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人事考課とは?目的や制度構築、事例について

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従業員の「モチベーション」と「売上高」が相関関係にあることは、多くの研究・調査から分かっていることです。モチベーションが向上すれば売上高は上がり、低下すれば下がります。この上なくシンプルなビジネス構造であり、しかし奥が深い分野です。

では、従業員のモチベーション向上に何が必要なのか?色々な要素がある中で、今回ご紹介するのが「人事考課」です。仕事に対する意欲を正しく評価し、従業員の視点から新しい人事制度を考える意義とは何なのか?自社の人事制度を改めて考えるきっかけになればと思います。

人事考課とは

「考課」とは、従業員の勤務態度や成績を調査して優劣を定めることを意味します。企業では多種多様な人材が異なる仕事に従事しています。その中で適正な評価を下すことは、簡単ではありません。しかし正しい評価が無ければ、従業員の仕事に対するモチベーションは当然下がります。それすなわち、売上高の低下を意味します。

従業員のモチベーションが低下する原因としてよく挙がるのが「自分の仕事が正しく評価されていない」と感じる不当評価です。こうした不満から仕事への意欲は低下し、優秀な人材だとしても次第に潰れていきます。行き着く先は人材の流出です。人事評価を下すのはコンピューターではなく人であるため、ある程度の不確定要素は否めません。ただし、それが過度になると従業員の不満は募り、いずれは必ず爆発します。

課題解決に必要なのは人事評価の「仕組み化」であり、それこそ人事考課の意義です。人事考課を制度として取り入れることで、客観的根拠を起点に組織全体の人事評価を下し、公平・公正な職場環境のもとで従業員のモチベーションと仕事へのやりがいを引き出します。

人事評価との違い

人事考課と人事評価は同じような文脈で用いられることが多く、「結局どちらが正解なの?」と混乱される方も多いでしょう。2つの言葉に厳密な違いはないので、企業ごとに呼び方は違います。ただし、「給与・賞与に影響を与える人事評価を正しく下すための制度」を人事考課と呼ぶのが一般的な認識です。これから人事考課制度を導入しようと考えている場合、これまでの人事評価のイメージを払拭するために人事考課という言葉を用いるのもおすすめです。

人事考課のこれまでの変遷

戦後~1970年代

戦後、日本経済はデフレに入り、その影響を受けて従業員が安定して働けるよう昇給制度が企業に導入されはじめました。そこで確立されたのが「年功序列」をベースとした人事考課制度です。高度成長期になると、仕事内容のみで従業員を評価する「職務等級制度」が登場し、さらにゼネラリストの育成なども鑑みて職務遂行能力に応じた等級分けを実施する「職能資格制度」を導入する企業が増えていきました。

1980年代~2000年代

男女雇用機会均等法(1986年)の施行により、総合職や一般職といった名称で分類される「職群制度」が多くの企業で採用されました。これにより、職群(職務範囲)ごとに人事制度を設計できるようになったのです。その後、バブル崩壊(1991年~1993年)により受けた経済ダメージを回復すべく、米国に倣って職務の達成度合いや成果を評価する「成果主義人事制度」を導入する企業が増加。しかし、間違った認識や目的(人件費削減など)で運用する企業も少なくありませんでした。

2000年代以降

成果主義人事制度が浸透する一方で、組織の目標と従業員一人ひとりの目標をリンクさせる方策として取り入れられるようになったのが「MBO(目標管理制度)」です。これにより、トップダウンの目標提示ではなく従業員側が目標を設定したものを上長などが精査して運用するというプロセスが定着。現在では、人事考課制度を通じて組織と共に主体性をもって動く従業員の育成にも力を入れつつ、組織力向上を図る企業が増えています。

これまでの変遷からも分かるように、時代ごとの経済状況や法制度の施行や改正に応じて、人事考課の考え方や目的は進化を遂げてきました。では、これからの時代に必要な人事考課のポイントは何か、次項で解説していきます。

人事考課で必要な3つの視点

人事考課制度を導入するにあたり、欠かせない3つの視点があります。それが「業績考課」、「能力考課」、そして「情意考課」です。それぞれ解説していきます。

視点1.業績考課

トップダウンによる目標設定に対する達成度を評価対象とするのではなく、MBO(目標管理制度)によりチーム・個人の目標を優先し、その目標に対してどれくらいの達成度か?と、業績の過程も含めて考課対象にします。ほとんどの従業員は個人プレーで仕事をするのではなく、チームで仕事をします。そのため、必ずしも目標の達成度では評価できない部分が多く、それを無視すると不平不満へと繋がります。また、業績の過程も含めて考課対象にすることで、「日々の行動が全体的な評価へと繋がる」という意識を植え付け、意欲と規律あるビジネスを定着させられます。

視点2.能力考課

同じような職務に就く場合でも、従業員によってパフォーマンスは違います。効率的かどうか、成果物の品質はどうか、顧客からの反応はどうか、これらは従業員ごとの能力によって異なり、細かく観察・評価することでより正確な人事評価へと繋がります。企業によっては従業員の潜在能力などに着目し、「将来的な期待値」を考課に含める場合もあります。

視点3.情意考課

規律・責任・積極・協調の4つのポイントから、従業員ごとの日々の言動を考課します。情意考課では従業員自身の自己評価と、上司や同僚からの他者評価を合わせて考課するのが一般的です。最近では「成果主義」を掲げる企業が多くなりましたが、ビジネスは人と人との関わりの中で生まれる以上、やはり情意考課のように日々の言動を考慮し、従業員自身の人間性を評価することも大切です。

