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企業と学生と採用活動マーケティング

- 採用マーケティング試論 -
※今回のコラムは法政大学 キャリアデザイン学部の酒井 理 准教授に執筆して頂きました。

1. 採用人事にマーケティング視点を

いまどきの学生の就職活動にインターネットは不可欠である。膨大な数のエントリーを受ける企業が出てくるのもインターネットで気軽に(学生の立場からすれば気軽ではないだろうが)送信できることも影響している。さらに、就職活動の主要なツールはPCからスマートフォンに移りつつある。手元の小さな画面でプロセスの多くを済ますことができるようにシステムも日々改善されている。
大量の情報が飛び交う中、企業と学生がお互いのニーズをマッチさせることは容易ではない。ただよく考えれば、採用PRにおいて企業は学生に対し、製品やサービスを顧客に提供する時と、とてもよく似た活動をおこなっているということに気がつく。採用活動においては、企業が学生を選ぶと同時に、学生も企業を選んでいる。学生に自社を選んでもらうという採用PRのプロセスは、製品やサービスを消費者に提供していく時と同じように、「マーケティング」の枠組みで多くを説明できるように思われるのである。
このような考え方から、本稿では採用PRを企業の採用活動におけるマーケティングと見立てて、その視点から色々な特徴を整理してみようと思う。マーケティングの視点から企業の採用活動を見ることで、新たに見えてくるものがあれば面白い。

2.採用におけるマーケティングの両面性

マーケティングで操作するフレームワークの一つとして、インターナル・マーケティングがある。マーケティング対象を顧客だけではなく、企業内部の従業者にも広げて展開していこうという考え方である。採用者(=採用対象としての学生)に対して展開するマーケティングのアプローチは、将来入社して従業者となることを前提としたものであるため、このインターナル・マーケティングにも近い考え方である。
ただ、選考過程にある学生や内定者の段階にある学生は、まだ企業内部の人材ではない。そこまでは外部者に対するマーケティング(エクスターナル・マーケティング)という側面が強く意識されることになる。
このように、採用者(=採用対象としての学生)へのマーケティングは、インターナル・マーケティングの要素とエクスターナル・マーケティングの要素をあわせもった独特の領域を形成すると考えられる。つまり、外部者としての学生に採用PRや企業情報の提供を行うことで満足度を高めるためのマーケティング(エクスターナル・マーケティング)と同時に、将来の従業者としての学生にその企業で働くことに対する満足度(もしくは期待度)を高めるマーケティング(インターナル・マーケティング)を行うことが重要となってくるのである。
図1 採用者(=採用対象としての学生)へのマーケティング
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3.採用者生涯価値というフレームワーク

マーケティングには顧客生涯価値という考え方がある。顧客との関係性を短期的な損得で評価するのではなく、長期的な観点から評価しようとする概念である。「これから顧客となるような状態の見込みの段階」から「顧客としての関係が終了する」までの2者の関係が継続している長い時間に着目し、その期間の中で、どれだけの価値を生み出す期待ができるのかをみるものである。この考え方の特徴は、関係性を、短期的に捉えて評価せず、「いかに長期に継続させていくか」に力点が置かれるところにある。つまり、顧客との長い関係が続けば続くほど、さらにロイヤルティが高まって購買金額や購買頻度が高まり、企業にとっての顧客の価値は高まると考えるのである。企業は、個別の消費者を潜在的な顧客の時点から離脱するまでの長い期間で、自社の顧客として評価すべきかどうかの判断を求められる。

さてここで、雇用者(採用者)を顧客として見立てると、この顧客生涯価値は「採用者生涯価値」というべき概念に置き換えることができる。
図2に採用者生涯価値の考え方を示す。ここでは学生が将来雇用者として採用されることを想定して話を進める。縦軸は採用者が企業にもたらす価値の大きさを示し、横軸は採用者の勤続期間を示している。時間の流れは左から右に移動するようにとってある。
図2 採用者生涯価値の考え方
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採用の瞬間を過ぎれば、多くの採用者すなわち新入社員が企業にもたらす価値はマイナスとなるだろう。なぜなら多くの場合、教育コストはかかるものの彼らは事業利益を生み出す存在にはなりにくいからである。そこから教育研修、OJTなどの訓練を経て、徐々に企業にとってプラスの価値をもたらすことができるようになる。よって、ほとんどの場合、描かれる曲線は右上りとなる。マイナス部分の大きさ、プラス部分の大きさがわかれば、採用者(採用されて雇用者となったもの)が企業に勤続している全期間の中で、企業にもたらす総価値というものが把握できる。図2でいえば横軸と曲線で挟まれる部分の面積がそれにあたる。プラス部分の面積(曲線Bでいえばブルーの斜線の部分)からマイナス部分の面積(曲線Bでいえばオレンジの斜線の部分)を引いたものが、その個人が企業にもたらした価値の総額となる。あくまで一つの見方ではあるが、その総額が大きい個人ほど採用する価値が高い人材ということが言える。

