経営と人材をつなげるビジネスメディア

MENU CLOSE
0 tn_romu_t20_paid-holidays_220531 roumu c_hatarakikata

年次有給休暇取得は義務?有給休暇の基本ルールをおさらいしよう

/news/news_file/file/t-20220531155835_top.png 1

年次有給休暇(以下年休と呼びます)の取得が義務化されたことをご存知ですか。2019年4月から、年5日の年休を労働者に取得させることが使用者の義務になりました。年5日の年休を取得させなかった場合、罰則が適用される可能性があります。年休の取得義務について正しく理解をしましょう。

年次有給休暇の基本ルール

そもそも、年次有給休暇とはどのような制度でしょうか。年休の取得義務化に触れる前に、まずは年休についての決まりをおさらいしましょう。

年次有給休暇を取得できる場合

年休は、要件を満たしていれば取得することが出来ます。労働基準法第39条では、「使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。」と定められています。つまり、雇入れの日から6ヶ月間継続して雇われていること、全ての労働日の8割以上出勤していることという2点を満たせば、有給休暇を取得可能ということです。管理監督者、有期雇用労働者も取得対象になります。

年次有給休暇の日数は、継続勤務年数が6ヶ月の場合は10日、1年6ヶ月であれば11日、2年6ヶ月だと12日、といったように継続勤務年数に応じて1年ずつ、6年6ヶ月まで増えていきます。6年6ヶ月以上の勤務の場合は、20日の有給休暇が付与されます。

年休は、付与されたまま使わないと2年で消滅してしまいます。正確に言えば、労働基準法第115条の規定により、年休の請求権は発生日から2年で時効消滅します。

【ポイント】
以下の要件を満たせば年休を取得

  • 雇入れの日から6ヶ月間継続して雇われている
  • 全ての労働日の8割以上出勤している

年休は使わないと基準日から2年で消滅

パートタイム労働者でも年次有給休暇を取得できる

ところで、パート勤務の場合など、そもそも所定労働日数が少ない人の場合はどうなるのでしょうか。この場合も、所定労働日数に応じ比例付与されます。

正社員でも、パート勤務でも要件を満たせば年休を取得することが可能です。比例付与の対象になる場合の要件は、パートタイム労働者の場合は、所定労働時間が30時間未満、週所定労働日数が4日以下、または年間の所定度労働日数が216日以下です。

たとえば、週所定労働時間が1日の場合、1年間の所定労働日数は48から72日、雇用されてから6ヶ月経つと、1日の有給休暇が付与されます。週に3日の所定労働時間、1年間の労働日数が121日以上168日以下、継続勤務年数が5年6ヶ月の人の場合は10日の有給休暇を取得可能です。最高で、週4日勤務、1年間の所定労働時間が日数169〜216日、雇用されてから6年6ヶ月以上経過している場合、15日の有給休暇を取ることができます。

まとめると、パート勤務でも正社員でも年次休暇を取得可能であるということです。ただし、パート勤務と正社員では、勤務すべき日数が違い、年休の日数に差があります。

労働者が請求する時季に与えることが原則

年休は、原則として労働者側が取りたいと請求した時季(季節と具体的な時期)に与えなければなりません。なぜならば、この制度の趣旨は、労働者のリフレッシュを目的としているためです。労働者が休みたい時に休むということが重要なのであって、会社の都合で休んでもらうというのでは、少し意味合いが違ってしまいます。

とは言え、忙しい時期や、他の労働者が年休を同じようなタイミングで取得するなど労働者に年休を与えることで事業の運営に支障が出てしまう場合はあり得ます。この様なケースでは、労働者の上司は年休の時季変更権を使って年休のタイミングを変えることができます。

年休は自由に使って良い休暇ですので、何のために休むのかなど、細かい事を労働者に尋ねるのは、適切ではありません。また、その様に尋ねられた側も、詳細を答える義務はありません。また、年休でありながら、忙しいと呼び出しの電話がかかってくるという状況も不適切でしょう。労働者のリフレッシュという目的が果たせなくなってしまうためです。年休の制度は、労働者のための制度です。もし、使用者が時季変更権を使うとしても、労働者側との丁寧な話し合いが必要です。

