「それでも僕らが正社員でいる理由」──変わるエンジニア採用市場と、それでも会社にコミットし続ける選択
「月額報酬200万円」「フルリモートで好きな時間に働ける」こんなフリーランスエンジニア募集の広告を目にしたことがあるのではないでしょうか。
DXの加速やAIなどの最新技術の発展を背景に、企業のエンジニア人材に対するニーズは高まる一方。その上、フリーランスとしてこれほどの好待遇で働けるのであれば、正社員である意味も薄れてきそうです。
それでも、「正社員」としての働き方を選び続けるエンジニアはいます。彼ら・彼女らはいったい何を見て、どんな価値を感じているのでしょうか。
それをひも解けば、正社員としてエンジニアを迎えたい企業にとっては採用の大きなヒントになるはず。
そこで今回は、キャリアも価値観も異なる3人の現役エンジニアが集まり、それぞれの視点から「正社員でいる理由」について語ってもらいました。
転職理由やカジュアル面談の評価、心が動くスカウトメッセージ、社内外への情報発信のあり方など、具体的なヒントが満載です。
幅広い話題で盛り上がった座談会の様子をお届けします。
<座談会参加者>
T.A.さん(30代後半・男性):国内スタートアップVPoE・転職回数4回
経営者のビジョンに共感して、組織を支えることに情熱を注ぐ。複数社で組織立ち上げに携わる。
R.K.さん(30代前半・男性):SRE(Site Reliability Engineer)・転職回数3回
技術への探究心が強く、自らの成長軸にフィットする環境を重視。
K.A.さん(30代後半・男性):老舗IT企業のフルスタックエンジニア(リーダー職)・転職回数0回
新卒入社以来、社内異動を重ねつつ、多様な経験を積む。「変える理由がなかった」がキャリア継続の理由。
正社員を選ぶ理由 コミットメント、成長、環境変化
— まずは皆さんに、「正社員」としてエンジニアを続けている理由をお伺いしたいと思います。いかがですか?
T.A.さん:私は学生時代、起業サークルに入っていて、「いつかは自分の事業を立ち上げよう」と考えていました。が、活動をしていく中で、自分は「周囲を引っ張っていく」よりも、「誰かを支える」タイプの人間であることに気付いたんです。
そこで、当時から得意だったエンジニアリングのスキルを生かして、「起業家を支えたい」と考えるようになりました。
これまで4回の転職をしていますが、どの転職も大きな軸はそこに置かれています。
その視点から見ると、フリーランスというのはやはり選びにくいですよね。フリーランスとして業務委託で仕事をする際にコミットするのは、あくまでも1つ1つのタスクやプロジェクトの中でいかに価値を発揮するか、ということになります。私はもっと、事業や組織の成長そのものにコミットしたいので、正社員の選択を続けています。
R.K.さん:僕の場合は、エンジニアとしての自分にとって、スキルを伸ばし成長していくために、「正社員」という環境が合っていると感じています。
フリーランスだと納期や成果物にばかり意識が寄ってしまい、インプットの時間がどうしても削られると思うんです。でも、正社員なら新しい技術の学習も業務の一環として取り組めますし、ある程度、余裕のある環境で自分の伸びしろを育てやすいと思います。
もちろん、高単価な業務委託の話があると、グラッとすることもあるんですけれど(笑)。今の自分にとっては「学べること」が大事で、そのために正社員という選択を続けている感じです。
K.A.さん:私の場合、お二人とは少し違って、「正社員を選んで続けている」というよりは、「変える理由がないから変えていない」という感じですね。
新卒で今の会社に入って10年以上になりますが、プロダクトに飽きや限界を感じてきたころに、社内異動で別のプロダクトに関わることになる、ということを繰り返しているので、特に辞める理由も転職する理由もなかったんです。
もし本当に合わないと感じたら転職を考えるかもしれませんが、今のところは現状に満足しています。
エンジニアの志向は千差万別…… まずは対話を通じた理解から
T.A.さんは「起業家の右腕になれる場」、R.K.さんは「成長環境」、そしてK.A.さんは「多様な挑戦環境」を、正社員という立場に求めていることが分かりました。
エンジニア採用の現場では「挑戦環境」や「働きやすさ」などを伝えるコミュニケーションが多く使われますが、実際にはこのように、もっと個別化された幅広い志向を持っています。
最初の出会いとなる「カジュアル面談」で、その志向をしっかりと読み解き、魅力の伝え方をカスタマイズしていくことが重要なようです。
カジュアル面談では何を見ている? 覚悟と透明性がカギ
— 中途採用、特にエンジニアでは本格的な選考の前に、「カジュアル面談」が行われることが多くなりました。皆さんもご経験があると思いますが、その際、どのようなポイントを見ていますか?