人事考課制度の事例

人事考課への取り組み方は千差万別。ここでは、各企業がどのように人事考課に取り組んでいるのかをご紹介します。

マネージャーに給料裁量権/アドビシステムズ

アドビシステムズでは給与・賞与に影響ある人事評価において、多大な時間をかけていたにもかかわらず評価に対する不満が多く上がっていました。そこで従来の制度を廃止し、世界全拠点で「チェックイン」と呼ばれる人事考課制度を導入。上司と部下が1on1の継続的なコミュニケーションを通じて成長を後押しすると共に、給与の裁量権はマネージャーが完全に握っています。これにより評価に対する納得感が高まり、離職率が低下し、株価は当初の3倍に上昇しました。

無制限昇給制度/メルカリ

メルカリのユニークな人事考課制度は「無制限昇給制度」というもので、今年年収500万円だった従業員が翌年には800万円に、といった話が実際にあります。「原資を分配する」という発想ではどうしても相対的な評価になり、従業員のモチベーションは上がらないということで個々人の絶対評価をする仕組みとして導入。新卒入社時の年収も一定ではなく、一人ひとりの能力を見て決めています。

半年1回を毎月に/フィードフォース

フィードフォースでは半年に1回実施していた人事評価を毎月に変えたことで、好感触を得ています。それまでは「仕事の成果と評価のタイミングのズレ」、「評価基準のブラックボックス化」、「マネージャーの負担」という3つの課題があり、これらを解決する策として毎月の人事評価を行なっています。その際は4つの等級と2種類の考課で評価基準を明確にし、キャリアパスの透明性を高めることを意識しています。結果として評価基準のブラックボックス化は解消され、上司と部下の良好な信頼関係を築くための土台になりました。

人事考課制度の構築について

人事考課制度の構築は一朝一夕で成るものではなく、多くの企業が試行錯誤しながら制度を運用し、その効果を継続的に高めています。では、具体的にどのように構築していけばよいのか?これを3つのポイントからご紹介します。

  • 項目の設定
  • 評価方法
  • 運用方法

項目の設定

企業が展開するビジネスによって「何が評価基準になるのか?」は異なります。一般的な営業職なら目標に対する達成度だけでなく、日々のアポイント数や商談数、同僚との積極的な情報交換やマネージャーとのコミュニケーションなども評価項目として含めることが多いでしょう。

意識すべきは、トップダウンで全てを決定するのではなく、ボトムアップで評価項目を定めていくことです。現場の従業員が「何を評価して欲しいのか?」を知ることで、人事考課において本当に必要な評価項目を探ることができます。もちろんボトムアップだけではまとまりがない内容になりますので、人事担当者と経営層を含めて数回のミーティングを経て、自社にとって欠かせない評価項目を決定してきましょう。

多くの企業が人事考課に関する参考事例を公表していますが、あくまで参考までに留めて自社独自に人事考課制度を導入するという意識が肝要です。

評価方法

評価方法はマネージャーなど従業員に近しい存在が完全な決定権を持っている場合と、従業員自身の個人評価を含める場合が考えられます。アドビシステムズのようにマネージャーに完全な決定権があり、かつ従業員がそれに納得している状態が理想ではあるものの、これには相当の信頼関係が必要です。また、マネージャー自身にも責任感と倫理観が強く求められるため、導入難度は少し高いかもしれません。

まずは従業員自身の個人評価や、目標に対する達成度評価も含めることをお勧めします。個人評価と他者評価にどれくらいのギャップがあるかを知ることで人事考課改善の判断材料にもなりますし、従業員が企業に何を求めているかもわかるようになります。

運用方法

一定規模の企業では人事部門に人事考課専門のチームを設立し、継続的な運用を目指します。これは、どれほど人事考課が仕事のパフォーマンスや企業の利益に大きな影響をもたらすのかを理解しているからこそであり、リソースが足りるようであれば積極的に人事考課チームを設置しましょう。

運用面で最も大切なことは、「継続的なレビューと改善」です。1度決めた人事考課を無理に運用するのではなく、実態を見つめながら常に最適化を目指します。また、1年や2年の取り組みで終わるのではなく、企業が存在する限り続けるべき取り組みと考え、人事考課をどんどんブラッシュアップしていくことが欠かせません。

また、従業員やマネージャーの意見も含めながら人事考課を改善していくことが「納得感のある評価」へと繋がり、仕事に対するモチベーションと企業に対するロイヤリティ向上に貢献するでしょう。

人事考課で注意すべき点

人事考課を正しく進めるうえで注意すべきは、考課者のスキルです。本来は、組織内で決定された評価基準(要素)を基に職務におけるパフォーマンスやプロセスを評価するものですが、考課者自身の感情や先入観によって評価が左右されてしまう「人事考課エラー」も少なくありません。

そのため、キャリアに関係なく考課者のスキルチェックをしっかり行い、人事考課のルール、考え方(基準の確認)などを磨く外部研修・セミナーの参加や、複数人の考課者による多面的な評価手法(360度評価)など社内トレーニングを実施すると良いでしょう。

人事考課は従業員と企業自身をいたわるためのツール

従業員は、企業にとって最も大切な資産です。ビジネスで利益を上げていくことが大きな使命ではありますが、従業員を大切に思う気持ちを全面に出しながら、人事考課制度を導入することをおすすめします。「この会社で働けて良かった」という感謝の気持ちを抱いてもらうことで、日々の仕事を通じて企業の利益という形で還元されるでしょう。

これを実現するためにも、まずは「自社にとって従業員とはどのような存在か?」を、経営トップ自身が改めて考えることが重要でしょう。従業員を大切にする企業は、社会から大切にされます。人事考課制度の導入が、そうした企業へのステップアップになるよう、そして多くの企業が人事考課を通じて企業自身と従業員を幸せにできることを切に願っています。

  • 労務・制度 更新日:2022/06/01
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