経営と人材をつなげるビジネスメディア

MENU CLOSE
1 ty_keiei_t06_retirement-without-permission_240319 column_management c_hatarakikatac_ikuseic_risyokuboushiauthor_amemiya

なぜ部下は何も言わずに辞めていく?「相談してほしい」が甘いワケ

/news/news_file/file/ty_keiei_t06_retirement-without-permission_240319_main.webp 1

「なぜ若者は何も言わずに辞めていくんだ? 相談してくれていれば……」

そんな思いを抱えている上司は多いだろう。
しかし、甘い。辞める前に部下に相談してもらいたいなんて甘い!

先日X(旧twitter)で、こんなポストを見かけた。

https://twitter.com/7QdGiSIb1g30116/status/1687744950891671552?s=20

いきなり恋人から別れを切り出されるのと同じように、部下からの退職届を受け取り「なんで相談してくれなかったんだ」「うまくいってると思っていたのに」と肩を落とす気持ちはわかる。

でも正直なところ、「辞める前に相談して」は、上司のエゴじゃないだろうか。
なぜなら部下には、上司に相談するメリットなんて、ほとんどないのだから。

辞める前の相談は、部下にとってさまざまなデメリットがある

部下が上司に相談しない理由はいくつかある。

まず、時間がムダになるケース。

「調整するから待って」「いま上と掛け合っているから」「いろいろ時間がかかるんだよ」

こんな言葉とともに待たされ、1ヶ月、2ヶ月……と経ち、結局半年後に「異動できません」なんて結果になったら、なんのために待っていたのかわかりゃしない。

「このプロジェクトだけは!」「あの企画にはお前が必要なんだ!」なんて泣きつかれたら最悪で、辞めるに辞められなくなってしまう。

さらに、退職をにおわせたせいで、冷遇される可能性もある。

わたしが大学2年生のころレストランでバイトしていたのだが、客足が遠のきシフトが週4から週1に激減した。

「稼げないので辞めようか迷っている」と店長に相談したところ、なんと翌週からさらにシフトが削られ、しかも無視されるようになった。

世の中には、「辞める=裏切る」という認識をし、「どうせ辞めるんだろ」と裏切者を攻撃して制裁を加える人がいるのだ。


また、「あいつ辞めるつもりらしいよ」と話が広まってしまうと、働き続けるとしても多少の気まずさが残る。

「お偉いさんはみんな知ってるんだろうなぁ。辞めないと言った以上すぐには転職できないし、査定に響いたらイヤだなぁ」と思うのは、当然だろう。

あらゆる面で面倒くさい事態になる可能性が高いので、辞める相談はしないでおこう、という判断になるのだ。

離職シグナルに気付かず、「突然辞めた」と嘆く上司

しかし、いくら相談するデメリットが多いからといって、部下たちは本当に何も言わずに辞めているのだろうか? まったく、何の素振りも見せずに?

わたしは、そうじゃないと思う。

いくら転職が一般的になったとはいえ、転職はいろいろと大変だ。いい条件で即転職できる、これ以上一秒たりとも働きたくない、なんてケース以外では、「希望が叶うのなら今の会社で働き続けたい」と考える人は多いだろう。

だから、「相談」というかたちではないにせよ、「ちょっと困ってて離職を考えてるんですよシグナル」を出している人はたくさんいるはずなのだ。

たとえば、「最近締め切りがきつい仕事が多くないですか? 残業が増えてるんですけど、いつまで続くんですかね?(チラッ」のように。

繁忙期はわかるけど、それにしても残業が多い。給料も低いし、またこんな繁忙期があるならたまったもんじゃない。ちょっと探りを入れてみるか。

それに対して上司は、「まぁこの時期はしょうがない。今月でそれも落ち着くはずだから一緒にがんばろう!」なんて、深く考えずに流してしまう。

「そうっすね、がんばります」

部下はこう言うも、内心「前もこういうことがあったな。残業が少ないって聞いていたのに話がちがうじゃないか」と不満を溜めこむ。


そして1か月後、退職届を受け取った上司は「部下が突然辞めた。いったいなぜだ? 相談してくれれば……」というわけだ。

流してはいけない「上司を見定めるための愚痴」

相談すると、「では1on1で面談しよう」なんて言われて、「人事部に掛け合ってみる」とオオゴトになってしまう。

理由をつけて引き延ばされたり、泣きつかれて辞めづらくなったり、嫌がらせされたり、そういうリスクはまっぴらごめん。

若い部下たちは、「ちょっと不満があるんですけど(チラッ」と様子を見て、上司が「じゃあこうしよう」とスマートに解決してくれることを望むのだ。


そもそも辞める理由なんて、具体的にこれ!という唯一無二なものがあるわけではなく、小さな不満が積もり積もって、ということも多い。

だから事前にその不満を小出しにして、「上司が解決してくれるんじゃないか」と期待する。しかし上司は、部下が雑談ついでにちょっと愚痴っただけだと思い、「まぁまぁがんばろうぜ!」と雑な返事をしてしまう。

