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人事はもっと戦略的になれる 「人材要件」の持つ本当のポテンシャルとは?

近年、人事の仕事を語る上では外せなくなってきたキーワードが「人材要件」。

一般的に認知されている「自社が求める人材像を明文化したもの」という定義はもちろん間違っていないのですが、その認識では「人材要件」が持つポテンシャルを十分に生かしきれないと言います。

今回は、そんなお話を株式会社エスノグラファー代表で採用学研究所のフェローでもある神谷俊さんに伺いました。

もっと戦略的に、事業全体を動かし得る「人事」の力も実感させられるお話です。

神谷 俊
プロフィール
神谷 俊さん
株式会社エスノグラファー 代表取締役

2016年株式会社エスノグラファー創業。企業や地域をフィールドとして調査・マーケティング活動に従事する。定量調査では見いだされない人間社会のありようをひも解き、多数の組織開発・製品開発プロジェクトに貢献してきた。
20年4月からは、リモート環境における「職場」の在り方を研究する“Virtual Workplace Lab.(バーチャルワークプレイスラボ)”を設立。学術的な知見を基盤に「分断・分散」を前提に機能する組織社会の在り方を構想する。採用学研究所フェロー・経営学修士。

「人材要件」が注目されている理由とは?

― 神谷さん、今日はよろしくお願いします。まず、企業が人材要件を重視するようになってきている現状と、その理由について教えてください。

神谷さん: はい、よろしくお願いします。これまで、日本では「人材要件」を精緻に定める企業は多くはありませんでしたが、近年になってよく聞かれるようになりましたね。

これまで人材要件が浸透していなかった理由を考えていくと理解しやすいでしょう。従来、日本企業ではメンバーシップ型の採用手法が主流でした。能力や資質できっちりとスクリーニングするのではなく、「一緒に働く仲間になれるかどうか?」という観点でカルチャーフィットを重視する姿勢が強かったんですね。

それは、これまでの日本では「終身雇用を保証し、長期的な育成、長期的な労働を前提に組織の成長を達成する」という戦略がスタンダードだったからです。その流れが今になっても受け継がれているわけです。

しかし、働き方が多様化し、人材の流動性も高まっている現代では前提が崩れ、そもそも長期的な視点で人材を雇用することが難しくなっています。そのため、早期に社員を戦力化したり、組織にしっかりフィットする人材を確保する必要が出てきているわけです。

さらに、リモートワークの普及によって「メンバーシップ」を醸成すること自体が難しくなっているという事情もあるでしょう。情緒的な人間関係の構築よりも、オンラインでのコミュニケーションを主軸とした合理的で効率的な関わりの方が多くなってきて、関係の質もシフトしつつあるわけです。

そのため、情緒的な信頼関係や文化への適応を基軸とした従来の採用手法から、職務の遂行能力などを重視した採用手法へ転換する流れも出てきています。例えば、「ジョブ型採用」が改めて注目を集めているのも同じような背景ですね。

結果として、採用要件の見直しがされてきているのだと思います。

― なるほど。その傾向はますます強まっていくと思われますので、これから人材要件の重要性も高まっていくと考えてよいのでしょうか。

神谷さん: はい、特に戦略的に人材マネジメントを進めてビジネスにおける優位性を築こうという流れは、今後も顕著になっていくでしょう。

近年では、「タレントマネジメント」や「戦略人事」というアプローチも台頭しています。さらに、「ピープルアナリティクス」や「HR-Tech」という概念もメディアではよく目にするようになりました。人材の持つポテンシャル、パフォーマンスを精緻に分析して戦略的な人材マネジメントを進めようというアプローチです。

今後も続くこの流れの中で、どのような人材を採用すれば組織パフォーマンスを高められるかという論点も、引き続き重視されていくと考えています。

学生の資質は、本当に「会ってみないと分からない」?

