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新卒採用の入り口「エントリーシート」とは? イマドキのエントリーシートに求められる「5つの役割」

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エントリーシートは、新卒採用活動において多くの企業が導入しています。学生が企業に応募する際に提出し、企業が選考の過程において求める人材とのマッチングの確認、学生の企業理解度の確認、志望度・熱意の確認に用いられています。

履歴書との違いは、各企業が選考の基礎資料とするために独自のフォーマットを用意していること。設問は企業への志望動機や自己PRを書いてもらうことが一般的ですが、今の採用市場ではさらに踏み込んだ役割を持たせることも効果的であると、エスノグラファーの神谷俊さんはおっしゃいます。

エントリーシートが持つ役割と、さらに採用を効果的に進めるための設計について、具体的にお話を伺いました。前年踏襲のエントリーシートを使っているという企業も、新たな発見があるかもしれません。

今の採用市場でエントリーシートに求められる「5つの役割」とは?

— 神谷さん、今日はよろしくお願いします。エントリーシートというと志望動機や自己PRを学生に書いてもらうもの……という認識しかないのですが、今の採用市場においてそれだけでは不足なのでしょうか?


神谷さん: 自社にマッチする応募者の人数が充足しなかったり、求めている能力のある人材を確保できなかったりといった質的な理由で課題を抱えている企業は、エントリーシートを見直すことは有効です。

また今後、人材獲得競争が激化していくことを考えると、「小さいが精度の高い母集団」を形成する必要も生まれてくるでしょう。そのときのために、初期スクリーニング機能として有効に働くエントリーシートを設計するという視点もまた必要になります。

いずれにせよ、まずはエントリーシートに求められる役割が正しく機能しているかを確認するところから始めるのがいいですね。

— そもそも、エントリーシートの「役割」というのはどのようなものでしょうか。


神谷さん: はい。おおむね、次の5つの役割を果たすことができれば、現代の採用市場において有効なものと言えると思います。

— こうして拝見すると、すでに多くの企業が対応できているものと、そうでないものに分かれているように思います。


神谷さん: そうですね。実はこの「5つの役割」の中で、現在の採用市場において特に注目すべきものが2つあります。その点も含めて、1つずつ解説していきましょう。

エントリーシートに持たせるべき「5つの役割」とは?

神谷さん: 「5つの役割」と言われると、ずいぶん多いように思うかもしれませんが、いまおっしゃったように実際にはすでに多くの企業が対応しているであろうものも含まれます。

1. 学生の基本情報を収集する


まず、応募者の氏名、連絡先、学歴などの基本情報を収集し、整理・管理・保管する必要があります。これはエントリーシートに求められる基本的な機能の一つで、多く の企業がこの条件は満たしているのではないでしょうか。

2. 初期スクリーニングを精緻化する


エントリーシートに求められるもう一つの基本機能は、学生が基本的な人材要件を満たすかどうかを判断するための情報を収集することです。
こちらも、多くの企業がエントリーシートに期待している機能だと思います。

母集団の大きな大企業では、エントリーシートの段階である程度の選別をして選考過程に進めていかないと負担が大きくなってしまいますので、特に重要と言えるでしょう。

3. 応募者と関係を構築する


学生が自己表現できるエントリーシートにすることで、企業はより深く学生のことを理解することができます。基本情報からは見えてこないパーソナリティを知ることができれば、企業側もどのように関わりを持つべきかを検討することができ、より良い関係性を築くことにつながります。

採用過程での適切な関係構築は入社後の定着をスムーズにするという効果もあるため、採用人数の大小にかかわらず重要なポイントです。

4. 選考の判断材料にする


面接資料としてエントリーシートを活用することで、面接の前に応募者のバックグラウンドを把握し、質問や対話の方針を決定するのに役立ちます。

また、選考時に重視する能力や資質を踏まえて、エントリーシートの設問を工夫することで戦略的に選考の質を高めることもできます。

5. 応募者に学習機会を提供する


一般的に、応募者が最も企業について情報を収集するタイミングは、受験前だといわれています。具体的には、エントリーシートを書くときと、面接の準備をするときです。特にエントリーシートを提出する前は、企業のホームページを閲覧したり、OB・OG訪問を行ったりして、積極的に情報収集を行うタイミングです。この学習機会をうまく活用することで、自社をより深く理解してもらうことが可能です。

— なるほど。基本情報、初期スクリーニング、関係構築、選考材料、学習機会と多くの役割があるんですね。特に重要なポイントはどこでしょうか?


