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インターンシップはどう変わる? 大学のキャリア教育の今とこれから

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採用担当者の方ならご存じのとおり、いまやインターンシップは学生の就職活動にも、企業の採用活動にもなくてはならない重要なイベントとなりました。

そのような環境から、いま、大学のキャリア教育も変わろうとしています。であれば、企業のインターンシップも変わっていく必要があるのかもしれません。

今回は、キャリア教育に力を入れている多摩大学の初見康行先生にお話を伺いました。

— 今日はよろしくお願いします。御校ではキャリア教育に非常に力を入れていらっしゃいますが、私が学生だった2000年代半ばは「キャリア教育」という言葉はほとんど聞いたことがありませんでした。この20年の間に、どのような変化があったのでしょうか?


初見先生:もともと大学では「キャリア教育」というものは、それほど強く意識されていませんでした。昔は就職課自体がほとんど機能していなかった大学すらあったほどです。

その理由は、大学はあくまでも学問を探究する場であって、学生の就職活動を手助けすることはその本義に含まれない、と考える傾向が強かったことがあると思います。

しかし、1990年代後半からの「就職氷河期」を契機に、学生をきちんと社会に送り出す手助けをすることも大学として必要なことなのではないかと考えられるようになりました。転機となったのは、99年の中央教育審議会の答申です。これをきっかけとして、国の政策としてキャリア教育が本格的に推進されるようになりました。その結果、就職課やキャリアセンターの機能充実を図るとともに、専任の教員を雇ってキャリア教育を行う流れができ、現在に至ります。

— 御校のように授業としてキャリア教育を行っている大学もずいぶん増えた印象です。


初見先生:そうですね。ただ、今でも大学におけるキャリア教育が体系立てられた学問として成立しているか、と問われると、まだまだ道半ばにあると思います。

実態としては、キャリア教育の内容も大学によって千差万別です。就職活動の時期に入ってから外部の専門家を招いて面接やES対策などの就活対策講座を中心に行っていたり、当校のように授業として1年生から3年生までの長期スパンでカリキュラムを組んだりと、その形態もさまざまです。

しかし、だんだんと「就活対策」にとどまらない、職業生活全体や人生における働くことの位置付けを考えるような方向性のキャリア教育を行う大学が増えてきたように思います。これからはこうした包括的なキャリア教育がメインストリームになるのではないでしょうか。

— 一つの先進事例として、ぜひ御校のカリキュラムについて教えてください。


初見先生:先進事例とまで言えるかは分かりませんが、1年生から3年生まで継続したキャリア教育科目があるのは、一つの特徴だと考えています。まずは1年生で日本の労働環境や「仕事をすること」の意義といった働くことの基本的な概念を教えることで、大学卒業後の将来設計を意識するきっかけを与えています。

2年生になると、前期では長寿化(人生100年時代)や人口動態の変化、AIの台頭といった職業選択に関わる社会の変化について学んでいきます。また、後期では具体的にいくつかの業界を取り上げ、業界・企業分析、適職診断テストを実施するなど、少しずつ企業選びを意識した内容になっていきます。

そして3年生で、いわゆる「就活対策」といわれるようなESの書き方、筆記試験、模擬面接などを行うといった流れです。また、本学のキャリア科目の特徴として、低学年からオンラインの合同企業説明会に参加することが単位の必須条件になっていることも、特徴と言えるかもしれません。

— かなり広い概念から始まって、だんだんと具体的になっていく構造ですね。


初見先生:はい、そう意識して作っています。一昔前までは、就職活動といえば3年生の後半もしくは4年生になってから慌てて自分の志望を決め、企業を探し、採用試験を受けるといった流れになることが多かったと思いますが、キャリアについて考え始める時期は早い方がいいと考えているからです。

1年生からだんだんと将来を意識し、世の中の流れを知り、自分を知り……とキャリアについて少なくとも納得のできる選択をするための準備をしてもらいたいんです。

— 今後、三省合意改正(※)の影響もあり、御校のようなカリキュラムで低学年からキャリア教育を実施する大学は増えていきそうですね。


※ 三省合意改正:産学が連携してインターンシップのあり方を再定義し、厚生労働省・文部科学省・経済産業省の三省が合意したもの。こちら の記事で詳しく解説しています。

初見先生:そうなると良いですね。大学としてもインターンシップを実践的なキャリア教育の一環として取り入れていく流れが大きくなっていくはずですし、企業にとっても影響は小さくないでしょう。