― 人材要件が注目されている背景に、昨今のコロナ禍でオンライン面接が一般化し「学生の資質を見抜けない」という不安が企業側に広がっているという実態もあるようですが、どのようにお考えでしょうか。

神谷さん:ちょっと厳しいことを言うかもしれませんが、オンライン面接にシフトしたことで学生の資質を見抜けなくなったわけじゃないと思います。逆に言えば、これまでも見抜けていなかったのかもしれません。

ただ、リアルな面接では、学生を前にして「なんとなく」見抜けたと思えるところがあったのでしょう。「見抜けている感じ」や「コミュニケーションがとれている感じ」がしていたとも言えるかもしれません。でも、それがオンライン面接になったことで、その「感じ」を実感しにくくなってしまったということなのかなと思います。

オンライン面接で「見抜けない」と感じるのは、非言語情報が削ぎ落とされるので、学生の熱や感情を感じ取りにくくなるからです。だから、「なんとなく」の判断がしにくくなってしまいます。

一方で、非言語情報が削ぎ落されることによって学生の印象に振り回されたり、バイアスのかかった評価はしにくくなるという利点もあります。見極めに関して言えば、能力に注目した面接はオンラインの方がしやすいはずです。人材要件を精緻に設計し、能力評価のポイントを定めて面接を構造化していれば、オンライン面接の方が確実な学生の評価ができるでしょう。

― 手厳しい…(笑)。人材要件と面接の効率化について、その関係をもう少しお聞かせいただいていいでしょうか。

神谷さん: はい。人材要件を定めることで、自社が採用すべき人材像が見えてきます。すると、目標がはっきりするので採用フローの各段階で何をやるべきかが明確にできるわけです。

仮に、人材要件に定めた最重要項目が「論理的思考力」だったとします。その場合、選考フローは論理的思考力のある学生を残せるように最適化した設計にしていくわけです。

例えば、ESの設問の文字指定を長文に設計し、文章の論理構造を確認しやすいようにします。あるいは、面接での質問の深掘りのレベルを高め、面接での述べられる情報の論理構造を確認できるような仕組みを設計したりします。人材要件に合わせて選考プロセスを構造化していくわけですね。

構造化された選考フローでは、各フェーズで聞くべき話・見るべきポイントがはっきりしているので、選考プロセス全体の連動性が高まり、結果として学生の評価の精度も高まります。受験する学生からしても、何を評価されているのか分かりやすいので、内定時の納得度も高まるでしょう。

また、人材要件を定めて選考プロセスを構造化しておくことは、面接官の質をみたり、質問内容の精度を確かめるためにも役立ちます。

例えば、2次面接で合格した学生の論理的思考力が、不合格になった学生よりも低い、ということであれば2次面接で論理的思考力を適切に評価できていないと判断できます。仮に、詳細に分析したところ特定の面接官が担当した学生に問題があるようであれば、面接官の能力強化や交代などの対応も判断できます。

このように、しっかりと構造化することで、「どの面接官が人材要件に沿った人材を残せているか」など、その結果がデータとして取得できるので、次年度の面接官選出にも使える資料となりますね。

― なるほど。一方で、オンライン面接がうまくいっていると実感している企業でも、最終面接だけはオフラインで行っているパターンも多いようです。これはどのような理由だと考えますか?

神谷さん: 理由は2つです。1つが、企業側の熱意や文化を学生に伝えるため。もう1つが、現場の納得感を上げるため、ですね。

まず、企業側の熱を伝える理由について話します。いま、採用フローの中で学生が一度も社員と会わないというパターンもあると思いますが、先述のとおり、オンラインでの接触では感情や熱意などが伝わりにくくなります。これは、学生から企業へ伝わりにくくなるだけでなく、その逆も同じなんです。直接接触をした方が、学生に対して企業側の気持ちや期待感を伝えやすくなりますね。

また、学生のキャリアに関する悩みや、他の企業と迷っている…などの情報もヒアリングしやくなります。それらを聞いた上で、企業側の採用意思を伝える場を持つことのメリットは大きいでしょう。

次に、現場の納得感を上げるためという理由についてです。日本の新卒採用はポテンシャル採用のため、新入社員が現場で即戦力として活躍することは期待しにくいですよね。そのため、現場で一定レベルの教育を施す必要があるのですが、一方で「今年の新卒はダメだ」のように現場から不満の声が上がることもあります。

