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マネージャー業務の自動化 ~海外文献から読み解く新型コロナ後のHRトレンド~

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2020年の中心トピックスであった新型コロナウイルス感染拡大は、世界中の人々の生活、仕事、経済に影響を与え、収束まで数年かかる可能性があります。日本の企業においては、経営マネジメントの在り方が問われる転換期になったといえるでしょう。
そんな中、米国ガートナー社の調査によると、マネージャーの時間の69%は既存のテクノロジーで代替可能な活動に費やされているという衝撃的な数字が発表されました。

今回は、『HRリーダーが準備すべき6つのテクノロジートレンド』から「マネージャー業務の自動化」について読み解きます。経営者やHR担当者にとって、自社の状況と比較して認識を新たにする機会となれば幸いです。

IT技術の進化とマネージャー業務に与える影響

新型コロナウイルスによるパンデミック以前から、人工知能(AI)や、バーチャル・パーソナル・アシスタント(VPA)、チャットボットなどの新興技術は欧米を中心として職場に急速に浸透していましたが、その動きが新型コロナウイルス蔓延に伴うグローバルのビジネス環境の変化によってより加速しました。

この環境の変化を受け、米国ガートナー社は、2024年までの今後4年間で、これらの技術がマネージャーの仕事量のほぼ69%を代替し、マネージャー業務自体も完全に見直されると予測しました。
実際に現在のマネージャーは、多くの場合において、定型フォームへの手動の入力や情報の更新、ワークフロー承認に時間を費やしています。
特に大企業であればあるほど、官僚化とガバナンスという名目の下、様々な取引の管理のための仕組みが導入されているはずです。

しかし、これらの作業を自動化することにより、マネージャーは取引の管理に費やす時間を減らし、インプットに係る学習、プロセスに係るパフォーマンス管理、目標設定などに時間を割くことができるようになるでしょう。
例えば、人間が数時間かけて行う請求書のファイリングや明細書のスキャンを、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)は数秒で行うなど、業務の自動化によって、管理業務が迅速化されることは間違いないのです。このような世の中になっている現実に目を向ける必要があります。

マネージャー業務が変わるのか?

AIや新たなテクノロジーが、マネージャー業務を変えることは必然の流れとも言えます。ここで論点とすべきは、「マネージャーの日常業務が自動化されたり、無くなったりした場合に、マネージャー業務がより効果的になるかどうか」という点です。

米国ガートナー社は調査レポートの中でも、マネージャーは学習やパフォーマンス管理、目標設定により多くの時間を費やすようになると主張しており、「マネージャーは管理業務を担うことなく、責任と影響力の度合いを拡大することができるようになるはず」としています。

また、マネージャーの平均給与を74,000ドル、マネージャーと直属の部下の平均比率を1:10と仮定した場合に、マネージャー業務をAIや新たなテクノロジーで代替することで、従業員1,000人またはマネージャー100人あたり平均500万ドルのコスト削減が可能になるとも言われています。
マネージャーのタスクを自動化することによって、コスト削減につながる可能性も大きいのです。

また、多くの被マネジメント層は、マネージャー業務のほとんどが自動化されることを歓迎すると言われています。
米国オラクル社とFuture Workplace社の調査では、政治的な判断が排除され、偏りのないアドバイスとパフォーマンスに基づいた公平な判断ができるという理由により、「64%の人が上司よりもロボットを信頼する可能性が高い」という結果が出ています。

マネージャーの日常業務が自動化された場合、以下のような影響や副作用が出るだろうと考えられています。

  • これまで自動化が難しいとされてきた直属の部下の育成や技術伝承などのOJTに関しては、マネージャーではなく、代わりにボットが直属の部下に介入するようになる
  • 取引の管理業務、プロジェクトやチームの管理、直属の部下の育成などの業務が自動化されると、マネージャーのポジション数が減る
  • 組織の人材不足が緩和される
  • マネージャーのポジション数が減ることにより、組織内で1つの階層を排除することになり、社内における昇進の機会が奪われる
  • 一時的には管理業務が自動化されて組織が混乱するが、その後は肩書きよりもスキルや能力を重視するように仕事のあり方が変わる(変えなければならない)
  • 2025年までに、AIが仕事上のタスクベースの学習機会の67%を排除することで、学習および能力開発向け予算の47%が無駄になる
  • これら衝撃的な変化により、必要なスキルや目的に基づいてチームをまとめる組織が登場する

HRが果たすべき役割

承認作業といったマネージャーの仕事の69%は既存のテクノロジーで代替が可能であることを前提に、HRとIT部門は連携をして、マネージャーのワークフローを最適化するために自動化などを検討する必要があります。
例えば、経費報告書の承認は経費管理システムで、その場での教育やコーチングは、リアルタイムのチャットボットによる介入で代替することなどが考えられます。

また、これに伴い、HR部門はマネージャーの配置やキャリアパスなども考えることが重要です。
そして、最終的には、マネージャーの数を減らすか、マネージャーの焦点をより戦略的な仕事に移すことを決定することになります。

企業は従業員がマネージャー業務を担当せずに、責任と影響力の度合いを拡大できるようなキャリアパスをサポートする必要性も検討していくことになるでしょう。

ホワイトカラーの労働生産性へのメス入れ

日本においては、現場における労働生産性は高いと言われている側面があります。一方で、ホワイトカラー、特にマネージャー層の労働生産性が低いということが指摘され続けているのです。
これは、「ホワイトカラーは仕事をしていない」、「付加価値を生み出していない」とも言え、顧客が価値を感じない(顧客が対価を払うに値しない)作業に時間を費やしていることを指しています。
公益財団法人日本生産性本部のレポートによると、日本の1人当たりの労働生産性は2019年時点でOECD(経済協力開発機構)加盟37カ国中、26位となっており、1990年以降において年々順位が下がっています。米国と比較すると、3分の2弱しかないのです。

今回見てきた通り、労働生産性の高い米国でさえも、ホワイトカラー層であるマネージャーの業務をより効率化していく流れが読み取れます。
いずれ、欧州にもこの流れが浸透し、グローバル企業を中心に日本もその潮流から逃れることはできないでしょう。
日本企業は、これまで目を背けてきたホワイトカラーに対するムリ・ムダ・ムラに正対して取り組む必要があります。
これこそが長年訴えられてきた働き方改革の本丸です。「顧客のために役に立っているのか」を問い続け、真摯に向き合う必要があるのです。
そのためには、これまでの慣習を見直し、場合によっては破壊する必要があります。これは企業文化を再構築することでもあり、非常にパワーが必要な仕事です。

また、新卒一括採用、終身雇用制や年功序列など、制度疲労を起こしている人事制度を見直す必要も出てくるかもしれません。
しかし、これは「経営戦略を達成するためにどのような組織で戦うのか」ということを改めて問い直す良い機会でもあります。この機会を逃さずに改革を実行し、日本企業がより強くなることを願っています。

  • $タイトル$
  • 鈴木秀匡

    日立製作所やアマゾンなど、一貫して管理部門のビジネスパートナーとして人事総務労務業務に従事。現在は、欧州のスタートアップ事情や労働環境、教育事情の背景にある文化や歴史、政治観など、肌で感じとるべくヨーロッパへの家族移住を果たし、中小企業の人事顧問やHRアドバイザリーとして独立。三児の父。海外の邦人のためのコミュニティ作りなど、日本のプレゼンスを上げていく活動にも奮闘中。

  • 経営・組織づくり 更新日:2022/06/30
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