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採用面接で大事なのは「好き」より「嫌い」の一致

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先日、人生で初めて「採用活動」なるものを行った。
いままで「選ばれる側」だったわたしだが、「選ぶ側」の視点で考えてみると、多くの気づきがある。

熱意より実際の行動をアピールするほうが説得力があること、しっかりした受け答えも大事だが楽しく会話のキャッチボールができるか否かで印象が決まること、などなど。

そんななかでもとくに大きな気づきは、わたしが採用について誤解していたことだ。
いままで「お互いの希望が一致すること」が最重要だと思っていたが、そうではなかった。
実は、「好き」より「嫌い」の一致のほうが、大事なのだ。

良い人ばかりで採用の可否が決まらない!

この前とあるゲームで、自分のチームを立ち上げることになった。 
さっそく採用活動を開始し、人脈やtwitterを使って広報活動をしたところ、ありがたいことに多くの人から応募があった。

さて、そうとなればさっそく面接だ。
オンラインで少し話して、チームのスタイルやプレイスキル(どれだけうまいか)のすり合わせをする。

あくまでゲームとはいえ、性格的に問題がある人や、チームの方針に合わない人は弾かなければいけない。リーダーの責任は重大だ。
応募者ひとりひとりのために時間をとり、人生で初めて「採用者側」としての面接に緊張しながらも、あらかじめ決めていた質問をしていく。
「こういうチームにしたい」「こういう人に入ってきてほしい」と伝えると、相手は「こういうことが得意だ」「いままでこういう結果を残している」とアピールしてくれる。

しかし正直なところ、テンプレート的なやり取りをするだけでは、だれを採ってだれを落とすべきなのか、さっぱりわからない。
もともとプレイ歴や活動時間などの条件をかなり絞っていたので、プロフィールだけでいえば、全員基準を満たしているのだ

うーむ、どうやって採用の可否を決めるべきなのだろう。
そこでわたしは、考え方を180度変えてみた。
「好きなこと」「やりたいこと」ではなく、「嫌いなこと」「やりたくないこと」に焦点を当ててみたらどうだろう?と。

「イヤだったこと」を話せば相手の価値観を知ることができる

たとえばわたしは、別のゲームの話題で盛り上がるのが嫌いだ。
せっかくこのゲームで上を目指そう、という気持ちになっているのに、他のゲームの話ばかりされると、士気が下がってしまう。 
そのうえ以前のチームでは、活動時間が決まっていたにも関わらず、調子がいいと「もう少しやろう」と延長することが多々あった。

最初はよかったのだが、だんだんとそれがふつうになり、活動時間がどんどん伸びていった。それでは困るので「時間を守ってほしい」と言ったところ、「やる気がない」と受け取られてしまい、面倒な事態に発展。
面接でわたしはそういった経験を話し、「わたしはこういうことが嫌だったので、自分のチームではそういうのはナシで」と率直に伝えた。

そうすると応募者からも、「自主練をせずに別のゲームをやっている人がいてチームの輪が乱れた経験があるからよくわかる」「自分が前にいたチームも、週3の予定だったのにみんなの予定が合うからと週5になって大変だった」なんて話を聞くことができた。

逆に、「できるかぎり時間を合わせて活動したい」と思っていた人であれば、「このチームは合わない」と判断しただろう。それならそれで、入った後にトラブルになるよりはずっといい。

「活動時間はこうです」と伝えることはもちろん大事だが、「延長はしない」「活動時間が減っても補填はなし」のように、「やらないこと」を明確にしたことで、より明確に価値観を共有できただと思う。

ネガティブな話をすることで相手の本質がみえる

「やらないこと」を伝える一方で、応募者の「嫌だった経験」も聞いてみた。
事前にわたしが「自分はこういうのが嫌いです!」と伝えたからか、応募者たちも、意外とぶっちゃけて話してくれた。
たとえば、「以前のチームでは不相応な目標を掲げていてモチベが上がらなかった」「募集内容と活動実態がかけ離れていた」といった具合に。

そういう話を聞けば、「この人は着実に目標を達成していきたい性格なんだな」「有言実行タイプで約束は守るべきという考えなんだな」と、相手のことをより深く知ることができる。

また、嫌だった経験を聞いているうちに、「この人は大丈夫だろうか?」と思うこともあった。
ある日、プレイ歴が長く頼りになりそうな女性を面接したときのこと。
好印象で採用に傾いていたのだが、以前のチームの話を聞くと、彼女は延々と過去チームをこき下ろし始めたのだ。
正直に話してくれるのはうれしいのだが、「女だから下に見られた」「ちょっとうまくいかなかっただけで強く責められた」「雰囲気が最悪だった」など、若干引っかかる言い回しが多い。

上を目指すチームでは性別よりプレイスキルが重視されるし、暴言を吐く人がいればまわりが止めるかその人を追放するのがふつうだ。雰囲気が悪かったのなら、話し合ったり、雰囲気をよくするために自分からアクションを起こさなかったんだろうか。

違和感を覚えて掘り下げてみると、彼女はどうやらプライドが高く負けず嫌いで、きつい一面をもっているようだった。というわけで、考えを変えて不採用に。
「良い話」をしているあいだはみんな「良い人」だが、ネガティブな話をすることで、その人の「本質」を窺い知ることができる。いい経験になった。