有給休暇取得義務化とは

年5日の年休取得が義務化

さて、ここでいよいよ本題に入ります。2019年4月から、年5日の年次有給休暇取得が義務付けられました。従来は年休の取得日数について義務はありませんでしたが、年休取得が義務化された結果、社員が希望をしていなくても、年に5日の年休を取得させなければいけなくなりました。

つまり、従来通りの意識のままでいると、社員が特に年休を取りたいと言ってこないので、そのまま年休を取らせずに1年が終わり、結果として法律違反を犯してしまうという可能性が十分にあるということです。

有給休暇の義務化の対象者は、年休が10日以上付与される労働者です。法定年休が10日に満たない労働者は対象ではありません。

使用者は、年休を付与した日から1年以内に、時季を指定して5日の年休を取得させなければなりません。時季の決め方については、使用者が労働者に意見を聞き、労働者の意見を尊重して決定します。会社の都合だけで、年休取得の時期を決められないということです。本人の希望をきちんと聞き取る必要があります。

さらに、使用者は労働者ごとに年休の管理簿(年次有給休暇管理簿)を作成、3年間保存する義務があります。管理簿は、紙ではなくシステムなどで保存しても差し支えありませんが、すぐに印刷できるようにしておきましょう。

【ポイント】

  • 年次有給休暇取得義務があるのは、年休が10日以上付与される労働者
  • 義務化対象者は年休の付与日から1年以内に、時季を指定して5日の年休を取得させなければならない

すでに5日の年休を取っている場合

すでに5日以上の年休を取得している労働者の場合は、会社側が時季を指定することはできません。

中途採用された労働者の場合

中途採用された労働者の場合、入社した日から6ヶ月後に10日間の年休が付与されます。4月入社の労働者とタイミングはずれてしまうかもしれませんが、入社のタイミングから数えて6ヶ月後、1年と6ヶ月後、2年と6ヶ月後、といったように年休が付与されていきます。年休を付与されてから1年間の期間に、年休5日間を取得します。

つまり、基本的には年休の基準日(年休が付与される日)は個別の管理になるので、特に中途入社の従業員が多い企業の場合は管理が煩雑になってしまいがちです。そこで、実務的には入社の翌年度から他の社員と基準日を合わせて年休を付与するという方法が取られることがあります。その場合、前の基準日から1年間と、後の基準日から1年間が一部重複します。期間が重複した場合は、期間に合わせて比例按分することが認められています。

副業をしている労働者の場合

副業をしている労働者の場合は、副業先でも年休を取得できます。一例として、Aさんがメインの職場で10日の有給休暇を取得し、副業先(パート)でも7日の有給休暇を取得したとします。この場合、Aさんは二社でそれぞれ別に有給休暇を取得し、合計で17日間の有給休暇を取得します。

ちなみに、有給休暇中に副業をして良いのかという問題もあります。基本的に有給休暇の消化中に何をしても個人の自由です。しかし、副業そのものを社内規定で禁止している会社であれば、当然ながら年休取得中に副業をするのはNGです。

有給休暇を取らせない場合の罰則

年休取得の義務化とセットで、義務を果たさなかった場合の罰則があることに注意しましょう。まず、違反のパターンが3つあります。1つ目は、年に5日の年休を取得させなかった場合についてです。この場合は、労働法第39条7項違反になり、30万円以下の罰金を支払わなければなりません(労働基準法第120条)。違反による罰則は、労働者全体についてではなく、労働者一人につきという数え方をしますので、10人の労働者について年休を取得させなかった場合には30万円×10人=300万円の罰金を請求される可能性があります。

また、年休の時季指定の労働者の範囲と方法について、就業規則に定めなかった場合については労働基準法第89条違反になり、30万円以下の罰金となります(労働基準法第120条)。労働者の請求する時季に所定の年休を与えない場合は、さらに厳しく、労働基準法第39条違反として、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます(労働基準法第119条)。

罰金や懲役といった制裁にも注意すべきではありますが、違反企業には労働基準監督署から監督指導が入ります。さらに、労働法を守らない企業として社会に悪いイメージが広がってしまうおそれもあります。知らなかった、では済まされないのです。