T.A.さん:私の場合はとにかく「経営陣の熱量」が重要です。これまでの転職でも毎回カジュアル面談を行っていますが、中には4〜5回ほど繰り返したケースもありましたね。その中で、経営陣に熱意があるか、何を大切にしているのかを見極めようとしてきました。
例えば、面談の後に会食に誘われることがあります。その時、雑談で終わる人もいれば、ずっと事業の話をしている人もいて、私の場合は「ずっと事業の話をしている人」に引かれるんです。
雑談も、人柄や社風を知る機会としては重要なのかもしれませんし、打ち解けようとしてくださっていることも分かります。
それでも、私の場合は「ずっと事業の話をしている人」がいる会社を選んできました。要は、「この人は本気で事業を成功させようとしている。この人の力になろう」と思えるかどうか、ですね。
R.K.さん:僕の場合は、人柄と技術的な面(面白さや向き合い方)を重視しています。
例えば、今の会社ではカジュアル面談からCTO(※ Chief Technology Officer:最高技術責任者)が出てきてくれて、ちゃんと技術の話や課題についても話し合うことができたことで「この人たちと働くのは楽しそうだな」と、率直に思えたんですよね。
逆に、カジュアル面談に人事の方しか出てこないと、「本気で一緒に働きたいと思ってくれてるのかな?」と感じてしまいますね。これってカジュアル面談じゃなくて「選考」なんじゃないの? という不信感もありますし。
T.A.さん:カジュアル面談からCTOが出てきてくれるとうれしい、というのは私も分かりますね。
これも「本気度」を測る一つのポイントだと思っているのですが、CTOやシニアエンジニアの方から技術や組織に関する課題をしっかりと開示してもらえて、自分に何を解決してほしいと考えているのかと明示してもらえると、とても引かれます。
もちろん、カジュアル面談の場では話しにくいこともあるはずですが、そこは「心のNDA(機密保持契約書)」……とでも言えばいいでしょうか(笑)。 事業への情熱、課題への向き合い方がカジュアル面談の時点で見えると、力になりたいと思えます。
とはいえ、カジュアル面談で愚痴や不満ばかりを聞かされることも時にはあって……。これは情熱とはまた異なるものだと思うので、やはり引かれませんね。
K.A.さん:先ほどもお話ししたとおり、私は転職経験がないのでカジュアル面談を通じて転職を決めたことはないのですが、それでも面談自体は何回か経験しました。
私が大切にしていたのは、T.A.さんがおっしゃるように、「どのくらいオープンな社風か」ということですね。
一緒に仕事をするエンジニアの仲間はもちろん、ビジネス職の方々を含めてどのくらい「オープンに」情報を共有し合えるかというのは、働きやすさに直結するからです。
これもT.A.さんがおっしゃるように、カジュアル面談の場で話せること・話せないことはもちろんあるでしょう。それでも、できる限りの情報を出してくれていると感じられると、非常に好印象でした。
カジュアル面談では「対等に話せる相手」と会ってもらうことが重要
「エンジニアとして同じテーブルで話ができる人と会いたい」これが、座談会に参加してくれた3人に共通する思いのようです。
採用を急いでいたり、母集団形成を重視する採用活動をしていたりすると、どうしてもカジュアル面談に現場(エンジニア)の協力を求めにくいこともあるでしょう。
しかし、だからといって非エンジニアの人事だけでカジュアル面談をしても逆効果になってしまう可能性があることは、しっかりと意識した方が良さそうです。
関連記事:カジュアル面談とは?面接との違いやメリット・面談の進め方を解説!
