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売り手市場だけど楽じゃない、24年卒の就職活動を振り返る

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2023年10月、24年卒の学生にとって正式に「内定」が出される時期になりました。曜日の関係で今年は10月2日に開催されることが多かったようですが、多くの企業で「内定式」が開催され、内定者として参加した学生の皆さんは同期や先輩とコミュニケーションをとり、志望度をさらに高めたと思います。もちろん、今も就職活動を継続している学生の方、採用活動を継続している企業の方もいらっしゃると思いますが、この節目の時期に、24年卒の新卒採用を振り返りたいと思います。
人口減少、とりわけ労働人口の減少をうけ、日本社会全体で人材不足が問題視されていますが、当然ながらその影響は新卒採用にも及んでいます。コロナ禍で先行きが不透明になった時期には、景気の影響を受けにくい新卒採用市場においても、やや採用を控える傾向が見られましたが、それも短期間で解消し、現在は高い採用ニーズとなっています。

こうした企業の採用ニーズの高まりをうけ、「他社よりも早く学生と出会って、選考や内々定出しを行いたい」と考える企業が増加し、広報活動開始とされる3月から採用選考を開始する企業が増加しました。【図1】それにより、24年卒学生の内々定率の進捗も、特に3~5月は前年を5.0pt程度上回って推移してきました。【図2】

このように見ると、24年卒の新卒採用は早く決着した、と思われるかもしれませんが、実はこれは学生側だけの話で、企業側は6月時点の採用充足率が低下する事態となりました。【図3】早く選考を開始し、内々定を出しているにも関わらず、です。このように数字で捉えると、全体的に企業に厳しい、学生にとっては「売り手市場」と言えます。

【図1】面接・内々定出しの「開始」時期の前年比較/マイナビ2024年卒企業新卒採用活動調査

【図2】内々定率の推移/マイナビ2024年卒大学生活動実態調査

【図3】採用充足率/マイナビ2024年卒企業新卒採用活動調査

「売り手市場」という言葉から、もしかしたら「24年卒の就職活動は楽だったのではないか」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、内々定率などの数字上の進捗が良いことと、就活が楽である、ということは必ずしもイコールではありません。同じ「売り手市場」ということで比較されやすいバブル世代と比べるとわかりやすいかもしれません。

マイナビで実施している就職活動生を子どもにもつ保護者調査 において、バブル世代の方に自分自身の就職活動を振りかえってどのような印象だったかを聞いたところ、「面接を受ければほぼ内定が取れた時代だったので、良い時代だったと思う」や「バブル期なので、いろんな企業から接待された」「売り手市場で多くの企業が学生の囲い込みをするため、海外旅行などの特典も付いていた」というようなコメントが見られました。もちろん、その当時なりの「しんどさ」はあったかと思いますが、今と比べるとずいぶん明るい話題が多かったのではないでしょうか。好景気のなか、事業を拡大するために人材が必要という「人材不足」だったわけです。

一方、今はどうでしょうか?日本経済はあまり良い状況とは言えません。事業を拡大するためというよりも、今の事業を維持していくための人材確保が急務となっています。つまり、労働力となる人材が少ないということに起因する人材不足というわけです。そうなると、少ない人数でも成果を上げられるように生産性がより求められるようになってきいます。人数をそろえるということと同じくらい、従業員一人ひとりに対して求められるスキル・能力が高くなっているのが現状です。すでに社会人になっている人々のなかでは「リスキリング」という言葉が盛んに叫ばれるようになっていますが、それは新卒採用においても例外ではありません。

新卒採用を実施している企業に対して、人材の「質」と「量」のどちらを優先するかを聞いたところ、いずれの属性でも「徹底して質」と「量よりは質」をあわせると8割を超えています。【図4】確かに 人材不足ではありますが、だからといって採用基準がゆるくなるわけではなく、人材の「質」に対するこだわりは強いといえるでしょう。そのため、「行けば受かる」という状況では決してなく、「売り手市場だが、楽ではない」という状況を作り出しています。
【図4】質と量の優先度/マイナビ2024年卒企業新卒採用予定調査

今の就職活動が「楽ではない」理由を考えるうえで、もうひとつの視点として「職種も勤務地も自分で選びたい」と考える割合の増加が挙げられます。SNSを中心に話題になった「配属ガチャ」という言葉をご存知でしょうか。
「配属ガチャ」とは、カプセルトイやソーシャルゲームの「ガチャ」になぞらえ「中身は引いてみないとわからない」という様子を、「どの部署に配属されるのか、入社するまでわからない」という不安に重ねた言葉のことです。新卒採用は、決まったポストごとに実施される中途採用と異なり、会社単位かつ将来を見越した長期スパンの計画で実施されるものとなるため、その配属については入社後に適性を見てから行うことが一般的でしたが、その先の見えない不安感や、思わぬ部署に配属されたことに対する不満感が強くみられるようになりました。こうした動きの背景には「共働き志向の高まり」と「終身雇用の終焉」があると考えられます。