【ポイント】

  • 年休を取らせないと罰則がある
  • 年休の時季指定の労働者の範囲と方法について就労規則に定めない場合も罰則あり
  • 義務を果たさないと、法的・社会的制裁を受ける可能性がある

会社側の対応策

確実に有給休暇を取得させるための方法をご紹介します。個別指定方式と計画年休制度があります。

個別指定方式

シンプルな方法としては、個別指定方式です。個別指定方式では、年休が10日以上付与されているのに、取得日数が5日に満たない社員について、会社側で有給休暇取得日を決めるという方法です。

この方法は、従業員数が少ない、小規模な事業所の場合に有効です。それぞれに5日の有給休暇を取得しているかどうかチェックし、労働者と使用者が話し合って有給休暇取得日を決めることができます。

一方で、管理の手間が増えてしまうので規模が大きい企業になると大変かもしれません。従業員数が多い企業の場合は、次にご紹介する計画年休制度がおすすめです。

計画年休制度

計画年休制度とは、あらかじめ各労働者の有給休暇のうち5日を超える部分を計画してしまうという方法です。計画年休制度を取れば、会社側としては有給休暇取得日を指定する義務が無くなります。個別に有給取得日数の把握、促進をする必要がなくなるのは、特に規模の大きい事業所にとってはメリットでしょう。

ただし、労使協定によって計画年休制度定める必要がありますし、いざ計画年休のタイミングで予想以上の繁忙期になったとしても、あらかじめ決めたとおりに年休を取らせなければならなりません。柔軟性に欠けるという点はデメリットと言えます。

有給休暇の買取制度

有給休暇が増えるよりも、有給休暇の買取制度を作って欲しいという労働者もいるかもしれません。しかし、現時点では、原則として会社側から有給休暇を買い取ることはできません。

というのも、せっかく労働者の心身の疲労回復のための年休であるのに、会社側が買い取ることで休めなくなってしまい、労働者が疲れてしまっては、有給休暇取得義務化の意味がなくなってしまうからです。

他方、会社側の規定により、法定有給休暇をこえて年休を付与している場合の規定によって追加で付与した分や、未消化のまま時効消滅してしまった有給休暇について買い取る場合、さらには退職時に残っている有給休暇については、会社が買い取りをしても違法ではないとされています。

休みやすい環境を作ろう

人手不足ということもあり、休まれると仕事が回らなくなって困るという事業者もあるでしょう。ただし、今回は年休の取得が罰則付きで義務化されましたので、休まれると仕事にならないという事業者でも、有給休暇を取得させる義務は発生します。休まれると仕事が回らないという現状を、休んでも大丈夫という環境に変えていかなければなりません。

環境作りは大変なこともありますが、会社全体として見たときに、休みやすい環境や体制を作ることは良いことです。労働者は疲れ切らずに済み、会社としてはリフレッシュした労働者に気持ち良く働いてもらうことができます。人材の定着率をアップさせる点でも、会社の社会的な評価を考える上でも、休暇をきちんと取るということは労使双方にとって重要です。

【ポイント】

  • 個別指定方式か計画年休制度を用いて年休を確実に取得させる工夫をする
  • そもそも休みやすい環境を作って行くことが大切

まとめ

今回は、年休取得の義務化についてご紹介しました。自社の従業員のうち、対象になる人は誰なのか、年休をきちんと付与・消化できているか、年休管理簿を備えているかといった点から見直していきましょう。

  • $タイトル$
  • 行政書士/井手 清香

    滋賀大学経済学部ファイナンス学科卒業。大手システム会社に勤務後、退職。ライターとして各種記事を執筆。2014年、ライター事務所「ライティングスタジオ一清」を開設。2018年度行政書士試験合格、2019年、滋賀県大津市に「かずきよ行政書士事務所」を開業。法律関連のライター兼現役の行政書士として活躍中。楽しく、分かりやすい法律の記事をお届けするために、日々奮闘中。

  • 労務・制度 更新日:2022/06/09
  • いま注目のテーマ

RECOMMENDED

  • ログイン

    ログインすると、採用に便利な資料をご覧いただけます。

    ログイン
  • 新規会員登録

    会員登録がまだの方はこちら。

    新規会員登録

関連記事