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【曽和利光氏が解説】新卒採用担当者が身に付けたい「5つの力」とは?

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一口に「新卒採用担当者」と言っても、経験年数や会社の状況、業務環境によって仕事内容はさまざまだと思います。一方で、組織の未来を人材の観点からつくっていく採用担当者として共通して持っておきたい普遍的な能力というものも存在します。

今回は、新卒採用担当者が身に付けておくべき、「5つの力」を株式会社人材研究所の代表・曽和利光さんに伺いました。
変化の激しい時代において、企業における「人事」の役割についてもお話を伺いながら、解説していきます。

― 曽和さん、今日はよろしくお願いいたします。新卒採用担当について伺う前に、まずは現在の人事がどのようなミッションを持って仕事をしていくべきなのかをお聞かせください。


曽和さん: 大きなテーマですが、重要なことですね。前提として、今は「組織の時代」と言うことができます。
歴史を見ていくと、高度経済成長期はとにかくモノを多く・安く作ることで社会が成長した「生産の時代」と言えたでしょう。次にバブル期を迎えて何を作り・どう売るのかが重視された「戦略の時代」がやってきました。

そして、情報過多であらゆるものがすぐに陳腐化してしまう現在においては、事業目標も事業そのものも素早く変化していくことが求められます。しかし、こうした変化は組織自体が変わっていかなければ実現はできません。変化に適した組織をいかに素早く構築するか、すなわち「チェンジマネジメント」の速さと正確さが勝負になってくるのです。
これが「組織の時代」であり、その体制構築をつかさどる人事の重要性が非常に高まっているのです。

― そのような環境下でCHRO※という役職の重要性もよく聞かれるようになりました。


曽和さん: そうですね。時代に適応できる企業と組織であるために、チェンジマネジメントの重要性が高まるのに合わせ、経営層と人事領域の架け橋となるCHROを置く企業が増えています。組織はヒトなくして成り立ちませんから、人事担当者がいかに重要なポジションかということは、この記事をお読みになっている採用担当者の方へはぜひ伝えたいところです。

役職としてのCHROを置くかどうかにかかわらず、人事が未知なる組織のあり方を考えるために心理学や組織論を学び、幅の広い視点と知識を持った「チェンジマネージャー」として活躍すべき時代を迎えていると思います。

※Chief Human Resource Officer:最高人事責任者。経営戦略におけるヒトの活用・起用などについてCEOに提案をする役割を持つ

●関連コラム
CHRO(最高人事責任者)とは何か?求められるスキル・役割を徹底解説

― 人事を「チェンジマネージャー」として捉えたとき、この記事の読者である新卒採用担当者にはどのようなミッションがあるのでしょうか?


曽和さん: 実は、組織変革において大きな効果を持つのが新卒採用なんです。今いる社員の考え方を変えるよりも、新しい会社の価値観に合った社員を社内に迎え入れる方がなじみやすく、適応能力も高いですから。

新卒としてそういった柔軟性の高い人材を常に入れていくことで組織の「雰囲気」が変わり、古くからいる社員にも変化をもたらすことができます。

― となると、新卒採用担当者はこれまで以上に、会社の方針を深く理解して組織変革をもたらす可能性のある人材を採用しなくてはいけませんね。


曽和さん: ただ、新卒社員だけで全てを変えようとしても、それはうまくいきません。社内の人事評価制度や配置換えなど、今いる社員への変革がセットにないと、入社してきた新卒社員にとっては「思っていたのと違う」というリアリティショックを与えてしまうことになるでしょう。

社内の変革を行いながら、その変化に適応できる新卒社員を採用していき、ボトムアップで組織を変えていく……という効果を期待すべきです。新卒採用はいわば組織変革の促進剤とも言えるでしょう。そのメンバーを採用していくのが、新卒採用担当者のミッションであると言えます。

― 変化の時代における新卒採用担当者の重要性が増していることが分かったところで、「5つの力」について解説していただきたいと思います。
まずは「自己認知力」ですが、これはどういったものでしょうか?


曽和さん: 端的に言えば「自分の考えにどのような偏りがあるかを知る」ということです。
いかに新卒採用担当者として公正な立場であろうとしても、個人の持つ好き嫌いや価値観の偏りをなくすことは不可能です。だからこそ、自分が「どう偏っているのか」を知る必要があります。

― 採用面接の際などに役立ちそうですね。


曽和さん: 採用面接も、もちろんそうです。が、人や組織に対してフラットな視点で評価を下す必要のある人事にとっては、実はあらゆる業務で求められる能力でもあります。

ただ、自分で自分の偏りに気付くのは非常に難しいでしょう。
自分自身が体育会系出身だと、意識せずとも同じ体育会系の学生を高く評価していたり、面接での質問が課外活動に関することに偏っていたり、そもそも評価に使っている「言葉」の解釈に偏りがあったりすることもあります。

― 具体的にはどういうことでしょうか?