神谷さん: そうですね。ここで挙げた1から3までは比較的多くの企業が実施できているのではないかと思いますが、現在の採用市場において効果的なエントリーシートを作る上で特に重要なのは、「4.選考の判断材料にする 」と「5.応募者に学習機会を提供する」です。

「選考の判断材料」になるエントリーシートを作るには

— ぜひその理由を教えてください。


神谷さん: はい。まず、「4.選考の判断材料にする」の観点からお話しします。近年、選考の判断材料となるエントリーシートを構成することはやや難しくなっています。

WEB上には、いくつものエントリーシートの回答例文が掲載されています。またそれだけでなく、設問と企業HPの情報をもとに、AIに代理で記述してもらうことも技術的には可能です。

そのため、「ガクチカ」や「自己PR」といったごく一般的な内容では、学生の資質を見るための資料として十分ではなくなってきています。

— その点を対策するのは、ちょっと難しそうな気がします。具体的にどのような方法があるのでしょうか。


神谷さん: 私がお勧めするのが「アンケート方式」です。自由記述ではなく、○×方式や点数方式(5段階評価など)にして学生に答えてもらいます。例えば、複数の資質名称(思考力・創造力・交渉力など)をエントリーシートに掲載するのも良いでしょう。それらの資質の中には、自社の業務において強く求められる資質や、反対にその資質を持っていることでむしろパフォーマンスが発揮しにくくなる資質なども含めて設計をします。その上で、自分の強み・弱みだと思うものをそれぞれチェックしてもらったり、それらの保有レベルを自己評価で回答してもらったりします。

この「アンケート方式」にすることの最大のメリットは、選考の効率化を促せる点です。

「アンケート方式」は、学生の資質レベルを簡易的にチェックすることができます。膨大な量のエントリーシートに記述されている文章全てに目を通して、書類選考の合否判定をしていくことは採用担当者の負荷を高める要素の一つです。この「アンケート方式」であれば、自社が求める資質に対して「全く自信がない」といった回答をしている学生や、自社の業務には適さない資質に対して「非常に自信がある」と回答している学生に戦略的にフォーカスしていくことで、初期スクリーニングをかなり効率的に進めることができます。

さらに、面接官がダイレクトに資質について問い掛けることで、面接の質を効率的に高めることができるという利点もあります。

例えば、「課題解決能力の自己評価が5になっているけれど、評価の理由と具体的なエピソードを聞かせてもらえますか?」のような具合です。

自社が求める資質を「ガクチカ」や「自己PR」の話から深堀りして、間接的に聞いていく方法を否定するわけではありませんが、面接の早い段階で自社の欲しい資質にコミュニケーションの焦点を当てられる方が、効率的に面接時間を活用することができるでしょう。

— なるほど。能力に対して、直接言及できれば面接はしやすそうですね。


神谷さん: はい。ただし、「アンケート方式」のエントリーシートを効果的なものにするためには、自社が学生に求める資質を明確に把握している必要があります。

そのため、まずは人材要件の策定が必要になることが多く、結果的にそれが「採用戦略全体の見直し」につながっていくこともあります。

— 自社が求める資質を見抜くためのアンケートであれば、おのずと自社のオリジナルな質問項目になっていくはずですね。


神谷さん: そういうことです。自社が必要とする人材の資質、つまりは人材要件を満たしているかどうかを判断できるエントリーシートを作る必要がある、ということですね。

人材要件は採用戦略の根幹にあるものですので、もし今そのようなものを持っていない、または時代や社内環境の変化から見直しを検討しているという場合には、エントリーシートの設計と併せて考えることをお勧めします。

学生に「学習機会を提供する」エントリーシートの設計

— では続いて、特に重要だと仰っていたもう一つの役割、「学生に学習機会を提供する」についてはどうでしょうか?


神谷さん: はい。ご存じのように今の採用市場は「売り手市場」になっていて、多くの学生が複数の内定(内々定)を持っています。
平均内定保有社数/マイナビ 2024年卒 大学生 活動実態調査 (10月中旬)
出典:2024年卒大学生活動実態調査 (10月中旬)
神谷さん: このように内定保有者数が2社を超えているということは、シンプルに考えて承諾率は50%か、それ以下になる可能性が考えられます。

これまで、当社でマーケティング調査をして、辞退要因を多角的に探ってきました。複数の調査結果が示している傾向は、学生の受験企業に対する理解レベルが低い場合、辞退リスクは高くなるというものです。これは、受験した企業に対して、十分に企業研究をしなかったために、キャリアイメージが形成されないことが理由と考えられます。