次に個人差を考慮してみる。図2には3つのタイプの採用者生涯価値をそれぞれ3つの曲線で表現してある。なお、ある時点で離職すれば、そこで企業にとっての価値はなくなるので、採用者生涯価値もその分少なくなる。
Aは即戦力タイプである。入社直後の期間のマイナス幅は小さく、採用から短期間で、企業にもたらす価値が急速に増加している。しかし、早々に離職してしまうリスクが高く、価値の蓄積はそこでストップしてしまう。Bは大器晩成型である。なかなか成長しなかったが、年数を経ることによって、大きな価値をもたらすようになる。Cは前の2つとは、違ったタイプである。あまり成長はしないが、会社に継続的に勤めていることでもたらす価値の総額が大きくなっていくタイプである。高い価値をもたらす期間はなかったが、定年まで持続的に企業に価値をもたらしている。
もし、採用時にどのようなプロファイルの学生が、どのような曲線を描く可能性が高いか分かれば様々な措置が可能になる。Aのタイプの学生に対しては、会社に対するロイヤルティを高めて、できるだけ離職までの期間を引き延ばすような対応をするべきかもしれないし、Bのタイプであれば、早い段階で成長できるようなプログラムを提供することがよいだろう。

さらに踏み込んで考えれば、ロイヤルティ形成は雇用されてから始まるものではないこともわかる。ロイヤルティは離職だけではなく内定辞退にも関係がある。選考過程での経験、様々な場面での社員との接触経験はロイヤルティに影響を与える。例えば、選考面接において、対象者を若干圧迫するような面接があることを聞き及ぶことがある。これは選考のための一手法であるということは理解できるが、そのような学生との接触が、ロイヤルティや企業に対する印象に何らかの影響を与えるということも考慮すべきだろう。採用したい学生をしっかりと選考するためにとる手段が、学生の就職先選択に大きく影響を及ぼすことは企業にとっては不本意である。いい学生を選別できるという効果を期待した手法が、結果的にいい学生の離脱を招く要素になってしまう。その手法がもたらす効果と損失の見合いを考慮することも重要だと考える。

4.採用者のターゲティングと接触チャネル

採用者生涯価値という視点からみたときに、採用活動時に何ができるか、何をすることが効果的かを考えたい。なかでも重要なのが採用者のターゲティングとターゲットに接触するチャネルの選定だろう。欲しい人材を明確にして効果的にアプローチすることができれば採用活動も効率的に進む。
ターゲット・セグメントにアプローチするチャネルを思いつくままに列挙してみると、大学の研究室への直接アプローチ、大学での講義や企業課題プロジェクトへの参加、長期・1dayインターンシップ、企業独自のセミナー、企業独自のWEBサイト、就活サイト、大学主催の学内説明会、採用支援会社主催の合同説明会である。昨今ではSNSやWEBセミナーをチャネルとして活用している企業も出てきている。
図3に企業と学生の接触チャネルを整理して示す。大きくリアルかバーチャルか2つの接触方法がある。
図3 接触チャネル
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学生に求めるスキルが明確になっており、また専門的なものであれば、大学や大学院の研究室、教員への直接的アプローチ、リアル・チャネルでの接触が効率的である。理系の大学や大学院の研究室と企業が繋がっているケースがこれにあたる。この文脈で考えると大学が主催する合同説明会は、やや限定したチャネルである。企業側の利点はターゲットを大学という小さなセグメントまで絞り込むことができる点だといえるだろう。
また、インターンシップは実施コストが大きいが、重要なチャネルである。最近多くなっている1dayインターンシップと銘打たれた企業説明会に近いイベントは、学生・企業の双方にとってアクセスが容易な開放チャネルである。これらインターンシップにおいて、「その企業で働くことの満足度を高める」ことができれば、採用後、雇用者となった際のロイヤルティを高めることにつながり、離職を避けられる可能性も高められる。また、インターンシップにおける勤務姿勢を見ることで、長期に渡って勤務してもらえそうな採用者生涯価値の高い学生を見極めることもできるだろう。これらのことから採用者マーケティングを実践するチャネルとして、インターンシップは最適であると言える。

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