曽和さん: 例えば、トップダウンからボトムアップの会社へ変革するために「自発的に物事を考えて行動できる人材が欲しい」という意図で、採用目標に「主体性が高い」という項目を設けたとします。
採用担当者は当然そのことを「知っている」わけですが、自分自身が持つバイアスによって「主体性」という言葉を「細かな指示がなくても与えられた課題をどんどんこなしていく力」と解釈してしまう、ということがあるんです。自分が慣れ親しみ、染み付いた価値観によって解釈が偏っているんですね。

解決するには、同じ候補者に対する他の採用担当者や面接官の評価と自分の評価の違いを丁寧にすり合わせて、少しずつ知っていくのが良いでしょう。地道ですが、とても大切なことです。

― 2つ目は「人を表現する語彙(ごい)力」ですが、これはどういった場面で必要になる能力ですか?


曽和さん: ひとつ例を挙げましょう。企業が学生に求める能力の1位は、もう何年も変わらず「コミュニケーション能力」です。このコミュニケーション能力という言葉の解釈、非常に幅があると思いませんか。単に話が面白いことなのか? しっかり主張することなのか? ディスカッションの場で話をスムーズに進めることなのか? とにかく多義的な言葉なんです。

問題は、「コミュニケーション能力」という言葉の解釈が面接官同士で異なっていては、学生を正しく評価できないこと。そこで、一義的な言葉で評価軸を作っていくためには語彙(ごい)力が必要なのです。

― そういった語彙(ごい)力は、どこで手に入るのでしょうか?


曽和さん: 性格心理学など、人の価値観や考え方に関する体系化された学問がありますので、そういった知識に触れるだけでもずいぶんと違ってくると思います。具体的な方法でいえば、採用学の本を読んだり、大学の心理学科で使われている教科書を読むというのもいいと思います。

チェンジマネージャーとして会社の変革を求められたときに、採用すべき人材像をずばり言い当ててくれる本はありません。変革の先はまだ誰も知らないから当然ですね。
となると、「目指すべき会社の姿」から「それに必要な人材」を逆算して採用担当者が考える必要があります。
そして、そういうときにこそ、先ほどお話ししたような心理学や採用学から学ぶことのできる一般論が役に立つはずです。

ハードルが高く感じるかもしれませんが、ぜひ手にとって見ていただきたいと思います。

― 3つ目は「人に対する興味・関心力」ですね。人事は人を見る仕事ですから、この意味は分かる気がします。


曽和さん: そうですね。学生を見て判断したり、動機付けしたりという人事の仕事では、その相手に興味・関心を持てるかどうかは大切です。

日本の哲学者、西田幾多郎の言葉に「知は愛、愛は知である」というものがあります。知れば知るほど対象を好きになり、好きになるほど対象を知りたくなる、という人間の心理を表現した言葉です。
まさにこれが重要で、先ほど説明したような学問的な一般論も重要ですが、今目の前にいる人がどんな人なのかを理解しようと努める姿勢を常に意識するといいでしょう。

― それは採用担当者にとって基本的な姿勢として備わっているような気がしますが、どうでしょうか?


曽和さん: 採用担当者の方からよく聞く言葉に、「学生がみんな同じようなことを言っている」というものがありますよね。これはまさに、相手に対する興味が足りないことの表れです。

就職活動生に「10年目のベテラン」はいないので、自分のことを表現するのがまだまだ上手ではありません。どうしても抽象的な言葉を使ってしまいます。
それが「みんな同じようなことを言っている」と感じるのは、採用担当者側が知ろうとしていないからです。「愛は知である」の言葉どおり、学生に興味を持って、どんな人なのかを知ろうとすれば、そんな言葉は出ないはずですよね。

ある程度、先天的な能力でもあるので鍛えるのは難しいかもしれませんが、面接前の情報収集を徹底して行い、質問をシミュレートすることでより具体的に相手の情報を引き出すテクニックを磨いていくことはできます。そうすることで、相手からも身のある言葉が返ってくるはずですよ。

― 続いては「対人影響力」ですね。これはどのようなものでしょうか。


曽和さん: 言葉のとおり、人に対してどれだけ影響を与えられるか、という能力です。今や、企業そのもののブランドよりも、採用担当者個人の方が就職活動生に対する影響力が高い時代ですから、とても重要になっていますね。

― SNSのライブ配信などで人気を獲得している採用担当者もいますよね。例えば、そういった力でしょうか?