「好き」が同じより「嫌い」が同じ人と結婚すべき論

さてさて話は変わるが、「好きなことが同じ人より、嫌いなことが同じ人と結婚するほうがうまくいくよ」というアドバイスを聞いたことがある人は多いのではないだろうか。
これは、事実だと思う。

実際、わたしと夫は、「好き」の共通点が少ない。
夫は筋トレやスポーツが好きだがわたしはのんびり料理するのが好きだし、夫はメタルやロックなどの音楽が好きだが、わたしはアイドルやジャズなどの曲をよく聞く。
わたしたちふたりの好みは、まるでちがう。

しかし不思議なことに、「嫌い」の共通点はとても多い。
うるさい場所が苦手だから2人してパーティーは早く帰るし、お酒もあまり飲まない。買い物も面倒だから基本通販で済ませるし、記念日にも興味がない。

同じ食べ物を好きじゃなくても夫婦はやっていけるが、片方が潔癖症で片方が散らかすタイプだと、離婚待ったなし。
「好き」は一致しなくても自分自身で楽しめばいいからある程度割り切れるが、「嫌い」が一致しないと我慢しなくてはいけなくなるので、どうしてもストレスがたまる。

だからこそ、ともに暮らしていくのであれば、「好き」よりも「嫌い」の一致が大切になるのだ。

理念より「弊社に向いていない人」の情報のほうが価値がある

では、採用の話に戻ろう。
採用面接において、面接する側もされる側も、基本的にネガティブな話はしない。
採用担当者がほかの候補者の悪口を言うなんてありえないし、求職者が前職の悪口を言うのもタブーだ。
しかしそれでも、「やらないこと」「向いていない人」の事前のすり合わせは、必要だと思う。

たとえば、「会社の公式行事としての飲み会はしない」「部下であっても『お前』と呼ぶのは推奨していない」「自分で目標を立ててもらうのでノルマがないとがんばれない人は向いていない」などなど。

これを聞けば、「飲み会嫌いだからこの会社とは合いそうだな」「うーん、部活では『お前』と呼ぶのがふつうだったからタイプがちがうかもしれない」「自分で目標を立てるってどういうことか確認しておきたいな」など、求職者は自分との相性を考えるだろう。

「目標に向かって努力できる人を歓迎します」より、「ノルマがないとがんばれない人は向いていない」と言ってくれたほうが、自分が本当に働き続けられるかどうか、具体的に想像できる。
そうやって率直に話せば、相手も「自分はこういう会社では働きたくない」と、本音を話してくれるかもしれない。そうすれば採用担当者も、相性を判断しやすくなる。

理念や理想を伝え合うより、「弊社に向いていない人」「自分が働きたくない会社」の話をするほうが、相手のことをより理解できるのではないだろうか。

求職者が「企業との相性」を判断できる情報を与えるべし

中途採用に応募してくる人はすでに就労経験があるので、ある程度、判断基準をもって面接に臨むだろう。
「前職は残業が多かったから、次は定時で帰れる仕事がいいな」というように。
とはいえ面接では、「残業はありますか」なんて聞けない。だからあくまで、「ホワイトっぽい企業」という印象で決めるしかない。

入社後、思ったより残業が多ければ、その人はふたたび転職を考えるだろう。
それでは企業と労働者、両方にとって悪い結果になってしまう。
しかし面接で、「長く働くことを熱意だと考える人は合わない」と言われたらどうだろう。入社の後押しになるのではないだろうか。
逆に、「繁忙期はめちゃくちゃ忙しい。それを覚悟できない人は無理かもしれない」と言われたらどうだろう。明らかに相性が悪いので、入社はしないと思う。

一方で、「登山が好きでまとまった休みがほしい」「趣味がスキーだから冬はゆるく働きたい」という人であれば、繁忙期の時期や期間を確認し、「閑散期なら休みやすそうだな」なんて思うかもしれない。
そういった判断は、「働きやすい環境です」と言われるだけでは、できないことだ。

「嫌いなことの一致」を重視してミスマッチを防ごう

面接で腹を割って話すというのは、なかなかむずかしい。
だれだって、余計な話をして印象を悪くしたくはないと考えるから。
でも、だからこそ、「弊社でやらないこと」「弊社に向いていない人」を語るのは、他社との差別化になると思うのだ。

採用活動の目標は、求職者に自社の理念をアピールすることではなく、自社に適した人材を見つけ、入社してもらうこと。
そう考えれば、「嫌いなことの一致」は不可欠だ。

「弊社でやらないこと」「弊社に向いていない人」を具体化すれば、価値観の共有がしやすくなり、採用のミスマッチも減らせるはず。
「好き」の一致も大事だが、恋愛でも友人関係でも仕事でも、人が離れるのは「嫌なことをされた/しなきゃいけない」ときなのだから。

  • Person 雨宮 紫苑
    雨宮 紫苑

    雨宮 紫苑 -

    ドイツ在住フリーライター。Yahoo!ニュースや東洋経済オンライン、現代ビジネス、ハフィントンポストなどに寄稿。著書に『日本人とドイツ人 比べてみたらどっちもどっち』(新潮新書)がある。

  • 人材採用・育成 更新日:2023/12/05
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