「どのような環境で何をするのか?」「どのような面白さや価値がある仕事なのか?」。これらが見えないままで内々定を取得した学生は、漠然とした不安を抱えやすい傾向にあります。

その結果、福利厚生や報酬レベルなど条件面だけで比較検討を進め、十分に企業の魅力を理解しないままに辞退をしてしまうケースが多いようです。

これらを踏まえると、現在の採用市場において、企業は「いかに自社の価値を理解させるか?」に注力する必要があると言えるでしょう。つまり、採用プロセスにおける学習機能を強化する必要があります。

この学習機能の強化策として、エントリーシートという学習機会に注目し、整備を進めることも求められています。

— ぜひ具体的な方法を教えてください。


神谷さん: はい。まずは採用サイトや企業サイトなどWEB上にある自社の情報を閲覧してもらうことを求めるような設問に変更しましょう。

エントリーシートの設問に「当社の採用サイトの『社員インタビュー』の内容を踏まえて、以下の設問に回答してください」のように、WEB上にある資料を読ませる“仕掛け”を設問に埋め込んでおくことが有効です。

自社の独自情報を踏まえて記述を促すことで、学習機会を提供するだけでなく、他社へ提出したものを転用することも防げるでしょう。

— 学生にとっても志望動機を固めるいい機会になりますね。


神谷さん: それだけでなく、「ネガティブイメージの払拭(ふっしょく)」をしたい場合にも有効です。

例えば「激務」のイメージを抱かれやすい企業も、実際には働き方改革が進んで環境が改善されていることもあるでしょう。その実態を適切に理解してもらうためにも、このアプローチは有効です。

具体的な取り組み内容や実績、社員の1日のスケジュールが分かるようなコンテンツをエントリーシートの記述前に見てもらうだけでも、先入観やイメージ偏重を和らげることはできるはずです。

— なるほど。エントリーシート提出という初期段階で学生の持つイメージを修正できるのであれば、企業にとっては有効ですね。


神谷さん: はい。もし採用サイトをはじめ、学生がキャリアイメージを構築する助けとなるコンテンツがない場合は、まずそれを作ることを検討する必要もあるでしょう。

— なかなか、そこまで手が回らないという企業もありそうです。


神谷さん: そうかもしれません。その場合は、無理にエントリーシートで学習機会をつくらずに、選考前に参加必須のインターンシップや説明会を開催して、そこで先輩社員の座談会を開くような方法でも良いと思います。採用人数が少ない中小企業であれば、比較的小さなコストで実現できる方法です。

先ほどの「5つの役割」は、エントリーシートで全てを網羅することができれば理想ですが、他の施策で補える場合にはそちらに譲ってもいいと考えると、多くの企業で実施がしやすいはずです。

裏を返せば、全ての学生が必ず取り組むエントリーシートの設計を精緻に行い、「5つの役割」を満たせるように必要な採用施策を整備することで、後の工程はもちろん、翌年以降の採用活動を効率化して負担を軽減することができるとも言えます。

すぐには無理だという場合も、少しずつ「5つの役割」を果たせるエントリーシートにブラッシュアップしていき、数年かけて効率的で精度の高い採用ができるようになると良いでしょう。

— まずはできることから変えてみるのが良さそうですね。今日はありがとうございました!

エントリーシートは「全ての学生が取り組む」から見直し効果が高い

神谷さんも最後におっしゃっていたように、エントリーシートは必ず「全ての学生が取り組む」ものです。つまり、エントリーシートの見直しによって選考や関係構築を効率化し、学生の学習を促すことができれば、採用施策全体へとその影響は広がっていきます。

採用活動の入り口であるエントリーシート、ぜひ見直しを検討されてはいかがでしょうか?
  • Person 神谷 俊
    神谷 俊

    神谷 俊 株式会社エスノグラファー 代表取締役

    2016年株式会社エスノグラファー創業。企業や地域をフィールドとして調査・マーケティング活動に従事する。定量調査では見いだされない人間社会のありようをひも解き、多数の組織開発・製品開発プロジェクトに貢献してきた。
    20年4月からは、リモート環境における「職場」の在り方を研究する“Virtual Workplace Lab.(バーチャルワークプレイスラボ)”を設立。学術的な知見を基盤に「分断・分散」を前提に機能する組織社会の在り方を構想する。採用学研究所フェロー・経営学修士。

  • 人材採用・育成 更新日:2024/04/01
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