スカウトメッセージの「乱打」は見透かされている。リファラル活用と誠意のある対応がカギ
— カジュアル面談の前には多くの場合、企業からの「スカウトメッセージ」があったと思います。その中で、印象の良かったもの、悪かったものはありますか?
R.K.さん:ネガティブな要素で言えば、「自分のことを理解していない」と感じたものは返信しませんね。
僕はスカウト型の求人サイトに登録していたことがあるのですが、そこにあるレジュメすら読まずに送ってきていると、すぐに分かるんですよ。
「R.K.さんのご経歴に引かれてご連絡しました」とは書いてあっても、スキルや経歴に関する具体的な言及がまったくなく「取りあえずはカジュアル面談を…」みたいなもの。
とにかく「数打ちゃ当たる」でやってるんだろうな、と丸分かりなので返信しません。
仮に返信をして、カジュアル面談、選考、内定、入社と進んだとしても、スタート地点で理解してもらっていない企業に就職したところで本当に快適に仕事ができるのかは疑問です。
T.A.さん:R.K.さんの経験は、多くのエンジニアがしていると思いますね。私の場合、署名(送信者)の欄にはその会社のCTOの名前があるのに、内容で技術的なことにまったく言及されていないというパターンもあって、不信感を持ちました。
CTOの名前まで使って気を引こうとする姿勢には疑問を持ちますし、内容もテンプレートを貼り付けただけで、こちらとしては返信する理由がないというか……。
R.K.さん:逆に、自分の経歴やスキルを理解してくれているメッセージは真っすぐ心に届きますね。具体的には、前職への転職のとき、T.A.さんからもらったメッセージがそうでした。
— いわゆる「リファラル(紹介)」ですね。
R.K.さん:そうです。T.A.さんとは一緒に仕事をしていた時期もあり、僕のスキルを理解してくれている。「R.K.さんのこういうスキルが、いま自分のいる会社のこの課題にフィットするから、ぜひ力を貸してほしい」という具体的なメッセージで、実際にそのまま就職しました。
T.A.さん:結局「私自身が欲しいのか、とにかく誰かエンジニアが欲しいのか」の違いなのだと思います。
いまのR.K.さんのエピソードの時には、私が当時在籍していた会社で本当にR.K.さんが必要で、実際に就職してもらえて助かりました。
少なくとも、スカウトサイトにあるレジュメや、氏名で検索すれば分かる情報はインプットして、本当に必要だと思った人材にメッセージを送ってほしいなと思いますね。
スカウトメッセージは「急がば回れ」で誠実に
なかなか内定を出せなかったり、内定を出しても辞退されてしまったりする時期には、ついつい選考母集団の拡大を優先してスカウトメッセージを「乱打」してしまうこともあるのではないかと思います。
しかし転職経験のあるお二人の話から、それは効果がないどころか、「逆効果」ですらある可能性が見えてきました。
採用成果を急ぐときほど「急がば回れ」で、一人ひとりに向き合ったメッセージが求められます。
また、R.K.さんのエピソードにあったように、「リファラル」は非常に効果的な採用手法です。求めるスキルとその背景を理解した上で、リファラル採用のために声を掛けられるエンジニアが社内にいないか、採用担当者として常にチェックすると良さそうです。
関連記事:スカウトメールの開封率を上げるには?成果につながる5つの改善ポイントを解説
エンジニアの「熱狂」が伝わるテックブログ 「書かされ感」のなさがポイント
— メッセージのような「1対1」のコミュニケーションの他に、テックブログ(※)に代表される広報的な活動にも力を入れる企業が多いです。皆さんは、テックブログをどのような視点で見ていますか?