まず「共働き志向」ですが、特に男子学生においてここ数年上昇が続いて男女差が小さくなっており、全体的には共働きを望む学生の割合は増加傾向にあるといえます。こちらはどちらかというと「勤務地」の選択に強く関わると考えられます。【図5】
【図5】共働き希望の推移/マイナビ2024年卒大学生の ライフスタイル調査

以前のように、男性が主たる稼ぎ手であることが一般的だと考える社会においては、夫が転勤したり、想定外の勤務地で働くことになったりしても家族(妻と子)を帯同して引っ越すことが自然だとみなされていました。しかし、共働き夫婦ではそれほど簡単に割り切れません。妻の側にも仕事があれば、配偶者にあわせて勤務地を変更することは難しいですし、妻自身にも転勤などの可能性があります。また、「単身赴任」という選択肢もありますが、そうなると今度は家事や育児が“ワンオペ”になってしまうので、根本的な解決にはなりません。このように考えると、「働く場所がわからない」ことは共働き夫婦にとって、働き続けるためのリスクになります。そうなれば、共働きを望む学生にとっては望まない働き方になると言えるのではないでしょうか。

次にポイントとなるのは「終身雇用の終焉」です。こちらは「職種」の選択に強く関わる部分になるかと思います。就職活動をしている学生に対して、新卒で入社する会社で何年ぐらい働きたいかを聞いたところ、最も多いのは「定年まで」で22.1%でした。世間で「3年3割(新卒は3年で3割辞めてしまう)」と言われているので、この結果は意外だと思われる方もいらっしゃるかもしれません。ただ、裏を返すと、残り77.9%の人は「定年まで」とは考えていないとも言えます。【図6】

自由記入で回答してもらった学生の声を見ると、全体的に「転職することが当たり前の時代になった」という文言が目立ちました。つまり、学生自身が最初から「3年でやめてやるぞ」と思っているわけではなく、むしろ「定年まで働くことがリアルではない」というのが正直な気持ちだと思います。そうなると、次に出てくる感情は「いずれ転職する可能性が高いのであれば、働き手としての市場価値を上げておきたい」という気持ちではないでしょうか。そのために、具体的に仕事を通じてどのような経験ができるのか、また、どのような能力・スキルが身に着くのかを踏まえて就職先を選びたい、と考えるのは自然なことだと思います。

【図6】新卒で入社する会社で何年くらい働きたいか/マイナビ2024年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(11月)

少し話しが周り道をしてしまいましたが、「なぜ、売り手市場なのに楽ではないか」という話題に戻ります。先ほどお伝えしたように、就職先を選ぶ際に、「勤務地や職種を自分で決めて選ぶ」ためには、単にどの会社がいい、というだけでなく、今後自分はどういう人生を送りたいのかというライフキャリアの側面と、どういう仕事をして生きていきたいのかというビジネスキャリアの側面について十分に考え、答えを出す必要があります。しかし、これは職務経験がなく、人生経験の浅い学生にとって、決して簡単なことではありません。

昨今では、「職種も勤務地も自分で選びたい」という学生の意向を受けて、職種別コースを設定したり、事前に配属先について希望をヒアリングしたりするような企業も増えてきています。このような動きは歓迎すべきことだと思っていますが、同時に、学生がこうした選択をするための力をつける機会や支援も必要だと思います。
本コラムでは「24年卒の就職活動は売り手市場だったから楽だったのか」について考えてきました。これまでに述べてきたように、答えは「NO」です。今後、若者人口が減少するなかで、より新卒採用ニーズはより高まると思われますし、おそらく売り手市場は加速すると思われます。しかしそれと同時に、働く人の一人ひとりにが求められる能力・スキルはより高まると思います。また、一人でも多くの働き手を・・・と考えた場合に、家族の在り方も様々になると思います。多様であることは望ましいことですし、その点は否定すべきことではありません。ただ、多様な選択肢があるなかで、より自分に適した選択をしていくことの難しさがあることは認識しておくべきでしょう。これからの就職活動においては、考えるべきことが多くなる、だからこそ、自分はどんな人生を送っていきたいのか、について「ああでもない、こうでもない」と十分に悩む時間をとっていただきたいと思います。そのためにも、大学生であれば低学年のうちからキャリアを考える機会に積極的に参加していただきたいですし、そうした支援をしているキャリアセンターや団体、HPなどのツールを活かしていただきたいと思います。
  • Organization 株式会社マイナビ 社長室 キャリアリサーチ統括部

    株式会社マイナビ 社長室 キャリアリサーチ統括部

    雇用や労働に関連する様々な調査データやレポートを通じて、雇用の在り方や個人のキャリアを考える上で役立つ情報を発信します。

  • 人材採用・育成 更新日:2023/10/30
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