特に、今年のように選考内容に変化があった年は、「コロナウイルスの影響で十分な選考ができなかったのでは」という不信感も生まれがちです。それを見据えて、オンラインで採用を完結させるのではなく、「経営層がきちんと面接をして採用した」という姿勢を社内に示していくことも企業によっては必要なのでしょう。

つまり、「ちゃんと吟味して採用をしている」というシグナルを社内に発信する狙いですね。最後に社長が会って太鼓判を押したとなれば、採用活動の説得性は高まりますから。

人材要件のキモは「適応要件」と「変革要件」のバランス

― 最近では、事業を変革したいと考える企業が多く、人材要件としてイノベーターや変革志向の高い人材を求める企業も多いように思います。このような傾向を踏まえて、実際に人材要件を作るにあたって最も重視すべきポイントはなんでしょうか。

神谷さん: 確かに、そのような企業が増えている印象です。「社内にいない人材を採りたい」というご要望も幾つか頂きます。でも、「それは難しいですよ」というお話をさせていただくことが多いですね。

変革志向が強い人材は、現状に問題意識を感じやすく、活動エネルギーの高い人材です。反対に言えば、離職リスクの高い人材でもあります。仮に採用できたとしても、現場に適応できずに早期離職してしまうリスクが高いでしょう。

重要なのは、「自社になじむ人材要件」と「変革志向の強い人材要件」のバランスというわけです。簡単に言えば、前者は会社になじんで仕事ができる人材の要件、後者は会社に変革をもたらす人材の要件ですね。この双方を備えている人材を採用すべきだと考えています。

― 具体的に、そのような要件を定めるにはどうしたらいいのでしょうか?

神谷さん:自社になじむ人材となる「適応要件」を定めるためには、社員の中でも環境になじみ、よく適応できている人材をピックアップして共通するコンピテンシーを探ることで定められます。例えば、アンケートなどを実施して、エンゲージメントや組織に対するコミットメントなどが高い社員をピックアップするのもいいですね。私の場合は、若手社員を対象に組織への適応レベルを測定し、そのレベルの高低に関係する資質を適性テストのデータから抽出するという分析アプローチをとっています。

反対に、早期退職者の共通項を見つけ、それを逆張りして適応要件を定めるというやり方もあります。いずれにしても、社内になじんでいる人材の要素を人材要件に組み入れることが重要です。

― 逆に、社内に変革をもたらす「変革要件」を定めるにはどうしたらいいのでしょうか。

神谷さん:そこがポイントですね。本当に変革している人を複数人ピックアップすることは難しいでしょう。なので「変革をもたらす可能性の高い人」を探し、共通するコンピテンシーを人材要件に織り込むやり方が現実的です。

社内になじんで仕事をしながらも、自社のサービスについて具体的な問題点を指摘できる人材や、他社や社会と自社との比較で現実的な問題意識を持っているような人材がそれに当たります。私の場合は、自社の事業に対する問題意識や、変革志向の強さなどをアンケートで収集して、そこに関連するコンピテンシーを抽出するやり方で要件を策定します。

― なるほど、2つの側面を意識して人材要件を設定していくことが重要なのですね。仰るように多くの企業が、変革要件を備えた人材で会社を変えたい企業が多い印象です。

神谷さん: はい、よく聞くお話ですね。ただ、うまくいかないことが多いですね。「エッジの効いた人材で社内改革を」と考えて、「変革要件」だけを持った人材を採用すると、入社してすぐに辞めてしまいます。あるいは、組織への適応過程で「牙」を削ぎ落とされて普通の人材になってしまうかのどちらかです。新入社員がとんがったまま社内で成り上がり、組織に変革の嵐を巻き起こすという物語は現実ではあまり聞いたことがありません。お勧めはできませんね。

人材要件を考えると、人事の仕事も見えてくる

― 読者も気になっているところだと思いますが、人材要件を作るために必要な具体的なアクションはどのようなものでしょうか。

神谷さん: まずは、社長や経営ボードと話すところから始めましょう。自社のビジネスの現状と向かう先を知っておくことが重要です。シェア拡大なのか、付加価値の向上なのか、あるいは新規事業への投資なのか。新卒の配属先となり得る事業がどのような方向で進んでいくのか、ある程度は見定める必要があるでしょう。