「あいつも愚痴を言うくらい心を開いてくれたんだなぁ」と満足げにコーヒーを飲む上司の後ろで、部下は「適当に流すだけで何もしてくれない」と見切りをつけている。悲しいすれ違いである。

よく、「引き留めても聞く耳をもたない」「改善のチャンスを与えてくれない」と嘆く管理職がいるが、それも当然。

自分の不満を解消してくれるかテストしたうえで「不可」だと判断したのだから、その結果は、もうくつがえらないのだ。

部下が上司を試す「味方かどうかテスト」に合格するために

とはいえ、ちょっとした愚痴にすべて対応できるわけがないだろう!と憤慨、もしくは困惑する人も多いだろう。

大事なのは、100%部下の期待に応えられるかではなく、不満解消のために上司が行動してくれるかどうかだ。

雑談を通じて、部下から「最近仕事のことを考えて寝られていない」「実家の親が病気になった」なんて言われたとする。

「寝れない? それは心配だな。誰かに何か言われたのか? プレッシャーを感じるようなことでもあったか?」
「親御さんはどこに住んでるんだっけ。一度有給をとって顔を見に行ったらどうだ。リモートワークしたかったら言ってくれよ、調整するからな」

こうやって答えれば、「この人は自分の話を聞いて力になってくれる味方なんだ」と信頼を得られる。

そうすれば部下はその後もそれとなくSOSサインを出してくれるだろうし、いずれ面と向かって相談してくれるようになるかもしれない。

間違っても、
「自分が若いころはもっと大変だったぞ、3日徹夜したことだってある」
「最近の医学は進歩しているから大丈夫だろ。それで、明日の会議だが……」

なんて言ってはいけない。

「この人は自分の味方じゃないんだな」と判断されたら、部下は無言で辞める。信用できない人に相談するはずがないのだから。

要は、部下がすこーし心を開いてくれたタイミングで、「そうそう、こういう反応をしてほしかった!」と思わせればいいの である(もちろん、その後ちゃんと実行することも含めて)。

「部下が突然辞める」から抜け出すために必要なこと

実は冒頭で紹介したポストにも「本当になんのそぶりもなく辞めたのか」という質問があり、ポスト主は「思い返せば……」という場面があったと書いている。

その時は気付かなかったけれどあのときシグナルを出していたんだ、と後になってわかるパターンがあったわけだ。

「部下が何も言わずに辞める」と嘆いている人に、改めて聞きたい。
「本当に何も言ってなかったのか?」と。

「あれ、もしかして……」と心当たりがあった場合、思い返してほしい。そこであなたがどう答えたのかを。

適当に励まさなかったか? 忙しいからといってごまかさなかったか? 雑に返事をしなかったか?

部下の言葉に耳を傾けて、「何のために伝えてくれたんだろう? どういう返事を期待しているんだろう?」と考え、「こうしてほしいのかもしれない」と行動しただろうか?

「言ってくれればできることがあるのに」と思うのなら、相手が様子見している時点で、それを提案してあげればいい。

もちろん、離職した理由がすべて上司にあるといいたいわけではない。
シグナルを出さずに辞める人もいるし、辞める人は何をやっても辞める。

でもそこに、もしかしたら、防げる離職もあったかもしれない。

ちょっとした愚痴が「退職シグナル」であり、その対応によって部下から見定められていることに気付かない限り、いつまでも「部下が突然辞めてしまう」状況からは脱せないのだ。

  • Person 雨宮 紫苑
    雨宮 紫苑

    雨宮 紫苑 -

    ドイツ在住フリーライター。Yahoo!ニュースや東洋経済オンライン、現代ビジネス、ハフィントンポストなどに寄稿。著書に『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)がある。

  • 経営・組織づくり 更新日:2024/03/19
  • いま注目のテーマ

RECOMMENDED

  • ログイン

    ログインすると、採用に便利な資料をご覧いただけます。

    ログイン
  • 新規会員登録

    会員登録がまだの方はこちら。

    新規会員登録

関連記事