※テックブログ:企業やエンジニア個人が、技術的な知見や開発ノウハウ、取り組み事例などを社外に向けて発信するブログ。技術力やカルチャーの可視化にもつながる。
T.A.さん:私の場合、興味を持った企業をよりよく知るために活用します。具体的には、働いている人の人柄、チームの雰囲気などですね。
テックブログを読んでいると、時々、自分たちのチームや会社が「心から好き」で書いていると思えるものに出合います。そういうものを見ると、ぐっと興味が湧いてきますね。
— テックブログといえば「技術広報」、つまり自社が持つ技術やエンジニアの力量を内外に示す目的で作ることが多いのですが、技術よりも人柄重視なんですね。
T.A.さん:私の場合は、そうです。ブロックチェーンなどの新技術に向き合う姿勢や思想といった具体的な技術に結び付かないものや、まだ成果の出ていない研究に関する内容、さらには働き方や福利厚生について書かれたものもあります。
そういうものを見ると、「人事に言われて書いている」のではない、ある種の熱狂を感じるんです。会社としてインターナルブランディング(社員に対するブランディング)が成功している証しだと思いますし、そういう企業に興味を持ちます。
K.A.さん:私の場合は具体的な技術に関する情報も見ますね。社内の課題をどのように解決したか、または解決しようと思っているか、という視点の記事があると「オープンな社風」が想像できて興味が湧きます。
そういった資産(解決策や技術的な試みの記録)を社内に閉じず、公開する企業としての姿勢も好感触です。
R.K.さん:これはお二人も感じることなんじゃないかと思うんですが、本当に短い「やってみた」系の記事なんかは、企業のテックブログじゃなく個人ブログに書いたらいいんじゃないかな…と思ってしまうこともありますね。
あとは、課題の前提条件が特殊すぎて汎用性のない記事も、あまりいい印象を抱きません。
それよりは、大規模システムの移管に関する内容のような、プロジェクトストーリー的な投稿に引かれます。
— 皆さんのお話しを伺っていると、「技術レベルを測る」のではなく、「会社としての姿勢を知る」ためにテックブログを読んでいるという印象です。
R.K.さん:そういう面が強いと思いますね。技術レベルが低かったり、汎用性がなかったりする記事って、結局、エンジニアが人事に言われて「仕方なく」書いているんだろう、ということが伝わってしまうんです。
T.A.さん:熱意ですよね。この技術が好きだ、この会社・チームが好きだという気持ちで、自分たちのやったことを知ってほしい!という熱意、熱狂に後押しされたような記事は、多くのエンジニアに刺さるんじゃないかなと思います。
K.A.さん:採用に結び付けるためにテックブログをやろう、というスタート地点がそもそも間違っているのかも……。T.A.さんの言うように、熱意がない記事は刺さりませんし、会社として一つの方向性に向けていないということが伝わって、むしろ逆効果となることもあります。
人事としてエンジニアの「熱狂」をいかに生むか?がポイント
エンジニア採用の広報手段として浸透してきたテックブログですが、人事からの「押し付け」で書かれたものは、想像以上に見抜かれてしまうようです。
そして、非エンジニアの採用担当者の視点からは、1本ずつの記事が求職者にどう映るかを予想することも難しいのではないでしょうか。
T.A.さんがおっしゃるように、「インターナルブランディングがうまくいっていれば、良い記事が生まれる」ことを心に留め、まずは自社内のエンジニアが会社・チームを好きになってくれるように活動することが第一歩になるのかもしれません。
— 皆さん、今日はありがとうございました!
正社員でいる理由、その多様性と本質を見つめて
「フリーランスの方が自由で高単価」「正社員より効率的に働ける」──そんな声がある中でも、正社員として働き続けるエンジニアたちは確かに存在します。
今回の座談会では、キャリア観も志向も異なる3名のエンジニアたちが、自らの経験をもとに語ってくれました。
そこから見えてきたのは、正社員でいる理由は一律ではないということ。
「起業家を支えたい」「学びたい」「変える必要がない」──それぞれの価値観に正直に向き合い、選択し続ける姿が印象的でした。
また、彼らの言葉からは、企業がエンジニアと真に向き合うためのヒントも浮かび上がります。
カジュアル面談では「覚悟」と「対等性」が問われる
スカウトメッセージは量よりも、1通の誠実さがカギ
テックブログは「採用のため」ではなく、「内発的な熱量」が伝わるかが重要
このような視点を持つことが、変化の激しい採用市場の中で、共に歩める仲間を見つけるための第一歩になるのかもしれません。
- 人材採用・育成 更新日:2025/09/16
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