曽和さん: はい、それは対人影響力の最も強い一つの例だと思います。会社そのものよりも採用担当者が人気になって、結果的に採用力の向上に直結しているという例もありますね。

そうでなくても、最初にお話ししたように、今の人事は「チェンジマネージャー」ですから「将来的にこういう魅力のある会社になる」ということを言葉で説明できないといけません。
今ある魅力だけでなく、これからの魅力で学生を引き付けなくてはいけないわけです。未来を語って魅力を理解してもらうには、対人影響力が欠かせません。

また、採用活動におけるスカウトの重要性も増しています。この場合、企業側が学生に「ぜひ来てほしい」とお願いするわけですから、自社に興味のない学生を説得する必要があるわけです。ここでも、対人影響力は役に立ちます。

― この能力を育成することはできるのでしょうか?


曽和さん: ある程度は「才能」と言えるような面もある能力ですが、学生に動機付けをするという点に絞れば、テクニックを磨くことはできると思います。

例えば、採用担当者は説明会などで「自分自身が入社した動機」を話す機会が多いと思うのですが、うちの会社の事業にはこんな強みがあって…など、自分のことは言わずに「会社の特徴」しか話さない方が意外と多いんです。まずは、自己開示をしっかりすることが大切です。

そして、どういうタイプの人に自社の魅力が響くのか、どんな不安要素を持たれやすいのかという分析やカウンタートークの準備もしておくと良いでしょう。新卒採用で学生が感じる不安や質問はある程度、型が決まっています。事前の準備をしておくことで、動機付けはしやすくなると思いますよ。

― 5つの力の最後が「メディアリテラシー」ですね。採用とSNSの関係はどんどん緊密になっていますし、ライブ配信型の説明会も増えている背景から、採用活動全体が「双方向化」していますので、多くの方が悩まれている点でもありますね。


曽和さん: はい。単純にSNSの使い方が下手だと企業全体の印象が下がってしまうという面もありますし、現在においては意識すべき力だと思います。

ライブ配信などで双方向性のあるコミュニケーションが増えて顕在化しましたが、そもそも採用の現場というのは、不特定多数とのコミュニケーションが必要となる場です。そこには必ずリスクがあることを知っていて、それを避ける方法も知っている、というのが使い方の上手・下手以上に重要なメディアリテラシーの本質ですね。

特に今の学生はポリティカル・コレクトネス(※)にも敏感なので、そういった知識を持つこと、そして取り繕わずに会社のことを言える姿勢、ネガティブなことをポジティブに言い換えるスキル、こういったものを鍛える必要があると思います。

※ポリティカル・コレクトネス:人種、信条、性別、性的指向などの違いによる偏見や差別を含まない中立的な立ち位置を重んじた言動をすること。政治的妥当性と訳され、一般的には「ポリコレ」と略して使われることも多い。

― 5つの力について解説をありがとうございました。最後に率直な疑問なのですが、これらを一人で網羅することは難しいように思いますが、どうでしょうか。


曽和さん: はい、一人で網羅できればそれに越したことはありませんが、性質の異なる力もあり、難しいですよね。得意・不得意が出てきて当然だと思います。
重要なのは「新卒採用のチームとして」これらの能力をそろえられているかということだと思います。

まずは新卒採用担当者の業務を大きく「学生の動機付け」と「学生の評価」に分けて考えてみましょう。
そうすると、5つの力のうち「人に対する興味・関心」と「対人影響力」「メディアリテラシー」が高い人を動機付けの担当に、「自己認知」と「人を表現する語彙(ごい)力」が高い人を評価の担当に、とマネージャーが役割を振り分けることができます。それぞれが得意なことを生かしながら、パフォーマンスを高めていけると良いですね。
曽和さんのインタビューでは、「変化の時代」に必要な採用担当者のスキルをたくさんご紹介いただきました。未知の領域においてはこれまでの経験や勘に頼らず、幅広く知識を深めていくことの大切さも感じるインタビューでした。

すべてを完璧に行うことが難しくとも、チームでの達成や地道な積み重ねによって採用力を高めていくことも可能です。この記事が担当者からマネージャーまで幅広く参考になるものになれば幸いです。
  • Person 曽和 利光
    曽和 利光

    曽和 利光 株式会社人材研究所 代表取締役社長

    1971年、愛知県豊田市出身。1995年、京都大学教育学部教育心理学科を卒業。株式会社リクルートで人事採用部門を担当、ゼネラルマネージャーとして活動したのち、株式会社オープンハウス、ライフネット生命保険株式会社など多種の業界で人事を担当。「組織」や「人事」と「心理学」をクロスさせた独特の手法を確立し、2011年に株式会社 人材研究所を設立、代表取締役社長に就任。企業の人事部へ指南すると同時に、これまで2万人を越える就職希望者の面接を行った経験から、新卒および中途採用の就職活動者(採用される側)への活動指南を各種メディアのコラムなどで展開する。

  • 人材採用・育成 更新日:2022/06/03
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