そのときに注意しなければならないのが、大学と企業の思惑のすれ違いです。

大学は教育機関であるため、基本的に「教育」を目的として学生をインターンシップに送り出したり、インターンシップを企業と共催したりします。

一方の企業は多くの場合、「採用」を目的としてインターンシップに取り組んでいるはずです。もちろん、そうではない企業もありますが、インターンシップを通して自社や自社が所属する業界に興味を持ってもらいたいと思うのは自然なことです。それゆえ、内容も自社にフォーカスしたものになり、大学が意図するような「教育の一環」の延長にあるインターンシップとは微妙なズレが生じるかもしれません。。

— そもそもの目的が異なっていることがすれ違いの理由になりそうだ、ということですね。


初見先生:そのとおりです。これは大学と企業のどちらが正しいということではなく、目的が異なれば強調する部分も変わってくる可能性があるということです。

ポイントは、大学も企業もお互いの目的が微妙に異なる可能性を理解しつつ、「学生」を主語にしたインターンシップを協働で設計していくことだと思います。

— 先ほど、低学年インターンシップも大学では積極的に取り入れていく流れになりそうだというお話がありました。三省合意改正でも低学年でのインターンシップ(オープンカンパニー)が推奨されています。


初見先生:繰り返しとなりますが、私自身は低学年からキャリア教育をスタートさせることや、1・2年生からインターンシップなどの活動に参加することは良いことだと考えています。実際、低学年からインターンシップに参加している学生の中には、その後の学習意欲が向上したり、インターンシップ経験をもとに履修科目やゼミ選択を行ったりすることがあります。インターンシップは大学にとっても大きなポテンシャルを秘めた教育方法なのではないかと感じています。

ただし、企業の立場に立ってみると、採用につながるかが分からない低学年向けのインターンシップに力を入れるのは、まだまだ難しいことだと思います。

企業が本格的に力を入れていくためには、低学年を対象にしたインターンシップを行うことのメリットや理由付けを明確にしていく必要があるでしょう。

例えば、低学年インターンシップを若手社員の教育に利用したり、組織開発(社内の活性化)につなげたり、といった具合です。

今後、低学年でのインターンシップが止められない流れとして来る可能性を考えれば、そこから得られる効果やメリットを企業の人事が積極的に模索していくことも必要なのではないかと思います。

— 低学年化の流れを意識しつつ、企業が現在のインターンシップをより良くしていこうと思ったとき、どんなことができるのでしょうか。


初見先生:大学教員として学生と接していると、やはり就職活動は学生にとって「できればやりたくないもの・後回しにしたいもの」であることがよく分かります。ですから最初の一歩のハードルがすごく高い。しかし、これはイメージ先行の場合も多いですね。

学年に関係なく、その「最初の一歩」で、いい体験ができれば企業のイメージアップにもつながっていくはずです。

— いい体験というと「大学で学んだことがより深まった」「将来の職業選択に役立ちそうだ」というようなことでしょうか?


初見先生:そうなればもちろん理想ですが、インターンシップの中でちょっとした成功体験を与え、「思ったより就職活動は怖くなさそうだ」「意外と仕事って面白いかも」と思ってもらえるだけでも十分だと思います。

良い評判が学生間で伝わっていけばインターンシップに参加する母数が増え、結果として採用や企業のブランディングにもつながっていきますし、「この仕事が自分に向いているかもしれない」と考える学生も増えていくでしょう。

インタビューの中で伺った多摩大学でのキャリア教育カリキュラムは、想像以上に幅が広く、就職活動対策にとどまらない人生全体を考えるものであることに驚きを覚えました。

これから、そういった教育を受けて企業インターンシップに参加する学生が増えることを考えれば、インターンシップで学生に好印象を持ってもらうための工夫の幅も広がっていくでしょう。

また、取材の中で初見先生は、インターンシップの早期化に伴う中長期メリットとして「キャリア教育を長く受けて、しっかりとした考えを持った学生が増えることで、学生と企業のマッチングの質が上がっていく」可能性も示唆されていました。

これまでは3年生になってから慌てて志望する業界、企業を見定め、まずは「お試し」でさまざまなインターンシップや説明会に参加する学生が主でしたが、低学年からキャリア教育をスタートさせることで就職活動を始める頃にはしっかり志望が固まっている学生が増えるから、だそうです。
それは結果として、定着率の高い新入社員の採用というメリットも生み出すでしょう。
  • Organization HUMAN CAPITALサポネット編集部

    HUMAN CAPITALサポネット編集部

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  • 人材採用・育成 更新日:2023/12/13
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