制約があった。それなら、その制約をとっぱらった働き方を提供できれば優秀な人材を採用できるのではないか。こういう発想からテレワークを導入しました。
テレワークが可能ということで採用を進めていくと、本当に優秀な人材がどんどん入って来てくれました。なかには何社からもスカウトをもらっていて、年収1000万円を切ったことがない営業会社の部長が「この働き方をもっと広めていきたい」という理由で、年収よりも「働き方」や「経営理念・ビジョン」に共感して転職してきてくれたり。いろいろな企業から今でもスカウトされるような社労法人でマネージャーとして働いていた育児中のママさんが入社してくれたり。東証一部上場の某IT系企業のトップエンジニアや、某人材系企業の優秀な人材も入社してくれたり。あまり学歴などは気にしないのですが、蓋を開けてみたら高学歴な人材が集まっていたんです。
当社を選んだ理由を聞いてみると、「自分のプライベートを大切にできる働き方を、本当に手に入れられる会社は世の中にほとんどないし、経営理念・ビジョンに共感したから」と言ってくれました。今でもテレワークを喜んでくれていて、導入して良かったと思っています。
質の高いテレワークを実現するために、自分自身もテレワークを行いながらPDCAを回し、今よりもさらに働きやすいテレワークへと近づけるように検証を重ねています。というのも、私自身が机上の空論が好きではありません。なので、自分が一人のテレワーカーとしてやってみることが大切だと思っています。
私は今、沖縄を拠点に置いてテレワークを体現しています。会社の意思決定権を持っている私が本社にいない。この状況というのは、本来であれば不安に思うかもしれません。でも、遠くに行っても会社は回るのか試してみたくて始めました。実際にやってみてわかったことは、私が遠方にいても会社はちゃんと回るということ。だから、「どうすればテレワークを実現できるのか」を徹底的に紐解き、問題点を見つけ、対策を練っていけば、テレワークはすべての職種で実現可能です。例え人事のテレワークは難しいと思っていても、見える化・仕組み化すれば在宅勤務は十分にできる。ぜひ当社を参考にテレワークを導入してみてください。
- 労務・制度 更新日:2019/08/06
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