その上で、現場で活躍している社員や、現場で求められている人材像を探るアクションが必要です。実際に現場に出て、話を聞くことで現場の「生態系」を捉えることができます。

例えば、とある食品メーカーの事例に面白いものがあります。
その会社では、工場で働く製品管理の社員から幹部候補となる人材がなかなか出ず、苦労していました。そこで、その中からパフォーマンスの高い若手社員の共通するコンピテンシーを探り、インタビューを進めてみると「大きなことを言う社員」だったことが分かったんです。

一定の業務を正確にこなすことが求められる職種なのでチャレンジングな業務に従事する機会が少ない職場だったのですが、「自分が食品業界を変えてやる!」くらい大きなことを言う社員だと、上司が面白がってあえて難しい業務を与えるんです。それをクリアする過程で能力を開発し、パフォーマンスを高めていたんですね。

パフォーマンスに影響を与えていた問題解決力も、創造的思考力も実は難しい業務を通して身に付いたものだったというわけです。つまり、入社時に重要だったのは、難しい業務をアサインされることであり、そのために「大きいことを言う」こと。つまり、マクロな視座やビジョンを持っている人材だったんですね。

このように、現場に出ないと分からないことはたくさんあるはずです。

― 経営の大きな視点を持ちながら、現場の生きた情報を得ることが重要ということですね。

神谷さん: はい。要するに「自社に対する解像度を高める」ということが重要です。自社のビジネスにとって、どの部門のどの仕事が最も重要なのか。入社時にどんなパフォーマンスができる人材が、その後に活躍する可能性が高いのか…。人事がこれを知っているかどうかで、人材要件の精度は大きく違ってきます。

― 人事の仕事の幅が大きく広がりますね。

神谷さん: そうですね。採用の本分は、「なんとなく」良い人材を採用することではなく、自社の組織パフォーマンスを高めるために必要な人材を採用することです。面接で良いパフォーマンスを発揮しているかよりも、その学生が入社した後にどんなパフォーマンスを上げられるのか、という点が一番重要ですよね。 ならば、「どういう人材が組織になじみ、組織のパフォーマンスに貢献するのか?」までは見えている必要があります。

そのためには、経営を知り、現場を知り、組織の生態系を理解した上で「生きた人材要件」を作ることが、人事に求められるべき仕事だと思うんです。

― なるほど。人材要件を作る過程で必要になる仕事をすることで、本来求められるべき人事の仕事に近づいていく感覚ですね。

神谷さん: そうですね。人事評価も研修も、人事業務の主眼は、つまるところ組織のパフォーマンスを高めるためにあるわけです。人材要件も「自社のパフォーマンスを上げる」ためのものとして位置付けられるべきでしょう。

今は、1人の人材の力がプロジェクトの成否に直接影響を与えるような時代です。労働人口も減少するなかで、新卒採用とはいえ1人ひとりの人材に求められる役割は高まっていくでしょう。人材という戦略資源を扱うならば、これまで以上に「ビジネス」や「経営」の視点を意識していく必要があるのではないでしょうか。

人材要件について真剣に考えることは、現場と向き合うことであり、経営と向き合うことだと考えています。「自社に必要な人材はどのような人材か?」という問いについて、試行錯誤の中で自社なりの「答え」を見つけていくことが大切ではないでしょうか。

― 今日はためになるお話をありがとうございました!

神谷さん: こちらこそ、ありがとうございました。

「人材の力で組織のパフォーマンスを上げる」ことこそが、人事の仕事

神谷さんのお話を伺っていて、はっとしたのが「日本の人事は採用するまでが仕事になってしまっている」という言葉でした。

採用のために必要な仕事量も膨大で、「経営から現場まで」の全体像を捉えながら仕事をすることは困難でしょう。
しかし、組織のパフォーマンスを人材の力で上げていくのが人事部本来の仕事のはず。そのためには、会社の行く先を知り、現場に求められるパフォーマンスを知って「生きた人材要件」を作ることが必要という指摘は非常に重要なものだったと思います。

人事の仕事には、まだまだ秘められた可能性があるように感じています。